第10話 暗号?なの?うーん、私にはさっぱりだ

 その日の夜に、携帯で撮った写真を見ながら、ノートに書き出してみた。

 あの時は、夢中でやっていたので、あまり気にしていなかったけど、なんだか、これに意味があるのかさえよく分からない。

 例えば、一ページ目は、「い」に○。二ページ目に、「な」と「わ」の横に線が引いてあり、そして、数ページ開けて、「い」に○、「か」と「な」の横に線が引いてあったりする。

 それと同じように、数ページ開けて、「や」とか「わ」とか、うーむ、意味が分からん。

 取り敢えず、写真に撮った箇所は、全部ノートに写した。


 い○、な、わ

 い○、か、な

 や、わ

 す○、か、わ

 い○、あ、な


 よく見れば、もっと書いてあったかもしれないが、一度、書き直してから携帯のカメラで撮り、そしてまた、その箇所を消して行く作業は、案外時間が取られ、見逃している所もあるかもしれない。

 何か意味があるのかしら。

 疑問に思えど、この拙い頭では、何も出てこない。

 諦めて、今度は、エレベーターの中で出会った男の人相と特徴を書き出していく。

 ナカガワ宝石株式会社、代表取締役 中川哲夫、年齢は、四十歳くらい。身長は、一七〇センチくらいで、細身で顔立ちは悪くない。高そうなスーツと靴を履き、右腕には、ダイヤのブレスレット、左腕には高級な腕時計をしていた。

 ビジネスバックは黒の革張りで、そこから、大きめの本のようなものが、紙袋に入れて、はみ出していた。

 そう、お見舞いに行くには違和感があったのだ。

 派手な格好と、宝石を身に着けているのも違和感だが、それ以前にもっている雰囲気が嫌な感じというか、桃田君には言わなかったけど、目が値踏みしているみたいで厭らしいのだ。

 でも、黒崎君にはそう思った感情も、きちんと報告しておこうと思う。

 本が無くなっていた事とは関係ないかもしれないけど、もう既に、彼の前では自分の恥ずかしい所を見せているので、何を報告しても恐くない。

 それより、読んで、どんな感想がくるかの方が、ワクワクしてしまう。

 桃田君の妹が言っていた事も書き加える。

 桃田君がイケメンなら、妹の佳奈ちゃんは、もう天使。カワイイのよ。

 パッチリした目、桜色の頬、少し巻き毛気味の柔らかな髪、こんな妹なら、毎日でもお見舞いに来たい。

 桃田君に甘える姿なんか、何でも言うことを聞いてあげたくなっちゃう。

 その佳奈ちゃんが言うには、自分は元気になってからしか、児童館には行ってないから良く分からないけど、長く入院している子がよく児童館を利用していて、本を自分の部屋に持って行ったりしているとの事だ。

 優奈ちゃんや、さとる君って子は、この病院を出たり入ったりしているらしく、その二人を中心に他の子たちが仲良くなっているらしい。

 自分は入院してまだ間もないから、他の子たちとも、それ程、お喋りしてないけど、それでも児童書が無くなっていくのは、みんな気にしていて、でも、優奈ちゃんもさとる君もその事には触れないので、どうなっているのか良くは分からないのだ、と言っていた。

 ただ、自分は一回、さとる君が、絵本をリハビリ棟の方へ持って行くのを見たので、声をかけてみたら、リハビリしている子に本を持って行ってやるんだと言っていたらしい。

 児童館の本は、持ち出し自由だけど、きちんと日付、書籍番号と持ち出した人の名前、病室を記入しなければならない。

 記入ノートを見ていないから何とも言えないけど、その日からその絵本がない気がするとの事だ。

 自分のお気に入りだったのに、と少し悲しそうな目をしていた。

 その事も簡潔にメールに打ち込み、送信ボタンを押した。

 あー、今日はとっても疲れた。

 吹奏楽部の手伝いをして、倉崎君とは久しぶりに会い、知り合った桃田君とは病院に行き、そこでまた黒崎君と会った。

 目まぐるしい一日だった。

 それで、佳奈ちゃんに、「お兄ちゃんとは、どういった関係?」と問われた事を思い出し、「吹奏楽の手伝いで、たまたま知り合って、たまたま病院に用事があったから一緒に来ただけだよ。」「ただの、知り合いだよ。」そう言うと、私をじっと見、お兄さんである桃田君をじっと見て、「お兄ちゃん、大変だね。」と言っていた。

 それに桃田君が、うんうんと頷いていたのは、なぜなんだろう?

 それを聞ける、友達もいない事を思い出して、何だかとっても悲しくなってベッドに寝転んだ。

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