3-2 龍斗の受難②
「……うそつき」
「うそじゃないって。ここが俺の言った目的地だから」
「嘘よ!! 私だって知ってるんだから!! だってここ……ゲームセンターじゃない!」
そう、龍斗が連れてきたのは駅前のゲームセンターだった。
ひと口でゲーセンと言ってもこのビルに丸々入っている大型アミューズメント施設で、ボーリングから簡単なスポーツ競技が出来るフロアまで完備されている。
そして龍斗が連れてきた理由、それは――
「日本の最新技術を用いたVRゲーム機! リアルレーサーVRだ!」
「
もともとは全国の教習所で使う授業教材として開発されていたこのシステム。
それを大手レースゲーム会社が共同開発することで、より本物に近いドライビングを可能にした本格的ゲームだ。
車種も国産から外国車まで豊富で、これらに乗ってレースサーキットのみならず、公道や仮想コースを走れる凄いゲームなのだ。
「これなら事故っても安全だし、レイカ姉さんだって満足すると思うぜ?」
「本当かしら。つまり幻惑魔法とかそういう類なワケでしょう? そんなもので簡単に私を誤魔化せるだなんて思われたくないわね」
なんのプライドだか分からないが、腕組み状態で鋭い目をしながら龍斗を睨む。
玲華の身体でも貴族令嬢らしいオーラが出ているのは流石だが、実際はゲームに対してムキになっているだけだ。
「まぁまぁ、そう言わずに取り敢えずやってみようぜ」とニヤニヤしながらゲーム筐体に硬貨を入れると、レイカに無理矢理ヘッドギアを被せる。
「ちょっと何するのよ!? ……えっ、何で急に街に出たの!? りゅ、龍斗!! 貴方、転移魔法が使えたのね!? すごいじゃないの!!」
「ははは、レイカ姉さんそれは魔法じゃなくてただの映像だよ……ってここで張り合って魔法を使おうとしないで!! ちょっ、やめろって!!」
急に変わった景色を龍斗が使った魔法だと勘違いしたレイカは、負けてなるものかとブツブツと呪文を唱え始めた。
聖女に災厄をもたらす魔女と呼ばれただけあって、魔法に関しては負けず嫌いな性格が顔を出したようだ。とは言っても日本で魔法を使う者なんて居ないので、実際には機械に張り合っているだけなのだが。
「はあぁぁ……やっぱりレイカ姉さんをココに連れて来るのは、早まったのかもしれない……」
「ねぇねぇ!! 龍斗、早くやりましょうよ!! あっ、私が素人だからって手加減しないでよね!?」
「はいはい、分かったよ……。じゃあ俺はこの車で。あとは首都高でレース形式にしてっと……準備はいい、レイカ姉さん?」
「いつでもいいわよ!!」
さっきまでゲームだなんだと馬鹿にしていた癖に、VRの魅力で急にやる気になったレイカ。そんな無邪気な姉の態度に込み上げてくる笑いを堪えつつ、龍斗はスタンバイ完了のボタンを押した。
「さぁ~っ、このダンプカーってやつで全員ぶっ潰すわよ~!!」
「ぶふぉっ!?」
聞き捨てならないセリフが聴こえた方を見てみると、龍斗の視界には10トントラックの窓から片腕を出している姉が映っていた。
確かにこのゲームはありとあらゆる乗り物がある。いったいこのゲーム開発陣は何を考えているのか、選択欄には一輪車から人力車、果てには動物なんてものまであった。
だがまさか車の運転をしたいと駄々を
開始を知らせるスタートランプは既に点滅し始めている。今更乗り物の変更なんて出来ない。
「なんでだよっ!!!! 車の運転したいって言ってたじゃん!! アンタはその大型車で何をするつもりだよ!!」
「……映画進出?」
「なんでスタントをする前提なんだよ!! 俺は平和にドライブしたいんだと思ってたよ!!」
そんなことを言っている内にレースは始まってしまう。
CPUのレースカーや普通車が並ぶ中、一台だけ浮いているトラック。
開始直後こそ加速の問題で出遅れていたレイカだったが、アクセルベタ踏みでどんどんと追いついてくる。
さらにはレイカのトラックはライバルの車に詰め寄ると、避けるどころか次々と衝突させて轢き壊していく。
さすが重量級というべきか、どの車も少しかすっただけで吹っ飛ぶかペシャンコにされてゲームオーバーになってしまった。
もちろん加速が悪いので捕まらなければ大丈夫なのだが、
龍斗も必死で逃げ回るが、そこは何でもすぐにこなしてしまうレイカ。あっという間に運転に慣れたのか、爆速で追い掛けてくる。
「やめてくれレイカ姉さん!! これってそういうゲームじゃねぇから!!」
「アハハハハハ!!!! 雑兵を踏みつぶし、高速で突っ走るのがこんなに気持ちのいいことだったなんて!! うひひひひ!!」
「駄目だ、完全にトリップしてやがる!! ちきしょう!!」
遂に龍斗は連続カーブでレイカのトラックに捕捉されてしまった。
咄嗟の判断で衝突の寸前にハンドルを切り、ギリギリ衝突自体は避けられたが……ハンドルををとられ、残念ながらコースアウトしてしまう。
そして気付けば他のドライバーも全滅しており、最終的には独走状態のレイカが悠々とゴールした。
「はーはっはっは!! 雑魚が私の前を走るなど、恐れ多いわ! 全て蹴散らしてやっ、アイタッ!?」
「なにが蹴散らしてやっただ。誰が雑魚だ!! 見ろよ、この惨状! どの車も全損状態!! まったく、何の練習にもなってないじゃないか!」
未だヘッドギアをしたまま勝利のウイニングランをしていたレイカの頭を、既に現実に戻っていた龍斗が後ろからペシンと叩く。
「ひ、酷いわ……せっかくの勝利の美酒を味わっていたのに……」
「だから何しに来たんだっつーの! 魔王みたいなプレイングをするな! アンタはゲーセンで世界を征服にでも来たのか!?」
「できるのっ!?」
「出来んわ!!」
まさかこのゲームでここまで疲れさせられるとは思わなかった龍斗。
来たばっかりでもう帰ろうとするが、「トラックは選ばないで真面目にやるからもう一回だけ」とレイカにせがまれてしまった。
涙目でお願いだからと懇願され、簡単に陥落してしまった龍斗は仕方なく付き合い続けることに。
結局この後、レイカは車ではなく馬で参戦してきた。
確かにトラックではないし、クラッシュもさせては来ないだろう……そう思ってスタートしたのだが……
「なんで馬にも勝てないんだよ……なんで馬が飛んできて車を破壊していくんだよ……」
「そりゃあ騎乗兵はどんな相手でも突撃する勇猛さを持っておりますもの。当然ですわ!」
――と喜々として答えていた。
なおこの後ブチ切れた龍斗に散々叱られ、ようやくレイカは反省した。
絶対に真面目にやるから、と言うので最後のチャンスに再プレイさせてみると……
「なんで最初っからソレが出来ないんだよ……」
彼女は全く問題なくスイスイと操縦できていた。さっきまでの暴走運転は、いったい何だったのか……。
お手本のようなスムーズな縦列駐車をやってのけるレイカを見て、思わず深い溜め息を吐いてしまう龍斗なのであった。
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