第20話 装備を新調しよう

 スノウの変貌には驚いた。

 まさか人としての姿があるだなんて、思いもしなかった。

 流石にすっぽんぽんで街中を歩かれては困るので、以前シェリーが使っていたマントを纏わせた。

 深めに巻いたので、多少動いても見えないだろう……多分。


 俺達は今、装備を新調するために街を歩いていた。


「スノウちゃん、可愛いですね!

 妹が出来たみたいです!」


 悩みの種が増えたと頭を抱える俺の傍ら、呑気なことを言うシェリー

 

「そう? スノウのこの姿、かわいい?」

「ええ、とっても」


 スノウは「やったー」と言いつつ、シェリーに抱き着いた。


「呑気なもんだね……。私がいなければ、この街に入ることすらできなかったのに」


 アンはそう腐すが、彼女もこの空気が嫌いなわけではなさそうだ。


「ずっと逃げ回ってたんだ。たまにはいいだろ」


 アンはこの光景を目に焼き付けるように、噛み締めるように「まあね」と呟いた。


 街を歩いているうちに、俺達は服屋に到着した。

 この街には、以前少し滞在していただけだが、意外と土地勘は残っているものだ。


「いらっしゃいませ~。何をお探しでしょうか~!」


 服屋の店員のお姉さんが、入店した俺達に声を掛けてきた。

 俺はスノウの頭に手を乗せ、


「この子の服を用意してほしい。わけあって今、服を着てないんだ」

と告げた。


「はいは~い。この子ですね~。

 って服を着てないって……」

「私、服いらないよ?」


 スノウはそんなことを言うが、やめてくれよ……変な誤解されるだろうが。


「見たところ皆さん、冒険者様ですよね。

 普通の服でよろしいんでしょうか?」


 皮鎧などを纏う俺達を見て思ったのか、店員は問いかけてきた。

 確かにスノウが普通の人間なら、武具屋で買った方がいいんだろうが、スノウの場合は、街を歩くときにとりあえず着せておきたいだけだ。

 普通の服で構わないだろう。


「ええ、問題ありません」


 すると、店員はスノウを店の奥へと案内した。


「そういえばフェル、スノウちゃんが鳥の姿に戻ったら、服が破れてしまいますよね。

 どうしましょう……?」


 シェリーの疑問は当然のことだ。

 いちいち脱いでから変身しろと言っても、聞きそうにないし……そもそも、変身前にすっぽんぽんになれだなんて、俺の口からは言えない。

 なにか再生する服などを用意できればいいんだが……。


「そうはいっても、復活する服なんてあるのか?」

「聞いたことはありますが、普通の服屋さんで買えるかは……」


 俺とシェリーはう~んう~んと頭を悩ませる。

 そんな俺達を見て、アンが小さくため息を吐いた。


「わかったよ。

 私の収納魔法を使ってあげる。

 変身するときに言ってくれれば、瞬時に着せたり脱がせたりしてあげられるから」

「おお、そんなことができるのか!」


 便利だな収納魔法!

 俺も習得しておけばよかった。

 基本的に収納魔法は、違法に物を運搬することを目的としたものが多い。

 普通の冒険者ギルドだと、教わることができないんだよな。


「それじゃあ、スノウ本人に覚えてもらうっていうのもいいかもな。

 アン、今度でいいから教えてあげてくれ」


 俺の言葉に、アンは少し俯く。

 あれ? 俺変なこと言ったか?


 アンは視線を俺の目から外したまま「今度ね」と返事した。


「は~い、採寸終わりました~!」


 そう言って店の奥から出てくる店員。

 スノウは、白いワンピースを着ていた。


「おお、可愛いじゃないか」


 俺は素直に、スノウの頭を撫でてやる。


「ほんと?

 お父さん、私可愛い?」

「ああ、可愛いぞ」


 スノウは「やったー」と抱き着いてきた。

 そんなスノウを抱えて、抱っこしてやる。

 なんかこうしていると、妹が出来てみたいで可愛いな。

 って、シェリーと同じこと言ってるな、俺。


「とりあえず在庫を着せてあげたんですが、それでよろしいでしょうか?

 オーダーメイドでおつくりすることもできますよ?」


 まあ、スノウ自体、服はいらないと言っているから、わざわざオーダーメイドまでしてもらう必要はないだろう。

 それはスノウが成長して、おしゃれをしたがってからでも遅くはない。


「スノウ、これでいいよな」

「うん!」


 そうして俺達は、服屋を後にした。

 次の目的地は……。


「ここが、この街の武具屋だ」


 俺は武具屋の扉を開き、店へと入った。


「いらっしゃい!」


 見覚えのある顔が、俺達を出迎える。

 一時期この街に住んでいたころに、お世話になった武具屋だ。

 と言っても、もう三、四年前。

 店主のおっちゃんが覚えていてくれているか……。


「う~ん、兄ちゃんたち、どっかで……」


 お、これは覚えていてくれるか?

 俺が声を発っそうとすると、おっちゃんは手で俺を制した。


「ちょっと待て、今思い出すから……」


 それから数十秒して――。


「あ~!

 思い出した、あの双子がいるパーティのバッファーだ!」

「当たり!

 流石はおっちゃん!」


 どうやら覚えていてくれたようだ。


「で、今日は何の用だ?

 うちの品物じゃ、お前のお目にかなうものは、ないかもしれないぞ」

「ちょっと、装備を整えて欲しくてな」


 俺は、シェリーの肩を叩く。

 おっと、はっきりとシェリーに装備を用意したいきさつを、喋ってしまうわけにはいかないよな。

 ただでさえ、マントもさせずにつれてきたんだ。


「えっと、この子の装備を用意してほしいんだ。

 冒険者時代の服を久しぶりに着たら、サイズが合わなくなってたらしくてな」

「ふぇ、フェル!」


 その言葉に、シェリーは顔を真っ赤にした。

 おっちゃんは大きくため息を吐き「女心」っと呟く。

 

 俺、なんか変なこと言ったか?


「まあ、言いたいことはわかった。

 武器はどうする?

 見たところ嬢ちゃんたちは丸腰だが……」


 確かに、亜空間に武器を収納しているアンも丸腰に見えるかもしれない。

 だが、今回武器が必要なのはシェリーだけだ。


「いや、この子の分だけでいいよ。

 適当に見繕ってくれないか?」

「わかった。にしても面白いパーティだな。

 これがハーレムってやつか?」

「違うから!」


 このおっちゃん、当時からセクハラの気があるんだよな。

 シェリーにも変なこと言ってなきゃいいが……。


「嬢ちゃん、ナイスバディだねぇ。

 こんなにスタイルのいい子に合う装備なんか、うちにあったかな」


 ほら、やっぱり!


「おっちゃん、それセクハラだぞ」

「キミが言えたことじゃないと思うけどね」


 すかさずアンの突っ込みが入った、俺に。

 やっぱ俺、さっき変なこと言っちまったのか?


 それからしばらくして、店の奥から新たな装備に着替えたシェリーが出てきた。

 腰には、オーソドックスな剣を掛けている。


「ど、どうでしょうか?」


 多少デザインは違うが、基本を押さえた皮鎧だ。

 印象はそんなに変わらない。

 サイズもしっかり合っているので、変に人の目を集めてしまうこともないだろう。


「うん、よく似合ってる」


 アンも「悪くないんじゃない?」と頷いていた。


 これで一通り装備を整えることができた。

 最後は――。


「――ここが宿屋だな」


 俺達は宿屋のドアを潜る。

 この宿屋は大きいし、ようやく一人一部屋にできそうだ。

 だが、一緒の部屋がいいと騒いだのは、案の定というべきか、スノウ。


 仕方がないので、スノウと俺のみ一部屋で予約することにした。

 まあ見た目十歳前後だ、妹のようなものだと思えば、一部屋で寝泊まりしていてもおかしくないだろう。


 シェリーの部屋は念のため、俺の部屋の隣にした。

 何かあった時に、すぐ駆け付けられるようにだ。


「何かあったらすぐに言えよ。

 壁越しにもバフは掛けられるから、やばいと思ったら壁を思い切り叩くこと。

 後しっかり鍵をかけて――」

「もう、心配しすぎですよ」


 なんてシェリーは笑うが、やはり違う部屋に寝泊まりは少し不安だ。

 アンのように音を立てず忍び込むことができる奴もいる。

 シェリーの身分がわかっていれば、真っ先に狙うだろう。


「後はアン、お前はシェリーの部屋に出入りしないように。

 まだ信用したわけじゃないからな」

「はいはい、私はどうせ暗殺者ですよ」


 一応、アンにも釘を刺しておいた。

 後は俺が感知魔法をかけて寝ていれば、問題ないだろう。


 その夜は、スノウが同じベッドで寝たいとごねるので、スノウを抱いて寝ることにした。


「どうだ、冒険は楽しいか?」

「楽しいよ!

 この街も好き!」

「そっか、よかった」


 今日は寝ないでお話をすると意気込んでいたスノウだが、こっくりこっくりと舟をこぎ始めた。


「今日はもう寝ろ。

 眠いだろ?」

「うん……おやすみ……」

「ああ、おやすみ」


 俺がスノウを撫でる手を、止めることはなかった。

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