第29話 暗殺のプロ

 俺はおばちゃんから、暗殺ギルドの場所を聞き出すことができた。

 場所は、ウィドウの街の北西。

 廃業したホテルを改造し、そこを根城にしているようだ。

 暗殺ギルドだというのに、隠れる気が一切ない。

 それだけ「負ける気がしていない」ということだろう。


 廃ホテルなんて目立つものを根城にしているのに、現在までやっていけているんだ。

 実際に、なかなかの戦力を持っていると見ていい。


 実際にホテルを視認できる位置にまで来たが、警備が厳しい。

 シェリー達がどこにとらわれているかもわからないのに、単身乗り込むのは無謀だ。

 第一、俺は身を隠す魔法を習得していない。

 警備の連中は索敵魔法を使っているだろうし、突破は難しいだろう。

 だが、今の俺にはおばちゃんから授かったポーションがある。


 ポーチ一杯に詰め込んだポーションの内、一つを飲み干してから、俺は暗殺ギルドの本部、廃ホテルへと足を踏み入れた。

 

 今飲んだのは、索敵魔法から逃れるためのポーション。

 本来は超が付くほどの高級品らしいが、ただで譲ってもらった。

 これで潜入できる。


 廃ホテルは見たところ三階建て。

 窓は均等な感覚で並んでいるが、そのどれも損傷がひどい。

 ロクに整備していないのだろう。

 だとしたら、あの窓から建物の内部に潜入することが出来そうだ。


「ギガウィンド」


 俺は静かに魔法を唱え、風魔法で体のにかかる引力を軽減する。

 そして、配水管を伝ってビルを上った。


 今の俺は索敵魔法に引っかからないと言っても、目撃されてしまえばそれまでだ。

 慎重に行動しなければ。


 割れていた窓の一つに入り、ほっと一息つく。

 何とか建物に入ることはできた。

 後は、シェリーとスノウを探すだけだ。


 俺が今いるのは、かつては客室だったであろう部屋。

 ぼろぼろのベッドと、荒れ放題なシャワールームから、まともに使っていないことが見て取れる

 俺は扉の前まで寄り、索敵魔法を使った。

 引っかかったのは、人が一人。

 おそらくは、見回りだろう。


 そいつを尋問すれば、シェリーの場所を吐くだろうか?

 いや、奴らもプロだ、そう簡単に口は割らないだろう。


 だが、試す価値はありそうだ。


 俺は、見回りの視線がこちらを向いていないタイミングで、慎重に扉を開く。

 見回りをしていたのは、一人の男。

 銃を片手に、気だるげ二歩いている。

 俺はそいつの死角から歩み寄り――。


 そいつの心臓を、聖剣で貫いた。


「悪いな。殺させてもらった。

 俺の知りたい情報を吐けば、回復魔法をかけてやる。

 ここに、二人の女が運び込まれたはずだ。

 場所を教えろ」


 男は血を吐くと、何が何だかわかっていない様子で口を開いた。


「な……お前は……!?」

「早く教えろ。

 手遅れになる前にな」


 流石に、ただ脅すだけでは、プロは口を割らないだろう。

 だったら、実際に死の恐怖を味わわせればいい。

 そうすれば、プロにでも多少は響くはずだ。


 男の手ががくがくと振るえる。

 ついに足に力が入らなくなったのか、男はその場に崩れ落ちた。


「早くしろ」


 俺は冷酷に言い放つ。

 心を鬼にしろ。

 じゃなきゃ、俺の大切なものを失うことになる。


 男は半ば叫ぶような形で、俺の求めている情報を吐いた。

 と言っても、その叫びすら擦れているのだが。


「ぼ、ボスの部屋に……!」

「それはどこだ?」

「ホテルの最奥の、VIPルームだ……そこに……」


 そこまで言って、男はもう一度血を吐いた。

 もう限界か。


 俺は男に回復魔法を掛けながら、ゆっくり聖剣を抜いた。

 命に別状はないであろう辺りまで回復させ、男を床に転がしておく。


 さっきの方法は、死への恐怖で無理やりに口を開かせることはできるが、下手したら殺してしまうのが玉に瑕だな。


 ホテル最奥の、VIPルーム……か。


「行って、確かめるしかないか」


 俺はそうつぶやき、VIPルームを探した。

 見回りの連中を、殺さない程度に始末しながら。


 そしてたどり着いたのは、VIPルームの並ぶ廊下。

 五室ほどが一直線に並んでいるが、このどれかにシェリーが……?


 その答えは、向こうからやってきた。


 五室のうち一室の扉が開き、一人の男が出てきたのだ。


「お前がフェル・フェリルだな。

 ボスがお呼びだ」


 この男、何故俺が来るタイミングを知っていた。

 これは罠かもしれない。

 だが、俺がここにきていることがバレているなら、今更こそこそするのはなしだ。

 俺は聖剣を手に、その男が出ていた部屋へと入った。


 その部屋は、いえ一つ分はあろう広さだった。

 そこに、暗殺ギルドのメンバーが、部屋を囲むように並んでいる。

 部屋の奥には、豪勢な、それでいて汚らしい椅子。

 その椅子に、一人の男が座っている。


 その男の視線の先、部屋の中央には……シェリー!

 スノウも一緒に縛られている。

 そして、アンも。

 アンは、部屋の上から垂れる手枷に、釣りあげられていた。


 なぜ、アンが縛られている。

 いや、そんなことはどうでもいい!


「シェリー!」


 俺が入ってきたのを見て、豪勢な椅子に座っていた男が、ゆっくりと腰を上げる。


「おいアン、こいつは殺したんじゃなかったのか、ああ!?

 なんで生きているんだ! なあ!」


 この男が、ここのボス……。

 シェリーとスノウを攫った張本人。


 俺は、ボスに向かって聖剣を構えた。

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