第35話 島に魔法研究所が出来た日

 夕食を済ませた私たちは、それぞれの時間をゆっくり過ごしていた。

 私はミカのバーに飲みに行きたかったのだが、車両故障のためにバスが早く終わってしまい、犬姉が車をぶっ壊してしまったため、自分で運転する事になる幌屋根パジェロでは行けず、悲しくも私はノートパソコン開いてジジイに定時連絡を送り、暇つぶしに魔法を作っていた。

 ハッキリいって、私にはこれしか特技がなかった。

「今回の失敗は、スコーンとの間で相互干渉を起こしちゃったからなんだよね。二十メートルじゃ甘かったか。せめて、五メートルくらいにしないと、実用的に問題があるよね」

 魔法の名前は、仮称で師匠からパクって、両方ともハイパーオメガブラストにしてあり、ビスコッティのものは、さらに『改』をつけてある。

 スコーンが決めの一発に使う『光の矢』と比較して、約三十倍の破壊力があると試算で出ていて、ビスコッティが使う『絶対零度』と比較して、約七十倍の破壊力がある、オメガブラスト形式に変更した。

「これなら、二人並べばちっこい大陸なら、一瞬で海に沈められるほどの破壊力があるんだけどな……扱いが難しい。まあ、あの二人ならすぐになれると思うけどね」

 私は呟きながら、さらに魔法の構成を詰めていった。

「うーん、これは難しいな。助手が欲しい」

 思わず呟いた私に、リズが抱えていた巨大パイナップルが飛んできた。

「なにが助手だ。一人前の事いってるんじゃない。お前が私の助手だ!!」

 私は受け止めたパイナップルを皮のまま囓り、私は穴ぼこの呪文を唱えた。

 リズが落っこち、ぎゃあトゲに刺さった!!……とか叫ぶ声が聞こえた。

「私の穴ぼこはひと味違うんだな。さて、この穴ぼこの呪文をスコーンとビスコッティにあげよう。喜ぶかも知れない」

 私は走り回っていたスコーンとビスコッティを呼んで、印刷した穴ぼこの呪文をあげた。

「わーい、穴ぼこ!!」

 スコーンが唱えた瞬間、痛そうというより刺さったら死ぬのは確実なトゲトゲだらけの穴が生まれた。

「……違う。イメージと違う」

 スコーンがぽかーんとした。

「私は有効利用しますね。罠が楽になります」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「ねぇ、もっと平和なのないの!?」

 スコーンが叫んだ。

「うん、深くていいなら。いずにしても、落ちたら死んじゃうよ?」

 私は苦笑した。

「ええ、ダメだよ。なんで、そう極端なの!?」

「師匠の教えだよ。半端な魔法を作るな!!」

 私は笑った。

「はい、半端はいけません。ですが、やり過ぎです」

 ビスコッティが笑った。

「あたしもそう思うぞ。バカ弟子!!」

 リズがやってきて笑った。

「だから、これでいいんだって……穴ぼこ」

 スコーンが呟くと、小さな穴が開いた。

「それが出来ないから、私も困ってるんだよ。また、失敗作の逆穴ぼこじゃビスコッティが屋根の上に乗っちゃう」

 私は笑った。

「……あれ、マリーだったんですね。大変だったんですよ。師匠のイタズラだと、今までずっと思っていたのですが」

 ビスコッティが、私の頭にバナナを塗りつけた。

「こら、なにするの!!」

 私は苦笑した。

「はい、手持ちにバナナしかなかったもので……」

 ビスコッティが、変な笑みを浮かべた。

「ダメだよ、女の子は髪の毛大事だよ。ビスコッティ、なにやってるの!!」

 スコーンが私の手を掴んだ。

「お風呂行こう。酷くなる前に!!」

 スコーンが私を立たせて、お風呂に直行した。

 脱衣所に入ると服を脱ぎ、スコーンが私を浴室に放り込んだ。

 一生懸命私の髪の毛を洗ってくれると、そのまま私を湯船に投げ込んだ。

「イテテ……」

 私はコブが出来た額を擦り苦笑した。

「ああ、つい投げ込んじゃった。治さないと!!」

 スコーンが回復魔法を使い、私のコブを治してくれた。

「みんな、なにか私に恨みでもあるのかな」

 私は笑った。

「少なくとも、私は恨みなんてないよ。ビスコッティは、あとで私が怒っておく!!」

 スコーンが慌てて湯船に飛び込んできて、二人で仲良く入浴を楽しむ状態になった。

 しばらくすると、私の頭にカブトムシがとまり、スコーンが目を輝かせた。

「カブトムシがきた!!」

 スコーンが私の頭のカブトムシを捕まえ、空間ポケットに放り込んだ。

「カブトムシ、好きだねぇ」

「うん、もっとデカいのがいい!!」

 スコーンが笑った。

「この島にはたくさんいるよ。私は苦手だから、捕まえようとは思わないけど、その辺の木に蜜を塗りつけておくと、カナブンに混じって集まってくるよ」

「ホント!? あとでビスコッティとやる!!」

 スコーンが笑った。

 こうして、つかの間の入浴時間は過ぎていった。


 お風呂から出ると、特にやる事もないので、私は空間ポケットからとっておきのバーボンを取り出して、ストレートでチビチビやっていった。

「一人酒は寂しいです。私がお供しましょう」

 ビスコッティがやってきて隣に座り、マイグラスを取り出した。

「そうだね、誰かいた方がいいや」

 私は笑って、ビスコッティのグラスにバーボンを注いだ。

「これ、特注なんだ。バーボン臭くないと嫌で、好みでアルコール度も高いから、飲み過ぎ注意ね」

 私は笑った。

「誰にいっているんですか。問題ありません」

 ビスコッティが笑った。

 スモークチーズとスモークタンを肴に、ビスコッティと飲んでいると、リズがやってきてテーブルの向こうに座った。

「弟子の分際で、いっちょ前に飲んでやがる!!」

「いいの、リズの実年齢明かすよ?」

 私は笑った。

 瞬間、リズにの顔色が変わった。

「ダメ、それだけは……」

 ……ちなみに、五十路の五一才。

 その人生の大半を、私の教育に充てているという物好きだった。

「いくつなんですか?」

 ビスコッティが笑った。

「師匠に殺されるから、簡単にはいえないな。女性に年齢聞くなって、なにが飛んでくるやら……」

 ……ちなみに、リズにはオリジナルの『若作りの魔法』というものがあり、お肌の張りとか水の弾き方など、見た目はせいぜい三十代。恐るべき、効き味である。

「それはいいとして、私にも酒を寄越せ!!」

 リズが笑った。

「はいはい……」

 私はキッチンからお猪口を取ってきて、そっと注いだ。

「よし、飲むぞ!!」

 リズが一気にお猪口を煽った瞬間、そのままテーブルに突っ伏して寝てしまった。

「超弱いくせに飲みたがるんだよ。悪酔いしてるから介抱も面倒だし、このままでいいよ」

 私は笑った。

「あら、そうなんですか。もったいない」

 ビスコッティが笑った。

「ダメだよ、ちゃんとしないと……おぶっ!?」

 テーブルに突っ伏したリズに触った瞬間、見た目より破壊力がある右のパンチがスコーンの顔面を捉え、スコーンはそのまま撃沈してしまった。

「ほらね……」

 私は笑った。

「はい、ここまで酷いと手がつけられませんね。とりあえず、師匠を回収してきます」

 ビスコッティは立ち上がると、床に転がったスコーンを抱えてベッドに寝かせ、簡単な回復魔法をかけて戻ってきた。

 まあ、そんなこんなで飲んでいると、時間も大分遅くなり、そろそろ休もうかと思ったところで、いきなり顔色が悪くなったビスコッティがトイレに駆け込んだ。

「あーあ、バーボンって後からくるからな。これ、八十度もあるスペシャル仕様だから、今頃魚雷が命中したか」

 私は笑った。

 トイレから出てきたビスコッティはスッキリ笑顔で、また私の隣に座って飲みはじめた。

「おいおい、アル中になるぞ」

「今さらなにいってるんですか。それに、エルフの肝臓は頑丈なんです。ちょっと、ハイペースだっただけですよ。でも、これ効きますね」

 ビスコッティが笑った。

「よかったら、飲みかけだけどあげるよ。滅多に飲まないから、予備がないんだ。ちなみに、私が考えた味で『マリー』ってそのまま名前つけちゃった」

 私は笑った。

「そうですか。量産が利くなら、私が全部買うのですが」

「量産は出来るけど、ロット単位だよ。そんなにどうするの?」

 私は笑った。

「飲むに決まってるじゃないですか。強烈ですがキレがよく、バーボンの芳醇な香りが漂う……最高じゃないですか」

 ビスコッティが喜んだ。

「じゃあ、発注するよ。在庫がたくさんあるから、すぐに届くと思うよ。この島宛てに、専用機で運ばせる」

 私は衛星電話で連絡して、小さく笑った。

「さて、明日は研究所を案内するよ。ポイントだけ教えてきたから、パステルとラパトが必要だね」

「はい、分かりました。おやすみなさい」

 ビスコッティは笑った。


 スコーンは元気、ビスコッティはおしとやか、リズ公はバカ。犬姉は怖い。

 これさえ把握しておけば大丈夫。

 メモ帳の余白に書いて、私は眠れぬ夜を過ごした。

 要するに、暇だった……。

「鉄道模型のジオラマでも作るかな。スコーンあたりが喜びそうだし」

 この家の押し入れの中には、その手の材料がたっぷり詰まっていた。

 変な場所に作ると邪魔になりそうなので、今まで手をつけなかったのだが、あまりにも暇なので、お酒以外の時間つぶしを探していた。

「おい、暇か?」

 やはり寝られなかったらしく、犬姉が近寄ってきて声を掛けてきた。

「暇だよ」

「じゃあ、空の散歩に連れていってやろう。海兵隊からAH-1Wを借りてあるんだ」

 犬姉のお誘いに乗り、私はベッドから下りた。

「いっておくけど、戦闘ヘリだからね。今は武装していないけど、乗り心地は期待したらダメだよ」

 犬姉が私の手を引っ張って、空港方面に向かうと思いきや、家の真裏にゴツい戦闘ヘリが駐機されていた。

「操縦士は後席なんだ。前席はガンナーだけど、機関砲すらロックが掛けてあるから、なにも出来ないよ。本当にに乗るだけ」

 犬姉がにんまり笑みを浮かべた。

「その方がいいよ。酔ってるし、なにぶっ壊すか分かったもんじゃないから」

「だろうね。ちっこいステップがあるから乗ってインカムつけて。なにも聞こえないから」

 私はヘリの狭い前席に乗り、ベルトを締めてインカムをつけた。

 犬姉は後席に座り、各種点検をしている様子で、インカムで『ちょっと待って』といってきた。

 しばらくしてエンジンが始動すると、風防ガラスが閉じて目の前のパネルに色々表示されはじめた。

『行くよ』

 犬姉の操縦で、ヘリはまだ暗い地点が多く残る、島の上空を飛びはじめた。

『一応、島の上空から出ないでくれっていわれてるから、適当に飛んで帰るよ』

 犬姉の声が聞こえ、私は小さく笑みを浮かべた。

 島の中程を過ぎ、黒い森林地帯に差し掛かったとき、小さなオレンジ色の光りが打ち上がり、コックピットにアラームが鳴り響いた。

 ヘリが急旋回し、夜空に派手なフレアの光りをまき散らすと、アラームが消えた。

『やっぱり、女王になったから刺客が増えたね。私を攻撃するとは、いい度胸だ』

 犬姉が笑った。

 この状況で、いつものノンビリした口調で、犬姉は楽しそうだった。

「なに、今の?」

『スティンガーでしょ。よくある携行型対空ミサイルだよ。下手くそだったみたいだったね。こんな距離から撃ったって、当たるわけないじゃん』

 犬姉はなんだか楽しそうだった。

 まあ、攻撃を受けたのはそれっきりで、私たちが家に戻った時には、もう夜明け近い時間になっていた。

「よし、ここまで」

「ありがとう、楽しかったよ」

 家の裏にヘリを着陸させ、犬姉が笑った。

「よし、海兵隊を使おう。また、潜んでいる工作員の大掃除しないと」

 犬姉が笑った。

「さて、帰ろう。少しは寝られるはずだよ」

 犬姉が私の肩を押した。

「そうだね。寝ないとキツい」

 私は笑った。


 軽く眠って起きると、当番のCAが朝食を作っていた。

 特に頼んで玉子サンドだけは忘れずにしてもらい、リズ以外の朝食は朝から懐石料理だった。

「……なんで、あたしだけ玉子サンドなの?」

「だって、他にいらないでしょ?」

 私は笑った。

「馬鹿野郎、いるに決まってるだろ!!」

「特性コンソメスープもあるよ!!」

 私は笑った。

「しかも、バスケットに山盛り一杯って、なんか恨みでもあるの!?」

「城にいるとき、リズって玉子サンドしか食べなかったじゃん。嫌いなの?」

「違う。他が不味いからそうしただけじゃ。フルコースだって食える」

 リスがガツガツ玉子サンドを食べはじめ、バスケットが空になると回収されて塩結びが山盛りになって登場した。

「リズの好物その二が、塩結びなんだよ。お米から塩まで拘り抜いた逸品だよ!!」

「こら、好物だけ食わせるな!!」

 ……結局、リズは五十個近くあった塩結びを全部食べた。

「はい、次!!」

 さらに、リズの前にはラザニアが大量に置かれた。

 これも好物で、食べさせておけばご機嫌だった。

「……あのね、あたしがどれだけ食べると思ってるの」

「だって、魔力高いじゃん。すぐに、お腹が空くのは当たり前だから!!」

 魔力とは生命エネルギーとほぼ同意。

 高い魔力を持つほど、すぐにお腹が空いてしまうのだ。

 リズは高魔力で知られるエルフすら怒濤の勢いで追い越し、世界最強とさえいわれる高魔力の持ち主だった。

「師匠、朝からすごいの見ました……」

 ビスコッティが唖然とした。

「私だって魔力高いんだよ。でも、ここまでじゃないね」

 スコーンが笑った。

「魔力っていえば、研究所行きたいでしょ。でも、手違いでまだ道がないみたいだし、この家から二十三キロも離れてるんだよ。歩きじゃ無理だから、パステルとラパトに先導してもらって、強引にバスで行こう。手配は終わってるよ。

 私は笑った。

「はい!! 地形はバッチリです」

「なだらかな草地なので、パワーがあるバスならいけますよ」

 パステルとラパトが笑みを浮かべた。

「道がないのに、バスでいくの!?」

 スコーンが声を上げた。

「うん、大丈夫。全輪駆動のバスがあるから。スコーンの研究室はピンクの白水玉で塗られていて、なぜか私のもあるみたいなんだけど、そっちは黒くて黄色の水玉なんだって」

 私は笑った。

「く、黒くて水玉って、ピンクより目立つし警戒色だよ。ダメだよ!!」

 スコーンが慌てて声を上げた。

「うん、スコーンの方はちゃんとやったらしいんだけど、計画外だった私の研究室は余ったペンキを塗りたくったらしいよ。まあ、色なんかより、またここで師匠にしごかれるのかと思うと気が重いよ」

 私は笑った。

「よし、最近は生意気になったから、牙をへし折るどころか、もいでやる!!」

 リズが笑った。

「まあ、もうバスがきてるし、みんなで行こう。研究室が欲しくなったらいってね」

 私は笑った。


 家からバスに乗り、周回ルートの途中から草原に逸れると、派手な黒地に黄色水玉の平屋が見えてきて、隣にピンク白水玉の平屋が建っているのが見えた。

「事前情報だと、それぞれ機能制限を掛けた衛星電話付きのパソコンが五台あるんだけど、他はなにもないらしいよ。まあ、その方が使い出がいいでしょ」

 私は笑みを浮かべた。

「五台もパソコンがあるの。しゅごい。ビスコッティ、しゅごい!!」

 スコーンが目を輝かせた。

「私は使い方知りませんよ。師匠は?」

「えっ、知らないの。私だって分からないよ!!」

 ビスコッティとスコーンが言葉を交わしていると、大揺れしていたバスが研究所に到着した。

「着いたよ!!」

 私はカードキーを全員に配り、まずは自分の研究室に入った。

 白一色の屋内には、確かにデスクトップパソコンが五台もあったが、正直、そんなに要らなかった。

「よし、覚悟は出来たか!!」

 一緒に入ってきたリズに回し蹴りをかまし、私は自分のノートパソコンを開いて机に乗せ、椅子を転がしてきた。

「なにすんの!!」

 リズが私にゲンコツを落とした。

「リズもその辺のパソコン触ったら。使い方は知ってるでしょ」

「そりゃ知ってるけど、あんたみたいにこれで呪文は作れないって。やっぱ、ノートに手書きでしょ!!」

 リズが笑った。

「それで、禁術作っちゃったらどうする。いっぱいあるの知ってるよ。ノートじゃ、落としちゃったらシャレにならないって」

 私は笑った。

「そりゃそうだけど、そんなの落とす方が悪い!!」

 リズが笑った。

「これだから……。まあ、さすがに殺風景だね。リズももう一人や二人は弟子が欲しくない?」

「そうだねぇ、あんたには大体教えたし、免許皆伝を出してもいいんだけど、誰かいい人いる?」

 リズが笑みを浮かべた。

「そうだねぇ、リナとかいいよ。ナーガもセットで教えちゃたら。今のままだと、リナの方が実力が上で、大暴走魔法使いになりかねないから。

「そっか、あんたがそういうなら間違いないね。今はスコーンの研究室を覗きに行ってるから、呼んでくる!!」

 リズが研究室から出ていき、リナとナーガを連れてきた。

「あの、どうしました?」

「はい」

 リナとナーガが不思議そうに声を上げた。

「話は簡単だよ。あたしの弟子にならない? マリーはもう完成しちゃったから!!」

 リズが笑った。

「はい、喜んで」

 リナが笑みを浮かべた。

「私もですか?」

 ナーガが不思議そうな声を上げた。

「うん、二人ともまだ魔法使いとしては半人前以下だから、教え甲斐があるんだよ。異論がなかったら、さっそく教えるよ。教科書や資料なんて要らないから!!」

 リズが二人に講釈を始め、私は助手としてせっせとお手伝いした。

「あの、マリーさんって女王様ですよね。リズさんの方が上のような……」

「城の教育係ってそうなんだよ。偉いとかじゃなくて、常に上にいるものなんだ。なにせ、ガキンチョの頃から世話してもらってるからね」

「知ってるわけないけど、マリーって十二才まで寝ションベンの癖が……」

 私のロケットパンチが、リズの顔面に炸裂した。

「ま、まあ、こういう事全部知ってるから、私も本気で強くはいえないんだよ。やれやれ」

 私は笑った。

「さて、授業をはじめるよ。第一の課題は、『魔法とは、なんなのか』かな!!」

 ……やたら元気なリズ。

 まあ、用があるとき以外は暇なので、私は魔法で観葉植物を出したり、トイレを最新のウォシュレットに変えたり、細々した事をやった。

 しばらくすると、扉がノックされてシルフィがやってきた。

「お邪魔します。魔法の講釈ですか」

 ちょうどリズが熱く語っていたので、シルフィが笑みを浮かべた。

「どうしたの、暇だった?」

「そのようなわけではなく、せっかく研究室があるので神聖魔法について一つお話しをしようかと。スコーンさんの部屋は、大騒ぎでそれどころではなくて……。あちらは、アメリアがなんとかしようと頑張っています」

 シルフィが笑った。

「分かった。リズは忙しいから、私が聞くよ」

「はい、分かりました。神聖魔法というのは、他の魔法とは違って、神の加護を求めて発動させるという点が大きいのです。この時点で、魔法使いの皆さんは嫌がってしまうのですが、大丈夫ですか?」

「まあ、魔法使いは魔法を理屈で開発するからね。あなたは神を信じますか? って感じになっちゃうと、みんな聞く耳もたないよね。私は王族教育で教わってるから大丈夫だよ」

 私は笑った。

「はい、ありがとうございます。私は神官でもありまして、強力なご加護を得る事が出来ます。それで、それを魔法として行使しているのですが、それは本来の姿ではないのです……」

 シルフィが私に説法するように、優しく語りはじめた。

 長い時間掛けて話を終えると、シルフィは一礼した。

「それはともかく、私も護身用に手軽な攻撃魔法を教わりたいのです。可能ですか?」

「うん、私は荒いからリズに聞くといいよ。正しく教えてくれるから。私は教える資格がない」

 思わず苦笑した。

「そうですか、分かりました。あの輪に加わりますね」

 シルフィがリズの説教の輪に加わり、私は笑みを浮かべ、トイレに入った。

 体のとある場所に隠し、肌身離さず持っている赤い衛星電話を手に取ると、私はネットワークにログインして、城のサーバに接続した。

 そこの暗殺予定者リストから、邪教を信奉している可能性ありと記されたシルフィの名を削除してクリアにし、敬虔なる国教の神官として正式にリストアップした。

「これでよし」

 私は体のとある場所(注:とある穴ぼこではない)にしまい、固く鍵を掛けてそっと隠した。

「人体改造は趣味じゃないんだけど、こればかりは大っぴらにみせられないからね」

 私は苦笑した。


 リズの話が熱くなり、夜になっても終わらず、私は広い部屋の中に魔法で小川を作ったり、一人ガーデニングを楽しんでいた。

「うん、自然が豊富でいいね。スコーンの研究室には、邪魔するといけないから、暇があったら行こう」

 私は笑った。

「帰りの時間なんだけどな。ここから家まで距離があるから、CAさんたちが作った夕食が冷めちゃうよ」

「あれ、マリー。もう、そんな時間?」

 ひとしきり講釈を終えたらしいリズが、やばいという顔で聞いてきた。

「もう夜の九時だよ。いい加減帰らないと、お酒も飲めない時間になっちゃうよ」

 私は苦笑した。

「そっか、今日は終りだよ。バスに乗ろう」

 リズが笑みを浮かべ、私に結解を張った。

「なに?」

「よく分からないけど、嫌な予感がするから。バスは一台しかないでしょ。みんなで帰ろう!!」

 リズが笑った。

 私たちがバスに乗ると、スコーンの研究室にいたみんなが先に乗っていて、ビスコッティと犬姉がいきなりぶん殴ってきたが、リズの結解に阻まれてそれだけだった。

「なに、どうしたの?」

「私を甘くみないでね。たまたまオシロスコープを見てたら、強烈な電波を受信したんだよ。なにか隠してるでしょ?」

 犬姉がボソボソいった。

「あれ、バレた。色々あってね」

 私は右腕の付け根に作ったポケットから、赤い衛星電話を取り出してみせ、すぐにしまった。

「内緒中の内緒用。王女時代から、持たされていたんだけどね。女王になったら重要性が増しちゃって。みんなには絶対開けられないようにしてるよ。変な事されると、国が一つ飛ぶ可能性すらあるから。語れない秘密が多いんだけど、これは謝っておくね」

 私は苦笑した。

「そっか、早くいってよ」

 犬姉がバツが悪そうな顔をした。

「……はい、今後は慎みます」

 ビスコッティが、小さな息を吐いた。

「はいはい、帰るよ。こういう時は、楽しく飲むの。女王なんてやるもんじゃないよ!!」

 私は笑ったのだった。

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