第35話 城塞都市ミュールズ。3/4
「ああ、姫さ……ま」
そこに居たのは思わずイミトが
ここで一つ、先んじて描写をするとマリルティアンジュ姫は未だイミトの外面を知らない。
「マリルティアンジュ姫、険しい旅より健在の方を受け……このアディ・クライド、真に嬉しく思います」
「アディ……ありがとう。しかし貴方や他の騎士や従者の家族の気持ちを考えれば、健在とは言い
伏し目がちにイミトの
「何をおっしゃいますか、姫の心の痛みに比べますれば——何より、姫を
「……イミト様、既にお聞きになっているかもしれませんが、こちらのアディは私の騎士カトレア・バーニディッシュとは、とても親しい
そして彼女らは挨拶を交わした後に立ち上がり、改めて置き去りにしていたイミトへと振り返る。マリルティアンジュは未だ伏し目がち、聖騎士アディとの関係を紹介しながら彼女はようやくイミトを顔を見るに至る。
そして——、
「そうか……なるほど。カトレア殿の死は、守り切れなかった私の責任でもある。恨むならば、姫ではなくこの私を恨んでくれ、アディ殿」
「——⁉」
彼女は気品よく伏し目がちだった目を大きく見開く。やはり紳士的に胸に片手を当てて、
「……これは——カトレア殿が身に着けていた遺品だ。良ければ、彼女のご家族か貴方が持って居るべきだろう」
そんな今にも頬に戸惑いの冷や汗を浮かべそうなマリルティアンジュを尻目に、イミトはアディの気を引くように腰のベルトに付いてた小物入れに手を伸ばし、こんな時の為にカトレアから強奪まがいに回収していた遺品(嘘)を取り出し、話を進めた。
「リオネル聖教の……ペンダントか。間違いなくカトレアの物だ……感謝する、イミト・デュランダル殿」
「……」
それをイミトから受け取ったアディは、ひと時ほど
しかし、虚言に
「それより姫様。長旅で疲れているでしょう。この城の客人である私が言うのも
彼はアディが喪失に気を取られた隙を突き、暗にマリルティアンジュに自身の偽りの外面に取り乱す事の無いように釘を刺す。作られた愛想笑いだろうとは到底思えない優しげな微笑みは、矛先に毒を
「え、あ、いえ……イミト様が騎士団長や私の兄様に事情の報告をすると聞き、私も同席せねばと思いまして。体の方は問題ありませんので、どうかお気になさらず」
その危険性にハッと我に返るマリルティアンジュ。声に引かれるままイミトへ視線が動きそうになった目を咄嗟に逸らし、悪寒に
「(……セティスといい姫様といい、念話が使えりゃあな)」
しかしそれでも、イミトからすれば余計な誤解を招きかねない
けれど、そんな折——
「足止めをして申し訳なかった、きっとバディオス王子も王国騎士団長も待っておいでだ。遅れた理由の報告も含め、私も同席させていただきます」
そして——、
「——で、では参りましょう、私が案内を致します‼」
彼らは歩み始める。有名人に相対した緊張を露にした騎士サムウェルが先導する先——王国騎士団長を始めとした
***
しかし、王国騎士団長グラウディオとの
「(さて……ここからは、どうしたもんかな)」
「(大部分の説明を姫に任せて、たぶん問題は無かったけど……)」
というのも、悪辣で態度の悪い印象を持って居たイミトに何一つと任せるつもりが無かった様子のマリルティアンジュが、事前に用意していたかの如く奮起し、次々とイミトも異を唱えない程の作り話も交えた事情と経緯の
「——という理由から、私たちは嘆きの峡谷を抜ける道を選択したという次第です」
椅子に真面目に座り、テーブルの上で両手を組んでいなければ拍手喝采と打ち鳴らしそうになる程に見事に話を結ぶマリルティアンジュ。そのおかげか、イミトに他の人物を観察できる心の余裕も生まれていて。
——故にイミトは思考する。
「危険な判断、とは言い
その場に居るマリルティアンジュの兄である——バディオス王子が精悍な瞳を悩ましげに閉じてゆくのを横目で見届けつつ、背後の気配までも探る。
「(……聖騎士が近くに居る手前、証拠もないのにレザリクスの名前を出すわけにも行かないし……姫様ばっか詳しく話してても怪しまれそうだ)」
背後に控える聖騎士アディ、そして草原で出会ったミュールズ護衛騎士団長リオネス。バディオス王子の横に立つ——見るからに威厳に満ち満ち、相応の戦気を内に
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