異世界転生 堅物騎士は妻の虜になる

くたくたうさぎ

第1話

ハニーブロンドのサクラ 155センチ クリクリの目の美少女


城騎士 カイン 黒髪 185センチ 




ある嵐の日、騎士が海辺で怪我をしてたおれていた。遠目にもかなり出血し重症なのがわかる。


たまたまだった。さくらは嵐の日にしか咲かない薬に使う花を見つけるためにそんな中歩いていたためにそれを見つけたのだった。


足早にかけよって、傷ついた騎士の傷を確認した。


背中にかなりの大きい裂傷を負っていて顔色は真っ青で気を失っていた。慌ててそっと仰向けにして心臓の音を確認すると微かだかまだ心臓の鼓動は残っていた。


心臓さえ動いていれば助けられる!




だが、さくらが救助しようとするが重すぎて持ち上がらなかった。


―――さくらは異世界転生人だった。

異世界に転生して来た事でチート魔法を手に入れていた。魔法はこの世界ではあたりまえにあるが、そこまで強力な魔術を使える人は極めて稀だった。




騎士の体を魔法で少し宙に浮かし、さくらは大きな身体を肩に担ぎ自分の家に運んだ。騎士は気を失ってはいるが傷に触れた際に顔を歪めていた。



✛✛✛✛✛✛✛✛✛✛✛

家に着きそっと身体をベットへと横たえた。

目は閉じられているが、濡れた前髪が額にかかって濡れたまつげは長く閉じられていた。すっと通った鼻筋に形のいい唇、目を閉じていてもかなりのイケメンのようだ。身長もかなり高い。




さくらはドキドキしながら傷を癒やしの魔法で治癒していった。先程まで苦しそうに息をしていた騎士は、身体が楽になったのだろうだんだんと落ち着いてきた。だが、癒やしの魔法でも体力は戻らないので、そのまま寝てしまったようだ。濡れた体を拭くために、さくらは騎士の服を脱がした。

はだけた服から除く体躯はしっかり鍛えられていて厚い胸板に割れた腹筋がちらりと視界に映った。引き締まった肉体美は鼻血ものだった。




さくらは拭くだけだからと目線をそらし手早く着替えさせた。男物の服がないので脱がした服を風魔法で乾かしていた。

さくらは上半身裸の男にそっと布団をかけた。


魔法を使いすぎたせいかどっと疲れが襲ってきた。さくらはベッドの端にコロンと寝転がりそのまま深い眠りについてしまった。



_______________


朝日の明るさでカインは重たい瞼をそっと開いた。


自分は敵に反撃を喰らい怪我をして倒れてしまった。雨の中意識を失ったところで記憶は途絶えていた。態勢を変えて寝転がった時だった……


……!?


ふと、触れた柔らかい感触に身体がこわばる。


キョロキョロと周りを見渡すと、自分はきれいに片付けられた部屋のベッドに寝ていた。


横にはハニーブロンドの少女がくうくうと寝息をたてて寝ている。


―――自分は裸……。サッと血の気が引く。


俺は何をしたんだ……!?




頭の中がぐるぐるとまわり困惑していると身じろぎをした少女がこちらに向いて寝転がってきた。


……!?


その顔を見て時が止まる。


伏せられているがきれいに伸びたまつげに通った小さい鼻、ふっくりとした濡れた花びらのようなくちびる。寝ていてもかなりの美少女だとわかる。


見つめていたその瞬間パチっと目が開いた。キレイなアメジスト色の瞳と目が合う。




カインがあまりの衝撃に固まっていると少女が声を発した。




「あ! よかった目が覚めたのね」


さくらは身体を見つめ昨日治した場所の傷がきれいに消えていることに安堵の息をもらした。




カインの混乱していた頭がだんだん冷静さを取り戻していく。


状況を簡単に整理すると倒れていた俺をここまで運び手当てしてくれたようだ。しかしいくつも疑問か浮かぶ。なぜこの大きな身体を運べたのか……傷が何故こんなにきれいに消えているのか……。


ぐるぐると考えている俺を無視して、少女はベットを降りてすたすたと台所に行き朝食の準備を始めた。


――――まぁいい、あとでゆっくり聞くことにしようと少女を様子を目で追った。


「どこか痛いところはない?」


少女が小鳥が鳴くような声で尋ねてくる。


「あぁ」


短く返事すると、良かったと言いたげに小さく微笑んだ。


なっ!……なんてかわいいんだ。と頬を紅くしているのを見られないようカインはサッと顔を横に向けた。


少女は……ん?となりながらも首を傾げながらまた朝食の準備に取り掛かった。


「あ! そこに乾いた服あるからね」


目線をずらすときれいにたたまれた自分の上着があった。カインは手にとってそれを着込みベットから降り、テーブルに腰掛けた。


しばらく様子を見ていたカインは少女が一人で暮らしていることを察した。


用意してくれた朝食を見て少し驚く。小さいパンに味の薄いスープとリンゴだった。あまりに質素な食事に固まってしまう。


「ごめんね、その……あまり余裕がなくて……」


下を向いて謝る彼女にはっと気がついて慌てて弁解した。


「いや、すまない。ありがたくいただく」


カインがパンを食べていると、安心したように少女も食べ始めた。


「助けてくれた事礼をいう。俺の名はカインだ。王宮近衛騎士だ」


「たまたまよ。礼なんていらないわ。私はさくらよ」


さくら……かわいい名前だ。東方に咲く花にそのような名前がついていることを思い出す。




「何点か聞きたいことがあるのだが、いいか?」


返事はないが、こくんと頷くさくらに、カインは話を続けた。


「俺が倒れていたのは浜辺だったと思う。そこからここに運んでもらったのなら手伝ってもらった者にも礼が言いたいのだが……」


さくらは背中にすっーと汗をかいた。


やばい……一人で運んだなんてどう説明すればいいかな。


ちらっとカインの顔色をうかがうと、返事をまっているような静かな目線と絡みあった。


どうせバレるか。。まぁ口も硬そうだし……ふぅ、と小さく息を吐き質問に答えた


「わたしが魔法で一人でここに運んだの。それから怪我も治癒魔法で治したの」


カインは驚いて固まってしまった。


さくらはふぅっと息を吐き、話を続けた。


「ていっても簡単な魔法よ、あなたの体に重力軽量の魔法をかけて、治癒魔法も一箇所に多重ヒールをかけただけだから」


さくらは常人ならぎょっとすることをつらつら話していた、


「……にわかに信じられないのだが。その魔法を行使するためにかなり膨大な魔力を必要とするはずでは?」


ん……そうなのか……あまり普通がわからないさくらは少し焦る。


もし余りある魔力がばれて捕獲されて強制労働とかたまったもんじゃない。


さくらはそんな考えに頭が混乱して下を向いていた。


そんな桜の行動にカインは何を思ったか


「よい。嘘をついたからと言って責めたりはしない。こうして助けてもらったのは事実だ。もし手を貸してくれたものがいても名を隠したいのだろう。代わりに礼を言ってくれないだろうか?」




さくらはぱっと顔をあげた。うん。そうしよう。そのほうがややこしくない!さくらは面倒ごとがあまり好きではない。話を合わせることにした。


「ごめんなさい……」


言えなくて……というさくらの言葉を先程の返事と勘違いしたのだろう。カインは大きな手で頭をポンポンとなでてくれた。






かっと頬があかくなる。恥ずかしくて目を伏せてふるふると震えて下を向いてしまった。小さな肩をぷるぷる震えさせているさくらは小リスのような可愛さだった。




カインはそんなさくらを見つめ、胸の奥に広がる甘い感情を自覚していた。かわいすぎる……欲しい。


自分の凶暴な獣感情が仄暗く瞳に宿るが下を向いたさくらには気づかれることはなかった。




すっと手を引きまた朝食にてをかけ始めた。


そんなカインの行動に桜もホッとしたのかほんのり頬を赤く染めた顔をあげパンを口にした。


カインは何も無かったかのような他愛ない会話をしながら食事を続け、さくらを警戒させないようにしていた。


カインの心の中はどうやってさくらを手に入れることができるか。という獣じみた感情で支配されていた。




「さくら、礼がしたい。申し訳ないんだが我が家に来てくれないだろうか?きちんとしておきたい」


「え!? いえ! いいです。お礼なんて……そんなつもりでもなかったから。本当に」


さくらはぶんぶんと首を横に振った。ハニーブロンドの柔らかな髪がふわふわと風に舞う。




「いや、これは騎士として当たり前のことだ。何もしないなど騎士としてありえない。お願いだ礼を受け取ってほしい」


そう言うなり深く頭を下げられた。


そんなカインを見て慌てて顔を上げさせる。


「や、やめてください。そんな頭を下げるなんて。わ、わかりました。お伺いしたいと思います」


さくらは観念してそう口にした。


「本当か!ありがとうさくら」


そう言うと、そのへんにいる女子が卒倒しそうな端正な容姿にふわりと笑顔を浮かべたカインに、さくらはクラクラしながらまたも足元に目を向けた。やばい、胸が爆破される……ただ胸に宿った恋の蕾が綻びはじめていることにさくらはまだ気が付かないのであった。




「では、支度をしてこちらから迎えを寄越すので待っていてくれ」




「はい。お待ちしていますね」


さくらはにっこりと微笑んだ。


カインはそんなさくらを見つめ、ふっと視線をはずしさくらの家を後にした。



___________


それから数日後にさくらに迎えがあった。ただしそれはさくらの望む甘い訪問ではなかった。王宮騎士団によりさくらは拘束されてしまったからだ。




王暗殺未遂の重要容疑者として……




そこにはカインの姿が見えた。前とは打って変わって厳しい顔でこちらを見据えていた。


さくらは訳がわからず違うと訴えたが全く聞き入れられる事はなかった。あっという間に魔封じの首輪をかけられ目隠しをし馬車にのせられた。




普通の子なら多分悲しみや恐怖におののき泣き喚いたり気を失ったりするんだろう。しかしさくらは周りの空気を読まずのほほんと考えていた。


聞いた情報をまとめるとこうだ。あの嵐の日に王が襲撃され騎士たちが何人もやられた。普通なら屈強な騎士たちが、軒並みやられるはずもなく通った道に巧妙な魔法陣が張られていたそうだ。それは足止めに使われるものではなくかなり難しい魔法陣が組まれていたそうだ。その際に盗賊にあい負傷したと。


……ん?


やばい。わたしだ……いや盗賊ではなく……魔法陣は近く魔物や盗賊似合わないように仕掛けたわなだ。


それに運悪く王様たちが引っかかってしまったと。


あぁぁもう。なんでぇぇ! さくらは心の中で叫んでいた。


まぁでも全くの無関係でもないし、謝るしかないかなぁと考えているうちに馬車から乱暴に手を引っ張られた。




「んっ!」


いたっ! 猿轡をかませられてるのでくぐもった声がでる。


「降りろ、後ほど詰問がある。嘘を述べることは許されない」


小さくコクリと首を立てに振る。


ひんやりと肌寒い廊下を下ると周りの雰囲気が暗くなる。自分と連れられている騎士の歩く音がやけに響く。ガチャン、重い鉄の扉の開く音と共にその中に入れられたよう。


そっと目隠しが外された。小さな小窓から差し込む光以外は廊下にある蝋燭のみの牢屋に入れられていた。猿轡はそのままのようで多分自殺防止の為だろう。手枷もはずされたが魔封じの首輪はそのままだった。


ジェスチャーで猿轡を外してほしいと訴えてみた。


「自死などしないと言うなら外してやろう」


感情のない声で騎士はそう言った。


さくらがコクリと頷くと騎士が近づき猿轡は外された。


ふぅ……と息を吐くと、少しかび臭い湿った空気が肺を満たした。




「後ほど尋問にくる者がいる」


そういって騎士は扉の鍵を閉め去っていった。


粗末なベットにそっと腰をかけどうしたらいいか、ボーッと考えていた。


誤解は誤解だけど王様の邪魔をしたんだし重い罪が課せられるのかな。もしくは死刑とか? はぁ……もうついてない。また死ぬんだ……




さくらは元いた世界をぼんやりと思いだしていた。さくらの元いた世界での生活や環境はとても良いと言われるものじゃなかった。両親は幼い頃に亡くなり親戚間を転々としていた。愛情らしい愛情もかけられることはなく、綺麗な容姿生まれたせいで異性関係でも嫌な思いをしてきたことが何度もあった。従兄弟に寝てるとこを襲われかけ思いっきり抵抗して事なきを得たけど家を追い出された。16歳になったその日だった……


さくらは靴も履かず飛び出し、崖から飛び降りて死んだ……はずだったのに。目を覚ましたらこの世界に転生していたのだ。森の中に座り込みしばらくはよくわからないままフラフラ歩いていたら小さな誰も住んでいない小屋があった。



「す、すみません」


こわかった。だれか出てきたら。


ビクビク怯えていたけど結局もうしばらく誰も訪れた形跡もない捨て置かれた小屋のようだった。


ホッとしたのか近くにあったホコリまみれのベットに腰をかけたときにふと手に違和感があった。


小さな入れ墨のような文様が手の甲に浮かんでいたのだ。




え?何これ。。そっと触れると頭の中に魔法の呪文や、魔法陣が流れ込んできた。それはきらきらと頭の中に吸収されていき、しばらくすると静かに消えた。




な……なにっ!?


信じられないけど一つ魔法を唱えてみる。すると手の中にふんわり光の玉が現れた。えぇ!! スゴぃ!! もしかして私魔法使いになったの!? ワクワクとした気持ちで興奮し、色んな魔法を唱えてみた。風魔法で積もっていたホコリを外に吹きとばした。


床も水魔法できれいに掃除する。暖炉に火の玉をともし感動していた。


もしかして空も飛べるのかな?? 試しては見たけど自分の体を軽くするくらいで呪文がわからなかった。ヒントになるようなことがあれば使えるようになるきがするな! とここにきた衝撃とともに生きる希望が湧いてきた。


そんな中生活してはや半年目に起こったのがこの事件であった。








ぼーっと座っていると誰かが来る足音が聞こえた。


鉄格子の前に立つその人物に目をやると、そこにいたのはすらっとした身長だがガッシリとした体躯に騎士の服をびしっと着こなした姿のカインだった。


「カイン…」


さくらはポツリと声をこぼした。




するとカインはゆっくりと目線を合わせた。カインの表情は暗くてあまり読み取れないけど、瞳だけはきれいに輝いて仄めいていた。




「いまから尋問をする……こい」


硬い声で、扉をあけ桜の細い腕を後ろにし手錠をかける。


そして前を歩くよう指示をした。




さくらはカインに誤解してほしくなく、ちらりと後ろを振り返ったがカインは前を向き目を合わせてはくれなかった。




しばらく歩くと赤い古ぼけた扉の前まで来た。


その扉をあけ中に入るよう指示をされたので恐る恐る足を踏み入れた。


そこは大きなベットにあらゆる拷問器具がそろった、いわゆるSM部屋のような場所だった…


さくらは目を大きく開き、息を呑んだ。自分がされるだろうことが安易に想像できたからだ。


こくりとつばを飲み込むと、後ろ手にされていた手錠を外されたが、そのままてをひっぱられベットに連れて行かれた。


縄でせっかく自由になった両手をまたしばられベットにくくりつけられる。




さくらは恐怖でいっぱいの目でカインを見た。カインも目を合わせ、こちらを見据えてきた。


「ま、まってカイン! 誤解なのやめて! おねがい……」


ポロポロと頬に涙が流れるのをさくらは止めることができなかった。


「さくら……」


カインがその頬にそっと手を伸ばした。


「さくら、嘘は言わないでくれ。お前にひどいことはしたくない」


カインは感情を押し殺したような口調で話しかけてきた。


「わかった、話すからおねがい腕を解いて!」


さくらは必死に懇願する。バタバタ暴れたせいでスカートはめくれ上がり下着があらわになって白く綺麗な足が外気にさらされていた。


カインは露わになったそのきれいな足にそっと手をかけた。


さくらの身体はぴくんっとくすぐったくて体が反応した。


白い肌に触れるカインを気にしつつさくらは話し始めた。




「カイン。こないだ話しをしていた魔法の話なんだけどあれは本当に私なの。魔法陣も。でも誓ってあなた達に使う予定だった罠ではないわ。魔物や盗賊から見を守るために設置したの。信じてほしい……」




カインは引き込まれそうな黒い瞳でじっと見つめてきた。


暫くして小さく息を吐き、頬に触れた。


「本当にうそじゃなかったんだな……」


ポツリとつぶやく。


「え!? 信じてくれるの?」


さくらは戸惑った。私の言葉を素直に聞いてくれるとは正直期待していなかったからだ。


カインは頬にあったゴツゴツした大きい手を少し下にずらし魔封じの首輪に手をかけた。


「これだ。これは使用したものが嘘をつくと締まる仕組みになっている。もちろん魔封じの術もあるので不正はできない」




カインは縛っていた手を開放してくれた。開放された手はジーンと痺れて赤くなっていた。その手をカインはそっとなでる。


「すまない」


悲痛な顔でカインが謝ってきた。


「うん……もういいよ? なにもなかったんだし……」


さくらは気丈に笑顔をつくるが、目のはしからホッとして安心したからだろう涙が溢れた。


「あ、あれ? ご、ごめ……」


最後は聞き取れない小さな声になり手で顔を覆う。 


カインはそんなさくらの悲痛な姿をみて胸を痛めた。


「魔封じの首輪も鍵をさし外してほしいんだけど。首輪はちょっと……」




カインは立ち上がり


「わかった。とりあえず王に報告させてもらう。それまですまないがこちらで休んでいてほしい」


そういってベットから降り入ってきた扉から出ていった。




しばくしてからカインと二人の騎士がさくらのもとを訪れた。


そして手をとられ部屋を後にする。カインが前を歩き騎士二人が両脇にいる状態だ。だだ手も縛られてはいないのですこし安心する。




階段を上がり庭のような場所を歩きとても大きな城のなかを歩いていることに初めて気がついた。キョロキョロとそんな景色を眺めていると兵が立っている重たそうな扉の前まで来る。




兵たちはカインの姿を確認するなり背筋を伸ばし敬礼していた。


カインは相当上の職についてるんだなぁと呑気にかんがえていると、


きらびやかな廊下の先にこれまた豪華な扉があった。


扉の前に立ち両脇にいる騎士に目配せするとすっと二人の騎士が下がった。どうやら入れるのはカインのみのようだ。


カインは扉を叩いた。


「カインです。連れてまいりました」 


「入れ」


中からバリトンな渋い声が響く。




「失礼いたします」


カインが扉の中にはいりさくらもそれに促されるように部屋の中に入った。


「失礼します」


さくらは小さな声を更にちいさくして扉の中に足を踏み入れた。




そこは高そうな絨毯が一面に敷き詰められた豪華な部屋だった。部屋にある調度品はどれも高級感を漂わせていた。その先に玉座に座る王様らしき人がいた。


精悍な顔立ちにがっちりした体躯、少しつり上がった深いブルーの瞳、金色の髪をなびかせた超絶な美青年が座っていた。


さくらはぽけっと少し口をあけてたち呆けてしまった。それを見た王のそばにいた騎士はさくらにきつい視線を投げかけて、


「無礼な、王の前だぞ!頭を下げろ」


ときついセリフを投げかけてきた。あわててさくらはあたまを下げた。




だってそんなん知らないんだもん。王様なんて自分がであえるようなひとじゃないんだし。さくらはモヤモヤしながらもあたまを下げ続けた。




「よい、顔をあげろ」


低い威圧的な声が頭の上から響く。


ほっとしてそっとあたまを上げると、さくらをながめている王様と目があった。




「お前の名は」


王に名前を聞かれ、


「さくらです」


ぽつりとさくらは答えた。


はァ……早くこの首輪を外してほしいんだけどなぁ。


さくらはあたまでどうしたらはずしてもらえるんだろーと呑気に考えていた。


「お前があの魔法陣を仕掛けたと聞いた。まことか?」


王は怒ったような怖い声ではなく、静かにさくらに問いかけた。


「はい。すみません、あれは魔物や盗賊よけに仕掛けたものです。王様の一行にしかけたんじゃありません」


嘘は言えない。首輪が締まって息ができなくなったらやだし。


「すみません、許していただけたらありがたいんですが……あ! あとこの首輪もはずしてください!なんかペットみたいでいやなんです!」


さくらは王様にも気後れすることなくズケズケと要望した。




そのさくらの態度に王だけでなく、カインも王付きの騎士も目を見開いた。当たり前である。王に対して要望できるなんて、余程の武勲を挙げない限りしないことである。まして王の一行を危険に晒した張本人だからなおびっくりだった。




だが、さくらはそんなことおかまいなしに話を続けた。


「私一人であそこで生活するのはとってもこわいの、変な男に襲われるかもしれないし……女のコが自分の身を自分でまもるしかないんだからしかたなかったの」


しゅん……としているさくらは小動物のように可愛らしかった。


王はだまってさくらを観察した……小さな体躯に小さな顔綺麗な髪を後ろに束ねただけだったが、かなりの美少女だった。


「ふむ……さくらと申したか。そなたその首輪をはずしてほしいんだな?」


王が口を開いた。


「はい!」


さくらはぱっと目が輝きうんうんとうなずいた。


「だったら俺のものになれ」




「……はっ?」


さくらは聞き違いかと素っ頓狂な声をだしてしまった。


「王! こんなどこの誰ともわからない娘! 危険です」




付き添いの騎士は怒りを口にした。


カインはそのやり取りを呆然と目にうつして立っていた。


「ちょ! ちょっとまって! 嫌です! むり!」


さくらは全力で拒否した。


「そうか。ならお前を咎人として奴隷に落とす。それでいいか?」


青い瞳がゆらりと仄めいてさくらを捉えた。


ゾッとした感覚がさくらの背をかけぬけた。


王様のものにならないなら奴隷? いや、王様のものになってもゆうこと聞かせられるなら奴隷じゃん。


え〜……でもなんか権力つかって自分のものにする人なんてお断りだ。さくらはそんなひとが誰より嫌いだった。答えは決まった。




「わかりました。じゃあ奴隷になります」




は? は? は? 3人の? マークが目に見えるようだった。


当たり前である。王様のおんなになるより奴隷を選ぶ女なんて普通はいない。―――うん、世界中さがしてもさくらくらいだろう。


さくらは怒りの目をまっすぐと王にむけ、話続けた。


「わたし、自分勝手になんでも自分の思った通りになると思ってる人が大ッキライなの。そんな男たちに襲われてきたから。貴方が王様だとしてもいっしょ。私は一人の人間だし自由にされるいわれはないわ。奴隷上等よ」


さくらはハァハァと息をつきながらまくし立てた。




そんなさくらを王は呆然とみつめた。今まで女はくさるほど抱いてきた。自分が欲しなくともべたべたとまとわりついてくるものが女だった。少し毛色のちがう猫に手を出そうとしておもいっきり噛まれたのだ。王のプライドはズタズタであった。


だがそんな胸の内は微塵も見せず、低い声でさくらに告げた。




「なら、おまえを奴隷の身に落とす。連れていけ」


低めの声が謁見の間に響いた。


あーあ……奴隷なっちゃった。奴隷ってなにするんだろ?掃除洗濯とか?まぁ何とかなるでしょう。地球でも奴隷みたいなもんだったし。




ふぅ……と小さく息をしたさくらは廊下に連れ出された。先程からカインはずっと無言でさくらの後ろ姿を見つめた。




連れてこられた時と同じように二人の騎士に後ろと前をふさがれ長い廊下をすすんだ。




奴隷には刻印が押されるのかな?とどきどきしていると、木の古びた扉の前についた。


その中にはいるとローブを着た片眼鏡に長髪のイケメン男性がいた。


「この娘に奴隷印を」


付き添いの騎士が長髪の男性に告げた。


「……奴隷印ですか? こんな娘に? ふむ……あなたなにをしたんです?」


眼鏡の奥の目がスッと細くなる。


「王様のおんなになるのを断ったのよ!」


長髪のイケメン娘の言葉に目が見開かれ、騎士に目で問いかけていた。騎士は小さく頷く。


「ほぉ……おもしろいですね。自ら奴隷に身を落とす娘ですか……」


男性はくくっと小さく喉の奥でわらう。


「わかりました。奴隷印をつけましょう。こちらへ」




 さくらはすこし身を固くして男性の前に進み出た。




「女性の奴隷印は胸の上につけられます。服を脱ぎなさい」


「へ?」



さくらは間抜けな声を出してしまう。


「えーっとカインとか騎士さんは部屋からでてくれるのよね……?」


二人を振り返ると厳しい表情のまま無情な言葉が投げかけられる。


「逃げる可能性や、危害を加える可能性が0ではないここを動けん」


カインは低い声でこたえた。


まーじーか……しゃあないんかなぁ。奴隷は口ごたえなんてしないんだもんね。


よし。さくらはもう自暴自棄になり服に手をかけた。ワンピース型の服なのでこれをぬいだら下着のみになる……はぁ。涙目になりながら服をぬいだ。


「下着もはずしなさい」


「はい……」


デスよねぇぇ! しゃあないと下着にも手をかけた。下はいいよね?


「なにか隠している可能性があるので下もです」


「……はい」


真っ赤になり震える手で下着をおろした。


全裸である。生まれたてのすがたを男3人に晒している。泣きそうだった。自業自得なんだけどねぇ……




3人はさくらの裸体を驚愕の眼差しで見つめた。顔だけではなかった。きれいに膨らんだ胸にきゅっと引き締まった腰、きれいで小ぶりの臀は男の欲望をこれでもかと誘う。肌は傷一つ、ほくろ一つないなめらかな象牙色をしていた。




ゴクリとつばを飲み込むほどの綺麗な裸体を目にして固まった男たちをみて、はやくして〜! とより涙目になるさくらだった。




潤んだ瞳をむけ羞恥にほんのり染まったさくらをみて欲望がぐらりとかたむく。


奴隷印をつけてしまうことすら躊躇ってしまうほどに。


「……では」




その時だった。木の扉が乱暴に蹴破られてズカズカと桜に近づいてきた。王様だった。




裸にされたさくらをみて、カッ! と目を見開いて近寄ってきた王様は桜にマントをかけた。




3人ははっとして素早く床に身をかがめて敬礼する、




「ばかが!! ほんとに、奴隷になるとゆうことどうゆうことになるのかわからぬのか! 夜ごと男どもに抱かれるんだぞ!」


王様は何故かすごく怒っていた。


さくらはポカンとした表情のままかたまる。




「そんなに男共にだかれたいのなら、抱いてやろう」


王様は有無をいわさない瞳でさくらをみつめた。


マントを着ただけのさくらをひょいと肩に担ぎ部屋を出る王を3人は呆然と見つめた。




さくらは肩に担がれ頭が反対になってしまって少し気分が悪くなるなか王様の背中をじっとみつめた。背は190あるだろ。落ちたらイタいだろうなぁ……すごい筋肉。王様ってインドアで丸いイメージだったのに、全然ちがうんだ。どこまでも呑気なさくらを尻目に王様は私室にむかって進んだ。




私室まえの衛兵に扉を開けるよう指示し、王は中にはいった。




大きなキングサイズのベッドにぽんっと降ろされる。




きゃっ! 小さく叫んでさくらは仰向けにころがった。




その上に190はある巨体が覆いかぶさる様に頭の横に両手をついた。




「本当に奴隷担っても良かったのか?」


王は怒りのない静かな声でさくらに問いかけた。


「なりたいわけないじゃない! でも無理やりゆう事を聞かせてどうにでもなるなんて思われたくない!」


感情がたかぶりさくらの目尻からポロポロとなみだがこぼれた。王はそんなさくらを呆然とみつめた。




「泣くな。すまなかった」


王はそっと頬に手をあててさくらの涙をぬぐった。




「すまない。まさか奴隷を受け入れられるとおもわなかった。さくらが咎人ではないことはカインからきいている。私はおまえを一目みて欲しいとおもってしまった……こんなこと……いままで無かった……」




しゅんとした王様はおっきなライオンが怒られているようだった。


さくらのなみだはとまり王の瞳を見つめる。うん……嘘じゃないんだね。さくらは人の嘘を見破るのが得意だった。処世術だった……




「うん……もういいよ。奴隷になるまえにたすけてくれたんでしょ?これでチャラよ」


さくらはふんわり笑って王様のあたまをポンポンとたたいた。




顔を真っ赤にした王さまはさくらからガバッと飛のいた。口元に手をあてさくらを凝視している。


さくらの王様をなでた手はぷらんと行き場を失い宙に浮いてしまった。








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