幼年期ささたけ

 私の記憶にある中で、もっとも古い読書の記憶は、三歳ころのことである。


 私には姉が二人いるのだが、その当時は二人ともが小学校や幼稚園に通うようになり、一人残された私は暇を持て余していた。どのくらい持て余していたかというと、足の爪を噛もうと悪戦苦闘する程度には持て余していたらしい(母親談)。


 そんな私を不憫に思った母親が私に与えたものが、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ著の「星の王子さま」である。


 今にして思えばなんちゅうものを与えるんだとか普通に絵本を渡せよと思わないでもないのだが――ともかく私はこうして、本と出会ったのである。


 正直な話をすれば、当時その本を読んだ際の感想などはまったく覚えていない。そもそもろくに漢字も読めない年代なので、楽しめるわけがない。文章を読んでいない以上、読書とはいえないかもしれない。


 ただ――挿絵の王子さまは可愛いな、とおぼろげながらに思っていた記憶だけはある。そこで、本は楽しいものだと気付いたのである。


 余談ではあるが、この星の王子さまを高校時代の夏休みの宿題として読書感想文に選んだ際、教師に怒られたことがある。それ以来、私は国語(特に現代文)の宿題を提出することをやめた。


 それはともかく。

 挿絵を眺めるだけなので、初めての読書はあっという間に終わってしまったが――幼い私はこうして読書の第一歩を踏み出したのである。その後、私は他の本を探して両親の蔵書を漁り始めた。


 幸い、私の両親はたいそうな読書家であったので、読む本には事欠かなかった。たいそうな読書家すぎて、物心がついてから父親の蔵書の中に官能小説を発見してしまったときは、一人でドキドキしていたことを覚えている。

 もしもこの作品を子持ちの方が読んでいらっしゃるのならば、声を大にしてお伝えしたい。




 あなたの子供なのだから、当然本に興味を持つぞ!

 読まれて困るものはちゃんと隠せ!

 カバー外した程度で油断するなよ!




 多少、話が脇道にそれてしまったが――これが私の本との出会いである。ホントだよ。

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