第11話 里の長
朝食のあと、コーヒーを飲んでいると、シルフィがエナジードリンクを二缶立て続けにに飲んで、大きなあくびをした。
「こりゃ今日は馬はダメだね。アイリーンなんて、寝ながらハムエッグ食べてるし、私も怠くて落っこちるわ……」
私は五杯目のコーヒーを飲みながら、砂糖と間違えて塩を大量にカップに注ぎ込んでしまったが、海軍式だとしょっぱい液体を飲んだ。
そんな朝の静寂を破るように、ドバババと凄まじいエンジン音が聞こえ、私は思わずしょっぱい液体を吹いた。
向かいにいたリナがあくびした瞬間、私が吹き出した液体がモロにその顔にかかった。
「……あっ、おはよう」
リナが顔を隣にいたパトラの服で拭き、パトラが隣にいたビスコッティの顔面にフルパワーの右ストレートをめり込ませた。
「……ごめんなさいは?」
「……ごめんなさい」
ビスコッティは眠そうに笑みを浮かべた。
その隣にいたスコーンがビスコッティをぶん殴りマンドラがスコーンの頭に肘を落とした。
「……おはようございます」
宿の入り口にスラーダが現れ、眠そうに挨拶した瞬間、そのままぶっ倒れた。
「おーい……ドクター」
私はあくびを噛み殺しながら、ぼへぇといったが誰も反応しなかった。
「はい、改めておはようございます」
ようやく全員目が覚め、宿にやってきたスラーダがにこやかに挨拶した。
「おはよう。どうしたの?」
私が聞くと、スラーダが笑みを浮かべた。
「全作業完了しました。その後報告と、皆さんの様子を覗いにきました。お元気そうで何よりです」
「そうだね、派手に寝ぼけたけど、案外楽だったかな。でも、疲れたからスコーンの島でもいく?」
「うん、いく!!」
スコーンが割り込んだ。
「はい、噂の第一段階ですね。お誘いとあらば、伺います」
スラーダが笑った。
「よし、みんな用意して出発しよう」
私は財布の中の硬化をテーブルに置き、椅子から立ち上がった。
スラーダと一緒に私たちは宿を出て、町の広場でロータを回しながら駐機しているチヌークヘリコプターの後部ハッチから機内に乗り込んだ。
中にはぎっちりフィン王国海兵隊の隊員が詰まっていて、みんな笑顔で迎えてくれた。「ねぇ、これで島に行くの?」
スコーンが問いかけてきた。
「うん。でも、ちょっとしたサプライズがあるよ。興味あるか分からないけど……」
私は笑った。
「うん、分かった。マグロある?」
スコーンが笑った。
「キュウリならあるよ。みんなに配ろう」
パトラが狭い機内を器用に歩いて、キュウリの漬物パックを配り始めた。
全員にキュウリが行き渡ると、私たちは壁際の椅子に座ってベルトを締めた。
その途端、エンジンが金切り声のようなものを上げ、ヘリコプターがほぼ垂直に急上昇し、町を発った私たちは、一路島に向かった。
高高度を飛ぶヘリの機内は息苦しく寒く、お世辞にも快適とはいえなかったが、フィン王国海兵隊の皆さんはご機嫌に笑っていた。
「……寒いんだけど、せめて後ろの上半分の扉綴じてくれない……ってか、ないか」
私は苦笑した。
そのまま苦節三時間飛行を続け、ヘリは急速に高度を下げ始めた。
様々な機械音が聞こえ始め、洋上の景色が見えた瞬間、ドン!! と凄まじい衝撃と共にヘリは洋上を戦闘航行中の航空母艦の上に着艦した。
「はぁ、死ぬかと思った。みんな、平気?」
私が聞いたが、アイリーンがニヤニヤしている以外はみんな硬直していた。
フィン王国海兵隊員が楽しそうに騒ぎながら開け放たれた後部ハッチから降りていった。
「……しゅしゅしゅごい」
スコーンがあんぐりと口を開けた。
「……キュウリ食べよ」
ポカンとしながら、パトラがパックのままキュウリを囓り始めた。
「こ、これぞ冒険……いや、なんでもないです……」
パステルがほけぇ~と呟いた。
「もう、なにするんですか!!」
ビスコッティが私をビシバシしはじめた。
「痛くな~い!!」
「ムキ~!!」
ビスコッティがさらに私をビシバシビシバシ引っぱたき、私は笑った。
「こら!!」
スコーンがビスコッティに踵落としを叩き込んだ。
「……あれ?」
ビスコッティの動きが止まり、そのままフラフラと機外へと降りていき、段差につまずいて転けて転がっていった。
「ったく……回復魔法苦手なんだけどな……」
スコーンが呪文を唱え、ボコボコの私の顔の痛みが少し引いた。
「ありがと。みんな、降りるよ。空母なんて、滅多にこられないからね」
私たちがヘリから降りると、ちょうどトムキャットが二機同時に発艦していった。
みんなが恐る恐る甲板に足を降ろすと、フィン王国海兵隊の皆さんが私たちを担ぎ上げてアイランドの方に運んでいった。
待避が終わるとほぼ同時に、ホークアイが着艦してきて、もの凄い音と共に止まった。「飛行甲板は戦場だから、中に入ろう。ラッタル……階段から落ちないでね」
私は笑みを浮かべ、アイリーンが笑みを浮かべて私の肩を叩いた。
航空母艦、すなわち空母は当然ながら軍用のため、中は武骨で狭く、どこか臭く、さらに薄暗かった。
私たちは飛行甲板の下にある開放式格納庫に降り、居並ぶ様々な航空機を眺めて回った。
「あっ、マグロ!!」
スコーンがコルセアⅡを指さして笑った。
「見るのはいいけど、絶対に触らないでね。ぶっ壊れたら、シャレにならないから」
私はみんなに声をかけた。
アイリーンがニヤニヤして、なぜか場違いにおかれていたF-15Dの前に座り込み、そのまま動かなくなった。
「好きだねぇ……」
私は笑った。
「あの、島まで何時間?」
パトラがキュウリを囓りながら聞いた。
「さぁ、四時間くらいじゃない。まあ、ゆっくりいこう」
私は笑った。
「もう、なんでホーネットがないんですか!!」
ビスコッティが近寄ってきて、私の顔をビシバシした。
「予算が足りない。それだけ」
私は笑った。
「ダメです。スーパーとはいいません。せめて、ホーネット。対艦ミサイルを積みたいです!!」
「バカ!!」
スコーンがビスコッティに足払いをかけ、ビスコッティは倒れてほけっとした顔をした。
「あれ?」
「あのね、いい加減にしなよ!!」
スコーンが倒れたビスコッティに馬乗りになり、顔面にGがつく虫を乗せた。
「ぎゃあ!?」
ビスコッティがバタバタ暴れ、そのまま泡を吹いて気絶した。
「これでよし」
スコーンはそのままコルセアⅡの前に行き、座り込んで動かなくなった。
「はぁ、みんな元気だねぇ……」
私は笑った。
約五時間後、護衛艦を引き連れた空母はスコーンの島の港に接岸した。
蒸し暑い空気の中、桟橋まで下りたタラップを下りると、私たちは家に向かって歩いていった。
「暑いですね。フィン王国にも、こんな場所があったんですね」
スラーダが額の汗を拭いた。
「もうそんな時期だからね。パトラ、キュウリちょうだい」
「もうないよ……。あっ、スコーン。この気温ならもっと長いキュウリが育つと思うんだ。少し土地を借りていいかな?」
パトラがスコーンに問いかけた。
「いいよ。他になにもないし。ビスコッティ、キュウリの種持ってる?」
「いえ、さすがに……」
ビスコッティが困った顔をした。
「種ならあるよ。超ロングキュウリの種を改良したやつなら。ただ、ちょっとっていっても、かなり長いから……パステル、地図を見せてくれる?」
「はい、ここが最適です!!」
パステルはコピーした地図を四角で囲み、スコーンとパトラに見せた。
「うん、そんなに森を削らないし、いいとお思うよ。でも、どうやって切り拓くかだよね。穴ぼこ空けてもどうにもならないし……」
スコーンが唸った。
「それなら大丈夫。フィン王国海兵隊のみなさんにお願いすれば、あの人数なら遅くとも夕方までには終わると思うよ」
私は笑みを浮かべた。
「そっか、よかった。里にはもう植える場所がなくて困っていたんだ」
パトラが笑った。
「それじゃ、フィン王国海兵隊のコマンダーに連絡するか」
私は無線のトークボタンを押した。
「A7ポイントぶっ壊せ。以上」
私は短く呟いた。
「スコーン、連絡したよ。あとは、お任せしよう。ありがとう」
「うん、ありがとう。キュウリか、どれだけ長いの?」
「そうだねぇ、上手く育つと二百メートル以上伸びちゃうから収穫時期が難しいけど、長いほど甘くて美味しいんだ」
パトラが笑った。
「……しゅごい、甘いキュウリなの。研究する!!」
スコーンが笑った。
青水玉に塗られた私の家と、ピンク白水玉に塗られたスコーンの家が見えてくると、スラーダが足を止めた。
「あら、ピンク白水玉の家の作りがちょっとおかしいですね。あのオレンジ色の服を着た方が指揮していらっしゃるようなので、ちょっと話してきます」
スラーダがオレンジ色の服を着た監督の方に向かっていった。
「それじゃ、私の家に入ろうか。冷房壊れてないかな……」
私は鍵がない扉を押し開け、異常な熱気に包まれた室内に入った。
なにもいわなくても、みんなが一斉に散って窓を全開にしたが、どうにも我慢ならないい蒸し暑さは変わらなかった。
「えっと、リモコンどこだっけ……」
キッチンの引き出しを探していると、どうも窓際にあったらしく、リナがリモコンのスイッチを押す音が聞こえた。
しかし、エアコンは作動せず、部屋に蒸し暑い風がながれた。
「……あれ、ぶっ壊れたな。アメリア、ちょっと回復魔法をお願い。裏に室外機があるから、ちょっときてくれる?」
「はい、分かりました」
私はアメリアと家の裏に回り、錆びだらけの室外機を蹴飛ばした。
「あーあ、これ直るかな。お願い出来る?」
「はい、多分大丈夫です」
アメリアが笑い、ポケットからモンキーレンチを取リだし、室外機を思い切りぶん殴った。
ボン!! と大きな音が聞こえ、排気口から一瞬火柱が吹き出し、止まっていた冷却ファンが回り始めた。
「直りました」
「ありがとう。ちょっと待ってね」
私は衛星電話を取りだし、文字データを送った。
「これで、すぐに新しい室外機が届くよ。だいぶ放置していたからなぁ」
私は笑った。
「さて、これでいいね。家に戻ろう」
私とアメリアは、再び家の中に戻った。
立て付けが悪くなった玄関の扉を無理やりこじ開けて中に入ると、スラーダとナーガが料理をして、まるでマシンのような勢いで、パトラがネギを刻んでいた。
「今日はチャーハンだって!!」
スコーンが笑い、ビスコッティがドクペの缶を傾けていた。
リナが魔法書をパラパラ捲り、マンドラが掃除機で犬姉の顔を掃除していた。
エアコンが猛烈な勢いで冷気を吐き出し、窓を開けていてちょうどいい気温になっていた。
「もうすぐですよ」
スラーダが慣れた手つきで中華鍋を振り、お玉でご飯を時折解していた。
「はい、ネギ盛り一丁!!」
パトラが大量のネギを、小さな寸胴に流し込み、小さく笑みを浮かべて固形のなにかを入れた。
「餃子、餃子が欲しい。ダメ?」
スコーンが笑った。
「師匠、ダメです。摂取カロリーオーバーです」
ビスコッティが、飲み終えたドクペの缶を、スコーンの頭に乗せ、それをマルシルが拳銃を撃って弾き飛ばした。
平和な空気が流れるなか、スラーダが出来上がったチャーハンを大皿に盛り、パステルがそれをテーブルに置き、取り皿を並べはじめた。
「スープお待ち!!」
ねじり鉢巻きをしたパトラが、キッチンからスープが入った器を投げ、それが綺麗にテーブルに並べられた取り皿の脇に並んでいった。
「さて、みなさん頂きましょうか」
スラーダが笑みを浮かべた。
みんなが椅子に座り、レンゲでチャーハンを取り分け、ビスコッティがスコーンに餌をやり始めた。
「美味い!!」
スコーンが笑った。
「あら、パトラ。またレシピ変えましたね」
スラーダがスープを飲みながら、小さく笑みを浮かべた。
「うん、焦がしちゃった……」
パトラが笑った。
「チャーハン下さい!!」
キキが家に入ってきて、ビスコッティの取り皿を持って、速やかに外に出ていった。
「あれ?」
ビスコッティが間抜けな声を上げた。
「ビスコッティ、早く!!」
スコーンが口を開けて、ビスコッティのレンゲを待っていた。
「ダメです。私が食べます」
ビスコッティがスコーンのチャーハンを食べはじめた。
「うん、平和だね」
私は笑った。
夕食が終わると、ビスコッティがビールを飲みはじめ、ソファに座ってスモークチーズを囓り始めた。
パステルが、錆びたクレイモア対人地雷を分解しはじめ、使い物になるように頑張ってり始め、スラーダは読書を楽しみ始め、コマンダーが海兵隊員一名とキュウリを囓りながらバーボンをあおり、マルシルが窓の外に向かってひたすら射撃をしていた。
「また排莢不良……」
マルシルがブツブツ呟きながら、ジャンク屋の野郎とかなんとか呟いていた。
「はぁ、散歩してくるか。蒸し暑いけど」
私はテレビの前から離れ、玄関の扉を蹴り開けて夜闇の中に出た。
「一人じゃ危ないよ。一緒にいく!!」
スコーンとパトラがついてきた。
森の小道を歩いて行くと10式戦車とすれ違い、鹿が三頭小道を横切っていった。
しばらく歩くと湖に出て、満月の光りに照らされた湖面の上を、ジェットスキーで遊ぶ誰かの姿が見えた。
「いい夜だねぇ」
私が呟いた時、アイリーンが需要から飛び下りて、いきなり拳銃を発砲した。
くぐもった声が聞こえ、アイリーンはそのまま森の中に消えていった。
「あれ、なんかいたんだ」
私は呟いた。
「だから、一人じゃ危ないっていったでしょ」
スコーンが笑った。
「うん、なにがいるか分からないからね」
パトラが笑った。
「全く、ここをもらった時からそうだったけど、まだ工作員がいたか」
私は苦笑した。
私たちは湖畔を回る周回路を歩き、程々の距離を稼いで家の前に戻った。
玄関扉を開けようとした時、二機のC-17がフォーメーションで同時に着陸し、駐機場の傍らに集積されていたゴミを回収して、すぐに離陸していった。
そのあと、間髪入れずに二機の派手な塗装が施されたYS-11が同時に着陸し、駐機場に駐まった。
「おっ、やっと塗装が終わったか。スコーントロピカルアイランドスペシャル改」
私は笑った。
「……しゅごい」
スコーンが呟き、パトラが目を丸くした。
玄関の扉が開き、パステルが無言で家の周りに罠を仕掛け始めた。
「おっと、もうお休みの時間かな。一服して寝よう」
私は腕時計を確認し、胸ポケットから煙草の箱を取り出して一本抜き、マッチで火を付けた。
「早くキュウリを植えたいな……」
パトラが笑みを浮かべた。
「ねぇ、メダカってどこで獲れるの。パトラからいるって聞いたけど……」
スコーンが聞いてきた。
「ん、ここメダカはいないよ。気温が高すぎて住めないから。ってか、メダカが住めるほどの川がないんだよ」
私は苦笑した。
「そっか、残念だな……」
スコーンが小さなため息を吐いた。
「まあ、その代わりピラルクはいるよ。デカすぎて釣れないけど」
私は笑った。
「ピラルクはいいや。可愛くないから」
スコーンが笑った。
「そっか、食べても微妙な味だしね。泥臭くて」
私は笑みを浮かべた。
「ねぇ、キュウリの隣にピラルク植えたらどうかな。栄養になるかもしれないよ」
パトラが笑った。
「そんなもん植えなくて、肥料や土は明日届くよ。でも、着陸できるかな。ハリケーンが接近中って海兵隊のジョニーがいってたんだけど」
「なに、嵐がくるの。困ったな、せっかく植えようと思っていたのに」
パトラが耳たぶをちょっと動かし、なにかを探っているようだった。
煙草を吸い終え家に入ろうとすると、アイリーンがイノシシに追われて逃げていった。
「あっ、桜イノシシだね。まだ、子供だから最高時速70キロ程度だけど、大人になると最高時速100キロを超えるからね。仕留めたら猪鍋にできるけど、拳銃程度じゃ歯が立たないからね」
私が呟いた時、夜闇に響く銃声が聞こえ、しばらく待つと芋ジャージオジサンたちが桜イノシシを運んできて、そのままどこかに去っていった。
「明日の朝ご飯は猪鍋だね」
スコーンが笑った。
「うん、いいかもね。今から包丁を研いでおかなきゃ」
パトラが笑った。
家に入ると、ビスコッティがドローンを飛ばして遊んでいた。
マルシルが夜食の準備を始め、スラーダが冷蔵庫を整理していた。
リナがアメリアの髪型を弄ろうとしているのかハサミをもって狙い、向かったアメリアが殺気を放ちながら阻止していた。
「さてと、ハンモックはるかな。ナーガ、ちょっと手伝って」
私とナーガは、押し入れの中に畳んでしまってあるハンモックを取り出し、設置作業をを始めた。
ビスコッティがその様子をドローンで撮影して笑い、スコーンがビスコッティの隣に座って、高級酒を飲みはじめた。
リナが見ているテレビには、フィン王国銀地パレードでⅣ号戦車が列をなして走っていく姿が見られ、マンドラが眠そうに背中を孫の手で掻いていた。
「マリー、どっかで攻撃魔法撃ちたいんだけど、これだけ広い島ならいい場所ないかな?」
リナが笑った。
「うん、案内するよ。ビーチから海に向かって撃てばいい。ちょうど、邪魔っ気な岩礁に座礁した駆逐艦があるから。処理に困っているみたいでさ」
私は笑った。
「あっ、そんなのあるの。連れってって!!」
「分かった。すぐそこだから」
私とリナは、家の外に出た。
再び夜の森の小道を歩き、地図上でP6ポイントの小さなビーチに出た。
暗闇の中に、月明かりに照らされた黒い岩礁と船体がひん曲がったボロい駆逐艦の陰が見えた。
「アレだよ。外さないでね。どっか違う船に当たると困るから」
「分かってるよ。ちょうどいいね」
リナは笑みを浮かべ、呪文を唱え始めた。
「黄昏よりも暗きもの、血の流れより赤きもの。混沌の海をたゆたいし、深遠なる闇の王。我が力、我が身となりて、共に滅びの道を歩まん。神々の魂すら打ち砕き……。ドラグ・スレイブ!!」
リナが放った攻撃魔法が炸裂し、岩礁と駆逐艦が根こそぎ吹き飛び、小さな津波が発生した。
「やるね。お見事!!」
「ちょろいもんよ!!」
リナが笑った。
見ると、ビーチの入り口で指をくわえて見ているスコーンとビスコッティの姿が見えた。
「残念だけど、ここしかないんだよ。下手にぶっ壊すと、珊瑚が傷ついちゃうから」
「……もっと自由に攻撃魔法が撃ちたいな」
スコーンが小さな息を吐いた。
「師匠、私が師匠を狙いますので、師匠は私を狙って下さい。これしかありません」
「なに、やる気なの?」
スコーンがニタリと笑った。
こうして、小さなビーチは戦場と化した……。
全員でズタボロになり、家に戻ると私たちはお風呂に直行した。
手早く髪の毛を洗い、ビスコッティとスコーンがお互いの勤務評定をしているのを尻目に、私はそっと衛星電話を取りだした。
『ん?』
『アレ片付けたから、それだけ』
「分かった。ご苦労」
私は無線電話を空間に裂け目を作ってしまい、大きく伸びをした。
程々の露天風呂には、私たちの他にふらっと立ち寄ったのかバハムートがゆったりお湯に浸かり、日頃の疲れを癒やしているようだった。
お風呂から上がると、私たちは服を着替え、寝間着姿になってリビングに戻った。
リナが缶ビール片手にテレビの前にいき、グランツーリスモを始め。シビックTYPE-Rでひたすらアグレッシヴな走りを展開していた。
ビスコッティが葡萄ジュースで喉を潤し、スコーンは超高級酒のボトルを抱えてラッパ飲みしていた。
「ビスコッティ、このお酒変な味がするよ。なんで?」
「知りません!!」
ビスコッティが、私をビシバシした。
「うん、平和だねぇ」
私は思わず呟いた。
「ん、なぁに?」
なぜか、パトラが幻のお酒を飲みながら、私をみた。
「こら、どこで見つけたの。それ、とっておきだよ」
私は苦笑した。
「さて、そろそろ休みましょう。そろそろ、夜明けですよ」
スラーダが、カップ酒を飲みながら笑った。
「あれ、もうそんな時間か。みんな、急がないけど寝た方がいいよ」
私は数種類のタブレットをお酒で流し込み、適当にハンモックに転がった。
「分かった。寝るけど、気持ち悪い……」
スコーンがぼや~っといった。
「知りません!!」
ビスコッティが、スコーンを適当なハンモックに投げ込んだ。
「あーあ、怒っちゃった。知ーらない!!」
私は笑ったのだった。
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