第49話 無自覚の犠牲。1/3
闇の中から生まれ
「イミト。目が覚めた」
小さな魔石越しに、握られた
「ああ……ここが地獄じゃなければな。すげぇ体が怠いわ……魔力を使い過ぎも使い過ぎて」
空っぽの
「——完全に
するとセティスは安心したような小さな息を払い、魔石を握らせていた手を
よくよく周囲の景色を見渡して確認していけば、見覚えのある室内。昨晩に夜を明かした十二の城が塞ぐ都市、城塞都市ミュールズの中央に存在する中央議会城の一室。
「サムウェルに感謝しなきゃな……クソッタレな騎士団の医者に半魔だってバレたんじゃねぇか?」
無論、それを考えるのはセティスも同じ。
「……昔、魔物に呪われたのが原因の特異体質だって誤魔化しておいた。私たちの旅の目的が、その魔物を探す為とも嘘を吐いて」
「なるほど。そいつぁ、気が利くね」
淡々と悪びれる様子もなく衣服の乱れを整えながら、ここまでに起きたのであろうイザコザを匂わして、補足していく。
そして彼女はベット脇に置いてあった水差しの下へ立ち上がり、透明の硝子のコップに中身の水を注ぎイミトへと手渡しながら話を続けた。
「イミトが地下の崩壊を塞いだのも
「和平調印式は?」
「つつがなく終わった。今は城の外も中も宴会の大騒ぎ中」
寝起きで
確かに感じる現実感に、
「……そうか。めでたいこった……な——ちっ」
けれど彼は
セティスが
「まだ動かない方が良い。この結界の中で魔力の流出は抑えられているけど魔力神経がズタズタになってる、飢餓は越えても欠乏した状態は
その症状は想定内と、セティスは無感情は眼差しで彼女なりの起伏の無い心配の声色でイミトを観察する。それでも彼女はベッド沿いに回り動いて、イミトをベッドに戻そうとした。
「いや……そうも言ってられないだろ。早く逃げるぞ」
だが、イミトには明確な理由があった。体の不調を押してでも、ベッドで寝たままでは居られない理由が。
「逃げる? 今はアルバランの王子も味方に付いてる。半人半魔とバレていても、そう易々とはツアレストも目立つ動きは出来ないと思うけど」
現状に不信を抱かないセティスは、悪夢でも見た寝起き早々にイミトが
しかし——イミトは、寝ているのはお前だと言わんばかりにツンと質問で返す。
「——アディ・クライドはレザリクスを救出したか?」
その問いが意味する事の厄介さを匂わして——重々しく。
「? 確かに、レザリクス・バーティガルは近くの教会で捕まったフリをしていたみたい。それが何? ただの無関係を装うアリバイ作りじゃないの?」
「違うな。問題なのは、いつからレザリクスが捕まってたかってのが重要になってくる」
「外から見た俺とレザリクスの関係は、間にクレアの存在があっての関係だ」
首を
「正体を隠していた俺が、昨日の夜にレザリクスと話したのはクレア・デュラニウスとの縁があっての知り合いだったからって建前なのさ」
「……もし、昨日の夜の——その前からレザリクスが捕まっていて、イミトと話していたのがスライムの半人半魔だったらって話?」
そんなイミトが語る言葉を、冷静に整理しつつ——セティスも考え始める。
イミトが危惧している事態、その穏やかな教え説く言葉の一つ一つが人々の
「ああ……ロクでもねぇ事に、スライムだった場合——俺がクレアと関係があるなんて事はスライムには知る
「じゃあ、なんで俺と歴戦の英雄レザリクス・バーティガルに化けたスライムは、昨日の夜、俺と会って話をしていた?」
「……」
そうして
「ツアレストやアルバランが、どう考えて動くかは分からないが、最悪——ツアレストに入り込む為にスライムと示し合わせた狂言だと追及される可能性もある」
「……
——或いは、それは狂気の沙汰。
考え過ぎの被害妄想にも思える世迷言。けれど、今日のここまで——イミトという悪辣な魔人が語る言葉に間違いは無かった。
深読みだと思う楽観視と、イミトに対する信頼が
しかし、悪質な陰謀論を跳ね返す程の根拠や論理をセティスは持たない。
「レザリクスがそれを考えてる可能性は高いな。被害者って奴には、いつの時代——どこの世界でも優しい眼差しが降り注ぐもんさ。甘ったるくて病み付きだ」
「確かに——その可能性は否定できないかもしれない。私は、レザリクスの救助には立ち会って居ないから」
やがてイミトへの同調、周囲への疑心を強めたセティスは、未だ納得できかねる様子を
その時——イミトの予測を裏付けるように——
『イミト様の言う通りかも知れません』
彼女が現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます