第3章 物語を書いていく
1、物語執筆の制約を確認する
どのように物語を作っていくか。自分で意識するために、一作を書き上げてみました。
『堅香子の花』
https://kakuyomu.jp/works/16816452219924921506
この章は、『堅香子の花』を執筆していくさいの手順と、私が気を付けたことを追って書いていきます。
テーマが定められている賞への応募作を執筆する場合、参考になる点があるかもしれません。
今回、執筆の制約は、以下4点。
①テーマ:日本古代史
②想定読者:一般小説と日本史に親しみのある高校生以上
③分量:短編
④制作期間:5日程度
このうち、外的制約は①のみ。このテーマ設定は、自主企画「ようこそ日本古代史の沼 ―第二弾―」に参加するためのものです。
②〜④は、あまり制作時間を取れないことから定めました。
私の普段の想定読者は、一般小説になれた中学生以上ですが、歴史物/時代物を中学生にもわかりやすいように丁寧に書くことは、資料調査量や説明文量が多大となるために断念。
読者の既存知識に期待ができる「一般小説&日本史に親しみのある高校生以上」としました。
同時に、自分はさほど古代史に詳しくなかったことを思い出したので、ジャンルは時代物(奈良時代:古代史の中ではまだ得意な方)としました。
2、物語の輪郭を定める
①物語のテーマを決める
日本古代史→時代物(奈良時代)とのテーマは、作品分類上のものです。
ここでのテーマは、作品を通しての色/特色/アピールポイントなどです。
さて、何にしようかなと考えまして。
私は万葉歌が好きで、自分でも万葉調の和歌をいくつか詠んでいたので、そのうちのひとつ、
「足引きの 山の下草 踏み分けて 我が
これを、物語のキーとなる歌にしようと定めました。
他の物語であれば、キーとなる台詞や、クライマックスシーンを定めることもあります。
②物語の日時、場所を決める
私は現実世界を舞台とするなら、実際に行ったことのある土地を優先して選びます。
土地特有の空気感や地形を意識して、作品を書きたいためです。
もっとも、国内の地形図や防災マップはネット上からでも手に入るため、資料集めの観点からはどこでも良い=行ったことのある場所の方が想像しやすい とのことなのですが。
以前、戦前の軽井沢を舞台に物語を書いたときは、地形図、観光地図、ネット上にある観光サイト、観光客の訪問ブログ、古写真などを参考にして、土地の様子を想像したものです。
舞台地の高低、周囲の地形を把握しておくと、土地利用の予測が付いたり、日の出や日の入りの情景がより詳細に想像できるようになります。
読者にとって親しみのある地名が出てきたのに、あー、この著者はこの土地のこと知らないんだなぁと思わせては興醒めです。
(あと、月齢と対応した月の出時間や、時間ごとの高度なども、少し興味のある人なら把握しているものなので、気を付けたいポイントです)
このようなディティールが、作中世界のリアリティーを支えていることでしょう。
漠然と奈良時代後期を思い描いていたことと、政変のゴタゴタが落ち着いていて欲しかったことから、光仁朝(770年代)を選択。
「花盛りなり」と歌わせるために、季節は春。場所は、(ほぼ選択肢のないが故に)大和になりました。
③登場人物の社会的属性
年齢、性別、仕事、社会階級などです。
性格や容姿は、ここでは決めません。
とりあえず、テーマの和歌が人を誘うものなので、これを相聞歌と見做し、登場人物を若い男女としました。
④登場人物のタスク
⑤登場人物の社会的属性&内面的特徴の追加
③で決めた人物間で行われる、主なやり取り(行為、心理的変化)を決めます。
この主なやり取りが「ストーリーイベント」とでも言い換えられる「タスク」です。
浦島太郎なら、いじめられる亀を助ける、亀の誘いを受けて竜宮城へ行く、乙姫から歓待を受ける……などです。
タスクを考えることと並行して、タスクを起こすために必要な、登場人物の生い立ちや社会的属性、また新たな登場人物(脇役)を設定に加えていきます。
また、タスクを経ての心理的/立場的変化をよりドラマチックに描くため、その装置として、生い立ちや性格を考えます。
今作でのタスクは、相聞歌を交わすこととしました。
万葉歌の特徴として、感情を素直に読む点が挙げられます。そのため、歌を決める→その歌に相応しい内面性 の手順で決めていきました。
他の作品でなら、タスク台詞を決める→その台詞を言わしめるような性格や生い立ち の設定となるはずです。
今回のタスク和歌は、この3つ。
【男】君が名を 俄には問はず 花をだに 指して告げてよ 何をか好まん
【女】足引の 山の下草 踏み分けて 我が
【男】
歌の雰囲気から、男はプレイボーイではなく、真面目で恋愛慣れしていない性格に。
女は、都住まいの男が徒歩でも通えるように、出自を近隣の山里とし、教養を備えるべく、豪族の娘としました。また、自ら誘いかける積極性を持たせました。
◎まとめ「物語の輪郭を決める」
①物語のキーとなる台詞、シーンなど
②時と場所(詳細に)
③登場人物の社会的属性
④登場人物間にて行われる、核となるやり取り
⑤登場人物の社会的属性&内面的特徴の追加
これを終えると、物語の輪郭が見えてきます。
奈良時代後期、春の大和。相聞歌を通した恋愛譚。真面目な官吏と、大らかな豪族の娘。
あとは、輪郭に沿った内容=ストーリーを整えていくのみです。
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