二章 魔物

 受付を無事に終え、バルト達は指定された地区に向かう。


 依頼の場所は、街から3キロ位の場所で魔物や魔獣もそこそこ出る所だった。


 ちなみにこの世界で、魔物と魔獣は全くの別物だ。


 魔物は魔王が魔力を元に作った生物で、魔獣はいわゆるドラゴンや、ゴブリンなど昔から生息する生物である。


 魔物は基本的に人に近い形をしていて、体の色が黒や赤、紫などで角や羽が生えていたりする。


 知能が殆どないかわりに攻撃に特化しているものが多い。


 そして魔法や剣術を使えるものも存在し、能力も高いことから、数を集めて攻められると熟練の冒険者パーティーでも命を落とすことがある。





 魔獣は逆に知能があり、種類によっては人と会話出来るものもいるらしい。


 そして攻撃的な種類もいるが、基本的には人と関わろうとせずに森でひっそりと過ごしている事が多い。


 もちろん何かが原因で襲ってきたりする事もあるが、魔物ほど好戦的ではないからそこまで警戒する存在ではないのだ。


 亜人種の国では上位の魔獣を神格化しんかくかしているところもあるらしく、敵でも味方でもないというのが魔獣の立ち位置と言える。




「それにしても、何で勇者パーティーさんは自分達で討伐しないんですかね?相当お強いと聞いていたのですが……」


 ハンナが歩きながら、不思議そうな顔をしている。


「さぁ?全員金持ちのボンボンみたいだし、めんどくさいことはお金で解決したいんじゃないの?」


 クリスは髪を指でくるくるいじりながら、興味無さそうに答えた。


「むぅ……水着が変な感じ……」


 リリィは途中でみんなの総意で無理矢理買わせられた水着をローブの中に着けていた。


 服(下着レベル)を着ているのが違和感なのか、もじもじしながら歩いている。


 そのままの格好で戦われ、色々見えたら俺の俺が俺じゃなくなってしまう。




 そうこうしてる間に指定された地域まで着き、辺りを見渡した。


 来るまでにゴブリンやウルフ系の魔獣はちょくちょく見かけたが、魔物はいる気配がない。


「なんもないよー。討伐依頼だけど、いないなら仕方なくない?安全は確認出来たし、帰ろー」


「確かにクリスの言うとおり魔物の気配はないわね。私の感知魔法にも何もかからない」


 リリィが辺りを見渡しながら答えた。


「リリィの感知にも反応なしか…何かおかしい気がするような……」


 バルトは明らかにおかしい状況に強い違和感を覚えていた。


 ギルドからの依頼は事前に何かしらの事件や問題が起きて依頼が発生しているはずだ。


 だから、実際に現地に行って何もないなんてことはあるはずがない。


 むしろ勇者関連なのだから何か裏があってもおかしくない位だ。


 どういうことだ……


「バルトさん!危ない!」


 ハンナがとっさに風魔法でバルトを飛ばした。


 バルトは尻餅をつき、自分が立っていた場所を見ると火属性の攻撃魔法で焼け跡が出来ている。


「まじかよ!?みんな!恐らく魔物は、遠距離魔法と感知無効が使える。多分俺たちは今、魔物に囲まれている」


 バルトは立ち上がり辺りを確認する。


 このまま終わるわけはないと思ったけど案の定だった。


 今まで受けたパーティーは想像以上の難易度に全て失敗したのだろう。




「ハンナ!防御魔法をパーティー半径2mに張ってくれ!」


「かしこまりました!風のゆりかごを展開します!」


 風のゆりかごは、名前の通りパーティー全体を風魔法で囲むように強力な防御魔法をかける上級魔法だ。


 攻撃魔法の属性を無視出来るほどの強度で、使える冒険者は少ない。


 バルトはハンナのレベルの高さに少し驚いた。


 嬉しい誤算だ、これで少しは時間が稼げる。


 ハンナの魔法で攻撃を防いでいる間に、急いで周りを見渡す。


 風のゆりかごに当たり、攻撃魔法が無効化されているが、かなりの量が四方から飛んできているのが分かった。


 バラバラに配置されているのか……厄介だな。


 魔法が使える上に、相手の姿は見えない。


 しかも攻撃量から、かなりの数がいるのが分かる。


 恐らく普通にやったら勝ち目はない。





 バルトは急いで状況を整理する。


 ハンナは風魔法専門、治癒、防御系が使えたはず。


 クリスは使い魔の使役、闇魔法と無属性魔法が使える。

 使い魔はビックキャット?とかいうやつらしいが、能力はまだ分からない。


 リリィは水魔法、無属性魔法が使える。

 攻撃は弓で、矢に水をまとわせ目標まで自由に動かせる矢を放つことが出来る。


 さて、どうする……


 バルトは自分の能力も加え、急いで計画を立てる。


 俺は絶対にこんなところで死ぬわけにはいかない。


 例え死ぬにしても、一度はサキュバス店に行ってからだ。


 全てはエロの為に。


 そのためなら俺はどんな困難にも耐えてみせる。


「とりあえず試してみるか……みんな!今からいくつか確認する。時間がないから出来る、出来ないで答えてくれ。まずハンナ!風のゆりかごを強化して周りから中が見えないように出来るか?」


「出来ますわ!」


「よし!クリス、使い魔を適当に森のどこかに召喚出来るか?」


「出来るよ。3体まで同時に召喚出来る」


「上出来だ!リリィ、敵に当てなくて良いから適当に森の中で矢を動かし続けられるか?」


「可能よ。木に刺さったらおしまいだけど」


「大丈夫だ!多分いける。説明は後だ。今から言う順番で動いてくれ」


 バルトはもう一度周りを見てから、指示を出す。


「まずクリスが森にランダムで使い魔を3体放つ、次にリリィが適当で構わないから森へ矢を打ち続けてくれ。そして俺が合図したらハンナ、周りから中が見えないようにして欲しい。いいか?」


 3人がしっかり頷く。


 いきなり指揮をとったから何か言われるかと思ったが意外にすんなり通って安心した。


 それに各自バルトの予想以上に能力が高い。


 もしかして、めちゃくちゃ当たりのパーティーに入ったのかもしれない。


 なら、余計にこんなところでつまずく訳にはいかない。


 なぜならもし優秀なら、依頼もガンガンこなしサキュバス店の夢が近いうちに現実になるからだ。


「よし!作戦開始だ!」


 バルトは気合いを入れて叫んだ。

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