第90話 中央橋商店街。4/5
しかしながら、未だ布の活用や意味などは理解の外。
故にカトレアは次に微笑ましく
「——このような
「この布の柄……黒地に白い線が入っただけの物ですが、これはイミト殿やクレア殿の髪色に似ていて、彼らが使って居れば彼らの物だという事が分かるとは思いませんか?」
「——なるほどなのです、確かにイミト様の髪の色みたいな素敵な柄なのですね……目印で御座いますか」
「えーっと、ですからつまり……いわゆる
言葉の表現一つ、動きの所作や実際に店の商品を手にして語ったりと、述べたい論説の意味に
しかし、
「ワタクシサマの目印……うーん、どのような物がワタクシサマの目印になるのでしょう」
とはいえと、やはり言葉として理屈では解りつつあってとしても、己が未だ感じた事の無い感覚はピンと来ず、思い悩み顔色の晴れない様子のデュエラである。
「ま、まぁ流石に特注している
「うーん……好きな色、形……で御座いますか……」
カトレアも何とかデュエラを説得し、文化的な素養を身に付けさせようとはしていたが、まだ早かったかと、またも今後の彼女の生活に苦手意識のような物を植え付けてしまったのではないかと、僅かばかりの後悔を匂わす。
故に、
「説教は終わった?」
早々にリダとの打ち合わせを終えて、店員に買い求めていた品も届いたらしく折り
「ああ、セティス殿。そちらも準備は終えたので?」
「ん。これから私は少し別行動、デュエラの事は任せた」
「
「はい、お任せください」
そして、未だ悩ましげに色々折々と商品を生真面目に眺めるデュエラを他所に、セティスとカトレアの二人はその場を離れる名目を抱え、店内へと静かに歩き始める。
——。
けれど誤解なきように語らねばなるまい。
それが決して、悩むデュエラから逃げる為に置き去りにしたのでは無いという事は。
「それで、今の所は大丈夫なのでしょうか」
別の思惑があったのだ。カトレアも丁度良い機会だと、
「……アナタも気付いてたの」
「まぁ、お二人の様子を見て何かあるなとだけ。余計な
互いに目を合わせず前を向いて歩みを進めつつ、ぶらりと散歩しながら今日の天気を語るように低反発に弾ませる会話。
「ん。魔女は噂話が好きだから……何も無ければ何もしないつもりでは居るけど」
「その事は、イミト殿に報告は」
「——私個人の問題だし、多分イミトの事……予想の範囲内、この街に私たちを送り出した目的の一つだと思ってる。事後報告にするつもり」
店の軒先に出でて再び街の喧騒が耳の中を賑わす中で、溶けるように言葉を交わし合い、見識——現状を共有し合う二人。
「目的の一つ……ですか。何処まで考えておいでか分かりませんからね」
「とにかく——そっちも急いで王国と連絡を取りたいだろうけど、先は私に
「いえ、我々の方はお気になさらず。既に
そして
「うん。念の為、旅費は全て渡しておく……万が一、私が戻らないようなら先に街を出てイミトと合流して」
「分かりました……ですが、もし戻って来ないようなら、あの男がセティス殿の魔道具の中で眠っている食材の回収の為に何をしでかすか解りませんので、是が非でも戻っては来てくださいね」
十分にあり得る可能性を憂慮しながらも、冗談交じりの言葉に満ちるは信頼か。
又は互いの選択や矜持を尊重し、同じ大人として相対する儀礼か。
一見と、巨大な勢力に挑む無謀ではあっても、セティスの冷静さや知性を認めているカトレアは深く詮索は試みない。
何かを知る事が出来て来なかったデュエラとは違って、それなりに彼女は博学で良識のある人間だからと——。
「——有り得る。貴女も、あの男の事が分かって来てる」
「ふっ——別段、分かりたくも無かったのですが。毒されているような気がして些か
「じゃあ、お願い。デュエラの事、宜しく」
「はい。任されま——」
例えば、セティスから差し出された革袋の財布がカトレアの手に受け渡される瞬間を狙って駆け出した、
『いただき‼』
この簡易な黒い覆面を被る引ったくりの泥棒のように、己の行動の
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