第60話 意味の亡き日。4/4
——。
そして——バンデット・ラックという男だった
「……てっきり貴様の事だ。見逃してやるなどと、甘い事を
罪人の傍らに黒い台座を創り、騎士の
魂の片割れの選び取った選択——というよりは罪人の顔に降りる影のような雰囲気に
すると、そんな手厳しくも不器用な彼女を罪人は
「はっ、素晴らしい
「くだらぬ。まぁ、そのように軽口を叩けるならば問題は無かろう」
刺してくるような赤い光と、光の鋭さを誤魔化すような
「ガチの
やがて放られる溜息に似た疲労の言葉が突拍子も無いように罪人の口から
そんな彼に対し、次に声を掛けたのは——罪人の所までクレアの頭部を運んできた騎士の鎧姿の女性であった。
「——……最初の一人は覚えてるものピョン。その内、何人殺しても気にならなくなって最初の一人も忘れてくるピョン。そもそも人間なんて死に絶えるべきなんだピョンし、何人死んでもゴキブリみたいに増えるピョンよ」
しかしながらその口振りは、ツアレスト王国の騎士であるカトレア・バーニディッシュと同一人物とは到底思えぬ
「元人間とは思えない発言だな。さっきはお前も前世の体に戻ってたんだろ、
そんなカトレアの表情で蒼い瞳とは違う魔物特有の赤く光る瞳に、平然と罪人は言葉を返し、呆れた皮肉笑いを浮かべて止めどない息を吐く。
「知り合いなら
白い煙が立ち上る魔力で創られた兎耳をピクツリと動かしながら罪人が先程まで食していたポップコーンを軽く一粒、口に放り投げて言葉を続けるユカリ。
「……ま、道理ではあるな。美味いか、ポップコーン」
自身の経験談のような物を語りながら思想を語るユカリを横目に、理解と納得を示しつつ血に濡れた顔を拭いた
「そんなに悩むくらいなら見逃すか、いつもみたいに言いくるめて仲間にでもすれば良かったピョン。魔法を封じられなきゃ、ただの雑魚だったピョンでしょ」
「まさか、男だから仲間にしなかったとか言うピョンか?」
「そうだって言いたくなるような事を言いやがるもんだ。だが、まぁ……無理だったろうよ——、仮に仲間になったとして俺が信用出来ないからな」
その、ある意味で的を得た
視線の行き先は、黒い棺。
「背後からケツ刺されんのは御免だし、それに——もう良いじゃねぇか。ありゃ充分、生き抜いてきたみたいだからよ」
「殺される事が救済なんて、人権派が発狂しそうな言い分だがな……もう良いじゃねぇか。ありゃあもう……魂一個が運び続けるのに荷が重すぎる人生だったよ」
我ながら言い訳がましいと言葉を垂れつつ、まるで
「ふん、達観しおってからに。よく貴様の
「だから他人の事を考える化け物になりてぇと
横からクレアの反吐の如き冷徹な
夕空の赤が、増々と色を濃い物にする景色の下——
ただ、夕暮れの静かさ、冷え始める風が彼らの肩を撫で花の香りを代わりに運んだような気配がした。それが——ようなである事を知っていても尚、そうであれば良いなと彼は微笑みを魅せつけるのだ。
しかしながら、彼女らの語るように。
「さてと——感傷はここまで。今回の戦利品と諸々について考える事にしますかね」
その一つの断絶に、
そして彼が手にしたのは——バンデット・ラックというよりは、彼と同伴していたトンガリ帽を被る少女の遺品。一冊の金銀宝石で装飾が施された厚みある大きな本。
「今回のこれは、燃やしたらマジでキレるからな、クレア」
「……分かっておるが、そう言われると燃やしたくなるものよ」
過去の
「——……その本を使えるようになれば、こんな体から出てまた人間に戻れるピョンよね」
けれど、その二人の関わり合いになりたくないような言い合いが始まる雰囲気に際し、それでも尚と思惑を持ち——、息を飲みながら会話を遮ってでもユカリが話に割って入ったのは、
その本が自らの人生において多大なる影響がある事を身を以て証明されていたからなのであろう。
兎に転生した元人間ユカリ・ササナミ。そこから更に憎悪に囚われ、今や魔物と変り果てた少女は、死に掛けだった騎士カトレアの体に封印された見る角度によれば哀れな
しかして、現在は罪人が持つその本がもたらした力は彼女の人間だった頃の肉体を僅かの間だけ取り戻させた。
故に、彼女は興味の無い振りや湧き上がる欲望を抑えながら、その視線を罪人が持つ本へと釘付けにするのである。
だが——、
「どうだかな。飛び散って消えたページ分の厚みも元に戻ってるし、物質って言うよりはクレアや俺の物体創生で創った魔力の
その兎の問いに、罪人は答えを持たない。両手に持ち直した本の表紙や裏表紙の材質を改めて確かめながら思考を進め、分析を始める。
——されど本のページは開かなかった。
「そこの所、実際どうなのか教えてくれると有難いね。お迎えの天使さんよ」
何故ならば、世界の
「——……その前に、我らが神はソチラのポップコーンを御所望です。
執事服の天使は敬愛する神を慮り、天使たる
神ミリスより拝命した命令を忠実に遂行する天使アルキラル。
そんな彼女へ、罪人のイミトは任意同行を求められた際のような声色で問いかける。
「塩だけの奴とハーブソルト、どっちが良いか聞いてきたか?」
——ひとつの可能性、ひとつの生きる意味が亡くなった日。
それでも——尚、彼らは生き続け、意味を探り、可能性を模索していく。
とても面倒げに、
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