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けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音に、ハッと目が覚めた。
ぽろりとほおにこぼれた雫を指で拭い、まだはっきりとしない頭で、天井を眺める。
『(あー…、また先輩のゆめ、)』
いつも見るわけではないけれど、たまーに、私の夢に現れる先輩。別れてから何年も経つと言うのに、いまだ鮮明な姿でひょっこりと彼は現れる。どれだけ未練たらたらなのよ、なんて自分でも呆れてしまう。
ふぅと朝から短いため息。
先輩の夢を見た日はいつもそう。
だるさの残る身体を起こして、簡素なベットの上に、1人。閉めそびれたカーテンの隙間から、眩しい光が入ってくる。
幼い頃のユリウス先輩は、もういない。
ギシッと小さく唸るベットから降りて、冷たい水で顔を洗う。ぽたぽたと垂れる雫は、腕をつたい、薄いパジャマの肘の辺りまで流れ込んでくる。
不快感に顔を歪めた、鏡に映った私も同じ。
幼さなんて残していない。もう、とっくに大人になってしまった。
洗濯されたばかりのタオルで顔を拭き、化粧水でたっぷりと保湿をする。
あの頃はしていなかったお化粧をして、それから、あの頃よりも長くなった髪を後ろで束ねる。もしも、私があの頃、もっと大人だったなら。今くらいに、冷静に物事を考えられたなら。
先輩と別れずにすんだのだろうか。
ふと浮かんだ考えに、思わず少し笑ってしまった。あの頃ああしていたら、とか、もっと上手に話せていたら、とか。いくらでもやり直せる部分は見つかるけど、きっとどれだけ上手く、完璧な彼女をこなせていたとしても、私たちを待つ結末は変わらなかっただろう。
壁にかけてあるメイド服に身を包む。
鏡に映る私はメイドそのもの。
ユリウス先輩に恋をしていたあの頃の私は、もういない。
もう8年も経ってしまった。
幼かった私も、そして、いまだ夢に見る先輩も。
8年という長い年月は、私を王宮勤めのメイドに。
そして、ユリウス先輩を、この国の王太子にしてしまった。
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