第100話 急流の始まり。2/4
何が行われたかを描写する為に視点はデュエラの大声の報告を受けて、ようやくカジェッタ・ドンゴの旧宅の扉から現れるセティスへ向く。
彼女が家屋の戸から外へ歩み出た瞬間——遠くの闇の中、竜の角の如き形状の岩が遺跡のような街並みに突如として現れて、土煙が夜の闇でも分かる程に大量に噴き上がる。
アレは——デュエラの魔法か。
「きゃあああ——⁉」
冷淡な眼差しで世界の状況を観察するセティスの眼差しの中で、聞こえるのは女の悲鳴。
何かを察したセティスはその瞬間、サラリと半身分だけ真横に歩き、飛来してくる二つの影を避ける。飛び転がってきたのは、デュエラと同じ場所に居ただろう二人の魔女だった。
更に遅れて——背後に跳び
「……デュエラ、大丈夫?」
どうやら魔女たちは怪我の一つも——無いと思われる。
少なくとも重傷は負ってはいないだろう。故にセティスは冷淡な眼差しを冷静な眼差しに戻し、視線を横で
すると、普段は明朗快活——天真爛漫に明るい声を漏らす彼女は、普段らしく無い神妙で落ち着いた声色で答えを返す。
「はい……少し
「……魔法の形状、攻撃の特性——それから敵の位置」
明らかに苛立っているようには感じていた。とても
「魔法の形はセティス様の弾と似ていますです……見えない何かにぶつかって、跳ね返ってくるように曲がって攻撃してきますのです。速度はワタクシサマよりは遅いです、敵の位置は分かりませんが、気配が来たのは向こうの方角で御座いますです」
「——了解。攻撃が止んだのは、単なる魔力切れか、対象に命中したから……或いは土煙で視界が完全に塞がれたからと思われる。自動追尾で無く、あくまでも手動の狙撃と想定——多用は避けるべきだけど煙幕は有効、良い判断だった」
状況の説明は的確、理性は保てている。だが、デュエラから聞き及ぶ情報を瞬時に分析しつつ、セティスは些かの
「……はい。このままワタクシサマは、この方様ガタをお守りすれば宜しいのですますか。やはり敵になる前に殺しておいた方が良いのでは?」
普段は明るく笑顔を絶やさない無垢な少女の限界に。
無垢である故の合理性に、最悪を巡らせて。
だからこそ——彼女も無慈悲を
「こ、こほ……う、動くな‼ アナタ達、何をしてるの、状況を説明しなさ——い‼」
少なくとも、背後で文句を言いたげな魔女たちを黙らせる必要があった。
彼女がその口封じの手段として選択するのは、頬を掠めるような
「……そういうお勉強は机の上でして。今は勉強の成果を試すテストの時間。アナタ達は試験に遅刻で赤点以下の役立たずが決定してるけど」
「「「……」」」
振り返りもせぬまま、当たったとて構わないとばかりの未必の故意。
漂う本気の殺意、隣に居る少女から滲み出ている禍々しい圧力も相まって声の一つ——息の一つも音を立てられない様相となった魔女たち。
「追試のチャンスはあげる。今すぐ水系統の防護結界を張ってレジータに連絡、家の中に居るカジェッタさんを守って。家の中に結界の用意はしてる……残りは属性を付与して発動するだけ。これ以上、邪魔をするなら本気で殺すから」
天才という天災、
本当に最後、なのだろう。
背丈の小さな少女から溢れ出る魔力の
「……セティス様、来ます」
些末な存在なのだ、現段階では。魔女たちなどは本来——眼中にないと、そう宣うような口振りで襲来した光の球体の攻撃に意識を向けるデュエラの一言。
「分かってる——取り敢えず敵の攻撃に彼女たちとカジェッタさんを巻き込まないように動く。デュエラは攻撃よりも今は傷の手当を優先、どちらを狙ってくるか分からないから気を付けながら敵の位置や能力の情報を集める、まだ本気を出すのは避けて」
セティスもまた、これからの状況と行動を魔女たちに聞こえるように話しながら覆面の魔女という二つ名に相応しいガスマスクに似た奇妙な面を被り始めて。
更に彼女が普段から使っている魔女の
二人の強者の眼前——デュエラが用いた魔法で生まれた土煙は高々と最高到達点にまで昇り終え、後は広がりながら地に戻っていくばかりであろう。
しかし——その前に、勢いよく土煙を突き抜けるように開かれる穴、二つ。
「了解したので——セティス様、二つ来ますです‼」
「分かっ——てる‼ 私は左‼」
「はい‼」
二個となった光の球体の襲撃に、セティスは空飛ぶ箒で——デュエラは己の脚でそれぞれに跳び、飛んだ。
***
『初撃は外したが——まだ機会は
セティスやデュエラの読み通りと言うべきだろうか、土煙を突き破って襲い来る二つの光の球体は、左右それぞれに別れて跳んだセティスらをそれぞれに追った。
「——光線自体は速い。けど、何かに跳ね返って軌道を変えるまでの時間と柔軟性はそこまでじゃない。失敗して修正している様子も、窺える。
魔法の光弾と反射の能力は連動していない……もう少し細かく感知したい所——が、暇がない‼」
猛烈な速度で
「魔力を反射する魔物——該当する魔物は思いつかない。また実験体の未確認生物の可能性……いや、断定は早い」
デュエラとセティスは互いに距離を置きつつも分断を防ぎ、直ぐにでも連携を取れるような位置取りを維持している。
だがそれ故に、隙があれば二つの球体は連携を取るように敵の死角を突こうと動きもするのだ。
「デュエラ、そっちに行った」
『はい‼ どのくらいついて来れるか、調べてみるのです‼』
見えざる足場を作り、空を駆け回るデュエラの下へ向かう自分を狙っていた球体、セティスは直ぐに覆面の耳に着いている魔石を通じてデュエラの鞄の中にある魔石で警告を飛ばし、確認の言葉を受け取る。
そうしてセティスのガラス越しの視界、空の上で行われるは——
『【
反射する光と踊るような魔法の光景、幾つもの透明なガラス板がそこかしこに唐突に出現し、光のソレに負けぬ程の縦横無尽な乱反射。
一瞬にして向かってくる光を背後前方から襲い来る二つの光を置き去りに弾ける弾丸の如きデュエラの肢体。弾力のある足場を駆けて跳ね回るデュエラに、さしもの光の球体も何処に行くべきかを迷い、目標を見失った様子で。
そして——その僅かな判断の迷い、隙を突き、彼女も動き出す。
「——なら、私も……本気で感知する【
『——あのデュラハンの男の技で御座いますね‼』
片手に持っていた銃を腰に戻し、両手を合掌させて音を周囲三百六十度に響かせるように鳴らして解き放つ均等の魔力。元より高位に研ぎ澄まされている魔力感知能力を駆使して、セティスは己の魔力をソナーの如く扱った。
「発想は貰った。周囲に幾つか私の魔力波を跳ね返す六面体の薄い物体を認識……光線の軌道と反射する物体の位置に相関性を確認」
暗い闇の中——
「セティス様‼ そちらに二つとも‼」
「——鏡。敵の正体は……鏡を模した、或いは鏡の性質を持つ魔物と推定」
制止したままに空を浮遊する
見えていた——だが、心は明鏡止水と述べるに相応しい静けさ。
「セティス様‼」
デュエラを見失った光の球体が、標的をセティスに変えた事もまた等しく。
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