第31話

 マナは、ポーラハム神殿というワードを聞いて、直感で、アタシが行かなければならないのはそこだ! と思った。


 そのあと、次々と神殿にまつわる記憶がよみがえってくる。


 荒野の中央にある古びた神殿。

 そこには土の精霊がいた。

 そして、自分はそこで転生の術を使い、転生した。


(そして、アタシが神殿に行かなかなければならない理由は……確か自分の能力を取り戻すため?)


 目的までマナは思い出した。


 ポーラハム神殿に行けば、前世で身に着けた白魔導士としての力を取り戻すことが出来るのであった。


 転生した目的まではまだ思い出せないが、力を取り戻さなくては、達成が難しい目的でありそうな予感をマナは感じていた。


 仮に力がいらずとも、神殿には土の精霊がまだいるだろう。精霊には寿命という概念は存在しない。かなりの500年の年月が経っていても、死んではいないはずだ。


 土の精霊の名前や、どんな性格だったかまではあまり思い出せていないが、その精霊に転生の目的を話していたということは思い出していた。


(ポーラハム神殿に行けば、力が取り戻せるうえに、記憶を取り戻せる……問題はエマが攻めているということ……)


 何が目的か知らないが、飛王エマがポーラハム神殿を破壊したら、かなりまずい。


 精霊に寿命はないが、特殊な方法で消し去ることは可能だ。


 飛王が神殿に攻め込み、土の精霊を消し去ってしまった場合、力と記憶を取り戻すことが、出来ないかもしれない。


 それに気づいたマナは、焦燥感を感じた。


「どうしたのじゃ姫よ。図書館に行くのではなかったか?」


 偶然にも神殿の名を思い出したので、図書館に行く必要はなくなった。


「せっかく準備してもらったのに申し訳ないけど、もう行く必要なくなったみたい」

「なぬ? まあわしは別に良いがの」

「それより、さっきの報告についてもっとよく聞かせて」

「報告? 飛王がポーラハム神殿に出兵したという報告か?」

「うん。飛王の目的は何なの?」

「さあな。飛王の行動はわしにもよく読めんことが多い。ポーラハム神殿というのは、アミシオム王国と人間の国マロン王国のちょうど国境の辺りの荒野にある古い神殿じゃ。あまり有名な神殿ではないのう。立ち入ったら帰ってこれんという噂があるから、誰も立ち入らん。数千年前からある神殿じゃから、何か貴重な資料か秘宝が眠っておるかもしれん。それを略奪するために出兵したのではないじゃろうか……」

「そんな危険な場所に、兵を率いて向かったの?」

「噂を眉唾物じゃと思っておるのか……もしくは自分の実力に絶対の自信があるんじゃろう。何が出ても勝てる自信がのう」


 略奪――――そう聞いて、あの土の精霊が神殿の守護者であることを。マナは思い出した。


 そうなると、エマと土の精霊の戦いになるはず。


 土の精霊はやすやすと負けないだろうが、四対八枚を翼を持つエマ相手であるとどうなるか分からない。


「アタシそのポーラハム神殿に行きたい。そして、もし飛王が略奪をしているのなら、止めさせないといけない」

「な、なぬ? それは流石に難しいぞ……あの女は全て自分で方針を立て、強引に他人を従わせるからの。他人のいう事なんぞ聞かぬぞ」

「聞かないなら力づくでも、止めさせないと……」

「ま、待てい。それこそ無理じゃ」


 エマの力を良く知っているケルンは、慌てる。


「私はマナ様が飛王を止めたいとおっしゃるのならば、お供いたしますよ! 臆病者は城にいればよいのです」

「な、何じゃと! やらぬとは言っておらぬじゃろう! マナフォース姫が行くのなら、わしも行くのじゃ!」

「当然俺も行く。とうか俺が行かなくてはどうにもならんだろう」


 ハピー、ジェードラン、ケルンはエマに挑戦する意思を示した。


 マナとしては、送り迎えはしてもらうとしても、エマに反旗を翻させるのは、心苦しく思っていた。


 間違いなく命の危険がある。

 スキル関係なしに、自分を慕ってくれるのならいいが、あくまで三人の忠誠はスキルで得たものだ。

 それで命を賭けさせるのは、正直罪悪感があった。


 しかし、ポーラハム神殿には絶対に行かなけらばならない。

 エマが略奪して土の精霊と戦っているのなら、それも止める必要がある。

 独力ではどちらも不可能なので、力を貸してもらうほかなかった。


(仮に戦うことになっても……アタシの力が戻れば、多分エマにも一方的にはやられないはず……力を貸してくれた人たちは絶対に死なせない……)


 白魔導士は他者の傷を癒す魔法も使用可能だ。

 力が戻せば、一緒に戦った者たちは、そう簡単に死なせないという自負があった。


「アタシはポーラハム神殿に行きたい。皆、力を貸して」


 その頼みに三人は力強く頷いた。

 

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