第40話 春の下、虫二匹。5/5
「「——⁉」」
渇いた扉の木材を、
セティスとイミトは、暗黙の内に顔を見合わせ
「……はい。何か御用でしょうか?」
そして扉へと向かい、扉越し——予期せぬ来客者に声を掛けたのはセティスであり、どうやら扉の向こうに居るのは日頃から何者かに
「——お休みの所、失礼いたします。マリルティアンジュ姫より、お届け物を預かって参りました」
「「……」」
静やかな
机上に広げていた地図や駒の片づけは手早く片付け終わってはいるようで、イミトも警戒しつつセティスの行動に同意を示すべく頷き、扉を開けと合図をした。
「どうぞ。お入りください」
やがて開かれる扉の向こう——先ほどの礼節穏やかな口振りの来客者は、やはりと言うべきかその声に見合う気品ある振る舞いで従者の証たるメイド服を躍らせている。
彼女は、間違いなくマリルティアンジュの使いなのだろう。
二人は、そう思い——、事実そうである。
扉の前、
そして——、彼女は再び近くに居たセティスに目を向けた。
「失礼いたします。こちらが、マリルティアンジュ姫よりのお手紙に御座います。それから
「
「——……では、失礼いたします」
部屋に訪れた来客メイドに応対するセティス。やがて受け取った手紙と言伝に感謝を述べて、肩透かしのように帰っていくメイドを見送る二人。
一瞬にして張り詰めた緊張は、扉が閉じられると同時に
だが、そうも言っていられない。
「姫様からの手紙か……嫌な予感しかしないな」
ソファーから立ち上がり、マリルティアンジュから贈られた手紙に興味を示すイミトは、
すると、セティスが言った。
「そうでもない。罠や細工がされてる気配は無いし……それに——」
「中身は、絵だよ」
「——……カトレアさんの仮面のデザイン画かよ。良い感じだな」
それは——もはや懐かしいとすら思えた話題。冒頭の旅の
とても穏やかで微笑ましく、彼らしく無いながら彼らしい微笑みで。
「クレア様の方の作戦といい……こっちの作戦といい……あの純粋な姫様には少し申し訳ない気がする。悪者同士の戦いに彼女を巻き込んでる感じ」
その笑みを見てなのか、或いは絵を見てなのか、それともそれ以前からか。
しかし、
「はっ、姫様の為に正義の味方のふりをして、正しく清らかに戦えってか?
「正義だ悪だと、くだらねぇ……この世にあるのは罪と罰だけだよ」
先ほどの笑みが一転——、まさに彼らしいと言わんばかりの
ソファーに戻る道すがら、手に入れた
「……罪と罰」
その背は何処か寂しげで、しかし何処か雄弁で、確かな決意と野望を背負う。
「行動して、
「迷って迷って間違えて、後悔して、反省して、反省させられて。叩き折ったり折られたり、そうやって生きていく」
「あの日——レザリクスが姫を襲ったから、俺達は姫と出会ってここに居る」
「それが今回のアイツらの
ドスリとソファーに腰を落とし、彼は背を追ってきたセティスに悪辣な横顔を魅せしめる。
「それで姫を守る為に罪を犯した女騎士に与えられた報いが、その仮面なのさ」
そして姫から預かった想いをテーブルに置いたイミト。
そんな折、一羽の
きっと扉を開けた時にでも部屋に入ってきたのだろう。
「……なるほど。一理はある、かも」
「じゃあ、私の師匠の分の報いも今回で受けさせる。絶対」
故に彼は——、一羽の
「判決は絶望だな。他人を犠牲にして叶えようとしてるアイツらの願いや頑張りを、これ見よがしに
「——姫様の夢や希望を守るとかにすれば聞こえがいいのに」
「はは……ガラじゃねぇだろ、そんな物……守りきれた試しも無いんでな。いつだって、壊す方が楽だ」
春の下に、虫二匹。
吹き抜ける風は春の夜の
断頭台のデュラハン~和平調印と駒語り~
続。
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