第2話、デシムの思惑と、擦れ違う想い

 デシムは創造神トールが門(主神のみが扱えるもの)を使い、その場に居なくなった事に安心した。デシムは知っていた、この世界にいる人間達の発展が度を超えており、その発展が世界の均衡バランスが傾いている事を。その元凶である国の中心が主神を祀っている神殿であること。そして先程は主神に決意を出させるために敢えて、神殿が無いと嘘を放った。勿論、デシムにとって主であるトールを神の座から下す気など全く無い!ここにいる者達も、元はトールがデシムの事を思い、召喚した天使である。その中で最も知力に溢れ、極一部の神化した者が『豊穣の神』や『大地の神』として外界に降臨し、自分たちの役目を果たしている。

 しかし主神であるトールは全て部下に押し付け、何もしない為、世界を統治・支配できず、遂に世界が傾いてしまった。その為、今回の騒動へ繋がるのであった!だが残念ながら主神であるトールは…というと、全く反省せず、着々と世界を去る準備をしている。勿論、部下や臣下であるデシムらは上手くいったと喜んでいるが、誰一人も気付けていなかった。これが原因で主神が、とんでもない事をしでかす事も知らずに…。


         ※※※


「おのれ、創造の神である私が…」


 そして、こちらも何も確認せずに去る準備をするトール。現在いる部屋には、この世界を創った時に様々な条件を付け加え、それが一つでも欠ければ危険だというシステムが置かれている。ここには世界の管理者(主にデシムや天使ら)では入れず、世界を創った際に立ち会った一人のみ使えるという代物である。そして、その条件の一つには主神であるトールが世界を去った際に関しても記載されている。またトールは忘れているが、トールの力の大半と、過去にトールが降臨した際に置いていった神器の力が失われなければ、多少世界の均衡が傾こうが何も起きない。しかし、その神器の力の源は紛うことなきトールの力しか受け付けない。更に言えば、世界をトールが去っても何千年も蓄えられた力を神器に入っている為、当分は安泰である。勿論、人間の場合はであるが。


「去る前に、ここの権限をデシムに譲渡するという物を作っておかねばな。流石に世界を創ったのに壊すのも癪だし、まぁなんとかなるだろう。これまでデシムに頼ってきたから、頼り癖が抜けないな…。」


 そう言って譲渡資料を創っているがトールはまだ知らない、権限があっても本神(本人)で無ければ作動しない事を。そして神器については、まだ思い出せないトールである。トールにとって神器は外界との通信機器としか認識されていないから、まず思い出すことは先であろう…。

 さらに外界では着々と人間が発展を繰り返している。人間が主神からの話を聞くまで、リミットは後数日…。


         ※※※


 主神が去る準備と資料を作成している頃、デシムと神々の方では…。


「デシム様、報告します。外界を監視していた者より、また人間側の発展が動き出した…との事です!既に他の国では主神を認めない勢力が同盟を結び、主神様の国が攻められるのも時間の問題です。急ぎ、主神様へ伝えなくてはなりません!」

「待て、どういう事だ?以前、降臨した際に助言したが、まだ準備は進んでいない筈では…」

「それが何を勘違いしたのか、主神様を祀っている国は…その…邪教という事になったようでして、既に攻勢に出ています。このままでは、主神様に気づかれてしまいます!…なので、降臨を再び各国にして止めるしか方法がありません。」

「しかし………」

「「「………」」」


「ふん、騒がしいな!貴様等、何をやっておる?」

「これはトール様!…その大規模な戦が起こる兆しが有りまして、デシム様に各国に降臨するよう頼もうとしておりました。」

「………」

「デシム、これから先は長い道のりになる、共に戦場や神殿に向けて降臨するぞ!」

「トール様、流石に主神自らの降臨は…」

「やかましい!デシム、最期くらいは我儘を聞いてくれても良いではないか。」

「…トール様、今、なんと?」

「さてと、行こうではないか。」


 天使や下級の神々が呆然とする中、デシムは嫌な汗を掻きながら問うが、トールにスルーされる。トールは魔法陣を描き、それに続くデシムと天使達。


         ※※※


 そして国同士が睨み合う戦場となる土地の中央にて、眩しい光が確認され、その光から白髭を伸ばした人が出てきた!その側で天使が現れ、戦場にいる兵士が凝視する。また、ある神殿では祭壇の上より同じように光から出てくる。神殿では『主神様が降臨なされた』と騒がれ、各国の神殿でも似た状況であった。


『この世界にいる人間達に宣言する事がある為、儂は告げに来た!私の名は、とうに忘れ去られたかもしれんが、創造を司る…トールである。

 急な事で申し訳ないが、儂…創造神トールは今日この日より、この世界を去ることを宣言する!また、この降臨は各国の神殿でも行っておる。戦争するなら、それは結構!勝手に行い、勝手に滅べば良い!

 この世界から儂は去るが、焦る必要はない。既に他の神に、この世界の管理を譲渡する権限を示す物は創った!そなた等、人間に迷惑を掛けるかもしれないが、儂の臣下である、このデシムを宜しく頼む。これで#今日こんにちより、譲渡する契約書の条件が成された。』

『…な!?(まさか忘れ去られた事を信じ、しかも私に管理の譲渡だと!?…予想以上にトール様を追い込んでしまったようだ。だが「譲渡する契約書の条件」とは、どういうことだ?ま…まさか…)』


「え?おい、今なんて聞こえた?主神様が世界を去るって聞こえたけど…」

「俺も聞いた。ここ数千年…神託が無かったのに、随分いきなりだなぁ。」

「って、話し合ってる場合じゃねぇ!すぐに本国と神殿に確認を…」

「あれ?そういえば、上官は何処へ…」

「どっかに居るんじゃね?「将軍がお倒れになった。至急、この場を撤退するぞ!」」

「「へっ…。」」


 創造神トールからの話により、主神を祀っている国の人間達は混乱に陥る。また神界では思ってもいない創造神の発言に、只々その場で呆然と「世界の終わり」のような顔で崩れていく。

 あまりの内容に…聞いた者達は時が過ぎ去っていく。そして、言った当の本人は名残惜しそうな顔をしながら、その場を去り、ある一室へと向かっていた。その間、臣下や天使達はトールが世界から離れるまで呆然と立ち続けていたことは言うまでもない。

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