『世界史リブレット13 東アジアの「近世」』:NO SILVER,NO LIFE
本を読んで考えたことについて、あれこれと書いていきます。
今日の本は『世界史リブレット13 東アジアの「近世」』です。
作者は岸本美緒さん。山川出版から出ています。
八十ページしかない短い本で、内容は初心者向けです。
「鎖国」と呼ばれた時代に日本がどのように世界とつながっていたのか?
それがこの本を手にとった理由でしたが、本の主眼が日本になかったため、私のニーズとは合っていませんでした。
しかし、十分に得るところがあったので、気になった点について書いていきます。
あと、この本は中古で買いましたが、前の持ち主が線を引いていて、二人の興味が重なっていたり、自分がピンと来なかったところにラインが塗られていたりと、なかなか読んでいておもしろかったです。
前の持ち主は途中で読むのをやめたようですが。
さて、ここからは、中国の遊牧民と定住農耕民について説明したのち、明代における彼らの対立と銀の関係について書いていきます。
チンギス・ハンの起こしたモンゴル帝国は、ユーラシア大陸の大半を制したのちに分裂します。そのひとつが、モンゴルと中国を支配下に置いた元朝です。
しかし、十四世紀後半になると中国の領土については
明は建国直後にモンゴルへ攻勢をかけましたが、十五世紀半ばになりますと、元の代わりに台頭したモンゴル系遊牧民に対して防戦一方となります。
ここで遊牧民の基本的な行動パターンについて補足しておきます。
遊牧民というのは定住農耕民から派生した存在で、生活の必需品を定住農耕民との交易に依存していました。鉄器・穀類・木綿などです。
定住農耕民は遊牧民がいなくても大きな問題はありませんでしたが、遊牧民は定住農耕民がいないと生活や社会を営むことができませんでした。そのために遊牧民は定住農耕民との間に安定した交易を求めました。
そして交易が安定しているかぎり、遊牧民は不用意に定住農耕民を攻撃することはありませんでした。不経済だったからです。
遊牧民にとって定住農耕民は、生活に必要なものを生産してくれるありがたい存在です。それを不用意に痛めつけて自分たちが損をするわけにはいきません。
定住農耕民を支配するのも考えもので、管理にかかるコストを考えれば、交易で必要なものを渡してくれるのがいちばん楽でした。遊牧民が定住化を求めた場合は別ですが。
交易ができないのは遊牧民にとって死活問題ですので、そういうケースでは再開させようと武力に訴えます。
中国の歴史を読むと、何らかの理由で定住農耕民側が遊牧民との交易を絶ったり、対価を釣り上げたりしたのを原因として戦争が起きています。
定住農耕民が遊牧民との関係の見直しを図るのは、強力な政府が誕生したタイミングが多かったようです。
遊牧民同士のつながりは基本的に弱かったのですが、定住農耕民の勢力が強くなると、遊牧民側も優秀なリーダーのもとに集まりました。その第一の目的はもちろん交易の維持でした。
以上の説明をしたうえで、話を十五世紀の中国に戻します。
当時もモンゴルの遊牧民が明に貿易の拡大を求めて、華北への侵入を繰り返していました。
この南下が抑えきれなくなると、莫大な物資や皇女をモンゴルに贈り、彼らの機嫌をとる必要が生じます。その際は漢や宋王朝のように、遊牧民側を兄として盟約を結ばされる可能性もありました。それらを避けるために、明は大規模な軍を北方に配置しました。
ここからが本の内容になるのですが、北方の軍隊の維持には銀が必要でした。
初期の明王朝は穀物などの現物で税を取り、それを前線に送っていました。
しかしこれは非効率でしたので、税を銀で取り立てて、それを北方に送る方法に変えました。
現地で銀と必要な物資を交換するようにしたのです。
確かにこのおかげで前線へ物資を運ぶ苦労は減りました。
しかし、何かが良くなれば何かかが悪くなるのが世の常です。
税の銀納化とその拡大が進み、当然の結果として銀の価値が高騰しました。
しかも当時の中国は銀が取れず、まだアメリカ大陸や日本の銀も流入していませんでした。
たとえば、今の日本で納税が銀の現物のみになったらどうなるのか。
と想像してみれば、当時の中国人の苦労がわかるかもしれません。
銀の価格が高騰し、転売屋や海外から違法に持ち込もうとする輩が街にあふれるでしょう。
また、偽物騒ぎも頻発するにちがいありません。
戦争の継続および内政の安定のために、明は銀を必要としていました。
そこにあらわれたのが日本やアメリカ大陸の銀でした。
日本は「鎖国」の時代に入っても銀を通じて明とつながりを持ち、この時代から中国とアメリカ大陸は交流を持っていました。
国際化が叫ばれてだいぶ経ちますが、当然の話として、かなり昔から世界はつながっていたのです。
本題は以上でおしまいですが、余談をふたつ。
ひとつ目。
十六世紀以降にスペインがアメリカ産の銀で鋳造したスペインドルは、信用が高く、国際通貨の役割を果たしていました。
清王朝や日本の一部の地域でも、そのまま使うこともできました。
有名な雑学ですが、このスペインドルが丸かったのが遠因となり、通貨単位が日本では円、中国では円と同じ発音の元になりました。
ふたつ目。
清代中期の工場制手工業では、トウモロコシの価格が経営に直結していました。
トウモロコシの値段が高かったり、手に入らなかったりすると、従業員の食事を確保することができないため、工場の操業を停止せざるを得ませんでした。
工場は作物が育ちにくい場所に造られましたので、そのような土地の近辺でも実るトウモロコシは、重要な作物だったのです。
今の感覚で言えば石油の高騰のようなものですかね。
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