第20話 ブーツ

 翌日も天気は雨だった。

 馬にレカロシートを乗せて、私は空を仰いだ。

「はぁ、これから雨期は………」

 私は苦笑して、全ての馬の鞍をレカロシートに取り替えた。

「なにしているんですか?」

 ビスコッティが出てきて、笑みを浮かべた。

「うん、暇だからレカロ導入した。乗り心地はいいと思うよ」

 私は笑った。

 空港方面からジェットの爆音が聞こえ、787が離陸していくのが見えた。

「そういえば、アイリーンとパステルが見えないけど、どこに行ったか分かる?」

「はい、空港方面行きのバスに乗っていきましたよ。マニュアルの読み込みだそうで」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「そっか、空港か。この雨じゃ他に行くところないね。島に戻るか」

 私はアタッシュケースをたまたま通りかかった……郵便馬車の荷台放り込み、大きく伸びをした。

「ビスコッティ、島にいこう!!」

 スコーンが宿の扉を蹴り開け、勢い良くビスコッティに命中した。

「ああ、ぶっ壊しちゃった!?」

 スコーンは慌てて吹っ飛んだ扉を担ぎ上げ、玄関に立てかけた。

「……ビシバシします!!」

 逃げようとしたスコーンを捕まえようとしたビスコッティに、倒れてきた扉がモロに命中した。

「……あれ?」

「あれじゃありません!!」

 倒れた扉をビスコッティが立てかけ、ビスコッティキックが炸裂した。

 ガチッと音がして、扉が元通りに戻った。

「師匠、また島です。この天候では、レカロシートでも滑ります」

「うん、いく!!」

 スコーンが笑みを浮かべた。


 部屋に戻ってみんなの部屋を回り、島に行く旨を伝えると、誰も反対はしなかった。

 リナが私服から制服に着替えはじめ、あとはそのままだった。

「毎度思うんだけど、リナだけズルくない?」

 アメリアが苦笑した。

「あたしはいいの。いいから働け!!」

 リナが笑った。

「こりゃ、用意しないとね」

 私は衛星電話を取りだし、文字情報を送った。

「これでよし。さて、準備するか」

 私は自分部屋に戻り、小型拳銃をポシェットにしまい、腰に剣を突け、ホルスターに拳銃を収め、後は空間ポケットにぶち込んだ。

「あっ、これ」

 私は部屋の片隅に置いてあった巨大な金だらいを背負った。

「ん、なんだか寒気が。島でなにか弄っている予感が……」

「なにそれ、困るよ」

 スコーンがビスコッティを蹴飛ばした。

「よし、準備出来たらいこう」

 私の声に、シャドウラがカエル袋を腰にセットし、部屋の水槽から取り出した二、三匹のトノサマガエルを入れた。

 こうして、私たちは宿の外に出た。

 ちょうどよくバスがきて、私たちは乗り込んだ。

「今回の機長は新任だけど、超絶ベテランだから安心してね。まあ、遊び癖が面白いんだけど」

 私は笑った。

 バスは空港に着き、そのまま駐機場に向かっていった。

 新品のような匂いが漂う機内は、何度見ても快適そうだった。

「さて、タオルで頭を拭いて、他は無理だ。ワックスが弾く!!」

 私は適当な席に座った。

 しばらくすると飛行機がプッシュバックされ、エンジンが始動する音が聞こえた。

 甲高い音が聞こえると、スコーン塗装の737-900ERはゆっくり動きはじめた。 正面のスクリーンには前方の光景が映し出され、滑走路手前で止まった。

 目の前の滑走路をB-2爆撃機が十二機スクラムを組んで離陸していき、しばらくして飛行機は滑走路に入って止まった。

 飛行機がガタガタ揺れ、しばらくすると揺れは収まった。

 飛行機が離陸滑走をはじめ、雨の中をつき進んで空に飛び立った。

「さて、どうなるかねぇ」

 私は足下の金だらいを軽く蹴った。

「あの、隣いいですか?」

 シートベルトサインも消えていないのに、シャドウラがやってきた。

「早く座って、シートベルトを締めて!!」

 慌てた様子でシャドウラが隣に座り、カエル袋からトノサマガエルを取り出して、ニマニマしはじめた。

 飛行機は高度を上げ続け、やがて雲を抜けると、眼下にどこまでも続く雲海が広がった。

「あれ、真北に向かってますよ……」

 パステルが声を挙げた。

「近道なんじゃないの?」

 私は笑った。


 夜雨一時間のフライトを続けた飛行機は、やがて降下を始めて雲をすり抜けると、眼下には、海に浮かぶ大氷原が広がっていた。

「ビスコッティ、島に氷なんてあったっけ?」

「ないです。あれ?」

 ビスコッティが悩みはじめた様子だった。

 飛行機は高度を下げ続け、水平飛行に戻ると、バラバラに浮かぶ氷原の上を旋回しはじめた。

 程なく効果を再開して、氷原目がけて降下をはじめた。

 トンと軽く衝撃があり、飛行機は氷原の上に着陸し、スラストリバーサの轟音を立てながらガタガタ揺れながら止まった。

「……ビスコッティ?」

「……はい、師匠をビシバシします」

 ビスコッティが、スコーンをビシバシひたすら引っぱたいた。

『機長より。いつものアレと言っておこう。私は一時間寝る。好きに遊ぶといい』

 リナが扉を開け、ステップを展開した。

 もの凄い冷気が機内に流れ、夏仕様の私たちを包んだ。

「寒い。研究する!!」

 スコーンが、嫌そうな表情を浮かべたビスコッティを連れ、機外に飛び出していった。 他のみんなも外にでて、私はトノサマガエルをカエル袋にしまった。

 私はシャドウラを連れて、機外に出た。


「ひたすら穴を掘るかな」

「はい、穴を掘りましょう」

 私は呪文を唱えた。

「……穴ぼこ」

 氷原の一画にヘコみを作り、私はドリルでせっせと穴を掘った。

 海面が見えたところで、私は針を付けたワイヤーを穴に投げ込んだ。

 しばらくしてワイヤーを上げると、大量のワカサギが釣れた。

「食用には向かないけど、結構どこにでもいるんだよ。まあ、リリースするか」

「待ってください。ワカサギはトノサマガエルの好物です。確保しておきましょう」

 シャドウラが笑った。

「へぇ、知らなかった。よし、ガンガン釣ろう」

 私が笑うと、スコーンとビスコッティがやってきた。

「なにしてるの?」

「うん、ワカサギ釣り。スコーンもやってみる?」

「うん、釣った魚をスケッチする!!」

 スコーンがスケッチブックを取り出した。

 こうして、大氷原に着陸するという日常は、緩やかに時間が過ぎていった。


 約一時間後、みんなで飛行機に乗ると、爽やかに冷たい空気が流れていた。

 飛行機の扉が閉められ、やっぱり寒い機内でワゴンサービスが始まった。

 エンジンが始動し、氷上で向きを変えて、何事もなかったかのように離陸した。

 かなりの急角度で上昇しながらも、上腕二頭筋を盛り上げたリナが、重そうなワゴンを押して、温かいコンソメスープを配っていった。

 あっという間に雲抜けを終え、再び眼下に雲海が広がった。

「さて、あと四時間か。さすが、猫機長」

 私は笑った。

 その後、飛行機は淡々と飛行を続け、前方のスクリーンには雲海しか映っていなかった。

「あの、亀はいますか?」

「亀ね。あんまり詳しくないんだけど、エチゼンスラッシャーって亀はいるらしいよ。リクガメなんだけど、凶暴らしいからねぇ」

 私は苦笑した。

「また凄い名前ですね。でも、そういう亀は美味しいんです。着いたら探してみましょう」

「あっ、研究熱心なスコーンに聞いてみよう。ちょっといい……」

 私は通路側の席に座っていたシャドウラの前を通り、私はスコーンとビスコッティが仲良く座っている座席に向かった。

「あのさ、エチゼンスラッシャーって知ってる?」

「知らないけど、名前が格好いい!!」

 スコーンが空間ポケットからはみ出た紐のようなものを引っ張りながら、笑った。

「リクガメの一種なんだけど、知らないなら大丈夫」

 私が元に戻ろうとすると、スコーンの空間ポケットから大量のオモチャが飛びでて落ちてきた。

「あんまり、オイタはするなよ!!」

 私は笑って座席に戻り、窓際に移動していたシャドウラの隣に座り、ベルトを締めた。

「……さて、はじまるぞ」

 私は小さくほくそ笑んだ。

 水平飛行を続けた飛行機は、緩やかに上昇をはじめた。

 私は手持ちの無線機でコックピットと連絡を取った。

「……高度六万五千か。狙ったな」

 私はまたほくそ笑んだ。

 やがて飛行機が旋回すると、宇宙の闇が見えた。

「こりゃ、怒られるな」

 私は笑った。

 飛行は快適に進み、スクリーンに表示された黒と青のコントラストを見てると、飛行機がエンジンの金切り音が聞こえ、一気に真っ逆さまに急降下をはじめた。

「のわっ、やるな」

 私は笑った。

 一気に降下して雲抜けを終えると、正面のスクリーンに見慣れた島が見えてきた。

 やがて、スコーンの島が見えてくると、私は笑みを浮かべ隣のシャドウラの肩を叩いた。

「よし、エチゼンスラッシャーを倒すぞ!!」

「はい、私は頑丈なので大丈夫です。スラッシャーということは、『切る』ということですね。私も肌は頑丈です」

 飛行機がタガガタ揺れる中、強風に煽られながら737-900ERは滑走路目指して降下していき、タッチダウンした瞬間にスラストリバーサが全開で作動し、ブレーキのドコドコいう振動が聞こえ、スラストリバーサが停止すると同時に高速誘導路に入った。

 そのままスポットナンバー31に停止すると、地上整備員が慌ててタイダウンをはじめた。

「よし、ついたよ。機長に敬意を払って下りよう」

 スコーンが被っていたベレー帽を取り、私たちは嵐の中飛行機に横付けしたバスに乗り込んだ。

 駐機場にはどこからきたのか、止まれたのか、747-400が泊まっていて、嵐対策でタイダウンしていた。

「あれ、ロイヤルエアラインの747じゃん。やるね」

 私はバスの中で笑った。

「はい、師匠。お土産です」

 ビスコッティが腕輪を取り出して、私の左腕に付けた。

 その間に747-400が駐機場でクルッとUターンし、滑走路に入っていっていった。

「あれ、もう飛んじゃうの。さすが猫!!」

 私は笑った。

 みんながタオルで頭を拭いていると、右側に傾き片輪を浮かせながら747-400が離陸していった。

「な、なんじゃあれ。さすがにやるね」

 私は笑った。

「あっ、忘れ物!!」

 スコーンが飛行機に戻っていき、私が追った。

 スコーンがコックピットに入りコパイ席に座ると、操縦桿にそっと手を当て、小さく笑みを浮かべた。

「よし、いくよ!!」

 スコーンが笑った。


 毎度おなじみ私の家にたどり着くと、みんなは勝手に好きなベットを選びはじめた。

 私はスコーンとビスコッティの間のベッドを選び、スコーンが手に持っていたベレー帽を付けてあげた。

 シャドウラがカエル袋に入れていたトノサマガエルを取りだし、窓際に並べた。

「なにしてるの?」

「魔除けです。奇数ならなんでもいいんですが、今回は三を選びました」

 シャドウラがニコッとした。

「そっか、よく懐いてるね」

 私は笑った。

「今から海にいって、エチゼンスラッシャーを探してきます」

「やめた方がいいよ。いくらドラゴニアでも、さすがに危ないし、パステルが×マークを出してるから」

 私は笑った。

「スコーン、これがエチゼンスラッシャーの写真なんだけど斬れる?

「なにこの甲羅が全部の亀。ウミガメみたいだけど、何回転するの?」

 スコーンが興味深く聞いてきた。

「さすがにいないと思うけど、最大速度秒速七十万回転って記録が残ってるよ。一般的には七万回転かな。だから、斬れるって聞いたんだけど?」

「斬れるわけないよ。むしろ、持って帰って研究したい!!」

 スコーンが笑った。

「ビスコッティはどう?」

「はい、なんですかその異常な回転数。海面が竜巻みたいになりますよ」

「だろうね。だから、いる場所がすぐ分かるから、近づくのは比較的楽なんだけど、スラッシュされちゃうから。ちなみに、陸に上がると寝ちゃうから、捕まえるならビーチが一番。パステル、地図あったっけ?」

 私が問いかけると、パステルが地図を持ってきた。

「ありがと。ここのビーチがオススメなんだけど、分かりにくいんだよね……」

「はい、分かります!! あのスラッシュ野郎ですね。危ないので黒く塗りつぶしてありますが、場所は分かります」

 パステルが笑った。

「それじゃ意味がないですよ。せめて、なんで危ないか書かないと」

 一緒にきたラパトが笑った。

「それはそうだけど……あれ、バケモノだよ」

「バケモノだから書くんです。せめて、コーションマークは付けて下さい」

 ラパトが笑みを浮かべた。

「それもそうか……。もう一度地図をつくります。こんな黒抜きだらけの地図では納得出来ません」

「はい、私もそう思っていました。なんかこう。むず痒くて」

 パステルとラパトが笑って、地図を持って離れていった。

「さて、地図が出来たらスラッシュしにいきますか」

 玄関から外に出ていったパトラとラパトの姿を見送り、大嵐で立て付けがいいはずの窓ガラスがガタガタなり、外では暴風雨がうねりまくっていた。

 私はベッドを移動し、シャドウラの隣のベッドに荷物を広げると、『スラッシャスラッシャー』の銘をもつ短剣を何本も取り出して並べた。

「これ、エチゼンスラッシャー専用の短剣なんだけど、いる人は持っていって」

 ……結局、全員がスラッシュスラッシャーを手に取った。

「なに、みんな興味あるの。まあ、そうだろうね」

 私はスラッシュスラッシャーを手に取り、刃がない短剣を持った。

「これ、エチゼンスラッシャー専用だから。使い終わったら回収するよ。意味ないから」

 私は笑った。

「これを持てば……」

 ビスコッティが、スラッシュスラッシャーを逆手に持って、素振りをはじめた。

「……大義のために」

 スコーンが覚悟を決めた目で、スラッシュスラッシャーを構えた。

「みんな、気合いはいりすぎだよ。この嵐の中じゃ、スラッシュどころじゃないよ」

 私は笑みを浮かべた。

 スラッシュスラッシャーを一本取り、正しいフォームで素早くバリを取る方法をやってみた。

「スコーン、これがスラッシャーの記録だよ」

 私は分厚いファイルをスコーンに手渡した。

「……しゅごい」

 スコーンが目を丸くして、空中に浮かんだウィンドウになにか書きはじめた。

「ビスコッティ、エナジードリンク!!」

「はい、師匠。私も」

 ビスコッティが渡したプルトップを開け、ビスコッティは缶底に穴を空け、プルトップを開けて一気に口に流し込んだ。

 快調になにかを書いていたスコーンの手が止まり、ニヤッと笑みを浮かべた。

「これ、なんにも薬効がないよ。どこを取っても薬にならないね。食べるしかないや」

「そうですか。なにかありそうだったんですけど……」

 ビスコッティが小さな息を吐いた。

「うん、ダメ。ただの変な亀だから、食べるだけ食べよう。味は美味しいって書いてあるから。でも、触るな危険って書いてあるね。そういわれると、触りたくなるんだよね。スラッシャスラッシャーの練習をしよう。ビスコッティ、あれ」

「はい、師匠」

 ビスコッティが、プロテインチョコ味を取り出した。

「なに、プロテインあるの。私にもちょうだい」

 アイリーンがビスコッティから巨大なプロテイン袋を受け取った。

「よしよし、これで動ける」

 アイリーンは、プロテインレモネード味を空間ポケットにしまった。

「あの、それでいいんですか。酷い味でしたが、在庫がそれしかなくて……」

「いいよ、味なんかどうでも。アミノ酸スコアは?」

「はい、八百です」

 ビスコッティがぽそりと呟いた。

「まあ、十分だね。ありがと」

 アイリーンは笑みを浮かべた。

「あの、スラッシャー狩りしてきます。念信でみんなに伝えたら、嵐の方が燃えるとかで。真似しちゃダメですよ」

 シャドウラが笑った。

「大丈夫、かなりの嵐だけど」

「はい、大丈夫です。上空からブレスを吐くだけですから。では」

 シャドウラが玄関から出ていき、私は暴風で扉が閉まらなくなった玄関の扉を閉めに行った。

 全開になった扉を閉めに外に出ると、ヘルメットが飛んできて私の顔面にクリーンヒットして意識が飛んだ。


 意識を取り戻すと、シルフィが玄関先で私の治療をしてくれていた。

「ありがと、とにかく扉を閉めないと、びしょびしょになっちゃう」

 私は気合いを入れ直し、扉を無理やり閉めに外に出ると、扉ごと外れて飛ばされた。

 そのまま飛ばされ、私は近くのビーチまで吹き飛ばされ、そのまま転がって海に突っ込んだ。

 嵐の海からパ○フィック・リムのイェーガのように立ち上がると、金だらいが飛んできて、ボディにぶち当たって飛んでいった。

 私は鼻を鳴らし、そのままビーチに上がり、家まで遠い道のりを歩きはじめた。

「はぁ、なんでこう……」

 私は苦笑して、数十分掛けて家に戻った。

「おーい、無事か?」

 アイリーンが声を掛けてきた。

「基本的にブ……ジ」

 今頃ボディが効いてきて、私は倒れた。

 慌ててナーガとアメリアが私に回復魔法を掛けてくれた。

「うーん、デカい金だらいなんて持ってくるんじゃなかった」

 私はびしょびしょの室内に乾燥の魔法を掛け。玄関扉の代わりにカーテンを外してタッカーで止めた。

「多少はマシか……。あともう少しだと思うよ。これだけの嵐だから、抜けるのは早いはずだし。

 私は笑みを浮かべた。


 しばらくすると、窓の外が明るくなり、雨は止んだが風が一段と強くなった。

 玄関に張ったカーテンを外すと、オレンジ色の繋ぎを着た監督が、自ら扉の修理をしてくれていた。

「うむ、もう少し時間をくれ。蝶番がどうもな……」

「普通に部下に任せたら?」

 私は苦笑した。

 その時、滑走路に737が傾きながらタッチダウンし、スラストリバーサーを全開にして駆けていった。

「またサロメテの長かな。さすが、耳が早い」

 私は苦笑した。

「……またきた」

 ビスコッティがスラッシャスラッシャーを構え、迎撃態勢に入った。

「ビスコッティ、また怒られるよ」

 スコーンが苦笑した。

「よし、今のうちにスラッシャー退治にいこうか。みんな、緊急待避!!」

 私は笑って、家の外にでた。

 出てきたみんなを率いてエチゼンスラッシャーがいるビーチを目指し、全員片手にアダマント製の盾をもち、森の小道を進んでいった。

 ビーチまで小一時間程度かけて到着すると、目を覚ましたエチゼンスラッシャーが猛スピードで回転し、ビーチの砂を巻き上げていた。

「みんな、回ってないヤツ狙って。下りる、頂く、帰るの精神で!!」

 私はさすがに真面目になり、目を閉じているエチゼンスラッシャーの一匹に狙いを定め、エチゼンスラッシャーの頭を突いて仕留めた。

「よし、これは大丈夫。みんな、この調子で!!」

 私は笑みを浮かべた。

「人数分……っていいたいけど、こいつらはボコボコ増える上にあまりに危険で手がつけられず、オマケに漁場を荒らすわ船を粉砕するわで、第一級駆除令が出ている危険物とみなして。だから、無理しない程度に狩ってこう」

 私が声を掛けると、みんな恐る恐るエチゼンスラッシャーにスラッシャスラッシャーの切っ先を使ってブスブス刺し始めた。

 そのうち、アイリーンとビスコッティが収穫高の数を競いはじめ、私は無線機を取った。

「シャドウラ、どうせ仲間がたくさんいるんでしょ。遠慮なく下りて一狩りしよう」

『はい、分かりました。結構な数ですよ』

 すぐさまドラゴニアの人が降りてきて。大勢で次々にビーチに上がってくるスラッシャーを叩きのめし、海上でも戦闘がはじまった。

 私たちも必死こいて倒しまくったが、スラッシャスラッシャーが先に折れた。

「あーあ。もう一本もないし、あれやるか」

 私は高速回転しているスラッシャーを蹴り転がすと、本体がくるくる回り始めた。

 しばらく待つと、目が回ったスラッシャーが回転を止め、ゲロを吐いた。

「よし、撃墜。みんなには教えられないな。失敗すると、足がスラッシュされちゃうから」

 私は苦笑した。

 こうして、膨大な数のスラッシャーを倒したが、またまだ大量にいる様子で、ビーチは壊滅したが、ドラゴニアの人たちは全員海上に出て、バチコーンとスラッシャーをぶん殴って仕留めているようだった。

「こりゃ大変だ。甲羅を剥ぐと美味しい肉が出てくるけど、剥ぐのがまた……固い」

「なに、美味いのか?」

 近くにいたドラゴニアの男性が声を駆けてきた。

「うん、美味しいけど殻が固すぎて大変なんだよ。ドラゴンの力でも剥がれないって有名だから、爆破でもして柔らかくしないと」

「なんだそれは……。爆破か、さすがにこの数の火薬はないな」

「火薬じゃダメだよ。アイリーン、C-4持ってる?」

「ん、あるよ。でも、まさかこの数を?」

 アイリーンが咥えていた煙草を落とした。

「私も空間ポケットに二百四十個持ってるけど、とても足りないね……」

「うん、じゃあ三箱もあれば足りるか」

 アイリーンが空間ポケットから、巨大な箱を取りだし、倒したスラッシャーの甲羅に仕掛けていった。

「よし、いくよ~!!」

 アイリーンが起爆装置のレバーを捻ると、一斉に爆発して凄まじい音が響いた。

「ありがと。よし……甲羅にヒビが入ったか。これで、安全に持ち運べるし、食べられるよ」

 私は笑みを浮かび、衛星電話でア○ゾンにC-4を大量発注した。

「受け取りは私がやっておくから、C-4三十箱頼んでおいた」

 私は笑みを浮かべ、倒したエチゼンスラッシャーを一個ずつ空間ポケットに入れたが、デカすぎて五個入れたところでケツがはみ出た。

「みんな、手伝って。入らない」

 スコーンが二個抱えようとして、そのまま転けた。

「一個ずつだよ。クソ重いから」

 私は苦笑した。

「これ重いよ。ビスコッティ……あっ、そうじゃない。私に寄越すの!!」

 自分で空間ポケットを開き、ケツがはみ出て困っている様子のビスコッティが、思い出したように、スコーンに一個ずつ手渡しはじめた。

 よほど急いだのか、四個積み上げたビスコッティがスコーンの空間ポケットに無理やり詰め込みはじめた。

「はい、私も手伝います」

 空から下りて来たシャドウラが一個抱えて頭から転けて、亀に顔面強打した。

「無理しないでいいよ。私ももう一個……入らないな。ビスコッティもダメ、スコーン、余裕ある?」

「まだ平気だよ。何個持って帰るの?」

「いや、聞いただけ。これ以上持ったら、転けちゃうと思って。シャドウラ、みんなによろしくいって。先に帰るから。念のため、好きなだけ狩っていいよって伝えて」

「はい、分かりました」

 シャドウラが恐らく長と思われる人物に声をかけ、戻ってきた。

「分かった、好きにやらせてもらう。だそうです」

「うん、食べられるだけ獲っていいけど、増えすぎなんて勢いで増えるから、余った分は転がしておいていいよ。それくらい、あらゆる方面から嫌われてるから」

 私は笑った。

「はい、伝えてきます」

 シャドウラが再び長に向かっていった。

 長が声を掛けると、全員がドラゴンに変わり、一部海が沸騰するほどの壮絶ブレス地獄で、亀を茹で上げていった。

「分かった。任せろということでした」

「ありがと。よし、帰ろうか」

 私たちはビーチを後にして、舗装された道路を歩いて家に向かった。


 家に帰ると、私たちは亀を空間ポケットから引っ張りだし、百個以上は数えるのをやめた。

「こりゃ大漁だね。シャドウラ、もう後は任せた」

 私は床に座り込んだ。

「このヘタレ!!」

 アイリーンが私を蹴飛ばした。

「これ、全部食べきれるのかな。スケッチしよう」

 スコーンがスケッチをはじめた。

「全く、世の中には変な亀がいるものですね」

 ビスコッティが苦笑して、ズタボロのスラッシャスラッシャーを空間ポケットにしまった。

「では、料理をはじめます。これだけあれば、なんでも出来ますよ」

 シャドウラが笑った。

「焼きがいい!!」

 スコーンが笑った。

「はい、多分ですが味噌焼きにすると美味しいですよ。あと、暑いですが鍋にしましょうか」

 シャドウラが亀の下処理をはじめ、空っぽになった殻を、どんどん部屋に積み上げていった。

「師匠、一個持って帰りましょう。魔法薬の香りがします」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「一個じゃ足りないよ。十個!!」

 スコーンが空間ポケットに殻を詰めはじめた。

「師匠、詰めすぎです!!」

 ビスコッティが空間ポケットに殻をガンガン詰め込みながら、部屋の殻を一個残して全部片付けた。

「これ、絶対魔法薬に使えますよ。私の勘がそういっています」

「そっか、ならこの一個も持って帰ろう」

 スコーンがはみ出そうになった空間ポケットに無理やり一個ねじ込み、ビスコッティがはみ出たケツを必殺パンチでぶち込んだ。

「イテテ……。ビスコッティ、もっと丁寧にやってよ!!」

 スコーンが笑った。

「痛いわけないじゃないですか。それにしても、嫌な予感がします……」

 ビスコッティが嫌そうな目をしたとき、家の外からジェットエンジンの音が聞こえ、窓から737-500が片輪着陸をするのが見えた」

「おいおい、なにやってるんだか」

 私は苦笑した。

 私が外に出ると、ちょうど駐機場に737-500が入ってきた。

 青く塗られたその機体から、サロメテ国営機と分かった。

「全く……。おう、また会ったな!!」

 ステップを下りてきたアイリーンのお父さんが、手を挙げて下りてきて続いてお母さんが下りてきた。

「お疲れさまです。よりによって、嵐の中をつき進んで民間航空機でお出でになるとは」

 私は笑った。

「うむ、風の便りに美味いものがあると聞いてな。バカ娘は屋根の上か。変な場所が好きだな」

 アイリーンのお父さんが笑った。

「魔法でも撃っちゃいましょうか」

 お母さんが、やたら長い呪文を詠唱しはじめた。

「なんだよぉ、見つかっちゃったか」

 アイリーンが屋根から落ち、片膝立ちで持ちこたえ、よっこいしょと立ち上がった。

「うむ、馬鹿野郎が。さて、美味いメシがあるそうだな」

 お父さん脱帽し、柔和な笑みを浮かべた。

「はい、お口に合うか分かりませんが……」

 シャドウラがペコリと頭を下げた。

「そう畏まらんでもよい。もう会った仲だ」

 お父さんは笑みを浮かべた。

 シャドウラがキッチンで忙しく動きはじめ、私はお父さんとお母さんの間にアイリーンをねじ込んだ。

 穏やかな時が流れていると、スコーンが詰め込んだ亀の甲羅が発射され、アイリーンの頭に命中した。

 ついで、ビスコッティの甲羅が発射され、お父さんがパンチで弾き飛ばし、アイリーンの顔面を掠めお母さんに向かい、お母さんのアッパーカットで天井に突き刺さった。

 その甲羅が外れ、アイリーンの頭蓋骨にめり込んだ。

「なんだ、痛ぇな」

 アイリーンは甲羅を引っこ抜き、噴出する血液を自分の手で押さえ、圧迫止血をしただけで治った。

 そのうち、でっかい屁の音が聞こえ、お母さんが数センチ飛び上がった。

「おい、お前。そりゃないだろ」

「あら、失礼」

 お母さんが笑った。

「もうすぐできます。味噌仕立ての、カエルとスラッシャーの鍋です。

 私は慌てて携帯用ガスコンロをテーブルに置き、シャドウラがその上に土鍋を乗せた。 携帯用ガスコンロを点火し、グツグツ煮込むことしばし、お父さんがそっと鍋に箸を入れ、小鉢にとってカエルとスラッシャーの肉を食べた。

「うむ、これが味噌でこれが鍋か。なかなか美味いぞ。君たちも遠慮しないで食べなさい」

 こうして、和やかな宴会がはじまった。

「お酒飲んで……ください」

 ビスコッティが本生絞りを取りだし、みんなに振る舞いはじめた。

 こうして、時間はゆっくり進んでいったのだった……。


 夕方になると、アイリーンのお父さんとお母さんが椅子から立ち上がって、再び脱帽してシャドウラに一礼した。

「馳走になった。我々はお忍びでな。惜しいが今日は帰らねばならぬ。また会おう」

「はい、ごちそう様」

 お父さんとお母さんが腕を組み、仲良く家を出ていった。

「みなさんどうでした?」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「うん、美味しかった!!」

 スコーンが笑った。

「師匠、研究しましょう!!」

 ビスコッティが笑った。

「へぇ、ビスコッティって料理できたっけ?」

「お互い様です、シャドウラに教わりましょう」

 シャドウラとスコーン、ビスコッティがキッチンに立ち、カエルとスラッシャーの焼きを作りはじめた。

 さらに、私が提供したノドグロの煮付けをビスコッティが作りはじめ、さっそくやや焦がしながらも、なんとか完成させた。

「あれ……」

「困りました。魚の煮付けなど、滅多に作らないので分かりません」

 もうしょうがないな。煮付けはね……」

 スコーンが煮付けの手順を教えはじめ、炊飯器から白い湯気が立ち上がりはじめた。

 しばらくすると、ギリースーツを着た一団が玄関から勝手に入ってきて、テーブルに付いた。

 さらに、玄関の扉がノックされ、芋ジャージオジサンたちがテーブルに付いた。

 炊飯器がカチャッといい、スコーンが料理を配膳しはじめた。

 十七分後、シャドウラがしゃもじで炊飯器のご飯を切り。再び蓋を閉めて五分後、ホカホカご飯が出来ると、ビスコッティが配膳して回った。

 さらに玄関の扉が開き、フィン海兵隊の皆様がテーブルに付き、アイリーンが配膳をはじめた。

 配膳の仲間に芋ジャージオジサンたちが加わり、さらに和やかな時間が過ぎていった。


 私が食べていると性懲りもなく、窓ガラスにヒビが入った。

「おーい、アイリーンとビスコッティ!!」

「あいよ!!」

「はい!!」

 アイリーンとビスコッティが、ナイフを抜いて玄関から飛びでていった。

「……クリア」

「……クリア」

「……クリア」

「被弾……クリア」

「……ヘルプ。クリア」

「……クリア」

「サンクス。クリア」

「オールクリア」

 二人がダッシュで帰ってくると、アイリーンの傷をアメリアが癒やした。

「ビスコッティさん!!」

「あいよ、クリア」

 ビスコッティの回復魔法が終わり、アイリーンの傷が癒えた。

「師匠!!」

「おうよ!!」

 スコーンが針を取りだし、繋ぎに何カ所も開いた穴を素早く縫い合わせた。

「これでよし。お疲れさま」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「ありがと。なんだ、大した事なかったよ!!」

 アイリーンが笑った。

「師匠、鼻血が出てますよ」

 ビスコッティが指摘すると同時に、スコーンの血が縫ったばかりの箇所だけ、なぜか精密に命中し、結局アイリーンは血まみれになった。

 その時、さっき出ていった737-500が滑走路を片輪着陸していった。

「あれ、忘れ物かな……」

 私が呟くと、扉を蹴破ってアイリーンのお父さんとお母さんが入ってきた。

「うげぇ!?」

「ん。なんだ、また血まみれか。いつもの事だな。亀のスープはまだあるか。カエルも食いたい!!」

「は、はい、あります」

 シャドウラがスープを温め直し、カエルを焼きはじめた。

「なに、白飯だと!?」

 お父さんが目を丸くした。

「早く食わせろ!!」

「あなた、落ち着いて……」

 お母さんがアッパーカットを叩き込んだ。

「う、うむ、いいパンチだ。それにしても、鍋の中に白飯を入れるとは知らなかったぞ。どれでもいい、余っているのをくれ!!」

 お父さんがギリースーツの真ん中に割り込み、凄まじい勢いで食べはじめた。

「……しまった。この鍋にはまだ入ってなかった。どの鍋だ!?」

「だから、落ち着いて下さい」

 お母さんの踵お通しからの膝蹴りが炸裂し、お父さんは床に昏倒した。

「大変失礼しました。ゆっくり頂きましょう」

 お母さんがにこやかな笑みを浮かべた。

「はぁ、ビックリしました。ご飯も出来ましたし、カエルも焼き上がりました。どうしましょうか?」

 シャドウラが困った表情を浮かべた。

「あなた、起きて下さい」

 お母さんがボディに何回も蹴りを叩き込んだ。

「ん、なんだ。出来たのか?」

「はい、そのようです」

 お父さんとお母さんは、テーブルが開いてなかったので、ギリースーツの真ん中に割り込んで座った。

「大変失礼した。もう一度鍋から食べたい。大丈夫か?」

 お父さんは笑みを浮かべた。

「はい、すぐ用意します。卵をを忘れていたので、えっと……」

 シャドウラが小鉢に乗せて配りはじめた。

「あっ、やんなきゃ」

 スコーンが鼻に詰め物をして、ビスコッティを蹴り飛ばすと、慌てた様子でシャドウラを手伝いはじめた。

「師匠、なにするんですか。私も手伝います。そして、ビシバシします!!」

 ビスコッティが笑って、ゆったりと配りはじめた。

 こうして、卵乗せ小鉢を全員に配り、ギリースーツの一団が卵を割って小鉢で解きはじめた。

 それを見ていた周りの人たちも、卵を小鉢で解きはじめた。

 ビスコッティが鍋をカセットコンロに置き始め、全てのテーブルが埋まると、グツグツ煮えた鍋をみんなでつつきはじめた。

「玉子に潜らせると美味しいです。試しに食べてみたのですが、想像以上の味でした」

 シャドウラが笑った。

「うん、私も初めてだけど、美味しい」

 私は笑った。

「……よし、鼻血止まった。どれ」

 スコーンが興味深そうに卵を溶き、玉子に肉を潜らせて一口食べた。

「……しゅごい」

 スコーンがさらに玉子を溶いた。

「師匠、混ぜすぎです」

「バカ、白身が残ってちゃダメ!!」

 スコーンが真顔で玉子を徹底的に解きはじめた。

「……混ぜればいいんですね」

 ビスコッティがふくれっ面で、カシャカシャ掻きはじめた。

「違うよ。最初はガーッとやらない。立てに白身と黄身を切るように混ぜて、それから横にシャーっと……」

「……分かりません。どこで調べたんですか?」

 ビスコッティがさらにふくれっ面になり、割箸をへし折った。

「……折れた」

 ビスコッティは、新しい割り箸を持ってきて、白鳥のように滑らかに玉子を解きはじめた。

「そう、それだよ!!」

 スコーンが笑った。

「まあ、最初は難しいか」

 私はシャカシャカ玉子を溶きながら、笑みを浮かべた。

「うむ、確かに美味いが、あの白飯はどうするのだ?」

 お父さんがニヤッとした。

「それは、鍋を食べてからのお楽しみ」

 私は笑った。

「うむ、そうだろうな。ここにぶち込んだら台無しだ」

 お父さんが笑い、お母さんがゲンコツをめり込ませた。

「全く……。アイリーン、食べなさい」

 お母さんが指をボキボキ鳴らしながら、薄ら笑みを浮かべた。

 アイリーンが慌ててギリースーツの一団の中にめり込み、凄まじい勢いで卵を溶いて、敵対する鍋の中身をバリバリ食べはじめた。

「あーあ……。まあ、いいや。よし、全部食べたぞ。これが、ある意味メインだからね」

 私は丼二個に白飯を盛り、そのまま鍋にぶち込んで混ぜた。

「はい、〆の雑炊!!」

 さらに玉子を落とし、私は笑った。

 ビシッと窓にヒビが入り、私はへカートⅡを手に取った。

「一狩りいってくるわ。いい加減しつこいから」

 私は席を立ち、玄関の扉を潜って家の屋根に上った。

「……どれ」

 ブッシュに微かに見えた人影を狙ってスコープを覗き、引き金を引いた。

 ドカンともの凄い音がして、派手なマズルフラッシュが吹き出し、ブッシュの人影はバラバラに飛び散った。

 私はビノクラを覗き、次なるギリースーツを纏っていても丸見えのターゲットを狙って、再び引き金を引いた。

 応射があり、敵弾が屋根に弾け、私は修正して引き金を引いた。

 なかなかしぶとく再び応射があり、肩に被弾した私はお返しに引き金を引いた。

「……ったく、痛いな」

 私は傷口にツバを塗りつけ、再び引き金を引いた。

 空軍のF-35Aが頭上を飛んでいき爆撃を始めたが、なかなかしぶとくさらに撃ち返してきて、私も撃ち返した。

 しばらく射撃合戦が続き、私はマガジンを交換して、一人で『ビッグファイアOK』と呟いた。

 仕上げのつもりでズドゴーンっと凄まじい音が響き、やっとギリースーツの誰かを粉砕した。

「……はぁ、まだまだだね。両肩被弾にこめかみ掠ったし、オマケにビッグファイア使っちゃったよ。甘いな」

 私は小さく首を振り、さらなる敵を探してビノクラを覗いたが、どうやらたった二人だったようで、元の静けさが戻った。

「ん?」

 ビノクラの倍率を上げると、RPG-7を構えたバカを発見した。

「馬鹿野郎!!」

 私は引き金を引き、RPG野郎を弾き飛ばした。

「さすがに、あんなもん食らったらシャレにならん。まだいないよね……」

 今度こそオールクリアのようで、時々ウサギが跳ね回る平和な景色に戻った。

「よし、治してもらおう」

 私は屋根から飛び下り、マガジンを抜いてレバーを引き薬室内の弾丸を弾いた。

「さすがにブチ切れたからね。くどいっての!!」

 私は苦笑した。


 家に入ると、私は無線で窓ガラスの交換を監督に伝えた。

 そのまま床にひっくり返り、私は今さらきた痛みにのたうち回った。

「いってぇな、馬鹿野郎!!」

 スコーンがバタバタやってきて、回復魔法を唱えた。

 やや遅れてビスコッティが回復魔法を唱え、シルフィがすっ飛んできて回復魔法を唱えてくれた。

「これ、何発食らったんだか……治す!!」

 スコーンがメスを取り出し、私の体内の弾頭をポコポコ取り出しはじめた。

「全部で二十個……まだありそうだけど……」

「師匠、ないです。調べました」

 ビスコッティが息を吐いた。

「ありがとう。しっかし、5.56ミリって痛いね」

 私は苦笑した。

「あのな、痛いどころじゃないぞ。俺も昔食らったが、さすがに転げたぞ」

 お父さんが呆れ顔で苦笑した。

「まあ、ちょっとブチ切れちゃったもので」

 私も苦笑した。

「あのなぁ……まあいい。雑炊美味かったぞ」

 お父さんは笑い、お母さんと玄関から外に出ていった。


「あーあ、やっちゃった。さすがに、ドン引きだよ。自分で!!」

 私は床に転がったまま、私は苦笑した。

「あの、亀料理食べます?」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「うん、頂戴。誰か食べさせて!!」

 私は笑って立ち上がった。

 テーブルの椅子に座ると、シャドウラが亀肉山盛りのスープを持ってきた。

「あれ、カエル袋がない……」

 シャドウラが慌てた様子を見せた。

「……あるよ」

 私は手にしたカエル袋を、シャドウラに放った。

「家の隣にカエル小屋があるでしょ。育ってると思うよ」

「ダメです。まだ早すぎます。オタマジャクシしかいないと思います」

 シャドウラがカエル袋を開けた。

「このためのカエル袋です。五匹……あれ、増えてる?」

 シャドウラの声に、私は笑った。

「だから、裏に小屋があるでしょ。適当に捕まえて増やしておいた!!」

「そ、そうですか。ちょっと、見てきます」

 シャドウラが慌てた様子で玄関からでていった。

「さて、食べますか。食ってばかりだな……」

 私は苦笑して、スラッシャーの肉を食べはじめた。

「それにしても、獲りすぎたかな。スラッシャー多すぎたかも。でも、駆除しないとね」

 私は笑った。

「ああ、亀といえば変なカニもいるよ。デススラッシャっていう、でっかいハサミ持ってるだけの、ただのカニ。獲ってこようか?」

 私は亀料理を平らげると、一人玄関を出ようとして、金だらいが後頭部にめり込んだ。

「一人じゃダメ!!」

 スコーンがナイフを抜いた。

「脅さないでよ。本気じゃないから」

 私が笑うと、スコーンは笑みを浮かべ、ナイフをしまった。

「えっと、デススラッシャは……地図にないな。スラッシャーがいる海岸の隣にあるちっこい浜辺なんだけど、なぜかここに集まる習性があってね。カニだらけなんだけど、食うと美味いよ。焼きがオススメかな。バスで行けるよ」

 私は笑った。

「バスで行けるの。しゅごい、研究する!!」

 スコーンがスケッチブックを取り出した。

「師匠……研究しようかな。この島、変なのが多いし」

 ビスコッティが原稿用紙を取り出した。

「あの、カエルが……」

 家に戻ってきたシャドウラが差し出したのは、ちっこいアマガエルだった。

「かき揚げにしたら?」

 私は笑った。

「いえ、戻します。まだ生長するかもしれません」

 シャドウラが玄関から外に出ていった。

「よし、バス停にいこうか」

 家の前あるバス停で待っていると、やたら派手な耳とかなんか付いたマイクロバスがやってきて止まった。

「ん、『サロメテ幼稚園』? まあいいや、バスはバスだから乗ろう。

 私たちが狭いちっこい椅子に座ると、バスは何事もなく走り出した。

 島を半周近くして目的地のバス停に着くと、私たちは狭い出入り口を通ってバスを降りた。

「さて、いるかな……」

 砂浜に入ると、全面真っ赤なカニが大量にいた。

「うげ……」

 スコーンが声を出した。

「師匠、カニです!!」

 ビスコッティが元気に叫んだ。

「……ビスコッティって、やたらカニ好きだもんね」

 スコーンが小さな息を吐いた。

「師匠、全部狩りますよ!!」

「やだよ、多すぎるよ……」

 スケッチブックでビスコッティを追っ払い、たまたま近くにいたカニを丁寧にスケッチしはじめた。

「さて、私ハープンミサイルでも撃つかな」

 空間ポケットから花火を取りだし、一人で線香花火をパチパチはじめた。

「うん、この趣がね……」

 私は用意して置いた金だらいに海水を汲み、ドカンと砂浜に置いて、燃えさしをそこに落とした。

 さらにパチパチやっていると、シャドウラがやってきた。

「おっ、きたね」

 私は満を持して、空間ポケットからドラゴン花火を取りだし、導火線に火を付けた。

 しゅぼーっと炎が吹き上げ、そこはかとなく寂しい空気を残して終わった。

「これのどこがドラゴンなんですか。本物はこれです」

 シャドウラがドラゴンに姿を変え……それだけだった。

「なに?」

 私は笑った。

「……」

 シャドウラが元に戻り、小さく息を吐いた。

「ブレスは二十才以上からでした。悲しいです」

 足下のカニを指で突きつつ、また小さな息を吐いた。

「カニ、カニですよ!!」

 ビスコッティが、笑顔で頭にカニを乗せて喜んだ。

「あっ、壊れちゃった!?」

 スコーンが真っ二つに割れたデススラッシャをみて呆然とした。

「それ、カニ味噌が美味しいよ」

 私はバリッとカニを割り、灰色の味噌を舐めた。

「……やってみよう」

 シャドウラがバリッとハサミを引っこ抜き、そのまま口に入れた

「うん、バリバリして美味しい」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「……バリバリ」

 スコーンがハサミをもぎ取り、バリバリ囓った。

「うん、美味しい。メモっておこう」

 スコーンはバリバリと、デススラッシャを全て食べた。

「殻が柔らかいから、そのまま食べられるよ」

 私は足下のカニを拾い、バリバリと食べた。

「師匠、お酒飲みましょう!!」

 片手にデススラッシャを持ち、バリバリ囓りながら一升瓶を振り回した。

「これのどこがデスだか分からないけど、美味いからいいや」

 スコーンが笑った。

「はい、よく分かりませんが美味しいです。お酒飲みましょう。

 結局、私たちはデススラッシャを囓りながら、酒盛りに勤しんだ。

「あっ、皆さんいた!!」

 ズタボロのパステルとラパトが、転がるようにカニを踏みつけながら歩いてきた。

「ダメです、柔らかいので割れてしまいます!!」

 シャドウラが慌てた様子で叫んだ。

「カニ……美味い」

 パステルが足下のデススラッシャを拾い上げて食べた。

「そうですか。……うん、確かに美味しいですね」

 ラトパが満足そうに頷いた。

「よし、これをアイリーンの島に届けよう。箱詰めしないと……」

 私は空間ポケットから段ボール箱を取りだし、天地無用のステッカーを貼り、宛先に『犬』と書いてデススラッシャをせっせと箱詰めした。

「みんなも手伝って、何箱もあるから!!」

 私たちはデススラッシャを、ひたすら箱に詰め込んだ。

 全部で二十箱作ると、空間ポケットに押し込み、パステルたちと別れてバス停に向かった。

 しばらく待つと、海兵隊の皆様で満タンのバスが通り過ぎていった。

「あれ?」

 私は小首を捻った。

「いて、寝違えた」

 ビスコッティが慌てて回復魔法を掛けてくれ、首が元通りに治った。

「ありがと。それにしても、海兵隊はなにやってたんだろ……」

 私は考え込んだ。

「まあ、次のバスを待とう」

 スコーンが笑った。

「はい、アレでは乗れません」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

 すぐに次のバスがやってきて、誰も乗っていないので寂しかったが、みんなで乗り込んだ。

 バスが走り出し、島を一周するようにゆっくり走っていった。

 やがて家の前のバス停に止まると、私たちは駐機していたアイランダーに無理やり二十箱のデススラッシャを詰め込み。離陸を見守った。

「よし、これで届くでしょ。アイリーンの島まで十分も掛からないはずだから」

 私は笑みを浮かべた。

「あっ、そうだ。カエルの他にウナギも飼いましょう。どこにいるか……」

「ウナギはいないと思うよ。もっと綺麗な水が流れる川がないと」

 私は笑みを浮かべた。

「そうですか……」

 シャドウラが小さな息を吐いた。

「ウナギ!!」

 スコーンが空間ポケットからうな重肝吸い付きを取りだし、一人で食べはじめた。

 「……ぶっ殺しましょうか?」

 ビスコッティがスコーンの首を絞めた。

「うぷぷ……美味い!!」

 その時、トムキャットが三機低空飛行し、なにかを落としていった。

「なんだこれ?」

 私は固く梱包された包装をナイフで切ると、中からうな重が出てきた。

「ウナギ!!」

 スコーンが取ろうとしてビスコッティがビシバシして、シャドウラに手渡した。

「冷めてますね、温めましょうか」

 ビスコッティがカニを退け、焚き火を焚いて火を付けた。

 再びトムキャットが飛来し、固い包みを五個落としていった。

「あれ、またきた……」

 私はナイフを使って梱包を解くと、中から酒瓶と肝吸いが出てきた。

「……なんだこれ?」

 私は衛星電話の画面を見たが、特になにも表示されていなかった。

「……変なの。でも美味いからいい」

 ビスコッティの焚き火でウナギをさっと炙り、冷めたご飯の上に置いて食べた。

「うん、美味い」

 次ぎにE-2Cが飛んできて、ド派手に急旋回すると、レードームを落として去っていった。

「……おいおい」

 私は思わず固まった。

「変わったウナギだねぇ。スケッチしよう」

 スコーンがカニをぶちまけて、落ちてきたレードームのスケッチをはじめた。

 さらにA-7コルセア二基とトムキャッターズのF-14が低空で飛んでいき……それだけだった。

「今度はカニを食べよう」

 スコーンがスケッチしながら、カニを食べはじめた。

「焼きカニも美味いよ!!」

 私は体を上ってきたカニに埋もれながら、小さく笑った。

「うん、変なウナギのスケッチ終わった。なんだこれ?」

 スコーンが笑った。

「さぁ、クリスマスプレゼントじゃない?」

 私は笑った……そして、顔面までカニに埋もれた。

 カニの隙間から覗くと、精密誘導カニ酢の瓶が地面にめり込んだ。

 B-52爆撃機が通過し、大量の自由落下カニズの瓶が落ちてきた。

「ぎゃあ!?」

 スコーンが頭を抱えて防御体制を取った。

 シャドウラがドラゴンの姿に変わり、落ちてきたカニ酢のカニを蹴り飛ばしながら回収に回った。

 一連のカニ酢攻撃が終わると、スコーンがカニ酢の瓶を抱えて飲みはじめた。

「ん、美味い!!」

 スコーンはカニ酢を飲み干した。

 私はカニを払い、笑みを浮かべた。


 一通りデススラッシャー遊びとウナギを堪能した私たちは。バス停に移動した。

 そのうち。屋根のない二階席がある黄色いバスがやってきた。

「おっ、当たり。乗ろう!!」

 私たちは迷わず二階席に移動して空を見上げた。

 あいにく曇天で青空は見えなかったが、ポケットに入っていたデススラッシャをパリパリ囓りながら、私は笑みを浮かべた。

 スコーンがカニ酢の瓶の蓋を自分の口に放り込み、中身を無理やりビスコッティに飲ませた。

「なにするんですか!!」

 ……しかし、蓋のせいでスコーンはなにも喋れなかった。

「頭にきました。私も飲みます!!」

 ビスコッティが、お土産用と手書きで書いたカニ酢の瓶を傾けた。

「……うげ」

 ビスコッティが吐きそうな顔をした。

 バスはゆっくり進み、マッピング中のパステルとラパトとすれ違い、反対方向からきた大型の都バスとすれ違い、正規のルートから外れ全輪駆動なのか、草原を走り出し湖の畔で止まった。


  バスを降りて湖のボート乗り場に行くと、麦わら帽子を被ったキキが釣り竿を持ってボンヤリしているように見えた。

「あれ、なにしてるの?」

 私が聞くと、キキが笑みを浮かべた。

「ザリガニ釣りです。三千メートル級がいると聞いたので」

 キキが笑うと、釣り竿に凄まじい当たりがきた。

「おおっ!?」

 釣り竿に引かれ、キキが湖に落っこちた。

「ヤバい!!」

 私は勢い良く飛び込み、必死に格闘しているキキの加勢に回った。

「おーい、手伝って。二人じゃ無理!!」

 スコーンが飛び込み、ビスコッティが飛び込み、シャドウラがちょっと躊躇してから飛び込んだ。全員でキキを支え、電動リールと竿が軋む音が聞こえ、遠くに見える小山のようなものが動きはじめた。

「おい、ガンヘッド。どっかにいるんだろ。牽引しろ!!」

 私が叫ぶと、ブッシュに隠れていたスタンディングモードのガンヘッドが出現し、マニピュレータを伸ばして、竿を引っ張りはじめた。

 小山がどんどん近寄ってきて、釣り糸がビシビシいいはじめた。

「縫合!!」

「あいよ!!」

 スコーンが裂けた釣り糸を、あっという間に縫合した。

「よし。しっかし、これ。三千六百キロはあるよ」

 しばらく格闘していると、一人の女性が飛び込んできた。

「あれ、ニム軍曹じゃん。仕事は?」

「テキスメキシウム奪還に成功したから、ほんの休暇」

 ニムは力強い笑みを浮かべ、徹底的に引っ張りはじめた。

 また釣り糸がほつれ、スコーンが素早く縫合した。

 結局、数時間格闘した挙げ句、超絶巨大なザリガニが湖畔に打ち上げられた。

 ニムがザリガニにトドメを刺してブッシュに消えていき、ガンヘッドも引っ込んだ。

「こりゃ、この場で解体しないとダメだね。さすがに、海兵隊もこんなトラック持ってないだろうし」

 優に四千メートルを超えるザリガニを目にして、私はインカムのスイッチを押した。

 非常用チャンネルに切り替え、私は救助を要請した。

 すぐさま海兵隊の何台もトラックがすっ飛んできて、降りてきた隊員がそのまま固まった。

 アイランダーが低空で飛んできてパラシュートが開き、アイリーンとお母さんがすたっとザリガニの上に立った。

「これ、どうしようか。マジで困ってるんだけど」

 私は苦笑した。

 海兵隊の工兵隊がやってきて、やはり固まった。

「エチゼンスラッシャー連れていても、これは無理だね。医師の資格がある人なら、これを分解出来るかな……」

「うん、ビスコッティやるよ!!」

「はい、やります」

 スコーンとビスコッティ、シルフィがナイフを片手に解体作業に入った。

「あと、アイリーンとお母さん、行ける?」

「余裕……でもないな」

 アイリーンが小さな息を吐いた。

「バカねぇ、このくらい踵落としで……」

 お母さんの踵落としは、見事に殻に弾かれ、そのまま転がり落ちた。

「……ヤバい」

 アイリーンが慌てた様子でヘルメットを被って降りた。

 お母さんが黒板を取りだし、なにか複雑な数式をバリバリ書いていると、どこからともなくお父さんがエアボンベを背負ってザリガニの上に降りて、脱帽して一礼した。

 飛び下りたお父さんが、エアボンベでザリガニの頭をぶん殴ったが、エアボンベが破裂しただけだった。

 私は衛星電話を取りだし、空軍に航空支援を送った。

 すぐさまB-2爆撃機が飛来し、土手っ腹にバンカーバスターを落としたが、弾かれてものの役に立たなかった。

「計算結果が出ました」

「うむ」

 お父さんが思いきり右ストレートをぶち込んだが、傷一つ付かなかった。

「……いきます」

 シャドウラの体が光り、レッドドラゴンになると、思い切り前足の爪をぶち込んだが、やはり弾かれた。

「だめだ、特殊部隊でも呼ばなきゃ……」

 私が無線で呼びかけると、どっかでみたギリースーツの一団が現れ、斧でガンガン叩きはじめた。

 そのうちフィン陸軍、空軍、海軍の特殊部隊が姿を現し、チェーンソーで切ろうと必死こいて作業を始めた。

 しばらくすると、私のお父さんがヘリで飛んできて、上空から攻撃魔法を叩き込んだが、弾かれて、逆にヘリに命中した。

「あーあ、だからダメだっていったのに……」

 私は苦笑して、湖に墜落したヘリの救助に浮遊の魔法を使った。

「おーい、芋ジャージオジサン!!」

 私は無線で呼びかけた。

 ブッシュに隠れていた芋ジャージオジサンたちがあらわれて、ツルハシでガシガシ叩きはじめた。

「うむ、面白い」

 お父さんがザリガニのハサミに蹴りを入れ、勢い良くもぎ取った。

「よし、もう片方だ」

 お父さんが再び逆のハサミを掴み、力任せに引っこ抜いた。

「ふん、舐めるなよ。このエビカニ野郎!!」

 お父さんは満足して、ブランデーを舐めはじめた。

「こら、まだ終わっていません!!」

 お母さんのボディブローが炸裂し、吐血したお父さんをさらにボロカスにぶちのめした。

 お父さんが舐めていたブランデーグラスをパシッと空中で受け取り、一気に飲み干すと黒板にさらにバリバリ書き始めた。

「……頭と胴体を切り離しましょう」

 お母さんが飛び上がり、ジャンピング踵落としが炸裂し、バキッと音がしてヒビが入った。

 ドラゴンに変身シャドウラが無理やり引っ張って頭と胴が切り離され、お母さんはさらに一升瓶を一気飲みして頭部の破壊を試みはじめた。

「よし、行きます!!」

 お母さんがガンガン蹴飛ばしはじめたが、殻がボヨンボヨンするだけで、なにも起きなかった。

「この!!」

 お母さんが右ストレートを叩き込みと、殻に縦のヒビがはいったが、破壊はされなかった。

「よし、ここ!!」

 お母さんが仕切りはじめ、総員でバキバキ殻をたたき壊しはじめた。

「……しらね」

 アイリーンが引きつった笑みを浮かべ、腹部の解体チームに加わった。

「ビスコッティ、この変ほじって!!」

「はい、師匠」

 よく分からないが、ビスコッティが開けた穴にスコーンが手を当て、呪文を唱えた。

「……穴ぼこ」

 ドバッと肉が裂け、アイリーンが凄まじい勢いで肉を切り始めた。

「よし、このまま尻尾まで行くよ!!」

「はい、師匠」

 スコーンとビスコッティがバキバキ腹の肉を裂いていくと、アイリーンが無理やりナイフで肉を剥ぎ取り、ドバドバ地面に肉を投げはじめた。

「あの、お手伝いは?」

 人間の姿に戻ったシャドウラが、ポソッと呟いた。

「もう私たちは入れないよ、黙って見るしかない」

 私は苦笑した。

 ……結局、解体が終わる頃には夜になっていた。


 夜風がそよぐ中、私たちは海兵隊が運んできた巨大なグリルで、解体したザリガニを焼いていた。

「キャビアです。どうぞ」

 私は小皿に盛ったキャビアを、アイリーンのお父さんとお母さんに差し出した。

「うむ、なんだキャビアとは?」

「チョウザメの卵ですよ」

 お父さんとお母さんが仲良くキャビアを楽しみはじめ、お父さんがブランデーを舐めはじめた。

「おーい、私は?」

 アイリーンが声を上げた。

「ない」

 私は短く返した。

「あっそ……」

 アイリーンがお父さんの頭にゲンコツを落とした。

「ん、なんだ?」

「……効いてない」

 アイリーンは小さな息を吐いた。

「あなたは下がっていなさい。これは美味しいですね」

 お母さんが小さく笑みを浮かべた。

「アイリーン、ちょっときなさい」

 お母さんがアイリーンを呼び、黒い封筒を手渡した。

「……うげ」

 アイリーンはマジで嫌そうな顔をして、中の手紙を読み始めた。

「……死ぬかも」

 アイリーンが頭を抱えた。

「師匠、焼けましたよ」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、ザリガニの肉を持ってきた。

「なんかこればっか食べてる気がするけど、ありがと!!」

 スコーンはビスコッティが差し出した小皿を受け取り、醤油と和辛子を塗って食べはじめた。

「あの、私は……」

 シャドウラが涎を垂らした。

「はいはい、あるよ」

 私はシャドウラに巨大な串ごと渡した。

「あっ、ありがとうございます」

 シャドウラは串ごと囓りはじめ、最後に串を放り投げた。

「おいしい?」

「はい、お代わりは自分で取ってきます」

 シャドウラは巨大グリルの元にいった。

「ビスコッティ、私も!!」

「師匠、それ以上は食べ過ぎです」

 ビスコッティは、マヨネーズを大量に掛けて食べていたスコーンに笑った。

「じゃあ、いいや。お酒でももう」

 スコーンは生搾り一本仕込みのボトルを取り出した。

「バカもーん!!」

 ビスコッティが、パイプ椅子をスコーンの頭にめり込ませた。

 芋ジャージオジサンたちが生搾り一本仕込みを持ち去ると、お金をおいて去っていった。「ビスコッティのせいだよ。パクられたじゃん」

「違います。あれはパチ物です。なんです、一本込みって。ダメです!!」

 ビスコッティが本物の生搾りを取り出した。

「これです。知らないと知って、騙されたんです!!」

「えっ、騙されたの!?」

 スコーンがいじけた。

「一人で買ったらダメです。これだからもう……」

 ビスコッティが栓を開け、カップにお酒を注いでスコーンに手渡した。

「ありがとう」

 スコーンが笑みを浮かべた。

 ビスコッティが振る舞い酒をはじめ、もう一本酒瓶を取りだし、一本絞りサンライズを作りはじめた。

 アイリーンが我慢しきれないという感じで、デスクラッシャを焼きはじめ、いい香りが漂いはじめた。

 いい加減ザリガニの肉にも飽きてきたとき、上空に大勢のドラゴニアの人たちが現れ、次々と降りてきた。

「ワシらもよいかの?」

 ドラゴニアの長老が問いかけてきた。

「うん、むしろ大歓迎だよ」

 私が笑みを浮かべると、長老がハンドシグナルで合図を送り、百人近いドラゴニアの一団が、グリルで焼いたザリガニの肉にマヨネーズを掛けて食べはじめた。

 そこにギリースーツの一団が加わり、どうみても堅気ではない人たちまで加わり、結局大宴会になってしまった。

「おっと、こんな時間になってしまった。帰らねばうるさいからな」

「はい、これは美味しいですね」

 お父さんとお母さんが最後に一礼して、バスに乗って空港に向かっていった。

「ふぅ、帰ったか」

 アイリーンが一息吐いた。

「おっと、忘れていた」

 バックで戻ってきたアイリーンのお父さんお母さんがやってきて、アイリーンが頭に被っていたベレー帽を被り、オマケとばかりにお母さんがアイリーンをぶん投げ、焼きザリガニコンロの真上に落とした。

「ぎゃあ!?」

 アイリーンの繋ぎが終え上がり、スコーンが耐熱服を着て救助に当たり、ビスコッティが足で踏んで火を消しに掛かった。

「……すっげ」

 私は思わず呟いた。

 みんなで集まって、回復魔法をかけると、素っ裸のアイリーンが立ち上がった。

「ぎゃあ!?」

「さすがに服は直せないよ」

 アメリアが苦笑した。

「まあ、いいや。キャビアくれ!!」

 アイリーンが笑みを浮かべた。

「はい」

 私がそこそこ美味いキャビアの缶を差し出し、アイリーンが満面の笑み浮かべ、ザリガニの肉を焼いていた串を手に取って、暴れる上腕二頭筋に渇をいれ、気合いで食べはじめた。

「……しゅごい」

「師匠、真似しましょう!!」

 ビスコッティが串を気合いで持ち上げ、パンパンに張った筋肉が服を綺麗に弾き飛ばした。

「……私もやる」

 スコーンが呪文を唱え、串を持ち上げた。

 青く光ったスコーンの服がはじけ飛び、一切気にせず食べはじめた。

「……食べよ」

 アイリーンがバリバリ、ザリガニの肉を食べはじめた。

「……どうしよう。服の替えがない」

 ビスコッティがガツガツ食べはじめた。

「ビスコッティ、甘いよ!!」

 スコーンがザリガニの肉をハサミで丁寧に切り取り、味噌だれを塗りながら食べはじめた。

「お酒のみますか……」

 ビスコッティは地面に胡座をかき、お酒を飲みながらザリガニを食べ、安いテーブルワインをスコーンに飲ませた。

「こうなったら……」

 アイリーンが地面に落ちた拳銃を拾い、ザリガニの肉に撃ち込んで剥がれた身をジャンプして取り始め、酢で〆ながら食べはじめた。

「なんだよ、全く……」

 アイリーンがビスコッティの隣に座り、胡座をかいてレモンを搾り、モソモソ食べはじめた。

「……もっと魔力が欲しいな」

 スコーンが立ったままモシャモシャ食べはじめた。

「なに、脱いじゃったの?」

 私は笑い、どびゃっと服を脱いで、串を三本持ち上げて取り。お焦げができたザリガニを食べはじめ。

 チヌークヘリコプターがバタバタ飛んできて、酒瓶を落としてどこかに飛んでいった。

 さらにもう一機きて、樽酒をボコボコ落として繋ぎも落としていった。

 さらにさらに、C-17がLOHASで大量のザリガニK(ちっこいの)をばら撒いて去っていった。

「こら、それはいらん!!」

 私は衛星電話で怒鳴り散らした。

「よし、取りあえずギリースーツをあの三人に与えよう。みちゃおれん」

 ギリースーツの一団が、私たちにギリースーツを被せた。

 戦闘服になったギリースーツの一団は、ザリガニの肉に塩コショウと醤油を一差し加え、煮物を作りはじめた。

「香の物も忘れるな、美味いからといってケチるなよ!!」

 戦闘服のギリースーツの一団が、沢庵の缶詰を配りはじめた。

「なんだ、もうないのか?」

「全部です。あとは鶏飯しか……。

 しばらくすると、C-1輸送機が飛んできて超低空で大量の沢庵缶をばら撒き、服もばら撒いていった。

「……しゅごい」

「師匠、着替えですよ!!」

 スコーンとビスコッティがばら散った服をかき集めに行き、アイリーンがギリースーツの一団にギリースーツを返し、全速力で駆けていき。薄ピンク色の繋ぎを着込んで笑みを浮かべた。

 ビスコッティがなぜかパンツスーツ姿になり、スコーンが白水玉薄紅色のスカートとシャツを着た。 ちなみに、ビスコッティも薄桜色のスーツだった。

「……なんでビスコッティだけスーツなの?」

「知りません!!」

 ビスコッティが微妙な笑みを浮かべた。

「……私って、繋ぎ女だったかな」

 アイリーンが頭を掻いた。

「あれ、一枚スカートが余った……シャドウラ用って書いてあるな。研究しゅる!!」

 スコーンがノギスでなにか測りはじめた。

「胴回り(ピー)か。レングスは……」

 スコーンは徹底的に調べ上げ、論文を書きはじめた。

「……私、スカート履かないのに」

 でもあるからか、シャドウラが着替えはじめた。

「な、なんかスースーする……」

 シャドウラは笑みを浮かべた。

 そして、スラッシャをビスコッティに投げつけた。

 超高速回転するスラッシャーを、芋ジャージオジサンとアイリーンが十字砲火で弾き飛ばし、アイリーンの繋ぎをボロボロにして、口から青緑色の繋ぎを吐き出し、海兵隊の方に飛んでいき、バトルジャッケットをメチャクチャに引き裂きながらコマンダー目がけて飛んでいき、ズボンだけ粉々にして転がっていき、再び回転を始めてギリースーツの一団の髪の毛を破壊して、どこかに消えていった。

「あーあ……」

 私は素っ裸で笑い、焼きザリガニを囓った。

 こうして、巨大ザリガニパーティは延々と続いたのだった。


 私は素っ裸のままみんなを引き連れ、家に帰って服を着た。

「さて、飲み直そうか」

 私が酒瓶を開けると、ドラゴニアの長老がやってきた。

 私は長老にアルコールスプレーを手渡し、長老がプッシュレバーを押して、両手を洗った。

 遅れてきたドラゴニアのみなさんにも、ありったけのスプレーを渡し、長老に寝ているスラッシャーを手渡した。

「さて、みなさん飲みましょう」

 私は取っておき中の取っておきをテーブルに置くと、冷蔵庫からオレンジを取り出し、スラッシャーで刻むとぼてくりこかして眠らせ、空間ポケットにしまった。

 こうしてオレンジピール入りのジュースを作り、テーブルに置いた。

「つまらない物ですが……」

 キッチンをビスコッティとリナに変わり、アメリアとナーガとシルフィが料理を運びはじめた。

「シャドウラよ。もう隠し名を使うな。ツユクサと名乗るがよい」

 長老がオレンジジュースを飲みながら、ポケットに入っていたデススラッシャをテーブルに乗せ。バリバリ食べ、ビスコッティにお酒を求めた。

 メグミと呼ばれたドラゴニアがビスコッティからお酒を受け取り、そのまま一気飲みした。

「馬鹿たれ。それはワシの物だ。こっちは高級酒のようじゃからな。安酒でよい。というか、安酒がいい。高い酒は苦い」

 長老は笑みを浮かべ、ツユクサの頭を撫でた。

「そうですか。では、こちらに……」

 私はドラゴニアのみなさんをテーブルに案内した。

 シルフィが牛丼と豚汁、香の物を配りはじめ、リナがカツカレーを配りはじめた。

「みなさん、牛丼の正しい食べ方を教えます」

 ツユクサがコカトリスの卵を小鉢に落とし、箸でかき混ぜはじめた。

 その卵液を牛丼に欠け、豚汁に一味唐辛子をかけた。

「うむ、外界の情報はある程度はある。まだ甘いな」

 長老は笑みを浮かべ、福神漬けを牛丼に添え、カツカレーの上にばら撒いた。

 みなさんが同じようにして、待機した。

「では、いただき……」

 なにかいおうとしたビスコッティの鳩尾にパンチをいれ、スコーンが立ち上がった。

「いただきます!!」

 夜の食事がはじまり、ビスコッティがスコーンにパンチを入れたが、座ったままダッキングで避けた。

 スコーンが外に飛び出し、プッシュバッカーⅡに乗ってきて、ビスコッティにトーイングバーを付けた。

 エンジン音も高らかにプッシュバッカーⅡがビスコッティをプッシュバックし、そのまま便所にぶち込み、家に入ってきた。

「チラシがポストに入っていたよ。明日は肉のタイムセールだって!!」

「ん、肉かいの。タイムセールとは素晴らしい。みなのもの、明日は早起きだぞ」

 ドラゴニアの長老が笑みを浮かべた。

「ついでに開店セールで、全品五割引きだって。ビスコッティ、買い占めよう!!」

「……その前に、なんとかしろボケナス」

 スコーンがプッシュバッカーⅡを前進させ、トーイングバーを家から出してすぐに戻ってきた。

 私は無線でパステルとラパトを呼び戻した。

「お疲れさま。帰っておいで」

『了解』

 すぐさま車の音が聞こえ、駐まっていたプッシュバッカーⅡに突っ込み、パステルとラパトがそのままお風呂に突っ込んでいった。

 お父さんがプッシュバッカーⅡを前進させて空港に戻し、お母さんがキャビアの缶を開けた。

 ギリースーツの一団も沢庵の缶を次々開けた。

 さらに鶏飯の箱を開けて、パックに入ったそれを湯煎で温めはじめた。

「こりゃ、ちょっとしたパーティだね」

 私が苦笑した時、派手なスキール音がして、パステルとラパトが転がり込んできた。

「はい、ザリガニ」

 私は取っておきのザリガニの肉を、パステルに手渡した。

「お、重い……」

 パステルが肉を担ぎ、キッチンにズドンと置いて調理をはじめた。

「あー、監督。仕事だ。滑走路を五千にしてくれ!!」

『もうやった。途中からメガフロートで浮かせてな。どうせ、747-400が欲しかったんだろう』

 無線で監督が笑った。

「なんだ……」

 私は苦笑して、家の外に出た。

 さっそく747-400の第一便が、着陸灯を焚いて着陸コースに入っていた。

「サロメテロイヤルワン、ようこそ!!」

 私は無線で送った。

『サロメテロイヤルワン。グッドラック』

 無線からどっかで聞いた機長の声が聞こえた。

「さあ、はじまるぞ」

 747-400の巨体が胴体着陸して、そのまま離陸していった。

「……期待外れだな」

 ついで第二便が着陸し、轟音と共に滑走路を走っていった。

 垂直尾翼に見たことない国の国章が描かれたそれは、高速誘導路に捌けて駐機場に向かっていった。

 駐機場に入ると、全乗員が急いで降りて、隣の737-500に飛び込み、プッシュバッカーⅡが737-500をプッシュバックして、鬼滅のワイヤーが機体を引っ張った。 同時に、747-400の機体色の塗り替えがはじまり、737-500が片輪で離陸していった。

 桜色に白玉が描かれて行くと。垂直尾翼の国章フィン王国のものに変わった。

「よし、次は内装だ!!」

 オレンジ色の繋ぎを着た監督が、部下を連れて機内に飛び込んでいった。

 その間に、やたら凄まじい轟音を届かせ、トライスターが突っ込むように着陸し、派手なスラストリバーサーの音が遠ざかっていった。

 続いて、バンシーの鳴き声並みにうるさい金属音を響かせ、MD-80がズドンと派手にバウンドしながら着陸していった。

 誘導路を走っていたトライスターがエンジンから火を噴いて、消防車が消しに掛かった。 MD-80がその隣にちょこんと駐まり、YS-11が滑走路上をローパスしてどこかに向けて飛んでいった。

 続いて、二機目の747-400が飛んできて、黄色地に黒の機体を改装中の747-400の隣に駐まり、さっそく外装の塗り替え工事が始まった。

「やれやれ……」

 私は苦笑した。

 そのうち。C-5M輸送機が降りてきて、大量の塗料缶をばら撒きながら着陸して、海兵隊が全員出動して、飛び散った塗料缶をかき集めに掛かった。

 黄色地に黒の縞々模様の474-400の塗装塗り替え工事がはじまり、薄紅色の塗装が施され、垂直尾翼に『スコーン&ビスコッティ』と、デカデカと書かれ。その下にフィン王国の国章が描かれた。

「ぎゃあ!?」

「……我関せず」

 スコーンとビスコッティが唖然として、作業を見守った。

 しばらくすると、コンコルドがアフターバーナーを吹かしながら降りてきた。

「……おいおい」

 私は引きつった笑みを浮かべた。

 駐機場にバスとタラップ車が集まり、大混雑となった。

「……どうすんだこれ。せめて、くるならくるって連絡しろ」

 私の顔がさらに引きつった。

 アイランダーが全機集まり。乗せるだけ乗せて、ツユクサの島に向かって飛び始めた。「あーあ……」

 私は衛星電話を取りだし、オヤジにバカヤローと文字情報を送った。

 これで終わりかと思ったら、今度は777が轟音を立てて降りてきた。

 さらにコロン王国の国章を描いた727が着陸し、777が誘導路を無視して駐機場に一直線に向かい、727がそっとついていった。

『これで最終のようですが、767-400ERが着陸してくるそうです』

「……まだくるの。どこのボケナス国よ!!」

 私は頭を抱えた。

 運び切れなくなったので、私は海兵隊に緊急信号を発信し、大量のチヌークが飛んできて、滑走路上に列をなして駐まり、制服姿の海兵隊員がにこやかに、機内に案内していた。

「767-400ERがきます。早く退いて下さい!!」

 無線で管制官が悲鳴を上げた。

『ゴーナラウンド』

 傍受していた無線から、管制官の悲鳴が聞こえた。

 どうやら、767-400ERの機長がブチ切れたようで、強行着陸を試みはじめた。

 海兵隊の隊員が慌ててVIPを機内に押し込み、チヌーク十機が飛び去っていった。

  ほぼ同時に767-400ERが着陸し、逆噴射を掛けたら炎を吹いた。

  消防車が追いかけていき……見えなくなった。

「あー、これで終わりか。どうすんだこれ……」

 ぎっちり飛行機が詰まり空きがない駐機場にプッシュバッカーⅡが767-400ERを押してきて滑走路上に駐めた。

 その頭上を飛び越え、E-767が二機着陸し、そのまま飛び去った。

 さらにP-3Cが、チャフフレアを盛大にばら撒きローパスしていった。

「はぁ……なんだ、アイツら」

 私はぶっ倒れた。

「ぎゃあ、マリーが倒れた!!」

 スコーンが気付け薬を筋注してくれた。

「あ、ありがと……もう帰ろうかな」

 私は体育座りで、地面をイジイジした。

 二機の747-400が綺麗に塗装され、中では座席配置を行っているようだった。

 私は立ち上がり、煙草二本に火を付けた。

「お、お酒~……」

 ビスコッティがテーブルワインをくれたので、私はナイフで先を切り飛ばし、一気にⅡ飲み干し、空き瓶をトライスターに向かってぶん投げた。

「あれ、飲めますね。ぜひ」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、もう一本差し出してきた。

 私はボトルの先を噛み切り、スコーンの口にズボッと差しこんだ。

「ダメです。師匠が寝てしまいます!!」

「あっ、飲めるクチなのかと思って」

 私は慌ててボトルを引っこ抜いて、余っているお酒をビスコッティに返す……フリをして残った中身を飲み干した。

「やりますね。私も……」

 ビスコッティがメタノールをスコーンに渡し、私にはビンテージワインをそっと手渡した。

「ビンテージか。ありがとう」

 私は瓶を振り、半分開いていたコルク栓を引っこ抜き、ドバーッとそれを胃袋に流し込んだ。

「ねぇ、ビスコッティ。これメタノールじゃなくてエタノールだよ。そもそも、お酒じゃないし」

「ぎゃあ!?」

 ビスコッティがメタノールを回収し、適当な酒瓶をスコーンに押しつけた。

「……美味しそう」

 スコーンはコルク抜きで栓を抜き、静かに飲みはじめた。

「ダメです!!」

 ビスコッティが酒瓶を取り替え、ガバガバ飲みはじめた。

「はぁ、スッキリした。ゴチャゴチャなのは駐機場と滑走路だけだね」

 私は無線でプッシュバッカーⅡを呼び出し、色々ばらけた駐機場の整理を依頼した。

 ちなみに、プッシュバッカーⅡはプッシュバックしか出来ない車両だが、この空港にはこれしかなかった……。

 やがて、綺麗に整ったように見える駐機場と、なんとか開いた滑走路に、朝刊を積んだ他YS-11Cargoが着陸した。

 駐機場が一杯で誘導路もデススラッシャで溢れていたので、滑走路上で荷物を下ろしプッシュバッカーⅡに積み込み作業をはじめた。

 その間芋ジャージオジサンたちが、デススラッシャを丁寧にバケツリレー方式でターミナルビルに運び入れ……しかし、増える数の方が多く、最後は竹箒で掃きはじめた。

『プッシュバッカーⅡ 二号機満載です。バックします』

 プッシュバッカーⅡがカニをつぶしながらターミナルビルに運び込むと、ついには滑走路にまではみ出たデススラッシャが溢れはじた。

 YS-11Cargoがそのまま離陸し、清掃車で滑走路と誘導路の清掃に取りかかった。 デススラッシャが一列に並び、一斉にハサミを飛ばしなぜか私にブスブス突き刺さった。「なんだこの!!」

 私は拳銃を取りだし構えたがその手にカニが乗り、オートモードに切り替えるとドバババと拳銃を放ち、手榴弾をぶん投げた。

「なに、カニ?」

 家から寝ぼけたアイリーンが出てきて、並み居るデススラッシャにC-4を仕掛けて……慌ててやめて、ぶん殴りはじめた。

「師匠、二人では追いつきません。まさか、攻撃魔法という訳には」

「ビスコッティ、あれ」

 ビスコッティが透明な液体が入った瓶を受け取り、いきなり火炎放射した。

 デススラッシャたちは照準をスコーンに向け、呪文を詠唱しはじめた。

「ヤバい!!」

 私は慌てて攻撃魔法で蹴散らし、さらに睡眠の魔法を掛けた。

 それでも数が多いので手が届かず、スコーンが撃たれながらもひたすら攻撃魔法を放ちはじめた。

 何発かアイリーンに命中すると、アイリーンは特大の火炎魔法を放ち、その火球がゴロゴロ転がっていった。

「……あれ?」

 アイリーンが自分の両手を見て呟いた。

「……研究しる」

 スコーンがカニを踏み潰しながら、逃げる火球を追いかけていった。

「師匠、邪魔です!!」

 ビスコッティが攻撃魔法を放ち、火球とスコーンを巻き込んで大爆発が起きたが、スコーンと火球は何事もなかったかのように、ゴロゴロ転がる火球を追っていった。

「……ぶっ壊す」

 ビスコッティはやたらデカい氷の矢を放ったが火球とスコーンの頭上のはるか上のP3-Cを氷漬けにした……が、何事もなかったかのように哨戒飛行を続けていた。

「……今度こそぶっ壊す」

 ビスコッティは攻撃魔法を放ち、ゴロゴロ転がる氷の玉を無数に発射した。

「……あっ、間違えた」

 ビスコッティは笑みを浮かべた。

「うわっ、なんですかこれ!?」

 起きだしてきたツユクサが目を丸くし、レッドドラゴンに変身すると、カニを踏み潰しはじめた。

「毎度の事だけど、痛いなぁ」

 私は体に刺さったデススラッシャのハサミを抜き、また撃たれた。

「待避して下さい!!」

 ツユクサが叫び、スコーンが慌てて戻ってくると、いきなりドデカいブレスをぶちまけた。

「ぎゃあ、熱い」

 なぜかしらないが、ツユクサの真後ろにいたのに、ブレスがちょびっと背後に飛んできて、私の髪の毛がボサボサになった。

 まあ、それはいいとして、ブレスにも負けなかった火球と氷の玉はカニを潰しながら、再びスコーンが火球を追いかけはじめた。

 その間、スコーンもカニのハサミ攻撃をバカスカ食らっていたが、気にしないで火球を追いかけはじめた。

「あれ、もう一発撃っておくかな」

 アイリーンが呪文を唱え、今度は炎の矢が歩くほどの速度で無数に発射された。

「あれ?」

 アイリーンは空間ポケットから鉄アレイを取りだし、起爆装置を付けてぶん投げた。かの山に鉄アレイが命中すると、小爆発がバカスカ発生し、お母さんの踵落としが無数のカニに命中すると、ナイフを片手に暴れはじめた。

 アイリーンの眉間にカニのハサミが突き刺さり、それから猛射がはじまった。

 結局全員がまともに被弾し、ハサミがなくなったカニはそのままばらけて果てた……。「これ面白い!!」

 スコーンが火球を抱え、笑顔になった。

「これ、触ると冷やっこくて、放すと微妙に熱くなる。研究しる!!」

 そこに炎の矢が集中的に命中し、スコーンがさらに笑顔になった。

「この炎の矢、ビスコッティの氷より冷たい!!」

「なんだとこの!!」

 ビスコッティが呪文を唱え、大量の水が注がれた……が、凍り付いてカニをメチャクチャに破壊しはじめた。

 スコーンが顔から下が凍り付いたが、気合いでぶっ飛ばし、火球と炎の矢を持ち帰ってきた。

「ねぇ、これどうやったの!!」

「うん、適当に……」

 お父さんのゲンコツがアイリーンの頭にめり込んだ。

「……ごめんなさいは?」

「……ごめんなさい」

 お父さんは優しい笑みを浮かべた。

 お母さんがカニを切り刻んでいると、オレンジ色の繋ぎを着た監督一同が集まってきて、網を拡げて纏めてカニを押し込みはじめた。

「このキャビア野郎!!」

 いつまで経っても減らないデススラッシャにブチ切れたようで、カニを腰払いで投げはじめた。

 ……まあ、こうしてカニ退治がなんとか終わると、芋ジャージオジサンたちが死骸を集めて、家の中で調理をはじめた様子だった。

「さて、家に戻ろうか。ポマドロの香りがするし、トマト煮かな」

 私は笑った。


 家の中に入ると、ビスコッティがソファに座って煙草を吸いながらバーボンを煽り、ツユクサがと隣でオレンジジュースを飲みながら、くつろいでいた。

 キッチンではギリースーツの一団がが集めたデススラッシャを綺麗に洗い、味噌汁を大量に作っていた。

 炊飯器のレバーが上がり、アイランダーのプロペラが聞こえてきた。

 お母さんが笑みを浮かべ、アイリーンのケツを蹴り飛ばし、お父さんがアイリーンのリードを引いて玄関から出ていった。

「……グッドラック」

 私は心の中で敬礼した。

 アイランダーのプロペラ音が聞こえ、窓から出発を見送ると、私は笑みを浮かべた。

「あら、カニの味噌汁ですか。いいですね」

 お母さんが笑みを浮かべた。

「うむ、美味いぞ。沢庵の缶も大量にある。安心されたし」

 ギリースーツの一団の隊長らしき人が、笑みを浮かべた。

「そうですか。楽しみにしています……さて」

 お母さんが呪文を唱え、そこで止まって無線の情報を傍受しはじめた。

「……頃合いですね」

 お母さんが笑みを浮かべると、アイリーンが出現した。

「なんだよ、もう……」

『犬姉』は首輪を外して、床に転がった。

「……もういっちょ」

 犬姉のお母さんが笑みを浮かべ、衛星電話を弄りはじめた。

 お父さんⅡが現れ、そのまま消えた。

「仕上げ!!」

 お母さんが服の襟に記章を付けた。

「これでもう、サロメテの長です。はぁ、清々しました」

 犬姉のお母さんが赤い電話のダイヤルをくるくる回し、誰かさんと会話をはじめた。

「サロメテ大隊、ミッションオーバー」

 お母さんがポケットに赤い電話をしまった。

 朝食が出来上がり、テーブルに並びはじめ、カニのいい香りが漂ってきた。

 みんなでいただきますをして、朝ご飯を食べはじめると、ギリースーツの一団が慌てた様子で玉子焼きを作りはじめた。

「あら、まだなにかあるのですね」

「失礼した。玉子焼きを賞味頂きたい」

 テーブルに玉子焼きが並び、みんな一斉に箸を伸ばしはじめた。

 ギリースーツの一団は、こっちの方がいいと床に伏せて、勢い良く食べはじめてあっという間に食べ終えた。

「よし、空いた皿から片付けだ!!」

 隊長が叫び、テーブルの空き皿をを回収して回り、お代わりを宣言した人には、丁寧に盛ったご飯をついで回った。

「師匠、急いで食べて!!」

「わ、分かった」

 もう僅かになった玉子焼きをスコーンが吸い込むように食べ、ビスコッティの箸が折れた。

「箸プリーズ!!」

 ビスコッティが叫ぶと、隊長が箸を投げ、ビスコッティがパシッと受け取って、ご飯をガツガツ食べはじめた。

「あら、玉子焼きがなくなってしまいましたね。では、味噌汁を頂けますか。というか、自分で取りにいきます」

 ようきろうを上げながら、お母さんが笑みを浮かべ、寸胴から味噌汁をお椀に注ぎ。テーブルに戻ってきた。

 ドバンと玄関の扉が蹴り開けられ、卵をカゴに入れたパステルとラパトが戻ってきた。

「はい、卵です!!」

 パステルとラパトは卵をキッチンにぶちまけた。

「おお、これはありがたい。おい、玉子焼きだ!!」

 隊長が叫び、ギリースーツの一団が卵を溶いて、玉子焼きを作りはじめた。

 パステルとラパトがテーブルに座り、ギリースーツが配膳をはじめた。

「……すっごい」

 パステルが呟いた。

「……ちょっと見ないとすぐこれだ」

 ラパトが苦笑した。

 こうして、戦争のような朝食は幕を閉じた。

「さて、お酒でも飲みましょうか」

 お母さんが大吟醸辛口のボトルを取り出した。

「師匠、辛口です。アルコール度高いです。飲んで下さい!!」

 どっかぶっ壊れたビスコッティが配られた升酒をスコーンの前に置き、スコーンの升酒を静かに飲みはじめた。

「……アルコール度89%です。飲めこの野郎!!」

 やっぱりどっかぶっ壊れたビスコッティが、スコーンに強引にお酒を流し込んだ。

「ビスコッティ、ある意味怖いよ!!」

 スコーンは小さなため息を吐いた。

 こうして、なんかよく分からない、朝も朝のお酒タイムが終了した。


 朝食も終わり、やんわり紅茶タイムになると、スコーンがスケッチブックを取りだし、変な表情を浮かべたビスコッティの顔をスケッチしはじめた。

「……やっぱ、変なの」

 スコーンが駆け寄ってきて、動物園に行きたいとニコニコしながらいった。

「うん、いこうか。ビスコッティ、なに変な顔してるの」

 私は笑った。

「……あっ、いけね」

 ビスコッティがオモチャを投げ捨て、慌てて近寄ってきた。

「全く……。さて、いこうか」

 私たちは玄関からバス停に移動し、ゴミ収集車がゴミを回収していき、辺りは静かになった。

「こりゃダメだ。自転車で行こう」

 私は家の隣にある車庫を開け、自転車を引っ張り出した。

「師匠は後ろに乗って下さい」

 ビスコッティがピンクの白玉自転車を引き出し、スコーンを荷台に乗せた。

「よし、いくよ」

 私は自転車のペダルをこぎ始めた。

「間違っても、時速百四十キロは越えないでね」

 私はインカム越しに笑った。

『頑張っても出ません!!』

 道路際のスーパーマーケットから、『タイムセール』の音が流れていた。

 私は自転車置き場にチャリドリして止め、店内に走っていた。

「……鮮魚か」

 私はカートにカゴを置き、そのまま出撃した。

 和やかなムードの中、貼られていく半額シールを目がけて全員の手が殺到した。

「……次は弁当」

 私は惣菜コーナーに走り、半額シールが貼られるのを待った。

 ギリースーツの一団も構え、お母さんまで待機していた。

 しばらく待つと、二人がかりで弁当に半額シールをが貼られ、取り合いの戦いが始まった。

「おっ、おにぎりまで半額」

 私はおにぎりをしこたま買い込み、満足してレンジャー部隊の隊員をカートで弾き飛ばし、混む前にレジに並んだ。

 会計を済ませ、Vツインエンジン音を轟かすビスコッティの自転車に近寄った。

「おや、やる気だね。でも、これから一雨降るかもね」

 空をみながら、黒板になにか必死で書いている頭ボサボサのお兄さんを見た。

「どう?」

「どうやって、降水確率90%だ。あと二時間後に大スコールだぞ」

 私は手を挙げて答え、家に向かって走りはじめた。

 自転車置き場にチャリを叩き込むと、ブッシュに隠しておいたガンヘッドの操縦席に飛び込んだ。

 メインブレーカーを入れて、エンジンに火を入れ、レーザー砲のテストをした。

 再び外に出ると二十ミリチェーンガンの砲身を一回転させ、曲がっていた5.56ミリ弾ライフル弾をちゃんとした向きに直し、ミサイルポッドをポンと叩いて運転席に滑り込んだ。

「……チャージ」

 私はギアを一速に叩き込み、前方を映す画面を見ながら超速で飛び出した。

「ガンヘッド、スタンディング・モード!!」

 走りながらガンヘッドの形状が変わり、立ち姿勢に変形したその途端、暴風雨が降り出した。

『遅い』

 ガンヘッドがポソッと漏らした。

「ごめんね、タイムセールで。リミッター解除」

 ガンヘッドが急加速し、速度メーターが百キロを軽く越えた。

「ガンヘッド、排除」

『ラジャ』

 ガンヘットが超新地旋回のようにクルッと回って20ミリチェーンガンをうち、バックのまま超高速で走り続けた。

「ガンヘッド、ロケットブースター逆噴射」

『チームメイトを惨殺ですか?』

「ユーガットバディ、ガンヘッド君。ぶっ壊せ!!」

『うむ、それを待っていた。あの毬栗頭の野郎』

 ガンヘッドはロケットブースターで五機、一気に逆噴射噴射した。

『そんなにタイムセールが大事ですか?』

 正対位置に戻ったガンヘッドが、ポソッと聞いた。

「確率なんてくそ食らえでしょ。それに、獲物はそれじゃない」

『ターゲット捕捉、ミサイル発射』

 発射された六本のミサイルがスーパーマーケットの壁に突き刺さり、一発がVツインをぶっ壊した。

 スーパーマーケット前で停止すると、待っていたビスコッティとスコーンが荷物を抱え、狭いながらもなんとか操縦席に体を沈め、ガンヘッドは走りはじめた。

 途中六十メートルくらいのザリガニが歩いていたが、なぜか私たちの後をくっついて走りはじめた。

 バイクのツーリストたちを追い抜き、白バイがサイレンを鳴らして接近してきたが、そのまま追い抜いて、姿が消えた。

「ガンヘッド君、タンクモードで」

『やっぱりこれっすね。姉御』

 走っている最中に形状が変わり、いかにも戦車っぽい姿に変わった。

「……しゅしゅしゅごい。研究しる」

 スコーンはそこら中をスケッチしばじめ、ビスコッティは……固まっていた。

『ところでどこにいくのだ?』

「動物園!!」

 私は笑った。

 後部モニターを見ると、サイレント赤灯をつけたエアロボットが、サイレン音も高く迫って着て、いきなりレーザーを発射した。

 ガンヘッドが中指をおっ立て、超新地旋回のように後方を向くと、勢い良くバックで走りはじめた。

「なに、またアイツきたの」

 いつの間にか混ざっていた犬姉が、ハッチを開けて砲塔に上っていった。

 広くなった操縦席で、私は煙草を吸ってバーボンのポケット瓶から、チビチビお酒を飲みはじめた。

「師匠、お酒まだ。なんかあったまきた!!」

 ビスコッティが自分のお股に挟んでいた酒瓶を取りだし、ガバガバ飲みはじめた。

 ガンヘッドが先頭を走り激しくレーザーを放ち、邪魔なザリガニを退けようと必死に応戦し、エアロボットが背後からくるエアロボットが放った荷電粒子レーザーがザリガニに当たっては弾き飛ばされ、ブチ切れたガンヘッドが75ミリキャノンをバカスカ撃ちまくったが、ザリガニが砲弾を全弾食してしまった。

 砲塔の上部からファイアボールが打ち出され、ザリガニが焦げた。

 スコーンが干し芋を食べながら呪文を唱えると、一瞬体が光りコックピットの壁を透過して、ザリガニに命中して、胴体と頭が切り離されたが、今度は分裂した頭と胴体が同時に追いかけはじめた。

「……しゅごい執念だよ。ビスコッティ、どうしよう」

「そういう時は固まらせるんです」

 ビスコッティが呪文を唱えて巨大雪だるまを作り、雪だるまがゆっくり動き始めた。

 しかし、炎天下のここでは本領発揮出来なかったようで、四歩歩いて崩れ去り、ザリガニに大量の雪をぶっかけた。

 動きが遅くなったザリガニが再び合体して、雪を蹴散らして進み始めた。

 ビスコッティがさらに呪文を唱え、スコーンが放った光の矢と相互干渉を起こし、風雪を纏った矢が、ザリガニを貫いた。

 縦に裂けたザリガニの動きが止まり、犬姉と誰かの銃弾が命中し、見事に外れた。

 ザリガニが元に戻り、ついにガンヘッドが20ミリチェーンガンを発射し、ビッグファイヤが乱射され、スコーンの光の矢がザリガニを貫き、ビスコッティのアイスゴーレムがボコボコ出現してザリガニを冷やした。

 私は無線を取りだし、動物園に連絡した。

「よし、受け入れ準備完了」

 私たちはザリガニから逃げ続け、ビスコッティが時々噴火して慣れない火炎呪文で焦がし、スコーンがもう頭にきて『アイアンレイン』をぶちまけた。

 しかし、ザリガニは伸びたり縮んだりしながら魔法や銃弾を避けまくり、監督がすっ飛んできて、一応攻撃魔法を放ったが、電撃が弾けただけで、ザリガニはむしろ加速した。

「こら、なにしにきた!!」

 外から犬姉の怒鳴り声が聞こえた。

「……イケる」

 スコーンが呟き、ド派手な稲妻混じりの竜巻がザリガニを包み、ザリガニはそのまま巻き上げられて動物園の方角に飛んでいった。

 ガンヘッドはバックから超新地旋回のようにバックから前方を向き、真っ白なレーザー光を発射した。

 しばらく進むと島巡りの都バスの上にザリガニが乗り、こちらに向けて威嚇ポーズを取った。ビスコッティがハッチを開けて酒瓶を風の魔法で超高速で飛ばし、弾かれたザリガニが地面を転がりながら、動物園のゲートの方に向かっていった。

 スタッフたちが総出で網を構え、転がっていったザリガニを捕獲して、園内に引きずっていった。

「ふぅ、死ぬかと思った」

 マリーが苦笑した。

 私たちはガンヘッドから降り、ガンヘットはブッシュに隠れた。

「な、なんだあれ?」

「恐らくザリガニの新種でしょう」

 ビスコッティが息を吐いた。

「さて、動物園に入ろうか」

 私は笑みを浮かべ、入園ゲートを潜った。

 少し後を付いてきたスコーンたちが、まず向かったのは緑色のキリンだった。

「なんで緑色なんだろう……」

 スコーンが柵を跳び越え、そっと近寄った。

「さて、私たちは他を回ろうか」

 私とビスコッティは、適当に園内を回った。

「さて、こんなもんでいいか」

 私は衛星電話をみて、文字情報を送った。

「『師匠』、次はどうしましょうか?」

「真っ直ぐ帰りでいいんじゃない。本当の王家専用機がくる頃合いだし」

 私は大笑いした。


 出口ゲートを通ると、私たちはバスに乗り家に戻る方向に向かった。

 途中、『マ○コウ前』のバス停で降りると、ギリースーツの一団がカゴを持って待機していた。

 私は小さく敬礼を送り、ビスコッティとカゴをカートに乗せて店内を歩きはじめた。

「お酒、お酒!!」

 ビスコッティが、自分のカゴ一杯に酒瓶を詰め込んだ。

「そんなに飲むと、肝臓に悪いよ」

「今さらです。これとデススラッシャの唐揚げが美味しいんですよね」

 ビスコッティが笑った。

 しばらくすると、タイムセールの曲が流れ、私たちは鮮魚コーナーに突撃した。

 とにかく半額になった物をカゴにぶち込み、私たちは即時離脱し、精肉コーナーに着陸して、また半額になったものを片っ端からカゴにぶち込み、下カゴと上カゴを入れ替え、根こそぎ売り場にあった肉を大量にカゴに放り込み。小脇に抱えていたマイバスケットをタッチダウンさせるために体勢を変え、レジに向かっていき、台にカゴをタッチダウンさせた、カートを着陸滑走させ、超速でバーコードをスキャンしていくおばちゃん三人体勢 ビスコッティが笑い、私は小切手帳を取り出した。

 会計を済ませた私たちは、駐車場に駐機していたブラックホークに飛び乗り、素早く離陸した。

 道路の上を超低空飛行で飛びながら、通りかかったバスの上に着陸し、程なく家が近づいてきて、私たちはヘリを家の脇に降ろした。

「ビスコッティ、行くよ!!」

「はい、師匠!!」

 食材とお酒がごっそり詰まったマイバスケットを家に運び入れ、ヘリにギリースーツを被せ、ガチガチに固く締め付けた。

 作業を終えた頃、チヌークヘリコプターがバタバタ飛んできて、懸吊していた木箱を降ろし、そのまま飛び去っていた。

 家からアメリアとシルフィ、ツユクサが飛びでてきて、大量の肉と魚、酒瓶を家に運び込む作業をはじめた。

「さて、私たちは王家専用機を迎えよう」

「はい、師匠は、しばらく研究しているでしょう」

 私はビスコッティを連れて空港の駐機場の片隅に座り、煙草を吹かした。

「ちょっと待って!!」

 家の前に止まったバスからスコーンが駆けてきて、穴ぼこに蹴躓いて転び、ビスコッティに体当たりして、ビスコッティの煙草を吹っ飛ばし、立ち上がりざまに私にローリング・ソバットをぶち込んできた。

「師匠、煙草無駄にしたじゃないですか!!」

 ビスコッティ、私をビシバシしてスコーンの頭を撫でた。

 しばらくして、空に着陸灯が見え、747-400が着陸してスラストリバーサーを一瞬吹かし、長い滑走路を着陸滑走していった。

 程なく、垂直尾翼にフィン王国の国章が描かれた747-400が駐機場に駐まった。

 白桜色に塗られた機体にタラップが付けられ、扉が開いた。

「さて、さっそく中を覗こうか」

 私は笑みを浮かべ、スコーンを先頭に階段を上った。

「いらっしゃいませ」

 CAさんたちが笑顔で向かいい入れてくれ、青色に塗られた機内は落ち着いた雰囲気に包まれていて、新品ような匂いがした。

「うん、突貫工事にしては仕上がってるね」

 私は笑った。

 落ち着いた音楽が流れ、バイオリンの音が心地よかった。

「……しゅ……しゅ……しゅ……しゅごい」

 スコーンがポカンとした。

「師匠、全席ファーストクラスのシートですよ。デカい機体だからこれができたんです!!」

 ビスコッティが興奮して、スコーンを投げ転がして踏みつけて、襟首を持って立ち上がらせ、ひたすらビシバシかまし、最後に回復魔法をかけて笑みを浮かべた。

「こら、はしゃがない。それにしても、またずいぶん広くなったねぇ」

 私は笑った。

 CAさんたちに席を案内をしてもらうと、スコーン、ビスコッティ、私は仕切りに囲まれたやたら広いシートに座り、前のモニターの電源を付けた。

 真下、正面、真上、真横、真後ろ、自分が分割されて映し出された。

 正面からプッシュバッカーⅡがバックでやってきて、トーイングバーを接続する様子が見えた。

「あれ……?」

 地上クルーが大慌てで何かをする様子がみえた。

 私は無線のスイッチを押した。

「おーい、ツユクサ。なんかなってない?」

『はい、飛行機の車輪がグリグリ動いて大騒ぎしています』

 私は苦笑した。

「また猫……」

 やがてプッシュバッカーⅡが動き出し、飛行機をバックさせ、駐機場のラインに乗せた。

 エンジンが始動し、滑走路に737-500ERトロピカル塗装一号機と二号機が並んでスムーズに離陸していき、青色の747-400がタッチアンドゴーしていった。

「あれ?」

 私は手帳を取りだし、予定をみて小首を傾げた。

「まあ、いいや。どっかでみた塗色だけど、ここにいるわけないか」

 私は苦笑した。

 プッシュバッカーⅡがトーイングバーごと離れて行くと、飛行機はゆっくり前進をはじめた。

 誘導路を走り、滑走路エンドに到着すると、センターラインからやや右に画面に映し出された。

 エンジンの金切り声が高まり、機体がゆっくり加速し一気に滑走路を駆け抜け、空に舞い上がった。

 ある程度高度が上がると、左右を映し出している画面に737-500が一機ずつ並びなぜか、トムキャッターズ全機がくさび形に並んで飛んだ。

 夕焼け空に多数の飛行機を従えた747-400は、優雅に島の上の旋回し続け、程なく737-500が二機離脱して飛び去っていった。

 トムキャッターズが両サイドを固め、フレアをばら撒いて離脱していった。

 一機になった747-400が直角に旋回し、派手な右バンクで一回転し、離れていたトムキャッターズ全機がループしながら、トンネル状の軌道を描きはじめた。

 その中心を747-400が通過していき、大きくループしてスモークを炊いた。

 夕焼けに照らされた海面に空母が見え、水平の彼方に白波を立てて遠ざかっていった。

「……なにやってんの」

 私は頭を掻きながら、予定表を引きちぎった。

 トムキャッターズ全機が一斉に母艦に向けて飛んでいき、私は小さくため息を吐いた。

「……せっかく準備したのに」

 私はもう一度ため息を吐いた。

 こうして、お披露目フライトが終わった。


 白桜色の飛行機のタラップを降りていくと、滑走路に薄ピンク色の747-400が着陸し、私たちが乗った一号機に整備員の皆さんがプッシュバッカーⅡに分乗して集まると、第一エンジンと第三エンジンのカウルを開けて整備をはじめた。

「あれ、もうぶっ壊れたの?」

 スコーンが声を上げた。

「そうだな……まあ、大した故障じゃなさそうだね。工具箱もってるだけだし」

 私は笑みを浮かべた。

「そっか、ならいいけど……」

「うん、しばらく時間が時間が掛かりそうだし、家に行こう」

 私たちはバスに乗って家に戻った。


 まだ早い時間なので、みんなそれぞれゲームボーイを持ってゲームを楽しんでいた」

「大戦略やってるけど、対戦する?」

 犬姉がニヤニヤしながら、お母さんを見つめた。

「あら……でも、ゲームは苦手なのです。あなたが全てのステータスをゼロスタートで私がフルならお付き合いしましょう」

「いいよ、やろう!!」

 犬姉のお母さんがピンクに塗装したゲームボーイを取りだし、通信ケーブルを犬姉の青いゲームボーイに接続して、お互いに電源を入れた。

「スモールアイランドでいいね。さて」

「いいでしょう、戦場は任せます」

 お母さんが笑みを浮かべ、犬姉がグッドラックといい放つとゲームを開始した。

 スコーンとビスコッティがテトリスで延々と対戦を続け、ビスコッティがひたすら勝ち誇った笑み浮かべ、スコーンがニヤッと笑みを浮かべては、真面目にポチポチしていた。 マルシルが無線で隣にいるアメリアと会話を続け、なぜかリナとナーガがひたすら高笑いをやっていた。

 私は無線と手に、パステルのチャンネルに合わせた。

「おーい、もう夜だぞ。帰ってきて!!」

『はい、ラパト急いで!!』

 私は無線の電源を切り、充電器に繋いで一息吐いた。

 玄関の扉が蹴破られ粉々になって転がり、巨大なカエルがのそっと列をなして入ってきた。

「ああ、もうこんなに育っちゃって!?」

 ツユクサが慌てて呪文を唱え、巨大カエルを小さくしていき、私が中華鍋に油を引いて加熱すると、ツユクサが小さくしたカエルを次々に私の鍋に放り込んでいった。

 全て終わった頃、玄関にフラッシュバンが放り込まれ、ポンと爆ぜる音が聞こえ、フィン王国海兵隊の隊員が笑って入ってきた。

「おい、カエル養殖池がパンク寸前だぞ。半分待って帰るからよろしくな」

 一人がそれだけいい放ち、他の隊員が大量にカエルが入った網を背負って去っていった。

「あっ、見てきます」

 ツユクサが慌てて粉々に砕けた扉の破片をさらに踏み潰し、しばらくして大量のカエルを抱えて持ってきた。

「ここはいい土地過ぎて、育ちが早いようです。あとは私がやります」

 ツユクサが私が振っていた中華鍋にカエルを入れて柄を掴み、紹興酒を振りかけ炒め始めた。

「うん、よろしく」

 私は笑みを浮かべ、リビング? のソファに座って、衛星電話を取り出すと、父王への嫌がらせメッセージを送りはじめた。

「……このオヤジ。ついにあの魔道関数を解いたな。ならば、これでどうだ」

 私は衛星電話のボタンで『禁術』から一個引いた変な数式を打ち込み、『これを禁術にしない魔法にしろ』と最後に付記して笑った。

 衛星電話のアンテナの向きを変えて電源を落とし、充電器にセットすると煙を吹き出した。

「なんだよ、またぶっ壊れたか」

 私は煙を噴いた衛星電話を布巾で包んで充電器から外し、予備の衛星電話を充電器に差しこんだ。

「ったく、これどうするかな……」

 私はぶっ壊れた衛星電話を魔法で燃やして葬り、ミニバーに移動して、グラスに適当にお酒を注ぎ、トマトを丸ごとねじ込むと、ストローを取り出してトマトに刺し、ソファに戻った。

「うん、微妙に美味い。なんでもやってみるもんだね」

 私は笑った。

「ダメです!!」

 ビスコッティが私のトマトスラッシャーを奪い、ブラッディーマリーを作りはじめた。

「……結構面倒なお酒だったんだね。取りあえず、レモンサワーでも飲んで待とう……」

 私は服のポケットからキ○ン鬼おろしレモンサワーの缶を取りだし、プルトップを開けた瞬間、熱湯のようなお酒が吹き出し、頭から被った。

「ごめんなさいは?」

 空き缶が喋った。

「……ごめんなさい」

 空き缶はえくぼが浮かぶほど笑みを浮かべた。

 私は空き缶をゆかに置いて蹴り飛ばし、部屋の隅似合った西瓜に缶にめり込み、転がった西瓜がビーチボールに命中し、リングサイドの端に転がって止まった。

「師匠!!」

 ビスコッティがお酒を作り終わり、スコーンを担いでリングサイドに移動し、靴をぬがしてブーツをリング上に置いた。。

「な、なに!?」

「試合です。海兵隊のミカが、もう仕上がって待ってます」

 反対側では、ブーツを手にはめた、筋骨隆々の女がトランクス一枚で立っていった。

「……変なの」

 スコーンはビスコッティに両手にブーツを填めてもらい、リングサイドに置いてあったビーチボールを手に取った。

 試合開始の土鍋が鳴り、ミカがスコーンに襲いかかった。

 スコーンはビーチボールでミカを弾き飛ばし、吹っ飛ぶかと思いきや、ビーチボールを破裂させて、右ブーツをスコーンに叩き込んだ。

「ぐぼぉ?」

 頭に突き刺さったミカのブーツを逆に跳ね返し、スコーンは右足ブーツをミカの脇腹に叩き込んだ。

 攻守の入れ替わりが激しく飛び交い、第一ラウンドが終了した。

 ビーチボールが赤コーナーに置かれ、青コーナーにはヒマワリが置かれた。

 スコーンがヒマワリを取り、ミカがビーチボールを小脇に抱えてニヤリと笑った。

 第二ラウンドがはじまり、スコーンが一瞬消え、ヒマワリをミカのトランクスに刺して元に戻した。

 ミカはヒマワリ引っこ抜き、口に咥えると一瞬姿が消え、スコーンの頭頂部にヒマワリを突き刺した。

 スコーンはニヤッと笑みを浮かべ、ヒマワリを刺したままリング中央でお互いに睨み合い、ファイティングポーズを取った。

 出会い様の一撃でスコーンの右ブーツとミカの左ブーツがお互いの顔面にめり込み、転がっていたビーチボールをミカが拾い上げ、ビーチボールにボディを入れると、スコーンの顔面に叩き込んだ。

「……効かねぇな」

 スコーンがニヤッと笑み浮かべ、ビーチボールに左ブーツと右ブーツでワン・ツーを決め、ブーツのトゲトゲでビーチボールを粉砕した。

 ミカが踵落としに見せかけたフェイクをかけ、スコーンのミドルにブーツを叩き込んだ。

 スコーンが一瞬揺らぎ、そこにミカのブーツスラッシャーがボコボコに炸裂して、スコーンがマットに沈んだ。

 ラパトが出てきて三カウントを取り、ミカのKOで試合の幕は閉じた。

「あーあ、こりゃ大変だ。キム、出番だよ!!」

 マットの真ん中に穴が開き屈強な肉体をしたお兄さんが、ギター片手に上がってきた。

 セコンドにギターを預け、誰かギターの弾き語りをはじめ、別の人がキムの両手にブーツを装着し、キムは顔をバンと叩いてリング中央に向かって歩いていった。

 リング中央でミカと睨み合い、お互いに離れていった。

 開戦のゴングが鳴り、ミカがヒマワリを手に取り、キムがビーチボールを手に取って、ド派手なジャンピングビーチバレーサーブをミカに叩き込み、ミカはヒマワリでそれを弾き飛ばし、リング外に吹き飛んで、犬姉の顔面にめり込んだまま止まった。

 それはさておき、リング上ではキムとミカの激しいブーツの応酬が続いていた。

 そのうち、ゴキっと音がして、ニジンと背中に名前を彫った海兵隊の隊員がマットの真ん中に沈んだ。

「ダメだよ、割り込んだら」

 私はノートパソコンの金額表示をみながら呟いた。

 リング上のニジンを無視するどころか踏み台にして、ミカがブーツメガショットスラッシャーをキムに叩き込み、一瞬膝を突いたキムがオメガブッシュギガスラッシュをミカにぶち込んでKOに追い込んだ。

「……あかん、勝ってもうた」

 キムが呟き黙ってリングを下りていき、セコンドにブーツを取ってもらって、ギターを片手に弾き語りをはじめた。

「……ぶっ殺す」

 それだけ言い残し、ミカはリングを下りて、キムに近寄っていき、頭にヒマワリを突き刺して、そのまま玄関から外に出ていった。

「あーあ、終わっちゃった。カルガリーがまた負けたか。ざまみろ」

 私はノートパソコンの画面を見て、笑みを浮かべた。


 夜になって、ツユクサのサポートに入ったパステルとラパトが激しく動き回る中、ジェットエンジンの轟音が何度も聞こえはじめた。

「おっ、試験はじめたな」

 私が家から出ると、スコーンがついてきた。

 滑走路に何度も離発着を繰り返す747-400は、やがて駐機場に入ってきた。

 国営航空の深緑色の機体が入ってきて、タラップが接続されると中から制服を着た猫とひげ面のひょろ長い男性が下りてきて、パンクした前輪を蹴飛ばし、近寄ってきた整備員一同に報告をはじめた。

「あーあ、猫機長荒れてるな……。スコーン、あの猫は機長だから、おちょくったらダメだよ」

「ね、猫が機長なの。怖いよ!?」

 スコーンが猫の機長に向かって突撃していった。

「ん、あれが噂の猫の機長か。おちょくってやろう」

 犬姉が出てきて、開けたままの駐機場のフェンスを通って駐機場に移動した。

 飛行機にプッシュバッカーⅡが接続され、全員がこちらに移動してくると、飛行機がプッシュバックされていき、誘導路を走ってひたすらタッチアンドゴーを繰り返しはじめた。

 猫の機長とコパイロットは、家のすぐ近くにいつの間にか出来ていた小屋に入っていった。

「ん、面白かった」

 犬姉は笑みを浮かべ、家に入っていった。

「しゅごい面白かった!!」

 スコーンが笑顔を浮かべ、出てきたビスコッティをブーツで殴った。

「私も呼んで下さい。寂しいじゃないですか」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「なにも殴る事ないじゃん!!」

 スコーンはビスコッティのお股を思いっきり蹴り上げた。

「ふぎゃぷ!?」

 ビスコッティがうずくまり、犬姉が出てきてガシガシ蹴りを入れて、再び家の中に入っていった。

「なにやってるの」

 私は苦笑して、スコーンを後ろから抱きしめた。

 なにを血迷ったか、検査用の747-400がひたすらタッチアンドゴーを繰り広げながら、夜空に各種灯火類を添えていた。

「ねぇ、あれなにやってるの?」

 スコーンが、不思議そうに問いかけてきた。

「まあ、ちゃんと使えるかの検査なんだけど、これやり過ぎだよ。まあ、損はないけど念が入り過ぎ」

 私は苦笑した。

 やがて検査機は滑走路に着陸し、誘導路を念入りに走りはじめた。

 しばらく見ていると特に問題はなかったようで、検査機は離陸してどこかに向かって飛んでいった。

「うん、これでいいね。問題なく、王家専用機を使えるよ」

 私は笑みを浮かべた。

「そうなんだ。じゃあ、このバカでかい飛行機に乗っても安心なんだね」

 スコーンが笑った。


 家に入ると、監督が家の扉を手作業で直していた。

「うむ、もうちょっと待っていろ。少々歪んでいてな」

 監督が笑みを浮かべ、トルクドライバーでビスを締めていた。

 芋ジャージオジサンたちが邪魔なリングを片付けはじめ、キッチンで調理器具の洗浄をはじめていて、テーブルには大量のカエルの足の白焼きが置かれていた。

 ギリースーツの一団がキッチンからせっせとお皿を運び、マンドラがフォークを並べていた。

「頭にきたので、お酒作ります!!」

 ビスコッティがバーカウンターでお酒を作りはじめ、透明のカクテルグラスに入れてオリーブを添え、テーブルの上に並べはじめた。

 食事の準備が整う間、私は両手にブーツを填め、空打ちをはじめた。

 スコーンがバーカウンターに向かい、隅っこでオレンジジュースをグラスに注いで、がぶ飲みしはじめた。

「よし、これで飲めるよ!!」

 スコーンが笑った。

「そういえば、師匠は必ずお酒を飲む前にオレンジジュースを飲みますね。お酒を分かってます」

 ビスコッティが、笑みを浮かべた。

「そりゃ分かるよ。ってか、ビスコッティが教えてくれたんじゃん」

 スコーンが笑った。

「そうでしたっけ。まあ、いいです」

 ビスコッティが笑った。

「なに、キールロワイヤル?」

 犬姉が笑った。

「はい、得意技なので」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「やるね。さて、メシ!!」

 犬姉がテーブルに付き、監督一同も揃ってテーブルに付いた。

 配膳が終わったギリースーツの一団もテーブルに付き、しばらくして全員がテーブルに付いた。

 全員でいただきますをして、カエル料理を食べはじめた。

 私は無線で飛行機の乗務員に確認の連絡を入れ、お酒を飲んだ。

「よし、いつでも出られるね」

 私が笑みを浮かべると、ツユクサの頭に乗っていたトノサマガエルが、なぜかいきなりブレスを吐いた。

「ぎゃあ、なにこれ!?」

 髪の毛に燃え移った火をパタパタ消して、ツユクサは頭の上にへばりついているトノサマガエルを追い払おうと必死になっていた。

「……しゅごい。研究しる」

 スコーンがツユクサに近寄ると、トノサマガエルが攻撃魔法を放ち、スコーンをボロボロにして、さらにブレスを吐いた。

「お、お、面白い!!」

 スコーンがトノサマガエルを突くと、極大のブレスが吐き出され、ギリースーツの一団が燃え上がったがすぐに炎は消えた。

「この、取れろ!!」

 ツユクサが無理やりトノサマガエルを引き剥がそうともがいたが、しっかりへばりついたトノサマガエルはブレスを吐き続け、さらに攻撃魔法で私をボロクソにした。

「こうなったら……」

 ツユクサがブーツで引っぱたいたが、トノサマガエルはケロッとした顔で鳴き始めた。

「……ダメです。この子をを剥がさないと」

 ツユクサは食用油をトノサマガエルにかけた。

 トノサマガエルが逃げ出し、修理中の玄関の扉から跳んで出ていった。

「ふぅ、なんだあれ……」

 ツユクサが小首を傾げた。

「ああ、待って。逃げないで!!」

 スコーンがテーブルに戻り、早食いでカエル料理を食べると、玄関から出ていった。

 しばらくして、真っ黒焦げのスコーンが帰ってきて、捕まえたらしいトノサマガエルを頭に乗せて、ゆっくり食事をはじめた。

「ツユクサ、色々弄ったらブレスとか攻撃魔法を放たなくなったから、これも料理して!!」

「はい、分かりました」

 ツユクサはスコーンからズタボロのトノサマガエルを受け取り、キッチンで捌きはじめた。

 こうして、夜のゆっくりした時間は過ぎていった。


 しばらくみんなで食後のお酒を飲み、私は時計を確認した。

「さてと、慌ただしいけど、そろそろ帰らないとまずいよ。大丈夫?」

 私が声を掛けると、特に異存はなかったようで、みんなが支度をはじめた。

 急にがらんとした室内で私はエアコンを消し、掃除機をかけた。

 みんなの準備が終わると、私たちは外に出た。

 バス停で駐まっていた大型バスに乗り込み発車すると、しばらく道路を走って空港のターミナルビルに到着した。

「ショボいけど、一応ここが空港の玄関口ね。えっと……。

 私たちは係員が開けてくれて待っていた団体専用ゲートを通り、ボーディングブリッジを通って飛行機に乗り込んだ。

 笑顔で迎えてくれたCAさんに笑みを向け、私たちは案内された席に座った。

 黒い革張りのシートは真新しい香りがして、私は正面のスクリーンをみた。

 外の景色が映し出された映像が変わり、緊急時の脱出手順などが入って、再びスクリーンに外の景色が映し出された。

 私が手元のスイッチを操作すると、いきなり大画面にスコーンがスコーンのリ塩味を食べている様子が映し出された。

「な、なんじゃこりゃ!?」

 どこかでスコーンの声が聞こえた。

 私はさらに操作すると、ギリースーツの一団がようやくギリースーツを脱ぎはじめ、まともな格好でシートに座っている様子が映し出された。

 飛行機がプッシュバックされ、スクリーンが外の景色に変わり、ボーディングBGMが微かな眠気を呼び起こした。

 エンジンが始動し、誘導路を通って滑走路に入り、しばらく止まってから離陸滑走をはじめた。

 かなりの距離を走ってから、飛行機は夜空に舞い上がった。

「さて、六時間だっけか。ゆっくりしよう」

 私は笑みを浮かべた。

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