人事異動、配属先あの世

 溶けた!

 吸血鬼が!?

 いきなりだった。

 蟹に挟まれた半殺しボロ雑巾が忽然と、両の鋏から溶け落ちてしまった。

『はぁ!?』

 新手の仕業じゃん最悪だね。


「センパぁイこまりますぅ」

『嘘だろおめえ……』


 この甘ったるい神経を逆撫でする猫撫で声は新入社員の小娘じゃねえかよ。

 変身で重くなった躰を動かし振り返ると黒を基調とした和装の女が、扇子で口元を隠しケタケタ嗤っていやがる。

 ビジュアルがキマり過ぎだろ。

 怖いよ。


『おめえいつもの野暮ったいメガネはどうしたんだよ?』

「変装ですよぅ」

『あれか? 鵜河のモンかもしかしてよ?』

「あったまいいですねぇセンパぁイ」


 扇子をパタリと閉じ腰帯に差すと女は、巨大な蟹に物怖じする様子もなくこちらへすたすた歩いてくる。

 それがお前の正体かよ?


『なあ』

「なんですぅ?」

『お前マクロ組めんだろ』

「VBAもできまぁす」


 畜生だまされた!

 このアマパソコン、バリバリ使えんじゃねえか!

 教育しているつもりになっていただけじゃあねかよ……。

 道化だ。

 死にてえ。


『相談なんだがよ今夜はお互い見なかったことにできねえかな?』

「そんなのダメですよぉボスに殺されちゃいますぅ」

『だよなぁでもよ……』


 グダグダ逃げる算段を立ててたら左の鋏が吹っ飛んだ。

『問答無用かよ若いのは元気がいいなぁ』

「ちょっと~センパぁイ、そんなに簡単に部位破壊アーマーブレイクされないでくださいよぉ、みそこなっちゃいますよ?」

『馬鹿野郎! 18の本気は29の本気を軽く超えんだよバカ!』

「そんなぁ本気はまだ出してません~」

 嘘だろおい。

 マジで攻撃が見えなかった。

 切れ味が良すぎて痛みすら感じさせない見えない、斬撃だかなんだかわからん攻撃を喰らわせてくるバケモノが出てきたっての?

 終わったわ。

 人生終了、閉店ガラガラだ。

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