　　今日の好き日に

　這廻（はひまは）つてゐた

　そのうちに這ずり廻るやうになつた

「這（はふ）」と「廻（まはる）」とのあはひに

「ずり」が収まつたころあひについて

　あまり思ひ出したくはない

　いづれにせよ

　片方が萎（な）へてしまつたのである

　爾後（じご）

　隨分と力が要る

　殊（こと）に前肢（ぜんし）と中肢（ちゆうし）

　視界は朧

　黑と鼠（ねずみ）

　それに矢鱈（やたら）と寒い

　水の匂ひが來れば口を近付け

　顎の類（たぐひ）を開き下咽頭（かいんとう）を動かしてみる

　それでも

「ずり」の經緯は

　思ひ出したくない

　實（じつ）は近頃

　もう一方の後肢（こうし）も痺（しび）れ始めてゐるらしい

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