第13話 帰還

 翌日早朝、大きなジェットエンジン音が響いた。

「あっ、そろそろ次の場所にいくのかな」

 私はハンモックを下りた。

「おはようございます。私はそろそろ次の外遊先に行かねばなりません。またお会いしましょう」

 フェメールは軽く王室式の挨拶をすると、玄関の扉を開けて外に出ていった。

「おはよう、やっと緊張が解けたよ。くるならいって」

 早起きパトラが笑った。

「そういう人でしょ。今日はキュウリ蒔くの?」

「うん、やっと畑の整備が終わったから、朝ごはんの後に蒔くよ。昨日のカレーが残ってるから、さっそく温め直さないと……」

 パトラがキッチンにいって、カレーを温めはじめた。

 そのうちカレーの香りが漂いはじめ、みんなが起きだしてきた。

「みんな、今日はキュウリの種まきだって。なにせ、畑を広く作ったから、パトラ一人じゃ一日で終わらないと思うから、嫌じゃなかったら手伝って!!」

 私は笑った。

「うん、手伝って欲しいな」

 パトラが笑みを浮かべた。

「はい、生長が早いので、蒔くそばからどんどん育ってしまうのです。里では迷惑だから、畑を半分にしろという苦情がたまにくるのです。大味に見えて繊細な味なので、皆さん楽しみにしていて下さい」

 私は呪文を唱えた。

 様々なサイズの長靴が天井から降ってきて、玄関を埋め尽くした。

「あとは麦わら帽子だね。えっと……滅多に使わないからなぁ」

 私が呪文を唱えると、大量の麦わら帽子が家の中を埋め尽くした。

「どわぁ!?」

 スコーンが声を上げた。

「みんな、好きなサイズを選んで。終わったら、キンキンに冷えてやがるビールを飲もう」

 私は笑い、靴箱から専用の白い麦わら帽子を被った。

 みんなが長靴を選びはじめ、フィン王国国章が入った麦わら帽子を被った。

「あとはスラーダとパトラに任せるよ。よく分からないキュウリだし」

「うん、分かった。そんなに難しくないよ」

 パトラが笑みを浮かべた。

「育ったらヘタを切ってね。じゃないと、収穫後もどんどん育って長くなりすぎちゃうから」

 パトラが笑みを浮かべた。

「ビスコッティ、ヘタってどこ?」

「はい、分かりません」

 ビスコッティが普通のキュウリが載った辞典を取り出し、小さく笑った。

「分かった。枝についてる方だね」

 スコーンが園芸用のハサミをカチカチやりながら笑った。

「じゃあ、準備が出来たらいこうか」

 私は笑みを浮かべ、スラーダとパトラを先頭に、家の外に出た。


 森を切り拓いて作られた広大な畑は、すでに耕されて畝も六つ出来ていた。

「昨日頑張って作ったんだ。十二人でやればすぐだよ。ばら撒きっていって、畝の上にばら撒くだけで、勝手に発芽して育つから楽だよ」

 パトラが笑った。

「そうなんだ。みんなやるよ!!」

 六名ずつに分かれ、畑の両サイドからみんなで蒔きはじめた。

 種を全て蒔き終わると、パトラがジョウロを人数分召喚した。

「水はそこの水瓶に用意してあるから、嫌じゃなかったら水を蒔いて欲しいな。やらなくてもいいんだけど、やった方が効率がいいから」

 パトラが笑った。

「よし、やるか。しかし、デカいジョウロだね」

 私は大きなジョウロに水を汲み、その凄まじい重さに盛大に転けた。

「これは過酷だね。あんまり海兵隊ばっかり迷惑かけてもな……。でも、これはちょっと無理だ」

 私は苦笑した。

『無人偵察機で確認した。今度は、水まきか。よし、いくぞ』

 無線でコマンダーの声が聞こえた。

「こりゃ大変だ」

 私が苦笑すると、種を蒔いたキュウリが次々と発芽し、枝はを伸ばしはじめた。

「十分で育っちゃうよ。でも、そのあとの水まきが大事なんだよ」

 パトラが呟いた時、泥だらけの軍用小型車が畑の脇に止まり、乗っていた六人の海兵隊員が次々に飛び降り、地面に置いてあったジョウロに水を汲み、素早く畝ごとに水を撒きはじめた。

 大量に実を付けたキュウリが勢い良く育ち、あっという間に畑を占領した。

「あっ、早く水まきしないと!!」

 パトラがジョウロを取り、水をくみ始めた。

 六名の海兵隊隊員も慌てて車から飛び下り、三つある水瓶にジョウロに水をくみ始めた。

「あぁ、こりゃ人手不足だ」

 私はインカムのトークボタンを押した。

「コマンダー、急いで増員して。間に合わない!!」

『了解した。何人だ?』

「このペースだと、あと十五人はいるね」

『了解。急派する』

 私は苦笑した。

「パトラ、またぎっくり腰になるよ。ここは、海兵隊に任せよう」

 しばらく待つと、大型トラックがやってきて、後部から勢い良く隊員たちが飛びでてきて、水やりの戦列に加わった。

「最低でも二百メートルは伸ばさないと美味しくないよ。あとで収穫したら、みんなで分けよう」

 パトラが笑った。

 その間にもキュウリが暴れ始め、あっという間に畑はキュウリに蹂躙された。

「よし、育ったね。早く収穫しよう。急がないと!!」

 パトラが園芸用のハサミを雨のように降らせ、一個拾って収穫をはじめた。

「よし、急げ!!」

 私もハサミを取り、ヘタを落としながらそのまま次々に切っていた。

 みんなで苦労して刈り取りを終えると、今度は運ぶ作業が待っていた。

「よしっと、とても人じゃ無理だから……」

 私は呪文を唱え、膨大な数のロングキュウリを畑から開けっぱなしの家に流し込んだ。

「海兵隊のみなさんは何本?」

 私は笑った。

「うむ、十本……で足りるかどうか分からん。取りあえず、二十本にしておこうか。ありがたく頂戴する」

 コマンダーが笑った。

「それじゃ、適当に選んで二十本か……」

 悩むコマンダーに笑みを返し、私は呪文を唱えた。

「三十本ね。転送っと……」

 山と積まれたロングキュウリの上に、黒い影が走りキュウリがちょっと減った。

「ありがと。またなんかあったら呼ぶよ。みんな、採れたてが一番美味しいから、好きに食べていいよ。ここまで育つと、甘塩っぱくて美味しいよ」

 私は笑った。

 コマンダーが呼ぶと、トラックの中から次々と隊員たちが降り、みんなでキュウリを囓りはじめた。

「はぁ、相変わらずデカいの作るの好きだね」

 私はキュウリを囓りながら、パトラの頭をコツンと叩いた。

「だって、たくさん食べたいじゃん。あとで漬物でも作ろうかな」

 パトラが笑った。


 家に帰ると、山になったキュウリをパトラとスラーダがより分け、バキバキへし折りながら、漬物をはじめた。

「……シュシュ凄い」

 バキバキとキュウリをへし折りながら、スコーンが呟いた。

「これ、なにかの薬草に使えませんかね。そのくらい、異常です」

 ビスコッティが笑いながら、キュウリを囓り始めた。

「あっ、今度はマキシマムトマトを植えなきゃ!!」

 パトラが家から出ていった。

「キリがありませんね。こうしましょう」

 スラーダが呪文を唱えた。

 パシッと光りが走り、キュウリがちょうどいい長さに切断され、自動で空いた冷蔵庫の野菜ボックスに放り込まれ、床下から勝手に巨大な糠床が現れ、丁寧に糠に漬け始めた。

「これでも余りますね。浅漬けっと……」

 スラーダがさらに呪文を唱えると、残ったキュウリが素直にパックに詰められ、冷蔵庫に収納されはじめた。

「はい、これで大丈夫です」

 スラーダが笑みを浮かべた。

「相変わらず早いね」

 私は笑った。

「……シュシュシュシュ凄い」

 スコーンが笑った。

「これで、しばらくはおかずに困らないよ。お疲れ様!!」

 私は笑った。


 豊作だったキュウリに夕食が不要なほど満腹になった私は、インカムのスイッチを押した。

 広帯域モードに切り替わった無線のインカムに雑音が混じり、そろそろ寿命かと思いつつ、私は苦笑した。

「コマンダー、聞いてるでしょ。畑の世話を頼むよ。私たちはこれから帰途につくから。パトラが植えたマキシマムトマトは、そっちで食べちゃっていいから。報酬代わりのオマケ」

『うむ、分かった。気をつけてな』

 私は無線の電源を落とし、通常使っている周波数に合わせた。

「みんな、ちょっと急用が出来たから、悪いけど出発の準備をお願い。お風呂でも入ってリフレッシュして」

 私が笑みを浮かべると、アイリーンが誘導してみんなをお風呂に連れっていった。

 しばらくすると、ノートパソコンを抱えた芋ジャージオジサンたちが入ってきた。

「あっ、お風呂入っちゃって。そのノートパソコンは預かるよ」

「うむ、ここは源泉掛け流しの温泉だと聞いている。楽しみだ」

 芋ジャージオジサンはニッと笑みを浮かべ、団体様を連れて男風呂に入っていった。

「私も入ろうかな。このところシャワーだけだったし」

 私は鞄から取り出した着替えを抱え、女風呂に向かった。


 脱衣所に入ると、みんなが服を脱いで順番待ちをしていた。

「なに、どうしたの?」

「はい、今はマンドラとマルシル、ビスコッティが入っています。全員は入れなくて……」

「そっか、この人数だもんね。元々、私だけ入るように作ってあるから、狭いんだよね」

 私は笑った。

「ビスコッティが酷いんだよ。私が入ろうとしたら、いきなり投げ飛ばして先に入っちゃったんだよ」

 スコーンが頬を膨らませた。

「それは災難だったね。ちなみに、入浴中は禁煙と禁酒だよ。心臓がヤバいから」

 私は苦笑した。

 しばらくすると浴槽の扉が開いて三人組が出てきて、スコーンがビスコッティにボディブローをしてから入っていった。

 ビスコッティは涼しい顔して着替え、タオルで体を拭いていたがそのまま床に倒れ、泡を吹いて気絶した。

「あれ、ドクター!!」

 シルフィが慌てて回復魔法をビスコッティに掛けた。

「これで、しばらくしたら治ります。特に問題はありません」

 シルフィが笑みを浮かべた。

「あれ、かなり頑丈だね。私も見習わなきゃね」

 私は笑みを浮かべた。

 順番は進み、私の番がくると、中にはいって洗い場で体を洗い、しばしボンヤリした。

「はぁ、色々あったな。でもまぁ、上手くいったか」

 私は笑った。

 わざと最後に一人にしてもらったので、かけ湯の流れる音を聞きながら、私は小さく笑った。

「さてと、帰りの準備もあるし、そろそろ出ようかな」

 私は浴槽の中で立ち上がり、脱衣所に向かった。


 脱衣所で新しい服に着替えると、リビングに移動した。

 ベッドが並んでいるところで、みんなが荷物を整理していた。

「まあ、荷物ってほどの荷物はないけど、これでよし」

 使用済みの着替えを鞄にしまい、私は人心地ついた。

「はい、準備出来ました」

 マンドラが笑った。

「分かった。さて、キュウリの浅漬けを回収しなきゃね」

 私は呟くようにいうと、大型冷蔵庫に向かい中においてあったキュウリの浅漬けを取り出した。

 それを、念のため持ってきた大きめの鞄に詰め込み、リビングに戻った。

「あら、朝ごはんの支度を忘れていました」

 スラーダが苦笑した。

「急いではいるけど、喫緊の話じゃないからゆっくりでいいよ」

 私は笑みを浮かべた。

「そうですか。パトラ、準備しますよ」

 スラーダが笑みを浮かべ、パトラと一緒に料理をはじめた。

 食事のいい匂いが漂いはじめ、私は手近なテーブルについた。

「今日は玉子焼きにしましょう。残ってしまうともったいないので」

 スラーダが笑った。


 帰る準備が整うと、私は無線電話を取りだし、文字データを送ると電源を切った。

「さて、帰ろうか」

 私たちは家を出て、駐機場に向かった。

 そのままYS-11の機内に入ると、私は一列の方の窓際に座り、外の景色を眺めた。

 薄ピンク色に塗られた機内は、ビジネスクラスのシートに換装してあり、狭いながらも快適な環境だった。

「……しゅごい」

 スコーンが呟き、ビスコッティを連れて二列並んだ席に座った。

 他のメンバーも適当に座り、機体がプッシュバックされて、誘導路に入った。

 ゆっくり進んでいくと滑走路に入り、機体が加速して離陸していった。

「あと一時間くらいかな……」

 私は機窓の外に見える戦闘機をチラッと確認し、思わず笑った。

「あれ、紅い戦闘艇だ。護衛は確かイーグルだったはずなんだけど……」

 私はクリップボードをパラパラ捲りながら、ボソッと呟いた。

 飛行機は朝の日差しを浴びながら、左に大きく旋回し、王都目指して飛行を続けた。

 途中、眼下の街道を走る街道上を、戦車が走っていくのが見えた。

「軍の再編成か。これは、オヤジの仕事だね」

 私は背もたれをリクライニングさせ、前の座席に入っていた新聞を読み始めた。

「ふーん、建設部が一人で片付けたんだ。でも、建物だけぶっ壊して、魔力切れで病院に運ばれたか。これは大変だな。着いたらみんなで片付けるか」

 私は足下に置いた鞄をマントを取りだし、機内の色に酷似した迷彩に変化する事を確認した。

「おーい、面白いの作ったから配るよ!!」

 私は周囲の景色に合わせて迷彩色に変わる、マントをみんなに渡した。

「うわっ、これしゅごいかも。ビスコッティ、あめ玉!!」

「はい、師匠」

 ビスコッティが、スコーンの口にのど飴を流しこんだ。

「マヌカハニーで作った飴です。どうですか?」

「うん、美味い」

 スコーンが笑みを浮かべた。

 新聞を読んでいると、いきなり飛行機が真横になるくらい急旋回をはじめ、窓の外にオレンジ色の光りが放たれた。

「なんだ、よそのお邪魔虫か。護衛連れてきてよかった」

 しばらくして、窓の外で派手なオレンジ色のガス塊が生まれた。

「はい撃墜。一機だけって事は、戦術偵察機かな」

 私は無線の声を聞きながら、大きくあくびをした。

「あの、今のは?」

 ビスコッティが近寄ってきて私に聞いた。

「うん、気にすることはないよ。恐らく、大洋の向こうから聞こえてきた偵察機でしょ。偵察ついでにこの機を狙ったみたいだけど、護衛がついてるから大丈夫。ミサイルを撃たれたみたいだけど、避けたみたいだから平気だよ」

 私は笑みを浮かべた。

「そうですか。よかったです。師匠がビビってしまって、トイレに入ったきり出てきません。困りました」

 ビスコッティが笑って、飛行機の後部にあるトイレに向かって行った。

 飛行機は順調に飛び、ビスコッティの説得でスコーンがトイレから出てきて席に座った時、ちょうどベルト着用のサインが出た。

「みんな、ちょっと寄り道していくよ。王都の空港に文字通りよるだけ。受け取るものがあってね」

 私は笑った。

 飛行機は順調に高度を下げ、『ファン国際空港』に着陸した。

 扉が開くと、フィン王国の国王が立っていて、タラップを上ってきて、私に白い封筒と黒い封筒を渡差し出した。

「どうにも頑固でな。よろしく頼む」

 それだけ言い残して、国王はタラップを下りていった。

「やれやれ、こういう仕事は苦手なんだけどな……誰か代わってくれないかな」

 私は再び自分の席に戻り、封筒を開けて中身の紙を確認した。

「はぁ、いくらなんでもこき使いすぎだよ。出来る事と出来ない事があるって……」

「うむ、どうした?」

 飛行機の後方から芋ジャージオジサンが近づいてきて、私に声を掛けた。

「これ依頼出来る。私には荷が重いから」

 私は封筒の中に入っていた資料を、芋ジャージオジサンに手渡した。

「……うむ、問題ない。分かった、やってみよう」

「報酬は十万クローネで」

「分かった。いつもの口座でいい」

 芋ジャージオジサンは、再び機体後部に戻った。

「こういうのは、専門のプロに任せよう。よし、これで大丈夫」

 私は笑った。


 『フィン国際空港』に名称が変わり、看板の付け替え工事を行っている旧ファン国際空港を飛び立った私たちは、長距離飛行に入った。

 時刻はすでに夜になっていて、なるべく近道をとアイリーンとパトラにお願いしたが、それでも八時間は掛かるだろうということだった。

「シートがよくなったからいいけど、八時間は辛いなっと」

 離陸する事三時間。私は読書しながら呟いた。

「このマントしゅごい!!」

 スコーンが機内をウロウロしながら、自動迷彩マントで遊んでいた。

「これいいですね。どこでも、ひっそりいけます!!」

 パステルが笑った。

「気に入ってくれたらいいけどね。さてと……」

 私が笑みを浮かべた時、飛行機が揺れた。

『エンジントラブル発生。ベルト締めて!!』

 機内放送でアイリーンの声が聞こえた。

 確かに、妙な金属音が聞こえ、椅子から立ち上がっていたみんなが慌てて席に戻った。

 私は地図を拡げ、小さくため息を吐いた。

「さすが田舎だね。降りられる滑走路がない。目的地のコンファラが最も近い空港か……」

 飛行機は急激に高度を下げ、再び水平飛行に移った。

「まあ、アイリーンとパトラなら平気だと思うけど、夜だから油断は出来ないか。島に引き返した方が早いかもね。まあ、こればかりは、機長の判断だからないもいわないけど」

 私は苦笑して、背もたれに身を預けた。

 しばらくすると、パステルが地図を持ってやってきた。

「最新版です。今日開港したばかりですが、カレドニア空港があります。なにかの参考になれば……」

「分かった、地図を貸してくれるかな」

 私はパステルから地図を受け取り、コックピット方面に向かった。

 コックピットの扉を数回叩き、身内しか乗らないからと電子ロックを取り外してある扉を開けた。

 中はアラームの嵐と、警告灯がイルミネーションのように点灯されていた。

「なに?」

 操縦桿を握ったアイリーンが短く声を上げた。

「今日開港したばかりのカレドニア空港があるんだって。参考までに、地図をおいていくよ」

 私は地図をアイリーンの膝の上に置いた。

「エマージェンシーを出したら、カレドニアに降りろっていわれたんだけど、そんな空港知らないから今は管制塔の誘導に従っているところ。地図はいらないよ」

 アイリーンの鋭い声が飛び、私は地図を取り上げた。

「ならば、あとはよろしく」

 私はコックピットの扉を閉め、自分の席に戻った。

「みんな、寄り道だよ。エンジントラブルじゃどうにもならないね。アメリア、回復魔法で直せない?」

「はい、さっきからやっているのですが、上手くいきません。寝不足なので、魔力が……」

 アメリアが息を吐いた。

「そっか、お疲れ様。無理しなくていいよ」

 私は笑い、席に座った。


 約三十分後、私たちを乗せたYS-11は、無事に真新しいカレドニア空港に着陸した。

 滑走路から駐機場に入ると、消防車と救急車が機体を取り囲んだが、解くに火災はなかったようで、そのまま待機状態になった。

 飛行機から降ろされたタラップを降りると、私たちはなるべく飛行機から離れ、様子を覗った。

 見た目では正常だったが、ちょうど見えた左側エンジンのナセルが黒く焦げていた。

「危なかったね。上空で火災なんて最悪だから」

 私は苦笑した。

「どうしよう、私のYSがぶっ壊れちゃった……」

 スコーンが小さく息を吐いた。

「大丈夫、これでも王家専用機だから、腕がいい整備員が来るはずだし、意地でも直すと思うよ。寒いから、ターミナルビルに避難しよう」

 私は笑みをうかべ、みんなでターミナルビルに入った。


 いかにも新品という感じのターミナルビルは、まだ塗料のニオイが漂っていた。

「こんな時間だけど、この空港は二十四時間開港だから、なにかメシにありつけるかもよ」

 アイリーンが笑った。

 私たちは誰もいないターミナルビルを歩き、ついでに民間定期便のパンフレットを取り、カレドニア空港のページを開くと、一日僅か二往復で空港の規模のわりには、なにか寂しかった。

 フードコートに入ると、どこも閉まっていて、さすがに深夜二時ではこんなものかという感じだった。

「飯屋はさすがに閉まってるかな……」

 アイリーンが苦笑した。

「まあ、こんな時間で田舎空港だからね。二番機は機内食を積んでるみたいだから、それまで待つしかないかな」

 私は笑みを浮かべた。

「……YSがぶっ壊れた」

 スコーンがしょぼんとしてしまった。

「大丈夫だって。しっかし……あっ、おでん屋さんが開いてる!!」

 フードコートで唯一、赤提灯とのれんを出したお店が開いていて、美味しそうな匂いを振りまいていた。

「よし、軽く食べようか」

 私たちはのれんを潜った。

「いらっしゃい、珍しい時間にきたね」

 屋台風のお店の中に入ると、私たちはカウンターに並んで座った。

「いちいち注文するのも面倒だから、お勧めをお願い」

「あいよ」

 しばらく待つと、大皿に盛られたおでんがカウンターに置かれた。

「……お、おでん」

 スコーンが大皿を占領して、一人で食べはじめた。

「こら!!」

 ビスコッティがお酒を飲みながら、スコーンの頭にゲンコツを落とした。

「なにこれ、美味しい!!」

 しかし、その効き目はなく、スコーンは大皿を一枚平らげてしまった。

「よく食べるねぇ、もういっちょ!!」

 お店のオジサンが笑って、再びおでん盛り合わせをカウンターにおいた。

 ……結局、私たちはおでん屋のおでんを全て平らげてしまった。


 おでん屋の会計を済ませ、ターミナルビルの屋上から眺めてると、空港職員が滑走路を塞いでいたYS-11を動かし、滑走路を空ける作業をおこなっていた。

 時間を掛けて無事に駐機場に入ると、小型ジェット機が着陸して駐機場に入り、中から作業服姿の人たちがゾロゾロ降りてきて、駐機したばかりのYS-11一号機の整備作業を始めた。

「直るかな……」

 スコーンが呟いた。

「さっきもいったけど、意地でも直すよ。ちょっと待って」

 私は衛星電話を取り出した。

 文字情報を送ると、すぐに返信があった。

「……暗号変えたな。面倒な」

 私は衛星電話を操作した。

「これで通じるはず。えっと……」

 私はもう一度同じ文面を送った。

 しばらくすると、返信があった。

「大丈夫、この空港目指して海兵隊の輸送機がエンジンを運んでるって。もう古いし、多分両エンジン交換じゃないかな。今は四時だから、そろそろ着くと思うよ」

 いうが早く、真っ暗な上空に着陸灯が見えてきた。

「ほらきた。二号機はまだ掛かると思うよ。仮眠でも取れればいいけど、そんな場所はないしね。眠くても我慢して」

 私は笑みを浮かべた。

「うん、分かった。直るならいいよ」

 スコーンが笑った。

 輸送機はお馴染みC-17ではなく、より大きなC-5Mだった。

「またデカいのがきたね」

 私は笑った。

 駐機場に駐まった大型輸送機はすぐに荷下ろしをはじめ、大きなエンジンを下ろしはじめた。

「これ、時間掛かるんだよね。その簡に、二号機が飛んでくると思うよ」

 展望デッキに駐機場の人の声が響き、機械の作動音がこだました。


 明け方になって、一号機とは微妙に塗装が違う、YS-11二番機が滑走路に着陸した。

「ずいぶんかかっちゃたね。みんな、駐機場に行こうか」

 私たちはターミナルビルから駐機場に移動した。

 明るくなってみると、この空港は山を切り開いて作られたものだと分かり、気温も低く初夏のこの時期でも肌寒かった。

 駐機場に入ってきた二番機は、尾翼にフィン王国の国章が描かれ、中から島からここまで操縦してきた、軍服を着た人が降りていき、エンジンを輸送機から降ろす作業に加わった。

「さて、いこうか。機内はエアコンが効いてると思うから」

 私たちは、タラップを上って機内に入った。

 一番機と同じ仕様にしてあるので、椅子はビジネスクラスと同等になっていて、エアコンがほのかに効いていて、心地よかった。

 私は適当な席に座り、窓の外を見つめた。

 みんなさすがに疲れは隠せないようで、眠そうに椅子に座り、なにやら激論を交わしているスコーンとビスコッティ以外は、目を閉じていた。

 数十分経った頃、飛行機がプッシュバックされ、エンジンが始動した。

 誘導路を通り滑走路に入ると、飛行機は夜明けの空に向かって離陸していった。


 いつの間にか寝てしまったようで、私はスコーンに揺り起こされた。

「ん、おはよう。もう着いたの」

「うん、着いたよ。みんな降りて、荷物の確認をしてるよ」

 スコーンが笑みを浮かべ、飛行機の前方に向かって走っていった。

「よく寝たような寝てないような……」

 私はスッキリしない頭を横に振ってから立ち上がり、首をコキコキならしながらタラップに向かった。

 本来ならターミナルビルでやる荷物の受け取りを、面倒なので許可を取って駐機場でやっていると、ナーガが対物ライフルを取り出しリナが狙撃銃を取り出した。

「あれ、危ないオモチャ持ってるね」

 私は苦笑した。

「はい、念のため……」

 ナーガが笑った。

「これが役に立たなくてよかったよ」

 リナが笑った。

「まあ、平和だったからね。それにしても、この気温差は……」

 私はクシャミをした。

「あれ、風邪ですか?」

 アメリアが笑った。

「そうじゃないと思うけどね。さて、疲れたね。宿に戻ろうか」

 私たちは、島に行く前に馬を留めた場所に歩いていった。


「お帰りなさい」

 笑みを浮かべたクランペットが、馬に飼い葉を食べさせていた。

「ただいま、馬の調子はどう?」

「はい、問題ありません。いつでも乗れますよ」

「分かった。ありがとう」

 私は代金にちょっとした気持ちを加え、クランペットに支払った。

「毎度ありがとうございます」

 クランペットとアリサ、キキが馬に乗って、どこかに去っていった。

「よっこいせ」

 私は自分の馬の鞍に跨がり、全員が馬に乗ると、パステルを先頭に街道を走り、コルポジの町に戻った。

 宿に帰ると、オバチャンが笑みを浮かべて待っていた。

「ずいぶん遠出したみたいだね。朝食が必要なら作るけど、どうだい?」

「よし、お腹空いてる人!!」

 私が笑みを浮かべると、全員が手を上げた。

「満場一致で朝食を食べたいって!!」

 私は笑った。

「分かった。ハムエッグくらいしかないけど、今から作るよ」

 オバチャンはキッチンに向かい、程なくテーブルにハムエッグ定食が並んだ。

「あら、美味しい」

 スラーダが笑みを浮かべた。

「フライパンにハムと卵を落とすだけ。簡単でしょ?」

 私は笑った。

「はい、実はエルフ料理に玉子はないのです。さっそく、里で流行らせましょう」

 スラーダが笑った。

「それはいい考えだね。そっか、玉子料理がないのは寂しいね」

  私は笑った。

「うん、人間社会に出てから、初めて食べたのがクソボロい定食屋さんのハムエッグだったんだ。だから、その美味しさにビックリした」

 パトラが笑みを浮かべた。

「そういえば、里に鶏小屋がないね。嫌なの?」

「違います。以前は飼っていたのですが、ゴブリンがイタズラして逃がしてしまうので、飼うに飼えないのです」

 スラーダが苦笑した。

「あそこ、ゴブリンが多いからね。もっと柵を頑丈にしたら?」

「はい、そうしたいのですが、工事出来る者がいないのです。レンガ積みを考えて、材料は揃っているのですが、困ったものです」

「分かった。それじゃ、専門家を呼ぼうかな。王宮魔法使い建設部ならあっという間に出来るよ。主力はまだスコーンの島にいると思うけど、意外とたくさん旧ファン王国の王城に詰めているはずだから」

 私は衛星電話を取り出し、文字情報を送った。

 すぐに返信がきて、私は電話をポケットにしまった。

「もう向かってるって。前もって私が話をしてあったんだけど、すぐに里に着くと思うよ。王城から高速飛翔魔法で飛んでくるから」

「そうですか、助かりました。では、私は里に帰ります。また遊びにきて下さいね」

 スラーダは朝食を平らげると、宿の外に出ていった。

「さて、朝食も摂ったし少し休もう。飛行機のトラブルで寝不足だよ」

 私は苦笑した。

「その前に牛丼食べたいな。ダメ?」

 スコーンが笑った。

「本気にしちゃうから、そういう冗談はいわないでね。食べたばかりじゃん」

 私は笑った。

「私は眠くて死にそうです。飛行機の座席がよかったお陰で、しっかり眠れたはずなんですけどね」

 マルシルが苦笑した。

「よし、じゃあ寝よう。今から寝れば、昼前には起きられるでしょ」

 私は笑みを浮かべた。

「そうだね。寝よう」

 リナが笑った。

「あっ、そういえば変なの作ったよ。スコーンにあげようと思っていたんだ」

 私は虚空に穴を空け、中から緑色と赤色のボタンがある箱状のものを取り出した。

「スコーン、緑色のボタンを押してみて」

「えっ、いいけど……」

 スコーンが緑色のボタンを押すと、いきなり五人に分裂した。

「し、師匠が増えた!?」

 ビスコッティが声を上げた。

「増えたわけじゃないよ。幻影の魔法でそう見えるだけ。ビシバシ対策マシンって名付けたんだけど、五人のうち本物は一人。ハズレだと箱から火球が放たれるけど、ドライヤーを掛けすぎて、なんか爆発しちゃった髪の毛になった程度の熱さだから火傷はしないよ」

 私は笑った。

「なにそれ、面白い!!」

 五人のスコーンが笑った。

「な、なんて事するんですか。分かっています、師匠は真ん中のこれ!!」

 ビスコッティが真ん中のスコーンを引っぱたくと、箱から火球が撃ち出された。

「毎回シャッフルされるから、どれが本物か分からないでしょ。

 私は笑った。

「これ面白い。研究する……」

「ああ、停止ボタンは赤だよ。飽きたら押してね」

 私は笑った。

 その他、みんなに変な魔法グッズをあげて、私はゴブリンバスターを腰から外した。

「剣が使えるみたいだから、これはビスコッティが持っていて。ゴブリンしか斬れないから、気をつけてね」

「はい、分かりました。それはいいのですが、師匠が五分裂したまま戻らなくなっています。なんとか攻略法を……」

「ないよ。気合いと根性で本体が叩ければ、自動解除されるから粘ってみて」

「分かりました。私も意地です。この!!」

 ビスコッティがスコーン相手に遊びはじめた頃、宿の扉が開いて郵便馬車の御者が入ってきた。

「住所がここなんだが、マリー・トレントさんはいるかい?」

「あっ、私です」

 私が声を上げると、郵便馬車の御者は黄色い封筒を私に渡して去っていった。

「黄色ね……」

 一言呟いて、私は封を開けて中になにか入っていないか確かめると、武器や防具を扱うマーケットがオープンしたというチラシが入っていた。

「この近くか……。みんな、武器防具を扱うマーケットが出来たんだって。一眠りしてからいこうか」

 私は笑み浮かべた。

「そんなのが出来たのですね。特に予定がないなら、ぜひ行きましょう」

 髪の毛がボサボサになったビスコッティが笑った。

「みんなに異存がなければ決定ね。さて、部屋に戻って寝ようか」

 私は笑みを浮かべた。


「あれ、まだ起きないかな……」

 リナの声で、私は目を覚ました。

「おはよう……」

 私は眠い目を擦り、部屋の時計をみると、もう遅めのお昼という時間になっていた。

「目が覚めたら早くきなよ。みんな下でお昼食べてるから」

 リナが笑みを残し、部屋から出ていった。

「はぁ、寝過ぎた……」

 私はあくびをしてベッドから下り、部屋を出て階段を下りた。

 食堂はいい匂いが漂い、みんなが食事を楽しんでいた。

「あれ、遅いね!!」

 スコーンが笑った。

「うん、寝過ぎたよ。お昼食べたら、武器防具マーケットに行こう。なにもなければ、夕方には帰ってこられると思うよ」

 私はいつもの定食を注文し、笑みを浮かべた。

「そうなんですね。私は自衛用のナイフが欲しいです。今使っているものが壊れてしまって」

 シルフィが笑みを浮かべた。

「私は見学だけかな。一応ナイフは持ってるけど、物理的な攻撃は苦手だから魔法で勝負だよ」

 アメリアが笑った。

「師匠、今日こそは五十口径を買う許可を下さい!!」

「ダメ、そんなのいらないから」

 ビスコッティとスコーンが言い合いをはじめた。

「私はどうしようかな。まあ、行けば分かるか」

 私は笑みを浮かべた。


 マーケットまでは、馬で三十分ほどだった。

 パステルを先頭にして、街道を進んで行くと、程なくマーケットの建物が見えてきた。 対向車線には軍用の大型トラックや商隊の列が増え、白塗りのいかにも怪しい車が追い越ししていった。

 しばらく進むと、マーケットの駐車場が見えてきた。

 私たちは馬を留めるスペースに馬を置いて降りた。

「さて、着いた。広いから迷子にならないように、一緒に行動しよう」

 私は笑みを浮かべた。

「地図にないので、マーカーで追記しておきました。新しいです」

 パステルが笑みを浮かべた。

「よし、いこうか」

 私の声でみんなが動き出し、マーケットの出入り口から中に入った。


 市場の中は広大で、銃の他に剣や鎧まで売られていた。

 私はシャレで革鎧を試着してみたが、これがなぜかしっくりきてしまい、くすんだ赤色がまたなぜか似合ってしまった。

「革鎧にしては軽いし、動きも阻害しないか。でも、なんかね、これ著ちゃうと戦場に掛ける橋というか、戦い好きそうにみえるんだよね」

 私は笑った。

「いいじゃん買っていけば。これがフルプレートアーマーなら止めるけど、革鎧なら平気でしょ。アイリーンが笑った。

「……それ、欲しい」

 スコーンが呟いた。

「なに、欲しいの?」

 私はスコーンに問いかけた。

「うん、欲しい。旅してる以上危険はつきものだし、防具は必須だよ。なにか買わないとって思っていたんだ」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「そっか、最新のバトルジャケットもあるけど、街中でかえって目立っちゃうんだよね。革鎧なら身につけている人が多いし、いいか」

 私は笑みを浮かべた。

「じゃあ、この赤いやつがいい!!」

「分かった、でもこのままじゃサイズが合うかな。直しもやってるみたいだから、試着してみたら?」

 私たちが鎧を物色するのをみていたお店の人が手伝って、スコーンが著たブカブカの鎧の採寸を始めた。

「みんなも買ったら?」

 私は笑った。

 結局、全員が色違いの革鎧を買い、さらに市場の中を歩いた。

「あっ、忘れてた。みんなにこれを作ったんだ」

 私は空間にポケットを作り、中から人数分の白衣を取りだした。

「これは、襟首の小さなボタンを押すと、風景と同化出来る迷彩になるよ。動いても迷彩の柄が変わるから、革鎧の上にでも羽織ってね。間違わないように、名前も刺繍してあるよ」

 私は笑みを浮かべ、白衣を一人ずつ手渡した。

「これ面白いの?」

「うん、面白いかどうかは分からないけど、完全にみえなくなるわけじゃなくて、見つかりにくいだけだから、過信はしないでね」

 私が笑うと、スコーンはさっそく襟首のボタンを押して、白衣を羽織った。

 マーケットの景色に上手く順応し、白衣があっという間に迷彩服代わりになった。

「自分じゃ分からないかもしれないけど、無事に成功だね。解除はもう一回ボタンを押すか、脱げば勝手に白衣に戻るから」

 スコーンが白衣を脱ぐと、元通りに戻った。

「……これしゅごい」

 スコーンが目を丸くした。

「これさえあれば、どこでも入り放題だね」

 リナが笑った。

「さて、必要なものを探そう。誰に目をつけられるか分からないから、手早くしないと」

 私は笑った。


 買い物を終え、私たちは馬に乗った。

「とりあえず、町に戻ろう。なにも郵便物がないといいけど……」

 私は苦笑した。

「あの、どこから手紙が届くのですか?」

 シルフィが声を掛けてきた。

「それは聞かない約束だよ。誰にでも秘密はある!!」

 私は笑った。

「私、勢いでアサルトライフル買っちゃったけど、使えるかな。百二十万クローネもしたから使えないって困るよ」

 スコーンがため息を吐いた。

「師匠、それは狙撃銃です。狙撃システムともいいますが、アサルトライフルのようにも使えます。でも、用途を間違えて買っちゃいましたね」

 ビスコッティが苦笑した。

「そうなの、そうなの!? 早く返品して、新しく買い直そう。どうりで高いと思ったよ!!」

 スコーンが慌てて市場に戻り、私は苦笑してついていった。

 市場に戻ると、スコーンは一件の銃火器専門店に入った。

「買う銃間違えちゃった。交換して!!」

「あー、ダメダメ。うちは返品交換は受け付けていないんだ」

 面倒臭そうに、店のオヤジが返してきた。

「スコーン、一度買っちゃったら返品できない場合が多いんだよ。だから、逆にアサルトライフルを買えばいい。これなんかいいね。泥に埋まろうが蹴飛ばそうが、まずぶっ壊れないから」

 私は展示されている銃を指さした。

「そうなんだ、最初に知っていれば……」

 スコーンが小さく息を吐いた。

「あれ、スコーンの銃はビスコッティに任せたんだけどな。おっちゃん、これいくら?」

「なんだ、さらに買っていくなら問題ねぇな。それなら、もういい加減古いモデルだから、五十万クローネでいいぜ」

 オッチャンが銃をカウンターに置いた。

「はい、五十万クローネ。よし、行こうか」

 私は支払いを済ませ、スコーンと一緒に一緒に外に出た。

「お金返すよ。百七十万クローネも使っちゃった……」

 スコーンが小さく息を吐いた。

「いいって、戦車一台買うより安い」

 私は笑った。

「でも……」

「いいからいいから。さて、町に帰ろう。全く、島の気温が懐かしいよ」

 私は笑った。

 私たちは馬に跨がると、コルポジの町に向けて馬を走らせた。

 市場からコルポジまでは馬で三十分ほど。

 まだお昼を過ぎたばっかりの時間なので、私たちはゆっくり街道を進んでいた。

 時々、街道パトロールの二人組とすれ違い、手を上げて挨拶をかわしながら、馬なりに進んで行くと、先頭のパステルが馬止めた。

「ん、どうした?」

 私は馬から下りて、パステルの元に走った。

「どうしたの?」

「はい、なぜかこれ以上馬が進もうとしません。なにかを感じ取ったようです」

 パステルの声に、私はビノクラーで周囲を確認した。

 しかし、特になにも影はなく、私は路面を確認した。

「これか、誰かが魔法陣を描いたまま放置したっぽいね。迷惑な……」

 私は苦笑して、呪文を唱えた。

 路面に描かれていた魔法陣が消え、私は小さく息を吐いた。

「どうしたの?」

 隊列の二番目にいたアイリーンが、不思議そうに聞いてきた。

「うん、道の真ん中に誰かがイタズラしたらしくてね。解除したから、馬も安心して進むと思うよ」

 私はパステルをみた。

「ここから全速力で。まだ近くにいるかもしれないから、振り切るよ」

「分かりました。町はすぐそこなので、急ぎましょう」

 パステルが笑みを浮かべた。

「そうだね。急ごう」

 私は自分の馬に戻り、隊列は一気に速度を上げ、程なくコルポジの町に到着した。


 宿に帰ると、私は買ってきたばかりの狙撃銃の整備をはじめた。

 黙々と作業をしていると、パトラが部屋の中に入ってきて、ベッドに倒れるようにしてそのまま眠りについた。

「私も眠いな。整備も終わったし、寝ちゃうかな」

 私は笑みを浮かべ、固いベッドに横になったのだった。

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