第34話 北部地域から島へ

 シャトーでたっぷりお酒をご馳走になり、私たちは馬を引いて村から出てすぐの場所に野営地を作った。

 時刻は早くも夕方。リズの鼻にピーナッツを詰めて遊んでいる犬姉は別として、みんな慣れたもので、あっという間に一式完成した。

「さて、酔い覚まし……」

 私は生暖かいド○ペを飲んで、ノートパソコンを開いた。

「なにかいいナイフないかな……」

 その手の通販リストを見ながら、私は適当に眺めていた。

「この十徳ナイフみたいなのいいな。ワイヤーカッターとか使えそうな気がするけど、買うと怒られそうな気がするから、やめておこう」

 ビスコッティの怒りが怖かったので私は変なナイフはやめ、最新モデルの凶悪でゴツいデザインのナイフを選んで購入した。

「……なんだろ、怒られそうな気がする」

 私は一瞬寒気を憶えたが、気のせいとした。

「明日届くとは、気が早いね。朝便で予約しておこう」

 私はさっさと設定を済ませ、購入画面を閉じた。

「さて、これでよし。これで、見た目だけは強そうになるね」

 私は笑い、専用機をノホークへフェリー輸送する手配をした。

 馬ならここから一時間くらいの場所なので、そう苦労はないはずである。

「あとは……」

 衛星電話で馬屋のクランペットを呼び出し、私たちの馬を町まで戻して欲しいと依頼を出した。

『数が多いですね。仲間を集って回収に行きます』

 クランペットから返ってきた返事はこれだった。

「よし、手配完了。あっ、リナ。ドラグスレイブの改良版を作ったよ!!」

 私は寂しそうにしているリナに声を書けた。

「えっ、どんなの?」

 リナがナーガと一緒にやってきた。

「いつまでも、教科書魔法っていわれて嫌でしょ。確かにそうなんだけど、教科書魔法は安定度重視だから、どうしても威力に劣るんだよね。だから、かなり危険なバランスの崩し方をしてみた。もちろん、普通に使えるけど、ちょっとだけ注意してね。ナーガでも使えるように調整してある。

「えっ、私も?」

 ナーガが驚いたような顔をした。

「だって、一緒じゃなきゃ監視も教えるのも出来ないでしょ。呪文はメモっていいよ。表ルーンだから、危険は少ないし」

 リナとナーガが呪文をメモし、さっそく試射してくると離れていった。

「あとは、マンドラか。滅多に活躍の機会がないから、回復魔法でも憶えてもらうか。アメリアとシルフィは完成していて、もう私がいうことないんだよね」

 私がカタカタノートパソコンのキーボードを叩いていると、スコーンがやってきて指を咥えた。

「ほちぃのもっと凄いのほちぃの。ビスコッティに負けてるの嫌!!」

「もう、これ以上は危ないよ。エルフだけに、元の魔力がスコーンより上なんだよ。ビスコッティの方は、まだ伸びしろがあるんだけど」

「……ほちぃ」

 スコーンがその場に座り込んだ。

「師匠、なにやってるんですか!!」

 ビスコッティがスコーンを捕まえ、顔をビシバシぶっ叩いた。

「なんかねぇ、懲りもしないでもっとハードな攻撃魔法が欲しいらしいんだけど、もう限界なんだよ。ビスコッティは、もっといけるよ」

 私の言葉に、ビスコッティが勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「どんな感じですか?」

「どうだねぇ……山の三つくらいぶっ飛ばしたり、湖を一瞬で蒸発させるような熱量を発したり、このくらいならスコーンにも出来るよ。スコーン、ほちかったら攻撃魔法はやめて、結解魔法がいいよ。師匠仕込みのスペシャルなの教えてあげる。これ、魔力の性質でエルフには使えないんだよ」

 私は例によってノートパソコンで魔法を作り、最終的な呪文を表示させた。

「おっ、結解魔法じゃん。いいことだ!!」

 いつの間にかやってきたリスが、ノートパソコンの画面を見た。

「なに、こんな初歩の結解を教えてるの?」

「だって、慣れてないんだよ。これで、練習しないと……」

 呪文をメモっていたスコーンの手が止まった。

「ダメ、初歩とか中級とかあとで研究するから、ビスコッティに勝てる結解教えて!!」

 スコーンが私の袖口を引っ張った。

「そうはいうけど、結解って難しいんだよ。師匠の説教聞いて、結論が変わらなかったら作るけど」

「あたしに振るな!!」

 リズが笑った。

「まあ、いいや。スコーン、結解には種類があるんだけど、一番メジャーなのはいわゆる防御魔法かな。これなら、ビスコッティも使えると思うんだけど限界があって……」

 スコーンがリズの話を真剣に聞き始めた。

「……ってことで、究極は空間を切断しちゃう空間断裂結解なんだけど、これはリスクがあって、巻き込まれると自分も死んじゃうほど危険なんだよ。バカ弟子には教えてあるし、いくつか開発したみたいなんだけど、スコーンはやめた方がいいよ。責任取れないから。

「……それほちぃ。ビスコッティに勝てる」

「そういう動機ならやめておいた方がいいよ。ドラゴンすら切断しちゃうから、暴走したときに危ないし、元々不安定なんだ。バカ弟子もいくつか作ったみたいだけど、術名はつけてない。未完成なんとかって感じで、絶対に使わないって決めてるみたい」

 リズが笑みを浮かべた。

「まあ、私も多分バカじゃないから、そりゃいくつも作ったんだか作らされたんだよ。でも、これを教えるのは気が引けるな」

 私は苦笑した。

「それでいいから教えて。呪文解析とか自分でやって、許可してくれてから使うから!!」

 スコーンが泣き出した。

「アハハ、いっておくけど、ムカつく事に結解魔法はバカ弟子の方が研究熱心で、あたしでも負けたって思う時があるほどだよ。オススメはしないけどなぁ」

「いいの、それでいいの。ビスコッティに一泡吹かせるの!!」

 スコーンがさらに泣いた。

 涙に弱い私は、リズに頷いてから、ある強烈な結解魔法の呪文をノートパソコンに表示させた。

「未完成108号。私の最高傑作なんだけど、リスクが大きすぎて使えないんだよ。結界内の時間を十五秒だけ止めるんだけど、失敗するとそのまま次元の狭間に吸い込まれて消えちゃうんだ。リズからボロクソにダメだしされた、曰く付きの物件だよ」

「当たり前じゃ、そんなもん認めん!!」

 リズが笑った。

「それ頂戴。研究するから……」

 スコーンが目を擦った。

「呪文は二十四文字。これ以上、短縮は出来ない。即応性がないから、使う場に困る。そんなもんでよければ。ビスコッティには内緒だよ!!」

 私は笑った。

「……あの、いますけど。師匠、ダメです。そんな危険な魔法」

「うるさいなぁ。師匠が弟子に負けるわけにいかないじゃん」

 スコーンは呪文をメモして折りたたみ椅子に座り、魔法書を開いてなにか研究を始めた。

「師匠は弟子の敵じゃないぞ。より強力な魔法を使えればいいってもんじゃないのに、まだ若いねぇ」

 リズが笑った。


 まだ軽いうちにと食事の準備が進む中、私はノートパソコンの画面を閉じ、ゆっくりとした時間を過ごしていた。

 そこに、宅配便の配送車がきて、いきなり私が頼んだゴツいナイフが届いた。

「あれ、明日ってきいたんだけどな」

  梱包を開けると、凄まじく凶悪なデザインをした巨大なナイフが届いた。

「……いいねぇ」

 私がニヤッとすると、ビスコッティがかぼすで私の頭をひっぱたいた。

「なんですかこれは。この変な飾りとか要りません。邪魔なだけですし、刃渡りが長すぎてこれでは短刀です。返品して下さい!!」

 ビスコッティが不機嫌になった。

「……なんで、こういうの惚れるのに」

「ダメです。ビシバシしますよ!!」

 なんてな事をやっていると、のどかにお茶を飲んでいた犬姉がやってきた。

「おっ、また攻めたデザインだねぇ。こういうのも使い方次第なんだよ。威嚇にはいいけど、反撃は食らうかもね。いらないならちょうだい。有効に使うから」

 ……結局、私のゴツいナイフは犬姉に取られてしまった。

「なんで、あんなキワモノを買ってしまったのですか?」

 ビスコッティが苦笑した。

「ナイフ一本じゃ不安だったんだよ。折れたり曲がったりって考えたら、もう一本欲しくなって……」

「ちゃんと手入れしていれば、まずそんな事はありませんが、呼びが欲しかったら同じようにスムースなデザインのものを揃えればいいんです。腰に二本差ししておけば、よほどの事がなければ、困る事はないでしょう」

 ビスコッティが、錆びたナイフを一本くれた。

「使用済みの物です。研ぎ直すつもりで持っていたのですが、それを綺麗に研いで磨いて下さい。愛着が湧きますよ」

「分かった」

 私は笑みを浮かべた。


 夜も更けて、巨大ランタンの明かりに照らされながら、私はビスコッティから借りたお手入れセットで、せっせとナイフを綺麗にしていた。

「使用済みの物ねぇ。なにを刺したのやら」

 私は笑った。

 かなりの時間を掛けて綺麗にした私は、鞘に挿したそのナイフを腰につけた。

「はぁ、もう深夜か。覚悟はしていたけど、お手入れって大変だねぇ」

 しばらく空を見上げ、私はふと思った。

「スコーンにでも、夜這い掛けるか」

 私は笑った。

 夜間はビスコッティがしっかりガードしているのは知っていたし、そこに踏み込んだらビシバシどころでは済まないのは分かっていた。

「明日はノホークだね。また、島か。馬旅したいけど、他国領だった場所はまだ行くなって厳命されてるし、全てがコロン王国みたいに歓迎されるわけじゃないってね」

 新女王としては悲しかったが、こんなことなら王女の方がまだマシだったかもしれない。

 もっとも、私の年齢は四十三才。いい加減、旦那がいてもおかしくなかったが、残念ながらお見合いの話すらこない、悲しい四十路だった。

「あれ、まだ起きていたのですか?」

 テントからビスコッティが出てきて、私の隣に座った。

「まぁね。スコーンは寝ちゃったの?」

「研究中の師匠は寝ません。今もシュラフに潜って、変な笑いとかしてますよ」

 ビスコッティが笑った。

「そりゃ大変だ。あの魔法は、スコーンでも使えるか分からないよ。魔力の限界点近い、強烈なやつだから。教えるの考えたんだけど、泣かれちゃったら断れないしね」

 私は苦笑した。

「あっ、ビスコッティには教えておこう。一時的に魔力を高める魔法。スコーンには必要だよ。安全マージンがないよりマシ。エルフ魔法は苦手なんだけどね」

 私は呪文を記したメモをビスコッティに渡した。

「文法は間違っていませんよ。なるほど、こうきましたか。思いつかなかったです。私がこれを使ったら、ハイパービスコッティになれますね」

 ビスコッティが笑った。

「もう魔力は十分でしょ。スコーンがヤバいんだよね。魔法に対する探究心が強いから、なんでも吸収しようとする。そのうち、自己研究して限界を超えちゃうかもしれない。そうなったら、命取りだよ」

「分かっています。だから、私が誘導しているのです。これでも、頑張っているんですよ」

 ビスコッティが笑った。

「ならいいけど、私の師匠なら蹴りの一発でも入る程、危険な呪文を教えたからね。しっかり見張っておいて。それが、弟子の役割だから」

「分かっていますよ。さて、夜更けです。そろそろ休みましょう。明日は、早いでしょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。


 翌朝、みんな寝坊してしまい、すっかり日が昇ってから大騒ぎになった。

 パステルとラパトが手早く朝食の準備をしながら、私は衛星電話で飛行機の具合を問い合わせた。

 結果、ノホークには到着していて、すでに搭乗準備も出来ているとも事だった。

「みんな、朝食は軽めにしておいて、ノホークに飛行機が回送されているみたいだから、機内食が出ると思うよ」

 私は手早く荷物を片付けながら、みんなに声を掛けた。

「はい、玉子焼き程度です。安心して下さい」

 パステルが笑みを浮かべた。

「ねぇ、マリー。どう考えても、ここが分からないんだけど……」

 我関せずという感じで、スコーンが真っ黒になったノートを見せてきた。

「それが、この魔法の肝だよ。ゆっくり考えて。あと、寝た方がいいよ」

 私は笑った。

「寝られないよ。こんな面白い魔法だもん。ビスコッティが睨んでるから、あまり出来ないけど」

 スコーンが笑った。

「おう、バカ弟子。暇だから、なんか変な魔法開発しろ!!」

 リズが笑った。

「変な魔法ならストックがあるよ。乗って操作できるマッド・ゴーレムとか」

 私は笑った。

「なんじゃそりゃ。ゴーレムじゃねぇ!!」

 リズが笑った。

「格好いいんだけどな。あとは、攻撃魔法を放つ猫とか」

「やめろ、バカ!!」

 リズが私を蹴った。

「あのさ、一応私って女王だぞ。いい加減、蹴るのはやめた方が身のためだよ」

「教育係は無敵だぞ。なにやっても、教育不行き届きで鍛え直せばいい!!」

 リズが笑った。

「あのね……。まあ、リズに文句言える猛者はいないか」

 私は苦笑した。

「おう、いってみろ。黒焦げにしてやる!!」

 リズが笑った。

「今さらなんだけど、リズって結解魔法が専門だよね。なんで、攻撃魔法を?」

「簡単だよ。暇つぶしにファイアボールを作ったら面白くて、ストレス発散に色々開発したぞ。論文も腐る程書いたし、だから称号持ちなんだぞ。バカに見えるだろうけど、やる事やってるんだから!!」

 リズが笑みを浮かべた。

「はいはい、私はオマケの称号持ちですよ。こんなの持ってたって、なんの役にも立たん!!」

 私は笑った。

「そうでもない。映画が無料で鑑賞出来る。それだけ!!」

「それにしては、ハードなんだよね」

 私は笑った。


 朝食のだし巻き卵とサラダ、ライ麦パンを食べた私たちは、ノホークを目指して街道を一気に飛ばした。

 街道の両脇は草原に囲まれ、のどかな景色が広がっていた。

 快調に飛ばしていた私たちだったが、いきなり戦闘のパステルとラパトが馬を止め、無線で魔物の襲来を告げてきた。

 こういう草原地帯に多いが、またもワームで今度は三体だった。

 素早くスコーンとビスコッティが動き、攻撃魔法を浴びせたが全く効いた様子はなかった。

「物理攻撃は禁止だよ。飛び散った消化液で火傷じゃ済まないから!!」

 私は声を飛ばし、リズとコンビを組んだ。

「師匠、あれかませ!!」

「分かってる、このバカ弟子!!」

 リズが呪文を唱え、空間が一瞬ズレた。

 瞬間、一体が真っ二つになって倒れ、私も負けじと空間結解魔法を放った。

 二つ纏めて真っ二つにたたき切り、、マルシルが唱えた火炎魔法で死体が丸焼けになって焦げ臭くなり、戦闘はあっけなく終わった。

「よし、固いワームだったね!!」

 私は笑った。

「スコーン、これが結解魔法の応用だぞ。出来る?」

 リズが笑った。

「……しゅごい。やる」

 スコーンが目を輝かせた。

「師匠、調子に乗って変な魔法を作らないで下さいね」

 ビスコッティが苦笑した。

「よし、みんな。いくよ!!」

 こうして、私たちは再び馬に乗り、ノホークを目指した。


 元々魔物が少ない北部地域なので、ワームの襲来以来、特に戦闘もなくノホークの空港に到着した。

 お馴染みピンクの白玉塗装の7474-400が駐機場に待機していて、先着していたクランペットたちに馬を預け、私たちはまた機上の人となった。

 馬たちが駐機場を出ると、すぐに飛行機はプッシュされ、エンジンが始動した。

「ここからだと六時間は掛かるよ。みんな、ゆっくりしよう」

 機内放送用の受話器を借りてアナウンスして、私は空いているファーストクラスシートに身を預けた。

 こうしてノホークを離陸した私たちは、島に向かって飛行機移動を開始した。

 特に必要とは思わなかったが、普段より飛行距離が長いせいか、今回は空軍機が二機護衛に付いていた。

「さて……」

 私はノートパソコンを開き、スコーンが開発した穴ぼこの魔法の詳細を検討していた。

「うん、これは即興だね。それにしては、妙に精度が高いような……」

 私は真面目に呪文を研究しはじめた。

「私も穴ぼこが使えるようになったんだもん。これは、研究の価値がある」

 しかし、リズ式魔法によると、どうしても深度百メートルを越えてしまう。

 これでは、小回りが利かないので、私はマジになった。

「よう、やってるか?」

 ベルトサインが消えると、暇そうな犬姉が遊びにきた。

「うん、どうしても穴ぼこが……」

「なにそれ、戦闘に使える?」

 犬姉が笑った。

「うん、やり方次第ではいけると思うんだけどな。どうしても、百メートル掘れちゃうんだよ」

「それ使えるよ。落として埋めれば、罠に使える。呪文くれ。ビスコッティに頼む」

「いいけど、こんな深くていいの?」

「いい。その方が使える」

 私は呪紋を書いたメモを、犬姉に手渡した。

「いいものもらった。ビスコッティのところに行ってくる」

 犬姉がゆっくり離れていった。

「……裏ルーン使うか」

 私は全文を裏ルーンに返還し、シミュレータで確認すると千メートルを越えてしまうという試算が出た。

「ダメだ、余計使えない。十メートルくらいでいいんだけどな」

 私は呪文をいじくり倒し、しまいには最古の魔法言語と呼ばれるアルカンタラ言語までぶち込んで試した結果、二センチが出来た。

「これでもダメだな。二センチじゃ躓く程度だ。十メートルでいいんだけどな……」

 さらに色々試した結果、表ルーンと裏ルーンを混ぜて均した結果。二十七メートルが限界だった。

「これ以上は、私じゃダメだ。まあ、及第点としよう」

 ちなみに、呪文は『穴ぼこ』に確定させておいた。

 この感の時間は、約三時間。魔法研究としては、早い方だった。

「おい、バカ師匠!!」

 私が叫ぶと、中ジョッキで私の頭をぶん殴り、リズがやってきた。

「なんじゃい!!」

「新魔法が出来たぞ。穴ぼこの魔法!!」

「アホ、そのくらいあたしだって出来る。なんか、くそ真面目にやってるなって遠目に見てたら、そんなもん開発してたんかい!!」

 もう一発、中ジョッキで私の頭を殴り、リズは自分の席に戻っていった。

「なんだ、凄い魔法なのに。穴ぼこって唱えるだけで、二十七メートルも掘れる上に、底の部分はトゲトゲだらけになるのに。トゲトゲが苦労ポイントだったんだよね」

 私は笑みを浮かべた。

「おう、またなんか出来たのか?」

 どこからともなく犬姉がやってきて、呪文をメモしてどこかに行ってしまった。

「あとは、飛行の魔法だな。なぜか、リズが教えてくれなかったんだよね。まあ、今までは飛びたくても飛べなかっただろうけど……」

 私はざっとC言語でコーディングして、検討してみた。

「……うーん、リズの最高記録マッハ三十六ってホントかな。星から飛びでちゃうよ」

 しかし、リズの破壊的な魔力を元に計算すると、どうやってもその数値になった。

「まあ、いいや。私はどうなるかな……」

 ……時速一センチだった。

「な、なんで!?」

 そんなわけはないと検討した結果、リズモジュールが邪魔だったので取り外し、私のデータをモジュール化して組み込んだ。

「さて……」

 ……秒速二ミリだった。

「さ、さらに遅くなった!?」

 私はこの時点で向いてないと判断して、浮遊の魔法に切り替えた。

 結果、呪文を間違えると、一気に成層圏を突き抜け、熱圏まで突き抜け、完全に宇宙の星になることが判明した。

「……飛べない魔法使いは、ただの魔法使いだ」

 私はちょっと本気で泣いた。

「なに、泣いちゃうほど嫌な事あったの?」

 スコーンがやってきて、私がノートパソコンに表示したままの呪文をみた。

「ダメだよ、これじゃ死んじゃうよ。マリーは飛ばない方がいいよ!!」

 スコーンの言葉に、私はさらに泣いた。

「び、ビスコッティ、マリーを泣かしちゃった!!」

 スコーンが慌てて叫んだ。

「師匠、なにやったんですか……」

 ビスコッティが苦笑しながらやってきた。

「うん、元々泣いていたんだけど、私が飛ばない方がいいっていったら、さらに泣いちゃったんだよ。ビスコッティ、どうしよう……」

「どうもこうも……いいじゃないですか。無理に飛ばなくても。墜ちたら痛いじゃ済まないですし」

「そうなんだけど、飛びたい……。師匠は飛べるのに」

 私は身を縮め、涙を拭いた。

「大変だよ、ビスコッティ。リズを連れてこないと!!」

 スコーンがビスコッティを蹴った。

「そのうち来ますよ。ほら……」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「今度はなんじゃい!!」

「はい、飛びたいらしいのですが、呪文が上手く作れないとかで……」

 やってきたリズに、ビスコッティが笑みを浮かべた。

「あんたにゃ無理。死にたきゃ別だけど、教育係として『お前は飛べない』って、呪縛ぶち込んでおいたから、なにやっても飛べないよ!!」

 リズが笑った。

「……意地悪」

 私は小さく息を吐いた。

「落ち込んじゃったよ。リズ、なんとかしようよ」

 スコーンが困った顔をした。

「こんなの落ち込んでないよ。駄々こねてるだけ。センスがないの、諦めな!!」

「分かってるけど、飛べた方が格好いい……」

 私はリズに向かって、べーっと舌を出した。

「その程度じゃやめた方がいいよ。危ないんだから!!」

 リズは笑って去っていった。

「もう大丈夫そうですね。師匠、行きましょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「うん……なんとかしてあげたいな……」

 頭を掻きながら、スコーンはビスコッティに連れられて、私の席から離れていった。

「まあ、いいっていわれたらいいんだけど、悲しいな」

 私は苦笑して、ノートパソコンの画面を閉じた。

 ここまでで五時間。

 島はまだちょっと遠かった。


 飛行機が海上に出ると空軍機は離れていき、試験導入中で海兵隊に四機しかないF-15Eが、護衛の後を引き継いだ。

「暇なのかな。まあ、女王待遇はしてくれてるんだ」

 私は笑った。

 私はCAを呼んでホットワインを頼み、優雅に過ごしていた。

 一応、私は例外扱いにはなっていたが、強力な電波を発する衛星電話は使用禁止なので、私はまたノートパソコンを開き、スタンドアローンで使用していた。

「スコーンこないかな。ビスコッティに勝てるかもしれない、新魔法が出来ちゃったんだけど。魔力特性を汎用じゃなくて個人に合わせてやったら、もしかしたらビスコッティの体に穴ぼこが空けられるかもしれない」

 私はニヤッとした。

「呼んだ?」

 衝立の角から、スコーンが顔を出した。

「これ、変な魔法作ったよ。スコーンだけが使えて、ビスコッティにしか効かない魔法。使うとビスコッティが寝ちゃうから、あとは起こす魔法を使わないと起きない。メスとか入れ放題だよ」

 私は笑った。

「なにそれ、面白い!!」

  飛行機の各座席には小さなプリンタが搭載されているので、私は呪文を印刷してスコーンに渡した。

「よくここまで魔力解析したねぇ。降りたらビスコッティに試してみよう」

 スコーンが笑った。

「対犬姉用もあるし、私用に対リズ用もあるよ。暇つぶしには、最適な魔法開発だよ」

 私は笑った。

「犬姉はそれでも起きそうだからいいや。ビスコッティは、憶えておいてそんはないかもしれない。うるさい時とか、使えそう」

「あと、お酒が飲めなくなる魔法も作ったよ。飲んでも苦いだけなんだけど、十分しか効かないんだよ。これは要らないね」

 私は笑った。

「うん、意味ないからね」

 スコーンが笑って、変な魔法の呪文だけ持って席に帰っていった。

「さて、あとちょっと。少し寝るかな」

 私はノートパソコンを閉じ、軽く目を閉じた。


 ふと起きた時にはベルトサインが点灯していて、シートのリクライニングを戻すように案内されていた。

 私は指示に従い、着陸に備えた準備を整えると、間もなく飛行機はスコーンの島に着陸した。

 誘導路を通って駐機場に留まると、タラップが横付けされ、私たちは飛行機から降りた。

 そのまま待機していたバスに乗り、家の前で降りて中に入ると、私は自分のベッドを決めて横になり、天井を見つめた。

 時刻は夕方。

 CAたちが夕食を作りはじめたが、まだ時間が掛かりそうだった。

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