躙口

  躙口にじりぐち



三疊程さんでふほどな庭であつたが

狗蹲いぬつくばひつくばつて


當座たうざ


ねむつてをつた目を開き

閉ぢてをつた耳を開き


寫眞しやしんのやうなる白黑の形象かたち

さあさあと鳴るサ行の音聲おと


色はともかく

音はと言へば


人の聲帶せいたいの振動ならば

たちまちに子音しいんのSは失せ

母音ぼいんのみ殘り響けるが

僕が聞けるはあら


狗蹲いぬつくばひつくばつて

頭を巡らせ窺ふのだけれど


寫眞しやしんのやうなる白黑の形象かたち

さあさあと鳴るサ行の音聲おと


色はともかく

音はと言へば


何時迄いつまでも子音は保たれ

何處迄どこまできせぬ具合

SとAとがれぬまま

SとIとが離れぬ儘に


ああ

ほらほら然樣さやうなる

無い物ねだりをするぢやない


さういましめられたとて


何條なんでふ程のものにもあらぬに

        あらぬといふに






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る