第19話 8JO

 島から帰ってから、スコーンの元気がなかった。

「……はぁ」

 ベッドに座って窓の外を見ながら、スコーンはため息を吐いてばかりだった。

 七のつきに入り、本格的な雨期に入り旅もろくにできず、私も気が滅入るのは事実だったが、スコーンの落ち込みようはちょっと深かった。

「下の食堂でカエル料理を作ってもらっています。元気出してください」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「ありがとう。元気だよ」

 スコーンが弱々しい笑みを浮かべた。

「そうですか……」

 シャドウラが小さくため息を吐いた。

「よし、空港に行こうか。ビスコッティ、車よろしく」

「はい」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、宿の主人の車を借りるべく、階下へと下りていった。

「よし、スコーン。ニューフェイスを見にいこうか」

 私はスコーンの手を引いた。

「うん……YS-11がいいな」

 スコーンが小さく息を吐いた。

「まあ、似たようなもんだよ。クソボロいのは確かだし、ジェットエンジンに変わっただけだから」

「そっか、クソボロいならまだいいや」

 スコーンが小さく笑みを浮かべた、

「よし、いくぞ。ビスコッティが、さっきからクラクション乱打してる」

 私は苦笑して、スコーンと部屋を出た。


 外に出ると、派手な土砂降りだったがパ○ェロ(幌車)だったので問題なかった。

 扉が二枚しかないので、私が助手席側から狭い後席に座り、左の助手席にスコーンが座った。

「師匠、行きますよ。このスーパーセレクト4WDが難しい……」

 ビスコッティが一速にいれ、車が走り出すと同時にシフトレバーを二速に叩き込んだ。 ガラガラいいながら、泥まみれであちこちヘコんだ車は走り出し、そのまま空港への道に入った。

 リフトアップされたパ○ェロは、カーブで車体を傾けながらアスファルト舗装された真新しい道を走り、ピカピカに磨き上げられた黒塗りの車列が対向車線を走っていって、なにを思い出したか、いきなり先頭車両がJターンして、車列の向きが変わり、私たちのスコップ付きスペタイヤの後ろに付いた。

「な、なんですかね、師匠?」

「知らないよ、またビスコッティのお父さんとお母さんじゃない?」

 スコーンが俯いて、小さくため息を吐いた。

 空港が見えてくると、ビスコティはフェンスの裏門を攻撃魔法で破壊し、遮断棒をへし折ってボキボキにして道を空け、車列を率いて無線のマイクを取って、どこかと交信しはじめた。

 離発着するジェットエンジンの音が響く中、私たちは大きな格納庫の前で止まった。

 格納庫の大扉は開いていて、薄ピンクに塗られた白水玉模様のジェット機が二機格納されていた。

「……しゅごい」

 スコーンが呟いた。

「降りよう。気に入るといいけど」

 ビスコッティがクラクションを鳴らし、機体のステップが地面に下りた。

 私たちは車を降り、スコーンがダッシュで機体を見にいった。

「あっ、椰子の木マーク!!」

 機体の中心に赤い椰子の木を模したステッカーが貼られ、機体を一周しているようだった。

 垂直尾翼にも赤い椰子の木マークが張られ、カーゴルームの扉が開けられると、大量の椰子の実が木箱に詰められていて、整備員一同が大笑いした。

「……もう一度、しゅごい」

 半ば思考硬直状態なスコーンの手を引っ張って機体をグルッと回ると、反対側から延びてきた赤い椰子の木マークが地面に立っている様子が描かれていた。

「ステップが下りているから、中に乗ってみようか」

 私はスコーンの手を引っ張り、喫煙コーナーでお父さんの説教を食らっているビスコッティを置いて、私たちは機内に入った。

 機内はウッド調の壁紙で統一し、なぜか白水玉が描いてあった。

「……もう一回、しゅごい」

 新品の革の匂いが漂う黒いシートに手を触れ、私はワックスの効き具合を確認した。

「問題なし。スベスベで気持ちいいよ。これで、鞭でも作ってもらって、二人でビスコッティをビシバシしない?」

 私は笑って、百四十センチの一本鞭を二本取り出し、一本をスコーンに渡した。

「ほら、名前まで彫ってある。無理いって天○助さんに作ってもらったんだよ」

「もう一本ないの?」

 スコーンが笑った。

「あるよ、ちみっこいの!!」

 私は笑って、ちっこいキーホルダーをスコーンに手渡した。

「これビスコッティにあげよう。喜ぶよ」

 スコーンは空間ポケットに鞭をしまい、ちっこいキーホルダーだけ手に持った。

「やれやれ……」

 私は苦笑して、同じようにポケットにしまった。

「あっ、そうだ」

 スコーンがトイレの確認をはじめ、うひゃっと声を上げた。

「お湯出る、これだよ。これが欲しかったんだよ!!」

 スコーンが洗浄水を出しっ放しで、トイレから駆け出てきた。

「スコーン、お湯止めて!!」

「あっ……」

 スコーンが慌ててトイレに駆け込み、洗浄水を止めた。

 残り二つのトイレを確認すると、スコーンはシートの一つに座った。

 私が無線で連絡すると、APUに電源が入れ替わり、微かにジェット音が聞こえてきた。「おーい、犬姉。メインを吹かすなよ!!」

 私が開けっぱなしのコックピットに向かって叫んだ。

「うるさい、早く吹かしたいんだよ。まあ、今はやらないけど。このグラスコックピットどうにかなりそうだな。第一エンジンの故障が多いな。まあ、片肺飛行も楽しいからいいや」

 犬姉が笑った。

「マリー、片肺飛行って?」

「エンジンが片方止まっちゃった状態で飛ぶ事。希にある」

 私は笑みを浮かべた。

「それってヤバくない?」

「だから、エンジンが二機付いてるんだよ。ある意味ね」

 私は笑った。

「まあ、YS-11もたまに片方のプロペラが止まっていた時もあったしね」

 スコーンが笑い、私は記憶を辿った。

「……あったっけ?」

「うん、二回に一回はどっちか止まってたよ。たまに白煙吹いてたし」

 スコーンの言葉に、私は背筋が寒くなった。

「こ、今度は平気……かな」

 私は衛星電話を取りだし、慌ててどっかのボケジジイに文字情報で、文句をぶつけた。

『知らん。比較的まともなヤツをチョイスしただけじゃ』

 私は衛星電話を床に叩き付け、踏みにじってから拾い上げて、筐体をフーフーして泥を落とした。

「マリー、どうしたの?」

「うん、なんでもない。確認が終わったら、家に戻ってマクガイバーでもやろう」

「うん、遊ぼう」

 私は無線を取った。

「パステル、準備できた?」

『はい、階段部分はバッチリです。あのレーザーがどうしても……ガンヘッド507も置けとか、エアロボットも置けとか、それは難しいです。床が抜けてしまいます』

「乗せて動かすのよ!!」

 私は無線の電源を切った。

「じゃあ、スコーン行こうか」

「うん!!」

 私たちは、まだ説教が続いているビスコッティを置いて、パ○ェロに乗り込み、先行するジムニーの後をついていった。

 マッドタイヤのゴツい音がする車二台は、真新しいアスファルト路面を走って、宿に向かって走っていった。

 まだ片側車線が工事中で、誘導員が赤い棒を持って誘導していたが、それを無視してガタガタと

 荒れ地を走るうちに、先行するジ○ニーがスタックした。

 私は車の速度を落とし、前方にあるカンガルーバーでジム○ーのケツを押して、無理やり押しだし、ハザードでサンキューサインを送ってきたジ○ニーが急坂を下りたところで、後方に付いているウィンチのフックを手に取った。

 私は車が通るラインを見極め、地面に埋まっている岩を慎重によじ登り、後方の片輪が空転して動けなくなったところで、パッシングして合図を送った。

 トリプルラインでワイヤを張り、ゆっくりジリジリ進んでスタックから抜けたところでワイヤをダブルラインに張り直し、少し早く進みはじめたパ○ェロのタイヤを強く蹴り押した。

 無事に難所を越え、ジムニ○がウインチを外すと、そのままスペアタイヤにワイヤーを巻き付け、ゆっくり走っていった。

 まあ、そんなこんなで荒野を抜け、泥まみれさらに増えたへこみだらけで、まあ新しいアスファルト道路に泥を刻み、私たちは空港連絡道から街道を跨ぎ町に入った。

 宿の前で待っていたオヤジに車のキーを放り、私が後方でスコーンが前方を歩く布陣で、スコーンが階段に足を乗せた瞬間、壁から矢が発射され、その右足を貫いて飛んでいった。

「ぎゃあ、なんじゃこりゃ」

「でたな、ベーシックなパターン」

 私はスコーンに回復魔法を掛けた。

「なにこれ!?」

「さぁ、宿のサービスじゃない?」

 スコーンが次の階段を踏むと、いきなり金だらいが落ちてきて、私の頭にヒットした。

「……いてぇ」

 私は金だらいでスコーンの頭をぶん殴り、そのまま投げ捨てた。

 スコーンが慎重に次の段に足を載せると、天井から無数の槍が降り注いだが、階下の食堂の床に突き刺さった。

「……本気でやったな」

 私はニヤッとした。

「ビスコッティ……じゃなかった。マリー、これなに?」

「いいから早く登りなよ。どうも嫌な予感がする」

 私はそっとエクスカリバーを抜いた。

 階上の廊下に出ると、二台の巨大なメカが横並びで待ち構えていた。

「うわ、なにあれ!?」

「……これが、パステルの本気か」

 私はこっそり冷や汗を拭いた。

 しばらく睨み合うと、メカたちが勝手に戦闘をはじめた。

「……しゅごい」

「……しゅごい」

 私とスコーンは目を丸くした。

 一応入り込む隙を探ったが、なかなか隙のない動きでボシュボシュうるさい方に、スコーンの攻撃魔法が炸裂し、応射の青白い光りがスコーンの頭上を掠めて背後の壁に大穴を開けた。

「まともに食らったら死ぬよ!!」

 私は渾身のパワーで十枚重ねの結界を展開した。

 砲弾と光線が結界を弾き、私は攻撃魔法をありったけ放った。

 スコーンもバカスカ低威力の攻撃魔法を撃ちまくり、どっちを味方すればいいかわからなかたっので、とにかく攪乱に徹した。

「パステル、ノリノリだねぇ」

「なに、パステルの仕掛けなの。あんなボロッコイデカいマシーン」

 私とスコーンは笑い。〆の一発で『エアロボット』に狙いをさだめ、へカートⅡで同時に射撃し、三つある『目』のうち二つを潰した。

「あと一個!!」

 私は手に持ていたエクスカリバーを振り下ろし、緑色に光る線がエアロボットを直撃して、真っ二つに叩き割ったところで戦闘は終わった。

 行き着く暇もなく、宿の天井がぶっ壊れ、チヌークヘリコプターがバタバタと飛んできて、ガンヘッドにワイヤを掛ける作業をはじめ。そのまま懸吊されて外に出ていった。

「いいねぇ、こういうノリ!!」

 私は笑った。

「なんだ、あとでパステルをビシバシしないと。これどうするの?」

 土砂降りの雨が穴の開いた屋根から入り込み、現場はなかなか荒れていた。

 私は無線を取った。

「監督、終わったよ!!」

『はい、分かりました』

 オレンジ色の繋ぎを着たいつもの監督が、屋根を即座に直し雨は止まった。

「おや、思ったより荒れてないね」

 宿のおばさんが階段を上ってきて、大きな笑い声を上げた。

 私はこっそりクローネ紙幣を渡し、オバチャンはそのまま階下に下りていった。

「さて、部屋で休もうか。ビスコッティは時間が掛かると思うよ。お父さんのアタッシュケース一杯に、カエルを詰め込んで送り出したみたいだから」

 私は盛大に笑ったのだった。

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