第12話 黒崎くんは笑い上戸

 今日は土曜日。

 何だか、朝から、ママがぶつぶつ言っている。

 どうも友近さんが、ママに最近冷たいらしい。何もやってないはずなのに、なんて朝から言っている。

 けど、ママは天然のところもあるから、人の内面にズカズカ入り込む事もある。

 こういう事って、自分では分からないものなんだよね。

 「瞳子、さっさと食べなさい、遅れるわよ。後、帰りに病院によってくれる?昨日、同僚の人が旅行のお土産をくれたんだけど、忘れて帰っちゃたのよ。食べ物だから、あんまり、置いておきたくないの。ママ、今日は、準夜勤だから遅いのよ。三時半頃にはいるから、学校の帰りに寄ってね。」

 「えっと、部活があるんだけど。」

 「一日休んだからって、どうって事ないじゃない。だって、古典の勉強する部活って言ってなかった?」

 そう言われると何も言えない。

 ママにはまだ、文化祭で劇をする事は言っていないし、怖い先輩がいる事も言ってない。

 「分かった。」

 今日のママがご機嫌斜めなのは、見ていて分かるもの。いつもは甘い透哉にも、小言を言っている。

 陽子先輩は怖いけど、今日は休ませてもらおう。

 二階に上がり、学校に行く準備をしていたら、携帯が鳴った。友達のいない自分としては、不審者か、間違い電話かもと先に疑ってしまう事が悲しい。

 知らない番号に恐る恐る出てみると、

 「おはよう、トーコちゃん。今、大丈夫かな。」

 爽やかな声が、耳に心地良く響く。

 だけど、誰?

 無言だったのが、相手にも分かったのか、大きなため息が聞こえた。

 「もう忘れちゃった?黒崎だけど、君、この前メールくれた時、電話番号も送ってくれたでしょう?もしかしたら、メールより電話をかけてほしいのかと、もしかして、僕に・・・。」

 「違います!」

 思わず大きな声が出てしまった。

 電話越しなのに、相手がビクッと反応したのが分かった。

 でも、今の言い方だと、私が催促したみたいだし、誘ったように思うじゃない。

 「私はただ、メールより話した方が早い時もあるのかと思ったんです。アドレスしか交換して無かったから、電話も入れただけです。だいたい、私だって気になってるんです。なにせ、自分が寄贈した蔵書が無くなるんだから。」

 どうして男の子って、男女になると、そういう感情になるのかしら。

 男女の仲にだって、友情は育つはず。

 心の中で拳を、ぎゅっと握っていると、

 「くくっ、あはは。」

 電話越しから、笑い声が聞こえてくる。

 それも、ずっと・・・。

 「黒崎君、笑い過ぎ、前の時もそうだったけど、そんなに可笑しい?」

 「ああ、ごめん。君、やっぱり面白いね。大丈夫、僕も男女の仲には友情があると信じたい。ただ、最近は、なかなかそういう状況にいなかったものだから、ついね。謝るよ。後、今日、時間あるかな?出来れば、会って詳しく聞きたいんだけど。」

 そう言いつつも、まだ声が笑っている気がする。

 「今日は、病院に行く予定なの。ママに用事を頼まれて。だから、その後なら大丈夫だよ。」

 少し強めに言うと、やっと笑いを引っ込めて、うーんと唸る。

 「なら、僕も病院に行くかな。ロビーで会おう。それなら、児童館にも寄れるし。」

 そう言うと、「じゃぁ、また後で。」爽やかな声で、電話が切れた。

 黒崎君、本当にモテるだろうな。

 話し方が大人だし、笑い上戸なのはどうかと思うけど、とっても爽やかなんだもの。

 同い年とは思えない。

 その瞬間、ハタと時計の秒針の音が耳に届く。

 時計に目を向けると、顔が青くなった。

 あああ、なぜ、朝なのですか?

 先程までの、黒崎君のイメージは一掃され、電話番号なんて教えなければ良かった。

 遅刻したら、恨むんだから。

 後悔しつつも、全速力で家を出なければ行けなくなったのだ。

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