第60話 意味の亡き日。2/4
——やがてそのような思考整理の末、一人の男が選んだのは、否定であった。
『違う……ラムレットは、世界を持たぬ
惑わされぬと、信心にしがみ付く。当然と言えば当然か、共に苦楽を共にした同志より敵の適当な憶測で放たれる言葉を信じる者はそうは居ない。
——呪いに掛かって居なければ。
『——お前はさ、故郷を滅ぼされたか、大事な人を皆殺しやら凌辱されたとかなんだろ、おおかた転生者を恨んでる理由は』
或いは、呪いを掛けられる前ならば。
神々が見守る中、魔人イミトは悪魔の如く死を待つばかりの男に追い討ちを掛ける。柔らかい白いタオルで
『そうだ……アイツらは、前世で
それに対して男は、これまで何も敵に与えまいと押し殺してきた感情を
『そうじゃなくてもヅカヅカと突然現れては、自分で見つけた訳でも無い知識や経験を自慢してドヤ顔で、俺達が大事にしていた文化や思想を踏みにじり、世界を汚していく』
嫉妬、嫌悪、憤怒、この世のあらゆる理不尽を呪うが如く吐き出され始めた人間バンデット・ラックの感情を、魔人イミトは静かに静観する。
狂気の果てにある過激な行動理念を想像しながらも、彼もまたポップコーンを頬張りながら淡と耳を澄ませているのだ。
『神の
物事には順序があり、道理があり、過程がある。
されどその音響は演技じみた、まるで脚本に書き込まれた文言をただ暗記しているだけのような響きもあった。
『害悪だ——痛みを
『それが異世界転生者だ‼ そんなゴミ共を重宝する連中も神も同罪だ‼ 違うか、異世界転生者‼』
それでも、やがて賛否を求められる同調圧力。拘束されていても尚、揺るがぬ信念で己が道を全く疑わない力強い思想犯の勧誘、異世界転生者でなければ或いはイミトで無ければ、彼に同調し賛同する程の気迫はあったかもしれない。
「……
「それなりに
『まぁ……そう言いたくなるような異世界転生者ばかり選んでんだろうが、だからってそれが否定出来る根拠にはならんわな』
「あら……ふふふ」
「……」
しかし魔人イミトがラムレットの言葉を今しがた聞いて真似したように
『その通りなんじゃねぇか? それでコッチから腹切って死んでやる道理も無い訳だけど』
『——だけど、そうだな……ひとつ付け加えさせてもらうなら、それは転生者だからじゃねぇよ、クソくだらねぇ人間だからさ』
『だから俺は——化け物になりてぇと思ってたんだから』
『……』
遥か異空の天上で二人の神がヒリヒリとした雰囲気を
『とにかく、お前の転生者談議に付き合う気はねぇよ。その最初のクソ野郎に、なんでお前は殺されなかったのかって話をしたいだけで』
そして彼は、意趣返しの如く天を眺めながら狂人の呪いをバンデットへと魅せつけるのだ。
『そいつが間抜けで
『そのラムレットって奴に会ったのは皆が死んじまったのを知った後か? どのくらいの時間で出会って、なんでラムレットがそこに居たか聞いたか?』
矢継ぎ早に、次々と、続々と、淡々と、冷静に冷徹に重ねられていく疑問。疑念。
『ラムレットの言葉の裏を考えたか? 嘘をついてないか探ったか? 適当に
「——……まるで悪魔の
「ふふ。まるで、今はオカシクないみたいな口振りね……でも、そうね。アレが狂い過ぎた
モニター越しに眺める神々すらも舌を巻く、静かなる
『答えてみろ——いつからラムレットって奴を信用できるようになったんだ、お前は』
更にミリスは、彼がバンデットを見下ろす酷く冷酷で淡白な瞳を眺めながら、再び麦酒を口へと運び小さな溜息を漏らしたのであった。
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