燕來ぬ家

  燕來ぬ家



つばめが來ぬ家でありました

人に話せば

燕も來ぬか それは何とも

と口をつぐみます


すみれ咲かぬ家でありました

人に話せば

菫も無しか それも何とも

と先を申しませぬ


その時の

眉根まよねを寄せた

何とも云へぬ人のかほ


他家よそのきには燕のさひづります

他家のにはには菫が風にあよきます


それらをちらちらと

蔭乍かげながら眺める幼いわたくし

何とも云へぬ顏をしてゐたでせう


燕も來ず菫も咲かぬ家に

かうして大人にはなりました


何とも云はれぬ顏のまま


それが一體いつたい わたくしなのであります





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