四章 勇者さま御一行

「ネヴィルの知り合い?」


「あぁ、この前ちょっとあってな。お前迷い込んで来たのか?バカは死ななきゃ治らないって本当なんだな」


 ネヴィルがバルトをバカにしながら、話しかけてくる。


 周りにはジースターと呼ばれていた漫画みたいなデカい鎧を着た男、巫女服みたいなのを着ている青黒いロングの女、髪の毛、肌、目、着ている着物まで真っ白な女が立っていた。


 この勇者、ネヴィルって言うのか……それにあの真っ白な女、気味が悪いな……


 バルトは、ずっと自分をニコニコ見つめる真っ白な女を見て何となくそう思った。


 幸いネヴィルはバルト達が指名手配されてる事に気付いてる様子はないので、めんどくさい事になる前に退散しようとする。


「はは……いやー参りました。では俺達はこれで……」


「あら、少し待ってくれまへん?」


 バルトの嫌な勘は当たり、案の定全身真っ白の女が声を掛けてきた。


「おたく、バルトはんやない?指名手配書の似顔絵そっくりやし、周りの御方も瓜二つやわ」


「人違いじゃないかな?僕達はこの国の人間じゃないし。僕達急いでるから行かせてもらうよ」


 即座にクリスが笑顔で嘘をつく。


 今の状況で、勇者への反逆まで疑われては更にややこしい事になる。


 バルト達は少しでも早くこの場を去りたかった。


「おい、ダフネ……それは間違いないのか?」


「わっちの本業は賞金首狩バウンティハンターりでありんす。見間違えるわけありまへんやろ」


 クリスを無視して、ネヴィルがダフネに尋ねた。


「おい、まさかお前みたいな卑怯で、ダサくて、バカで、クズがケルベロスの一員なのか?冗談だよな?」


 ネヴィルは敵意をむき出しにしながら、バルトに質問する。


「あれ?それってネヴィルがパーティー断られた人達がいるパーティーじゃない?」


「うるせぇ!ナナは黙ってろ!俺はそこのバカに聞いてんだよ」


 ネヴィルが巫女服の女に怒鳴った。


 ハンナ達が断ったパーティーってネヴィルのパーティーだったのか……


 ネヴィルの人間性がクズ過ぎて、断る気持ちは分かるがまさか勇者パーティーを断ってるとは思わなかった。


 ここまできたら嘘や言い訳は通用しないだろうからなぁ……


 バルトは覚悟を決め、わざとらしく応えた。


「俺、一言も冗談なんて言ってませんけど?」


「開き直るとは良い度胸だ。しかもあの糞ガキの店とも、グルだったらしいな。お前の腰の剣は本来俺のだ。死人にはもったいねぇから早くよこせ」


 ネヴィルはバルトがフランからもらった剣を指差し、意地の悪い笑顔を見せた。


「死ね」


 ネヴィルが剣を抜き、バルト目掛けて飛び込む。


 しかしバルトに斬りかかった瞬間見えない壁に弾かれたように、後ろへ仰け反った。


「ちっ!物理防御の結界が張ってあるのか……ナナ相殺しろ!」


 ネヴィルは一度パーティーのもとへ戻り、ナナへ指示を出す。


「あいよー、あれ?相殺できないんだけど」


 ナナがハンナの結界を相殺するための解除結界を展開するが、ハンナの結界に変化はなかった。


「はぁ?お前寝ぼけてんのか?どうにかしろよ!」


「知らないよ!だったらネヴィルがやれば?」


 ナナとネヴィルは言い争いを始めた。


「簡単な術式で結界を張るのは素人ですわ。私の術式はそこら辺の冒険者ごときでは解けません」


 ハンナがクスっと笑うとナナは悔しそうに睨み付ける。


「おい、ジースター何とかならないのか!」


「何か眠い……動けない……」


 ジースターは座り込んでウトウトしている。


「お前こんな時にふざけてんのか!早く立てよ!」


 ネヴィルがジースターを蹴るとそのまま倒れて寝てしまった。


「効果魔法は防具の上からかけてしまうと、効果はかなり薄くなるのよ。魔法無効をかけたみたいだけど、彼だけ殆どかかってなかったわ。パーティーメンバーに素人がいるの?」


 リリィはわざとらしく眉をひそめてネヴィルに聞く。


「ふざけんな!ナナ、お前の担当だろうが!俺に殺されたいのか!?」


「うるさい!こんなレベル高いなんて聞いてないもん!ネヴィルこそ何もしてないじゃん!」


 ネヴィルのパーティーは、一瞬で仲間割れを始め、もはや連携どころかパーティーとして機能していなかった。


 これなら何とか乗り切れそうだな……


 バルトは少しほっとして、周囲を確認する。


 あれ、ダフネとかいう女はどこだ?


「ネヴィルはん、そんなに慌てへんでも大丈夫です」


 バルトが自分の真後ろから、ダフネの声が聞こえ急いで振り向く。


「そこそこ男前なのに残念やわ。ほな、さいなら」


 ダフネは鋭い針のような刀をバルトの胸に突き刺した。


「バルトさん!」


 ハンナが慌ててバルトにヒールをかけようと近付こうとする。


「落ち着け、ハンナ」


 ハンナは驚き横を見ると、バルトが立っていた。


「なんや、幻影使いやったん?どうりで感触がないと思いましたわ」


 ダフネがバルトの幻影から剣を抜くと、揺れながら消えていった。


「バルトさん、一体どうやって……」


「ただの蜃気楼の応用だよ。それより、何で結界が破られたか分かるか?」


「それが、破られてはないんです。何故か彼女の攻撃だけ通ってしまって……」


「破られてない!?」


 バルトは予想外の答えに一気に混乱する。


「ダフネ!そのハンナとかいう女を殺せ!そいつが死ねば結界は消えるからな」


「ネヴィルはん、いちいち下品に命令するんはやめてや?」


 そう言ってダフネがネヴィルを睨み付けた。


「ほな、本業の方始めさせてもらいます」


 ダフネはハンナに向かって一気に距離を詰め、心臓に狙いを定める。


 バルトは急いで剣を抜こうとするが、ダフネの早さに追い付けずハンナの前に飛び出そうとした。


「バルト君早まりすぎ。近接が出来るのはバルト君だけじゃないよ」


 クリスは横から素早くダフネに斬りかかり、真っ黒な剣でダフネの肩を切り裂く。


「あら?あんさんは召喚士じゃありまへんでした?」


 ダフネは一度距離をとり、肩を押さえながら標的ターゲットをクリスに変えた。


「そうだよ?召喚士は基本的に本体が狙われるからね、近接戦闘は召喚士の基本なんだ」


 クリスは黒い剣を回しながら床に刺した。

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