1-2 レイカと玲華の邂逅、そして宣誓。

「ここは……?」



 レイカが目を覚ますと、そこは教会ではない未知の空間だった。


 最初はこれが死後の世界なのかとも思ったが――辺りを見回してみると、机や衣類などといったものが置いてあり、何となく生活感がある。どうやらここは、誰かの部屋のようだ。



「うーん、怪我はしていないみたい? 身体はちゃんと問題なく動くわね。魔力の流れは……あれ? こっちは動かせないわね。魔力を感じることは出来るのに、なぜかしら……うっ、頭がズキズキする」



 身体のだるさと頭痛はあるものの、どうやら命までは無事だったようだ。


 ――ならここは何処なのか?

 あの聖女は世界から追放すると言っていたが、その言葉の意味が今のレイカには分からない。



 原因不明の痛みに襲われている頭を片手で押さえながら、レイカは何か手掛かりがないか辺りを探してみることにした。



 フローリングの床にはベッドのようなものやソファーなどがあるようだが、他には見たことも無いアイテムがそこら中に転がっている。


 それらを一つ一つ興味深く調べていると、部屋の隅に大きく立派な――少なくとも王城ですら見たこともないほどの――姿鏡すがたかがみが目に入った。そしてその中に、自分レイカの姿が映っていた。


当然、いつもの自分自身が映っているものだと信じて覗いてみたのだが……



「ちょっ……だ、誰なのよこれ!? これが私……なの!?」


 鏡の中に居たのは、ドレスをまとった公爵令嬢のレイカ――ではなかった。


 髪は乱れ、化粧もメチャクチャで頬は痩せこけ、目の下にはくまも出来てしまっている。それはもう、不健康という不健康が売れ残りのクッキー詰合せかというほどに顔面に集まっていたのである。



「な、なんで……? どう、しちゃったのよ私……!!」


 あまりのショックで頭痛は一層激しくなってくるし、挙句には耳鳴りまでしてくる始末。


 我慢が出来ないほどの痛みにフッと意識を失いそうになった瞬間、誰かの記憶が大量にレイカの脳へと流れ込んできた。



「――うぐっ! これ、は……!?」



 それは――レイカの知らない、日南ひなみ 玲華れいかという女性の記憶。



 裕福だった少女時代。だが父親の会社が倒産し、家族が崩壊。


 バイト詰めだった学生時代。苦労と挫折を味わいつつも、どうにか入ることが出来た会社。


 そこで上司のパワハラやセクハラを受けながらも歯を食いしばって休み無く働き続け、次第に身体を壊してしまい、遂には――



「……そう。この子はこの部屋で、独りで」



 社会では誰も助けてくれない。努力なんて認めてもくれない。そんな孤独に絶望し、彼女は苦しみの中で息を引き取ろうとしていた。


 意識も途絶えそうになる間際のまどろみの中、聖女によって魂を飛ばされてきたレイカと玲華は出逢った。


 お互いがお互い、己の人生に未練は無かった。だから、玲華はレイカに身体を譲ることにした。苦しかった記憶と共に。



「――分かったわ。貴女の苦しみ、過去も全部ひっくるめて私が貰ってあげる。……その代わり、私は私の新しい人生を楽しませてもらうわよ?」



 要らないというのなら、この新しい身体で新しい世界を思う存分満喫してやる。そして私をはばむやつなんて、全部ぶち壊してやるんだから!



「見てなさいよ、玲華。この私に日本の常識なんて通じないってところをね! あーはっはっはっは!!」




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