奇談・怪談

ギリシア奇談集:ひつじの肉ではない

 岩波文庫から出ている「ギリシア奇談集」を読み終えた。

 訳者は松平千秋と中務哲郎さん。


 ローマ人アイリアノスが、他者の著作から引っ張ってきた話を詰め込んだ本で、短い話は数行、長い話でも数ページで終わる。

 内容は、奇談とは言いがたい話が多く、タイトルで買うと当てが外れる。

 古代ギリシアに関するいろいろなジャンルの話が収まっているが、著名人に関するエピソードが目につく。

 内容について言えば大した本ではない。

 コンビニに並んでいる歴史や人生訓の本をイメージしてもらえればよい。

 古代ギリシアに関する書籍をある程度読んでいる者には物足りないだろう。

 そのかわり、古代ギリシアに興味を持ちはじめた人にはちょうどよい本。

 「ヒストリエ」で古代ギリシアを知った人とか。「ヒストリエ」の登場人物はあまり出て来ないが。

 「ギリシア奇談集」は、漢籍で言えば「十八史略」に近い。

 本自体の価値は低いが、その時代の人々が読んでいた本を知る上で意味のある作品である。

 以下、気になった話ごとにコメントをつける。


〇第2巻二四「体は強いが心は弱いミロンのこと」

 作者の意図とは異なるが読んで気持ちがほっこりした。


〇第4巻二五「トラシュロスの風変りな狂気」

 漢籍の四字成語になりそうな話。何が幸せか。


〇第8巻十五「ピリッポス、勝利におごらぬこと」

 アレクサンドロス三世(大王)の父であるピリッポスの逸話。

 息子の事績から逆算して作られたフィクションか。


〇第9巻二四「スミンデュリデスの遊惰」

 見るだけでも疲れると、他人が働くのをやめさせた男。わかる。


〇第9三九「笑うべく、かつ異常な恋について」

 フィギュアや二次元への愛は古代からある。


〇第12巻三「エパメイノンダスの死」

 妙な臨場感がある文章。


〇第13巻三八「アルキビアデスのこと」

 歴史上の人物でだれが興味深いかと問われれば、アルキビアデスを挙げたい。

 ソクラテスから愛された弟子であり、その師が刑死する遠因を作った男。

 類いまれな美貌だけでなく、魅力と才能にあふれながら、無節操と利己主義を極めた男。

 自分の命がかっている時は母親の言葉すら信じない、と言い切った男。

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