第8話

「傍から見ればお似合いのふたりで、どういう風に見ても両思いなのに当人たちだけが気が付かない」

ってこれまじなんだな〜って若葉と穂高を見てて思う。5限、現国の時間。


因みに一応ことわっておくけど私が穂高を好きだった瞬間は1ミリもない。

幼稚舎で私たち4人は出会って引っ込み思案な若葉、わがまま放題でも私たちには一応優しい穂高、穂高馬鹿だなって思って冷めてる私、世話焼きでみんなのお兄ちゃんみたいだった駿。

組み合わせが謎すぎる。

本当に今思えばハッピーセットだよね。

でもどんな巡り合わせか、家業同士の相性も良かったし、それぞれの家も仲が良くて高等部まで続いてる。不思議な縁でしょ?

そんなこと考えてたらあっという間に放課後で4人で帰るから若葉と駿の委員会が終わるのを穂高のクラスで2人で待つことにした。穂高と駿は旧館に教室あるけど同じクラスじゃない。

旧館からの方が駅に校舎が近い。

穂高と前後で座ってケータイいじりながら話してる。あ、穂高と私は仲悪そうに思われるけど意外と普通に会話するんだよ?


「由菜〜。昼休みの話だけどさ…」

「大丈夫。若葉一緒じゃなかった」

すかさず回答。私、良い秘書とかになれるんじゃないのこれ。

「あ〜、焦った…。入っていかなかったとはいえ、由菜に見られてるとは思わないじゃん…」

「ぷっ。穂高は逃走したけど駿はそのまま入ってったよ」

「え!?入ってったの!?」

「うん」

そうなんだよね、駿は普通に入ってった。

私も駿も、若葉や穂高みたいに貞操観念しっかりギチギチって訳ではないからそれなりに経験がある。

お互いの元カノ元カレを知ってる。なんなら今駿彼女いる。これ穂高知ってるか分からないけど。

…。

なんでもやもやするかな、私。

やな感じ。

ぱっと目の前見たら穂高が衝撃を隠せないでいた。

「駿、まじなの!?駿くん!本当なの!?お母さんは許してないわよ!?」

動揺して壊れた穂高見てて思わず笑っちゃった。穂高が驚いてこっち見る。

「なに?」

笑いが治まらない私を見て穂高が言う。

「いや、久々、由菜がそんな笑ってんの見たなって思って。由菜って絶対損してるよな」

「その持ち前の素直さがなんで今若葉に発揮できないんだろうねぇ。でも若葉専用のツンデレなのか」

私がからかうとうるさいわって言われた。


私の家はみんなよりもっと大人の事情を抱えた家業をしてる。何となく絞れるよね。そうそう、大手の芸能プロダクション。

だからかな、いつも大人に囲まれてゲスいこと、汚いこと、それを隠す派手さ。そーゆーのを見てて冷めてる子供になっちゃった。

でもね、穂高のこーゆー馬鹿な素直さとか若葉の純粋さとか、駿の周りを気遣える優しさとかが好きだから今もつるんでいられる。


だからダメだよね。壊したくない。

私と駿は若葉と穂高みたくなれないと思う。

もし付き合ったとして別れたらそこで全ての関係が終わるような気がする。若葉と穂高みたいな強い繋がりは無いと思う。

教室がガラッと開いた。

若葉と駿が入ってくる。


「おまたせ!帰ろ〜」

「うん、帰ろ」

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