宝石を出す力に目を付けられて利用され続けました。実家を追放されたけれど、親切な人の元でお世話になっているので、幸せです。

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 この世界には、様々な神様がいる。

 神様は、絶えず地上の人々を見守っていて、気に入った人間には特別な力を授けるらしい。


 それが加護の力だ。


 私も加護を持っている。


 子供の頃、神様から宝石を出す力を授かった。

 宝石の神様に、気に入られたからなのだろう。


 私の容姿は、そのころよく周囲の者達に「まるで宝石の様だ」と言われていたから、だからなのかもしれない。


 しかし、一見便利なように見えるその力は、トラブルを招き寄せるだけだった。


 お金持ちの令嬢として生きていた私は、その珍しい加護の力もあって、人さらいに逢ってしまった。


「その力は誰にも見せては駄目よ」

「友達にも見せてはいけない」


 そう両親に言われていたのに、友達に見せてしまったせいだ。

 それで、宝石を生み出す人間の噂が広まり、私は攫われた。


 私に目をつけたのは、巷を騒がせる盗賊達だった。


 強大な力を持つその盗賊達は、両親達が依頼してよこした「私を助けるための冒険者や騎士団」達を次々と退けてしまった。


 しかも移動の仕方が巧妙であったため、盗賊達がどこに行ったのか、誰も分からなくなる。


 連れ去られていた私にも、詳しい経路が分からない。


 そうやって彼等が私を連れ、どこかを通って隣国へ逃げた頃には、誰も助けに来てくれなくなっていた。





 そんな盗賊達に捕まっていた私は、いつもひどい扱いをされていた。


「なんだ、ぜんぜん宝石が出てねーじゃねぇか。出せよ! 仕事しねーやつには飯やらねーからな」


 彼等に囚われた私は、毎日宝石を生み出す事を強要された。


 宝石を出さなければ、ご飯も食べさせてもらえない。


 それどころか殴る・蹴るの暴行を受けてしまう。


 だから、私はいつも怯えながらすごしていた。


「そんなに宝石はだせないの。お願い、もう殴らないで」

「もっと出せるだろ! さぼってんじゃねーよ!」


 しかも、私の力には限度があるのが問題だった。


 調子の良い時と悪い時では、宝石を生み出せる回数が違っていたため、出せなくなった時が地獄だった。


「宝石を出せるようになるため、ここに閉じ込めておくからな! てめぇがしっかり働かねーから悪ぃんだぞ!」


 一つも生み出せくなった時は、狭い牢に閉じ込められて、食事も与えられずに放置されていた。


 そんな死んだほうがましだと思う様な日々が、長くつづいた。


 けれど、そんな日々はあっけなく終わりをむかえる。


 盗賊達がとある小国にたどり着いた時、とある傭兵が私を助け出してくれたからだ。


 その人は、私に「大変だったね」と言って、あたたかい寝床と、美味しいご飯をふるまってくれた。


 その時、私はこれでこの地獄の日々にサヨナラできると思っていた。


 けれど、待っていたのはもっと辛い日々だけだった。






 傭兵の手によってしかるべき場所に送り届けられた私は、事情聴取された。


 宝石の加護の事は黙っていたけれど、捕まえた盗賊達が喋ったのだろう。


 その力に目をつけられた私は、また利用されることになった。


 私が保護された小国の要人達は腐っていたからだ。


 彼等は、自分達の立場や権力を使ってやりたい放題を行う者達だった。


 だから。


「珍しい。この娘は、私の所で飼わせてもらおう」

「独り占めするきか? 私にも譲ってくれ」


 珍獣のように扱われて、ペットとしてお金持ちの家を渡り歩くようになった。


 盗賊達の元にいた頃は、ボロ布をまとった薄汚い娘だった

 だが、栄養のある食べ物と、暴力に怯えず睡眠がとれるようになった事で、貴族として生活していたころの見た目に戻っていたからなのかもしれない。


 私は珍しい宝物のような扱いをうけた。


 それだけだったら、まだマシだっただろう。


 だが、それで終わりではない。


「宝石が出せる娘なんて良い宣伝材料になるぞ! ならば、この娘を美術館にかざろうではないか」


 そんな信じられない事になったのだ。


 要人達の間で見世物にされた後は、国中の者達の見世物にさせようという事になった。


 その後、理解できない考え方で私はいつもふりまわされた。


「なぜいつもそんなつまらない顔をしているのだ? その娘に笑顔の練習をさせれば、見に来た連中はもっと喜ぶだろう。学ばせてやれ」


「踊りの練習をさせてみればどうだ? 金ならいくらでもある、とびっきりの講師を探そう。なに、いやがっても無理やりいう事をきかせればいい」


「楽器の演奏をさせてみたら良いのではないか? 音楽があるとより一層華やかに見えるはずだ」


 彼らは自分達の要求を無理やり私につきつけてきた。


 私が言う事を聞かないと怒鳴り散らし、人から見えない部分を殴り、痛めつけ。何度も恥ずかしい罰を与えられた。


 彼らの元から何度も逃げようとしたが、厳重な警備に阻まれ、それは叶わなかった。


 その内、抵抗する気力がなくなってしまった。


 盗賊達の元にいた頃は、自分の心を信じられた。


 怒りや憤り、不安があったものの、それらを偽る事なく過ごす事ができた。


 けれど、そこでの生活は心を砕くようなものばかりだった。


 表面上は暴力を振るわれているように見えないし、豊かな生活を送っているように見えたため、何も知らない人々から敵意を向けられたこともあった。


「見世物になるだけで、生きているだけで可愛がられるなんて、なんて羨ましいんだ」

「幸運な娘だな」

「自分では何もせずに与えられてるんだろ? いいご身分だよな」


 美術品として美術館に飾られている時に、ショーケースをたたき割って私に恨み言を吐いてきた男性もいた。


 ボロボロの服を来て無精ひげを生やした、やせこけた男性だった。


 私はまるで人形にでもなったような気持ちで、毎日過ごしていた。






 けれど、私の不幸はそこまで。


 どこかの犯罪者集団によって、美術館が標的にされたらしい。


 それでその集団がしかけた爆発物によって、建物の各所を破壊するような爆発が起きた。


 私はその混乱に乗じて逃げ出した。


 当てもなく走っていた私は、国を出て、そして昔助けてくれた傭兵に出会った。


 彼はあれから別の国に行って、騎士になったようだ。


 立場と権力と名誉を手に入れて、恵まれた生活を送っていたらしい。


 彼は私を見つけた時に、見返りを求めることなく手を差し伸べてくれた。


「困っている人を助ける。そこに見返りを求めて行動してしまうと、何よりも大切な自分の心が汚れてしまう」と、そう言いながら。


 そんな彼は、私を故郷まで送り届けてくれた。


 久々に再会した両親は、喜んで私を抱きしめてくれた。


「よく無事でいたわね」

「お帰り。生きていてくれてよかった」

「お母様! お父様! うわぁぁぁぁん」


 そして、たっぷり一時間も、両親の腕の中で涙を流した。

 そこで、私は自分が長い間泣いていない事に気が付いたのだ。


 故郷に戻った私が落ち着いた頃、両親が提案してきた。


 加護を持っている私は、この先また危険な目に遭うかもしれない。


 だから、実力のある人に守ってもらいながら過ごす方がよいだろうと。


 そこで、私を助けてくれた傭兵の、ではなく今は騎士になっているその男性の元へ行くのが良いのではないか、と言われた。


 彼なら何かあっても助けてくれるだろうし、不当な扱いをする事もない。


「私もあの人の傍にいたいです。でも、守られるばかりは嫌ですわ」


 大事な事なので、私達は互いにじっくり話し合って、結論を出した。


 出した結論は常識外れもの。


 それは、貴族の家を追放されたことにして、使用人として彼の力になろうというものだった


 宝石の加護を持つ少女の名前は、おそらく有名になってしまっている。


 美術館で多くの人の見世物にされた私の事は、多少ねじ曲がっていたがこの国にも届いているからだ。







 美術館の件で、お母様はその建物にいる人間が、私かどうか確かめに行ったようだが、間が悪いことにその日私は美術館にはいなかった。体調をくずしていたため、よく似た別の人間が身代わりになっていたのだ。顔を伏せて立つだけのその身代わりの女性を見たお母様は、噂になっているのは私によく似た別の人だと解釈したらしい。


 美術館にも問い合わせてみたものの展示品の情報は、私のものとはまったく違う人名と生年月日が書かれていた。


 しかもこれ以上詮索するようなら、営業妨害だと言われてしまったため、私がいた事に気が付く事なく帰ってしまったらしい。


 お父様がその場にいれば、また違った結果になっていたかもしれないが、貴族としての役割を果たす為に地元に残らなければならなかったため仕方がなかった。


 その日。


 私は、なつかしい屋敷の中をたくさん歩き回った。


 せっかく帰ってきた場所だが、すぐに離れなければならないからだ。


 調理人からおやつをもらった厨房、家庭教師と勉強した勉強部屋、走り回った中庭など見て回った。







 翌日、髪を染めた私は、平民の姿に変装して屋敷を離れた。

 そして、私を助けてくれた騎士の男性の元へ向かう。


 手紙であらかじめ用件を伝えられていた彼は私を優しく迎え入れてくれた。


「お嬢様としての生活を捨てる事になるのは大変だけれど、その決断を尊重する。ようこそ。これからもよろしく」


 私はその日から、平民の女性として、身元を伏せながら生きる事になった。


 最初は勝手の違う生活に戸惑ってばかりだったが、周りの人達は良い人ばかりだった。


 出来ない事があっても、親切に教えてもらえたし、できるまで根気よくつきあってくれた。


 長い間盗賊の被害に遭っていたという話だけは、偽りなく述べる事ができたので、社会経験が欠如しているのはそのせいだと思われただろう。 


 それからしばらくは穏やかな日々が続いた。


 時折、騎士の男性が仕事場を訪れて、様子を見に来てくれたり、両親と手紙のやりとりができたので、まぎれもなくその日々は愛に溢れた生活だった。


 しかし、それでもたった一度だけ危ない目にはあった。



 




 それは偶然だったのだろう。


 買い出しの最中に道を歩いていた私は、以前こちらを捕まえていた盗賊と鉢合わせてしまった。


 それでまた攫われてしまったのだ。


 脳裏によみがえる過去の光景に絶望しそうになっていたが、すぐに騎士の男性が助けに来てくれた。


 そこで私はやっと、安心する事ができたのだ。


 生きている限り、これからも辛い事や悲しい事があるのだろうけれど、もう絶望に膝を落とす必要はないのだと。


 窮地に落ちている自分を助けてくれる人がいるからだ。


「目撃者から君が攫われたと聞いて、いてもたってもいられなかった。君が無事でよかった」

「助けてくれてありがとうございます。本当に。貴方は私の体だけでなく心も救ってくださいました」


 だから、同じように苦しんでいる人がいたら、今度は私が助けてあげようと思った。


 攫われた場所を調べていくと、私と同じような境遇の人達がたくさんいる事が分かった。


 だから、私は働いて得た給金で、彼女達の役に立つ事に使おうと決めたのだった。


 将来は、彼女達のような人たちを助ける事がしたいと思った。


 しかし、見つかったのはそういった「まぎれもない被害者」だけではなかった。


「おっお前は! 宝石の娘! 姿が変わっていても分かるぞ! 長い間顔をあわせていたこの私にはなっ!」


 そこには、私を見世物にしていた要人達も捕まっていたのだった。


「私を助けろ! また美味しい餌を与えてやる! 良い生活を与えてやるぞ! ははっ、この幸運に感謝するんだな!」


 彼等は、国と国の交渉事に関して、街道を移動している時、盗賊に襲われたらしい。


 それで、こんな扱いを受けているのだとか。


 泥にまみれた服をまとい、やせこけた頬をした彼らの姿は、哀れみをさそうほどだった。


 彼等が、純粋に自分の言動に絶対の自信を持っているという事も含めて。 


 そこで騎士の男性が彼らに剣を向ける。


「悪いが俺は元傭兵だ。綺麗事ばかりでは生きられない事を知っている。お前達はこの娘の正体に気が付いた。なら、生かしておく事はできない」

「そんなっ! おかしいだろ! どうしてそうなる! 私達は正しい事を言っているだけだ! おい、お前、この騎士に何とか言ってくれ! そんな変装をして、美しい見た目を騙して何の得になるというのだ!」


 彼らは最後まで、自分達のやっていることが、良い行いだと思い込んでいたのだろう。


 騎士が剣を振るうまで、信じられないという顔をしていた。







 その後、私は使用人としての地位を確たるものにして、身寄りのない女性達の手助けをする仕事についた。

 騎士の庇護の元ではあるが、その日々はとても充実していた。


「仕事の様子はどうだ?」

「順調です。全てはあの日、美術館を抜け出した私を、騎士である貴方が助けてくれた時から」

「それは良かった。でも油断しないでくれ。もう、盗賊に攫われるようなことは起きてほしくないからな」

「はい、わかってます」

「大切な人には、ずっと笑顔でいてもらいたい」

「それって」

「いや、こちらの話だ。今は仕事がいそがしいだろう。がんばってくれ」

「はい、私が辛い目に遭った分だけ、彼女達の力になりたいと思ってますから」


 宝石を出す力に目を付けられて利用され続けた私の人生だけれど、親切な人の元でお世話になっているので、幸せです。


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