第23話 お灸をすえたよ
目の前に、紫織がいる。
文句の一つも言ってやろう、勢い込んで彼女の病室に行こうとしたら、ナースステーションの前で、大泣きしながら崩れ込んでいる紫織がいた。
たくさんの、恨みつらみがある。
何せ私と別れた後、私が手間どりながら屋上に上がっている間に、青葉と朔を呼び、自分のお手伝いさんに、赤いリュックとトランポリンを用意させ、私と同じゴスロリ姿でリュックを背負い、屋上まで木村達を誘導し、その間に、お手伝いさん達が木村の病室に入り、さとる君を見つけ、すぐにナースを呼び、拉致監禁の容疑で警察を呼んだのだ。
病室にいる時、紫織が携帯をいじっていたのは、この準備をしていたのだ。
私には、盗聴器付のゴスロリを着せ、もし落された場合用に、パラシュートになるゴスロリにし、下で待機させていた青葉と朔に救出させる。
まぁ、よく考えたものだとは思うの。
紫織を見ると、目を腫らしながら、流れる涙と嗚咽、神妙に顔を伏せている様子など、本当に薄幸の美少女のようで、絵になり駆け寄って抱きしめてあげたくなるんだけど、もう、泣きたいのは私だったんだから。
「紫織、どうしたの?何、泣いてるのよ。」
私が彼女の肩に手を置くと、余計、嗚咽が酷くなる。
なんだか、私が苛めてるみたいじゃない。
大きく息を吐きだすと、
「紫織、あんたが、さとる君を助けたんでしょう。ありがとう、感謝する。で、何で泣いてるのよ。」
泣き腫らした目で、私の後ろを指さす。
後ろを振り向くと、自分達より年上の、高校生くらいの青年が立っていた。
私が振り向いた事で、ゆっくり彼が近寄ってきた。
「お疲れ様、瞳子ちゃん。君のお友達には、お灸をすえたよ。何せ、こんな酷い怪我。さすがに、みんな無事だったとはいえ、危ない事この上ないからね。彼女には、大反省して貰わないと。」
片目を瞑り、ウインクを寄こした。
それがまぁ、カッコイイのなんのって。
日本人が普通にやっても絶対変だと思うの、でも彼がやると、それがとっても様になっていて、きゅん、胸が疼くのだ。
でも、誰かに似ている。
じっと相手の顔を見ていると、彼はクスリと笑い、私の頭を引き寄せハグをしたのだ。
「良かったよ、無事で。間に合わないかと思った。さとる君の手術は、まだ分からないけど、元気になってほしい。無くなっていた児童書も、木村の病室から見つかったよ。木村の不動産屋と、中川の宝石店、後、薬を密売していた、高須組にも警察が入った。大丈夫、これで皆んな捕まるよ。弟が集めた証拠と君の活躍で十分、有罪だ。それから君も、ちゃんと治療してもらうんだ。」
耳元で囁かれた言葉は、こそばゆいけど、嬉しい内容なだけに笑顔が零れる。
そして、ピンときた。
「もしかして、あなたは。」
相手が軽く頷くと、
「弟の名前は、真尋。僕は、兄の一伊。真尋が君からのメールを見て、僕に助けてくれるように頼んできたんだ。彼は今、所用でいないからね。あいつも、木村達の事を怪しんでたから、何とかしたいと思ってたらしい。そしたら、君からあんなメールを貰ったから、凄く驚いてたよ。これで、弟に顔向けができる。真尋と友達になってくれてありがとう、瞳子ちゃん。」
笑顔で言うと、私から離れた。
「これ以上、君に触れると、彼等に怒られそうだ。」
振り向いた先には、朔と青葉が呆然とこちらを見ていた。
「真尋君に伝えて下さい。ありがとうって。私の怪我の事は、言わなくていいですから。」
爽やかに頷いた顔が、真尋君に似ている。
「じゃあね。」
去って行く姿は、颯爽としていて、かっこいい。
「瞳子、あんた、今の誰よ。完璧、王子じゃない。」
いつ来たのか、ママが物凄く興奮して、私の肩を揺さぶっている。
ママ、それ、この姿の私に言う?
普通、大丈夫の一言は、あってもいいと思うんだけど。
「ママ、興奮しないの。もう、傷だらけなんだから、手当してよ。」
「あら、そんなの舐めておけば治るわよ。それより、あんた、一体、何したの?」
ママが一番、凄いかも。
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