青春の賭博者
@tamiya194
第1話
朝、もやもやした何かがゆっくりと集まってきて、あたしはぼんやりと目をさます。
さっきまで見ていた夢はたちまち遠のいていき、それが憂鬱な夢だった事くらいしか思い出せない。
時計を見ると10時を過ぎている。
今日は1時限目にドイツ語の授業があったな、と思い出す。
もう、間に合わない。
ドイツ語は苦手だ。
英語さえまともにできないのに、ドイツ語なんて無理だ。
なんだかどんよりとした気持ちになって、ますます大学に行きたくなくなる。
なんとなくベッドから抜け出し、テーブルの上に出しっぱなしの食パンにジャムを塗って食べる。
それからお湯を沸かしてインスタントコーヒーをいれて、砂糖をたっぷり入れて飲む。
ラッキーストライクに火をつけ、煙を吸い込む。
ちょっと頭の中がぐるぐるして、気持ちが少しほぐれていくのが分かる。
お金はあと2万円しかない。
家賃を払わなくちゃいけないし、携帯代も必要だ。
例のバイトをしないといけないかもしれない。
それでまた少し落ち込む。
勝負するか、と考える。
3ヶ月くらい前、凱旋で20万円勝った事が頭の中に浮かぶ。
あの時は千円で1万枚でたのだ。
20万円とはいかないまでも、ひょっとすると今日だって10万円くらい勝てるかもしれない、と思う。
どっちみち2万円では家賃も払えない。
行かなくちゃ、と考える。
そう考えるとからだがソワソワしてくる。
どの店に行こう。
やっぱり、ある程度流行ってるところ。
20万円勝てたあそこにしようと、心に決める。
ゴッドはだめ。危険すぎる。
だからといってジャグラーでは大勝できないからAT機。
2万円はあるのだから、最悪でも天井まで行ける台にしなくては。
天井から爆発して勝った事が頭をよぎる。
そう、あの時は差し引き3万円のプラスだった。
あたしは服を着て、パチンコ屋に1時間かけて歩いていく。
平日の昼間なのに、それなりの人がいる。
みんなダメな人たちなんだろうな、と思う。
あたしもダメな人だ。
一発逆転を狙うあたしは、ハマっている台を探す。
できれば前日それなりに回っている台がいい。
天井直前でお金がなくなったら目も当てられない。
天井が1000回程度で、少なくとも前日300回以上まわっている台。
あたしはシマからシマへと探して歩く。
とりあえず一周して、いくつか候補を探し出し、一番可能性のありそうな台に座る。
運良く両隣に座っている人はいない。
財布から1万円札をサンドに投入。
ワンプッシュ千円で50枚のメダルがチャラチャラと出てくる。
メダルを投入しレバーを叩く。
なんの演出もないが、とりあえずBARは狙ってボタンを押す。
千円はあっというまに無くなる。
子役どころかベルもあまり揃わない。
嫌な予感が頭をよぎり、台を移動しようかと思った矢先、弱演出が発生し強チャンス目が揃う。
そうなるとすぐにはやめられない。
当たっていてくれ、と願いながらレバーを叩き、ボタンを押す。
そして、たちまち千円が消える。
その後は弱スイカや弱チェリーを引くも熱い演出はでない。
そうこうしているうちに400回転を越え、泣きたくなってくる。
強チャンス目なんてあの1回だけだ。
ベルの回数も少ない。
でも、これだけ回したら、もうやめられない。
泣きたい気持ちをおさえて、もうそろそろ当たる頃だと、自分に言い聞かせる。
人の気配に横を見ると隣の台におじさんが座る。
昨日、10連以上して終わっている台だ。
高設定の可能性がない訳ではないが、ハマる可能性の方が高いとスルーした。
おじさんは不機嫌そうな顔で回し始めた。
音量は最大なのかものすごくうるさくてイライラする。
あたしの方は遂に一万円がなくなり、最後の一万円札を投入する。
600回転を越えた頃、あたしは天井を覚悟する。
突然、隣から派手な音が流れた。
見なくてもボーナスが当たったと分かる。
千円で当たったのかもしれない。
その台が正解だったのか、とひどく落ち込む。
ボーナスが当たってもATに当選しなければ、せいぜい100枚くらいの出玉だ。
そう簡単に当選しない、きっと外れる、と心の中で思う。
そして、隣からAT当選の派手な音が流れる。
知ってた、と泣きそうな気持ちでつぶやく。
いつもそうだ。
あたしが選ぶ台はクズばかり。
天井にならないと当たらない。
あたしは、泣きそうになりながら、ペチペチをボタンを押す。
その後なんどかチャンス目や強チェリーを引き、派手な演出に発展するがすべて外れ。
高確だろうがなんだろうが全て外れるのに違いない。
多分、あたしにイジワルしているのだ。
ひょっとすると、この店の店長が遠隔操作で絶対に当たらないようにしているのかもしれない。
きっと、そうだ。
何ヶ月か前に万枚出して大勝させたのだからと、しばらくは吸い上げる気なのだ。
あたしは、そんな事を思いながら延々とレバーを叩き、残り千円で天井に到達し当たった。
赤7のボーナスは何の恩恵もなく約100枚のメダルを出して終わった。
やっぱりATには当選しなかった。
例のバイトに電話しないといけないな、とぼんやりと思った。
ヤケクソになっていたあたしは、台を変えず、残り100枚をそのままその台に突っ込む事にした。
レバーを叩く。
リールが動かない。
あれ、レバーを叩くの忘れたのか、と思った瞬間、画面がプツンとブラックアウトした。
頭の中で血が逆流した。
ロングフリーズだ。
やったのだ。
派手な音、画面上で派手な演出が延々と流れ始める。
あたしは初めて見る演出を呆然と見ていた。
勝った。
最低でも2000枚はいく。
万枚も夢じゃない。
回り始めたリールを見ながらそう思った。
まあ、やはりそう上手くはいかなかった。
ロングフリーズの結果は1500枚程度。
まあ、それでも勝ちは勝ち。
あたしは3万円じゃ部屋代にも足りないなと思いながら換金し歩いて部屋に帰った。
おしまい
青春の賭博者 @tamiya194
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