短編

影月 潤

テーマ「クトゥルフ神話」

「クトゥルフ神話だよ」

「へ?」

 俺の解説のさなか、その単語を口にするとネネは目を丸くする。

「そういう作品群があるんだよ。いろいろな架空の神様を集めて作られた、比較的新しい神話だ」

 俺はネットで知った知識を得意げな顔をしてひけらかす。

「ふーん」

 ネネは手にしていたイラスト集をまた広げた。

 どこか怪物じみたさまざまな神様の姿が、彼女の握っているイラスト集には描かれている。そして、そのモチーフは、

「クツルフ神話」

 ネネが口にした。

「クトゥルフ神話な」

 俺は訂正して口にする。

「くちゅるふ神話」

「クトゥルフ」

「くつるふ」

「クトゥルフ」

「く、とぅ、る、ふ」

「そう」

「くちゅるふ」

「………………」

「くつるふ」

「………………」

「………………」

 俺は声を出して笑った。

「な、なに笑ってるのさ!」

 恥ずかしそうに顔を真赤にしながらネネは叫ぶ。

「ていうか、普通にいえないんだけど! くつるふ、くちゅるふ、く、とぅ、る、ふ。くちゅるふ。あーん、いえない!」

 ゆっくりいえばいえるくせに、早くいおうとして噛んでしまう。

 その可愛らしい仕草に、俺はますます笑い声を上げる。

「いつまで笑ってんのよ! バカー!」

 真っ赤な顔で叫ぶ。

 まったく。

 ちょっといいたい単語がいえないだけだけど。

 ちょっと口の回りが悪いだけだけど。

 今日も、俺の彼女は超カワイイ。

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