彼女を殺したのは。
月影いる
唯一の味方へ、お願い。
それは、警察官である僕が初めて違和感を感じた奇妙な事件だった。
被害者は2×歳の女性。自室で首を吊っている状態で発見された。
死因は首を絞められたことによる窒息死。争った痕跡や、何者かが侵入した痕跡は一切見つからなかったため、これは自殺であるとその場にいた誰もが確信していた。
結論を出す直前、彼女の部屋から一冊のノートが見つかった。
日付や天気、感情等がつらつらと書かれている。日記帳のようだ。そこには、
『入社したばかりであまり説明を受けていないのに、急ぎで仕事を任されてしまった。案の定出来なくて、「そんなんだから何も出来ないんだよ。」と言われてしまった。』
『上司に理不尽に当たられている時、誰もが見て見ぬふりをする。どんなことを言われていようと、関係なしに。誰も助けてくれないのだと改めて感じた。』
などと、職場の人間関係に関して長々と書かれていた。
内容を見る限り、自殺説を後押しする重要な証拠となった。
だが、そんな内容の中に、気になるものを見つけた。
『あの子が私の傍にいてくれる。どんなに辛くても、悲しくてもこの感情を一緒に背負ってくれる。あの子だけが、私の味方。』
『また上司にあたられた。まるでサンドバッグだ。どうして涙は枯れないのだろう。まだ、溢れてきてしまう。そうだ。あの子に相談しよう。きっと、あの子なら。』
あの子とは誰なのだろう。文面を見る限り、かなり親しくしていたみたいなので、もしかして彼女に関して重要な情報を知っているかもしれない。僕はあの子のことを知るべく、彼女の日記をもっと読みとくことにした。
読み進めると、ある文章が目に止まった。
『あの子と約束した。最初は悩んでいたようだが、私の気持ちを理解してくれたみたいだ。承諾してくれた。良かった。』
約束……?一体なにを約束したのか、僕は気になった。
『ありがとう。そしてごめんね。でも貴方にしかできないこと。唯一の味方。貴方なら、信じられる。』
『きっと大丈夫。ずっと一緒。私たちは、一人ではないから。だから、終わらせてね。』
これを最後に、文章は途切れていた。
もしかして、彼女は……。
僕は一つの可能性にたどり着いた。
彼女は、二重人格だったのかもしれない。互いに感情を共有し、味方であり続け、共存してきた。職場のストレスなどの辛い経験から突然発症してしまったのかもしれない。唯一の理解者であるもう一人の彼女は、主人格である彼女自身に終わらせることを頼まれたのだ。そして、内なる彼女は彼女自身を殺した。
つまり、彼女は自殺であり他殺でもあったのだ。
単純な事件だったが、少し奇妙と言えるものだった。
僕は、静かに目を閉じると彼女の短き人生を思い、小さく「お疲れ様でした。」と呟くのだった。
彼女を殺したのは。 月影いる @iru-02
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