第7話
ハピーは焦った表情で、出口に仁王立ちする男の名を呟いた。
「カフス殿……」
カフスは、ハピーを鋭い目つきで睨み付ける。
「ハピー。なぜ裏切った」
「……ジェードラン殿には申し訳なく思っております」
「情でも湧いたか。その姫に」
「情……ではありません。マナ様に仕えるのが私の宿命であると思ったからでございます」
その返答をカフスは鼻で笑った。
「ふん、その子供がジェードラン様より、主君としてふさわしいと?」
「間違いありません。なぜならマナ様は女神を超える、究極の存在であられるのですから」
「女神を超えた?」
ハピーは興奮し鼻息を荒くして、
「そうです! 見て下さいこの真っ白なお肌と、可愛らしすぎるお顔立ち! 世界中の財宝や芸術品を集めても、マナ様の美しさには叶わないでしょう! 髪の毛も無類の美しさを誇り、一本で城が買えるほどの価値があると私は思います! そして、声も可愛らしく聞いただけで、悶絶しそうになるほどで、その上、匂いも良くて服に顔を埋めたくなります。畏れ多いので出来ませんが、理性が無かったらつい粗相をしてしまいそうになります!」
自信の欲望をさらけ出した。
それを聞いたマナは、全力で叫ぶ。
「き…………気持ち悪っ!!!!」
何度かハピーを気持ち悪いと思ったが、一番気持ち悪いと思った瞬間だった。全身に鳥肌が立っている。
「姫に洗脳の能力が隠されていたか。あるいは頭でも打ったか……」
カフスは、完全にハピーがいかれている思い、その原因を予想する。
(た、確かにおかしくなったのはアタシが魅了を使ってからだけど、でも隠してただけで元々おかしかったからそいつ! アタシのせいじゃないから!!)
心の中でマナは言い訳をする。
「とにかく今の私はマナ様の忠実な下僕です。命令は必ず遂行します。そこをどいてください」
「通りたいのなら力尽くで通ればいい。まあ、不可能だろうがな」
「それはどうでしょう。カフス殿、今あなたは一人です。仲間と一緒に来たわけではないのでしょう?」
「ああ、足手まといの速度に合わせていたら、遅れたかもしれんからな」
確かにあのカフスという男以外は誰もいないようだと、マナは出口を観察して気づく。
(あいつ翼が五枚の欠損翼……見た限り只者ではなさそうだけど、ハピーも翼は四枚あって一枚しか差が無いから、何とかなるかも)
決して勝ち目はないわけではないとマナは思うが。
「仲間など必要はない。お前を倒すのに俺一人で十分だ。お前が俺に勝ったことが今まであったか?」
「確かにカフス殿は私より数段腕が立つ。翼の差は一枚なれど、今まで手合わせして勝てると思ったことは一度もございません」
二人の話を聞いて、マナは焦る。
(え? そうなの? じゃあやばいじゃん)
「しかし今の私は普通の状態ではありません。大幅に実力が向上しております」
「……どういうことだ?」
ハピーの話を聞き、カフスは警戒して目つきをさらに鋭くする。
「隠し通路を歩く際、途中でマナ様をお姫様抱っこしながら歩いていたといえば、分かるでしょう」
カフスは、ハピーが何を言いたいのかがまるで分らず、沈黙する。
「……ここまで言って分かりませんか……即ちマナ様をお姫様抱っこをし歩いてきたことで、今の私はマナ様のパワーを全身に吸収し、実力が数段にアップしているのです。翼一枚の差など物の数には入りません!」
堂々とそう宣言するハピーを、マナとカフスはしばらく沈黙しながら見つめる。
「だから、アタシにそんな効力無いから!!」
マナは魂のツッコミを入れた。
「やはり頭の方に問題があるようだな」
呆れたようにカフスが呟いた。
ハピーは腰から剣を引き抜き、カフスに向かって駆ける。
両手で剣を握り、全ての力を込めて剣をカフスに振るった。カフスは大剣で剣を受け止める。
「……ほう……確かに以前のお前より、太刀筋が鋭くなっている。ただの戯言というわけでもないようだな。だが」
二人はつばぜり合いをする。額に青筋を浮かべ、必死に押し込もうとするハピーとは裏腹に、カフスの方はまだ余裕があるように見えた。
「ぐ……っ!」
「俺に勝つほどではない!」
カフスは全力を込める。
力負けしハピーは押し切られそうになり、たまらずつばぜり合いを避けて、横に転がった。
カフスは力が強いだけではない。
剣速、技術も達人級である。
息つく暇をハピーに与えず、斬りかかる。
体勢が悪く避けることは出来ない。ハピーは剣で剣を受け止めようとする。
しかし、剣の威力があまりに高く、手から剣を離してしまい、弾き飛ばされてしまった。
「しま……」
剣を拾いに行く暇など与えず、カフスはハピーの首元に剣を突き付けた。
勝敗はわずか三十秒ほどで決した。
「動くな。姫に洗脳された可能性がある以上、すぐには殺さないでやる。だが、今動けばここで殺す」
「……」
マナに忠誠を誓っているハピーに動かないという選択肢はない。
「例えここで死のうとも、マナ様のためならば本望です!」
ハピーが動こうとした瞬間、マナが、
「動くなハピー!」
命令をした。
マナからの命令なので聞かないわけにもいかず、動きを止める。
「マ、マナ様、しかし……」
「ここで死んでも犬死だよ。それにどうせその男はアタシを殺せはしないんだ。絶対に動くんじゃない」
マナの言葉は正しかったし、命令には逆らえないので、ハピーは動かずじっとする。
(こうなったら……アタシがこいつを魅了するしかない)
ハピー以外の者にどれだけ効力があるのか、上手くいくのかはまだ未知数であるが、こうなったら魅了の力に頼る以外に方法はなかった。
マナはまずカフスの目を見つめ情報を見る。
名前 カフス・ファマント 20歳♂
好感度-10 好きなタイプ 強い者 好きな物 自分の剣 趣味 なし
性格 堅物 義理堅い 根は優しい
(えーと……好感度最初-なんだ……ハピーを洗脳したと思われているからなのかな……てか、情報が少ないというか……これで魅了って出来るの? ハピーみたいに簡単に魅了されてくれればいいけど……)
マナはカフスの目を見続けて、カフスも鋭い目つきで睨み返してくる。
目は合っているのだが、ハピーみたいに好感度が上がったりはしない。
やはりそう簡単にはいかないと思っていたら、好感度が30上昇した。
(お!? 上がった!?)
と思って期待したが、その後、上がることはなかった。
なんで上がったのか原因が分からず、マナは戸惑う。
「子供であるが、俺の目を見て怯えぬか。中々肝は据わっているようだな」
(怯まなかったことが好感度が上がった理由か……これ以上は上がらないか……)
好感度が20になったが、これではまだまだ足りない。
(でも、好感度上がったし魅了の力はちゃんと働いていると思う。正直、見ることのできた情報だけじゃ、何をすれば好感度が上がるのか分からない。強い人が好きって書いてあるから、強いところを色々見せていけばいいかもしれないけど、今のアタシは弱いから難しいだろうしな……何とか会話して好感度を上げる方法を見つけないといけないね)
城に戻るまでカフスと一緒に歩くことになるだろう。
その間に会話をして、魅了をしようとマナは決意した。
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