【掌編&短編集】💠花言葉物語💠

あいる

第1話~オトギリソウ~


 ~オトギリソウ~


 他人の悲しみと不幸の上に、どんなに上塗りを重ねても、人は幸せになれない。

 そんな人生は、美しくない。


 それでも……


 私は幸せだった。


 これ以上の悲しみがもう二度と、私には訪れないのだと思うと。




「にいちゃん、にいちゃん」

 いつも、私の後ろについてきていた可愛い弟を殺めてしまった。


 幼いころ母に先立たれ、厳しい父親に育てられた私にはこの弟しかいなかった。


それなのに──


 幼なじみの華奈と私たちはいつも一緒に過ごしていた。


 華奈の母親は私たち兄弟にも、自分の娘と変わらぬ愛情を注いでくれた。


 いつも一緒に遊び、一緒に笑い、一緒に泣いて大人になった。


 弟と華奈が惹かれあっていることも気がついていたけれど、気付かぬふりをしていた。

とても、苦しかった。


「華奈と一緒になることを決めた」


 弟から聞いたあの日から、私の心に醜い思いが芽生えた。


 誰にも渡したくない。


 私は書いた、心の震えを、心の叫びを、伝えたい思いを。


 冷たくなった弟の手に忍ばせた手紙には、禁じられた想いを綴った。


 誰よりも愛していたのだ、いつまでも一緒にいよう。


(了)


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

 オトギリソウ(弟切草)

 花言葉・恨み・怨念・迷信


 平安時代、花山天皇のころ、この草を原料にした秘伝薬の秘密を弟が隣家の恋人に漏らしたため、鷹匠である兄が激怒して弟を切り殺し、恋人もその後を追ったという伝説によるものである。あるいは、鷹匠である兄が秘密にしていた鷹の傷の妙薬としてこの草を秘密にしていたが、弟が他人に漏らしたため、激怒した兄に切り殺されたという伝説に由来するという説もある。


 オトギリソウの葉に見られる黒い油点は、斬り殺された弟の飛び血とされる。

(Wikipediaより)


✿四月二十日の花「オトギリソウ」の花言葉に寄せて……

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