ノー・ディスク・ア・コンピュータ 7
ザクロ機は後ろから見えないように、カタパルトを使わず自機エンジンで発艦し、ソウルジャズ号の前方を航行する。
そうとは知らず、火星連邦管轄から出た途端、
「何が広域宇宙警察だマヌケ。連中はコウガ型なんか持ってねえよ」
見え見えな嘘を
「お手数おかけして申し訳ない。ちょうど指名手配犯の目撃情報と同型艦でね」
「オレが艦長だ。残念だが、この宇宙コルベット艦の元は
ザクロに鼻で笑われ、それで丸め込めると思っていたであろう、船員の困惑したざわつきが音声通信越しにサクロたちへ聞こえた。
「それによぉ。オレぁ広域宇宙警察に知り合いがいるんだが、手前らの艦の番号は今ドッグ入りしてんぞ」
さらにうろたえる部下に対して、艦橋の艦長席に座るギョウブは、ハッタリだ、と言うも、
「信じられねぇんだと。なあ、どうだ長官」
「間違いないけど……。お前久々に連絡してきたと思ったらさぁ」
「スマンスマン」
幼い頃ザクロに助けられた事のある、広域宇宙警察長官の元いじめ被害者の男性・アキラが顔出しで証言したため、嘘を隠せなくなった。
「ならば仕方がない。貴様の艦に乗っているミヤコ・ニシノミヤハラを引き渡せ。さもなくば撃つ」
「言ったな? アキラ。今ので正当防衛成立だよな?」
「まあ、そうだな。今署員向かわせるから墜とされるなよ」
「あいよ。そりゃ大の得意だ。さて、覚悟しろよクソ親父殿」
偽装されていた砲塔がせり上がると同時に、ザクロは強硬手段に出たギョウブへそう言うと、自機を加速させてシャンデルの要領で上昇しながら180度ターンする。
バンジはそれに合わせて、バリアを張り後部機銃を連射しながらソウルジャズ号を全速前進させ、敵艦との距離をとりにいく。
「専守防衛の軍じゃねぇんだ。撃つぞ、ってのはロックオンしながら言うもんだぜ」
敵艦がいざ砲撃開始、というタイミングで、喋っているあたりからチャージしていたメガクラスビーム砲で上砲塔を破壊した。
「なにっ」
「こんな具合にな」
ついでにワンテンポ遅れた対空射撃に、機体を敵艦に対して横に立てると、ビーム砲をチャージしながらおちょくるようにバレルロールしてかわし、今度は曲がり降りながら向きを転換した。
「あの戦闘機を捕獲し、人質にでもした方が良さそうだな。網を打て」
「捕獲網用意!」
威力を半分にした砲撃でメインエンジンを破壊されつつ、艦の下を潜るように通過しようとするザクロ機を待ち伏せするように、敵艦は四隅に小型ロケットがついた網を前方の格納庫から前斜め下方向に放った。
「気付かねぇと思ったか。なめんな」
背景が暗いため非常に見えにくい網だが、小型ロケットの僅かな青い光でザクロは余裕で気が付き、進行方向をやや右斜めにしつつ、機首の機銃で下2つを撃って爆発させた。
「発し――ってうわああああっ」
その勢いで網がひっくり返り、発艦しかけていたイヌガミ号の艦載機を捕獲してしまった。
「回収だ!」
「ちょ、お前! 絡まった状態でやるなっ」
「アーム止めろ!」
「引っかかったぞ馬鹿っ」
「おい! なに隔壁閉めてんだ!」
「攻撃されたらどうすんだよ」
「そりゃそうだが状況を見ろ!」
「あーあ、翼ギロチンだぞ」
ギョウブが安い値段で適当に雇った、乗組員の練度が異様に低く、勝手に自滅して艦載機を出せなくなってしまった。
「おい1番機の燃料漏れてるぞ! 気を付けろ!」
「パイロット救助しないと」
「空気注入するな馬鹿!」
「お前操作盤触るな!」
「まったく、スパークでも引火したら――」
さらに、乗組員の1人が余計な事をしたせいで、格納庫が燃料引火と誘爆により爆発して、隔壁を閉め忘れていたため燃料貯蔵庫も爆発し、勝手に大破してしまった。
「何やってんだアイツら……」
空気と一緒に勢いよく煙を吹き出す敵艦を、その前方の爆沈しても安全な距離から見て、ザクロは歯ごたえも何も無い間抜けな相手にあんぐりしていた。
「あそこまでやる必要あったでござるか?」
「勝手にああなってんだよ。見てただろバーロー」
望遠で見ていたバンジとザクロがドン引きしている内に、実砲弾式の下部砲塔が吹き飛んだ。
「パイロットの方、大丈夫でしょうか……」
「それは大丈夫じゃないかな? 1回目の爆発の前に自力で出てるし」
「あ、本当ですね」
自分の腕を掴んで心配そうに眉尻を下げるヨルに、ミヤコはパイロットがバックパックを噴かしてほうほうの体で逃げている録画映像を見せた。
「おーい乗組員の連中ー。お前らの雇い主差し出したら助けてやるぞー」
続々と救難艇で緊急脱出する乗組員20名へ、ザクロが音声通信で呼びかけると全員全く躊躇せずに同意し、ギョウブと同じ船に乗っている者が取り押さえた。
「お、懸賞金付いたでござるな」
ザクロが救難艇をまとめて
「おや、随分と都合の良いタイミングだね」
「ちょいと取締役に相談をかけたのでござるよ。ギョウブへの資金提供をした証拠書類付きで」
「うん。みんな自分の身がなにより可愛いらしいね」
あっさり裏切られたギョウブが乗る救難艇を、ヨルがアームで掴む様子を眺めながら、ミヤコは心底うんざりした様子で苦笑すらしていなかった。
フライフィッシュⅡを格納したザクロは降機し、船外作業用のワイヤーでぐるぐる巻きにされた、船内外服にヘルメットを被ったギョウブを受け取った。
「そのうちマジモンの広域宇宙警察がくっから、訊かれた事全部答えて司法取引でもしな。そんじゃな」
端末で顔をスキャンして、痩せぎすの男がギョウブ本人であることを確認したザクロは、見逃してくれることに感謝する、彼を引き渡した船員にそう言って見送った。
ややあって。ソウルジャズ号は火星から地球へのゲート内を航行している。
3階層にある、賞金首を留置しておくスペースへ、自分と母親になんにしても愛情はあったか、とミヤコから訊くように頼まれて訊いてきたザクロは、
「どうだった――って、その様子だと訊くまでもなさそうだね」
「その通りだ! 生死を問わねぇ案件ならぶっ殺してやりてぇ
子細を話す必要がない事が丸わかりなほど、顔から何から全力でブチ切れていた。
「一応、どう言ったかはざっくり伝えとくぜ! 〝人類の進歩に貢献できるのに、どうして博士も妻も本体も嫌がるのか分からない。パーツになれるのをむしろ感謝して欲しい〟、だと!」
あまりにも怒りが
「ありがとう」
「良いって事よ! あんな! クソの! 集合体! お前に! 会わせられねえッ!」
「いや、そっちじゃなくて。ボクのために怒ってくれてありがとうって意味さ」
「んなもん当たり
少し頭を傾けて、満面の笑みを浮かべるミヤコへ、サンドバッグを破裂するかというほど全力で殴っていたザクロは、一端手を止めて、キョトンとした様子でそう言った。
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