第23話 動き始める幸せ
朝が来た。隣にはヨニーがいて私を安心させた。もう怖い毎日は来ない。
私の指にヨニーからの婚約指輪も光り眺める。
お腹が大きくなる前に素早く式を挙げた。カルロッタ様はドロシー様を抱き抱えアロルド王子と共に祝福に来た。
「おめでとう。二人とも。幸せになってね」
「ありがとうございます。カルロッタ様、ドロシー様」
可愛い小さな手に指を挟んでやるとドロシー様がキュッと握ってくれる。
「あっ、ドロシー…俺の指は握らないのに!なぜ、こんな性悪女なんかの指を!」
とアロルド王子がショックを受けた。
「まぁ、花嫁様に性悪とは失礼ですわよ。アロルド様」
「ふん、カルロッタの方が花嫁のドレスは似合っていたからな!ドロシーもカルロッタに似るだろうからお前なんかより綺麗に成長するだろう」
「ああ、はい…そうですか」
相手するにも疲れる。カルロッタ様は笑顔のまま夫王子の足を踏んでいた。
憎まれ口は叩かれるがもう断罪されることはないだろう。
どこかで小さな音が響いた。
「何の音?」
「さあ?祝砲でしょうか?」
とヨニーも不思議そうな顔をした。でもそれきり聞こえなかった。
私達は…式の後天球儀のアクセサリーをアルファ様にきちんと金額を支払い正式に買い取った。高かったけど思い出の品だ。
あれから巻き戻りを使用していないが、命が脅かされる危険な事が起こった時に巻き戻りを使用することにしようと二人で決めたのだ。
まぁそんなことは早々起きないしヨニーがほとんど対処できてしまうのですっかり天球儀のことは忘れて過ごしていた。
それから順調にお腹が大きくなりヨニーも嬉しそうにお腹に耳を当てて声をかけてやる。
「早く僕に顔を見せておくれ。我が子よ」
と幸せそうに笑う。
そこでまた音が聞こえた。
ヨニーは窓を開けて確認するが何も無い。
「また、あの音か。最近よく聞こえるけど何なのだろう?」
音の正体はわからなかったがその後も何度か聞こえていた。
赤ん坊の出産時も聞こえた気がする。
カルロッタ様から聞いていた通り、出産は大変だった。痛いし死ぬかとも思ったがようやく生まれてきた小さな命を見て私はヨニーと一緒に赤ちゃんを大切に育てようと決めた。
女の子でジュリーと名付けた。
可愛い娘ジュリーも産まれて私達は毎日時が過ぎていくのが惜しいほどの幸せな日々を送っている。時折音が聞こえたがもう慣れた。
ヨニーも
「心配しなくていいでしょう。あれはもしかしたら幻獣の祝声かも。聞こえた者は幸せになると言う言い伝えです」
「まぁ!それなら良かったわ!!」
と私はほっとして我が子を抱き上げた。
そこへ最近雇った侍女と乳母が入ってくる。
「ジュリー様は私達に任せて奥様たちはお散歩でもどうです?」
と勧められて私とヨニーはうなづいた。
ヨニーが侍女の一人をジッと見ている。デイジーと言う侍女…とても可愛い。まさか…浮気??
そう思って疑って聞いてみると笑われた。
「ふふふ、違いますよ!アンネット以外に好きな人なんていません。僕が愛しているのは愛しい妻と娘ですよ」
と言われ照れる。
*
「アンネットが疑ったでしょう!もっと上手くやりなさい!!」
美しい妻のいない所でデイジーを呼び出して叱りつける。
「ごめんなさい…。でも…とりあえず僕が排除するし大丈夫だよ!お父様…姉は必ず守って見せますから!」
とメイドの服の下から天球儀を出して見せる。今の天球儀と形が少し違い改良されている。
そう…デイジーは未来から来た僕の息子…まだ見ぬ、ジュリーの弟なのだ。本名は教えられないとデイジーが言った。
そう、デイジーは偽名で、今は女に変装している。ジュリーはデイジーが産まれた後の6歳頃…デイジー4歳頃に魔力暴走を起こし、世界を作り替えてしまう災厄を引き起こすと言い、それを阻止する為巻き戻りの天球儀を何度か使い、デイジーはこちらに来て修復していた。
それが何度か聞いたあの音の正体であった。
アンネットには知られないようにした。
「お母様に知られたらショックで倒れてしまうよ…ジュリーを恨んでいる者が禁忌魔法に手を出して過去に戻り消そうとしてるなんて知れたら!」
とデイジーが言う。
デイジーは暗殺者から妹を守る為に未来の姿を保ったまま過去の時間に来ている。時間越えの魔道具らしく巻き戻りとは違うとデイジーは言っていて、慎重にやらないといけないと言った。
「ジュリーの魔力が大きすぎるから制御の魔道具を魔女に依頼した。そろそろ出来上がるけどめちゃくちゃ高いからお父様半分くらい出してよ」
と未来の息子に金貸してくれと言われてなんかもう驚く。
一応金額を聞いたがびっくりするくらい高いので何か事業を拡大して儲けないとやばい。侯爵家が潰れる!!
でも家族の為僕は頑張らなければ…。
デイジーにジュリーの警護などを任せ仕事を頑張っている僕です。
しかし…それから数年…デイジーは言った。
「そろそろ…僕が産まれる頃だと思う。これからは違う人がこっちに警護に来ると思う」
「違う人?」
「うん…同じ時間軸に同時に存在出来ないんだ。だから僕は来れなくなるから。父様…代わりの人は僕の友達の…アロルド王の息子だよ…よろしくね」
「えっ!!?」
あの王子の息子!?未来では王の息子だから王子が来るのか!?ひえっ!
「あいつ…失礼な奴かも知れないけど根はいい奴だよ。でもたまにドジだから心配だけどしっかり頼んである…」
「そうか…」
するとデイジーは僕に抱きついて
「お父様!!たった数年だけど会えて良かった!!貴方が良い人でよかった!産んでくれてありがとうございます!!」
と言うから嫌な予感しかしない。
一体僕の未来はどうなるんだデイジー。
「お元気で!健康に気を付けて!!」
とデイジーは頭を下げてその場から消える。
僕はその日から健康に良いものを取り始めたし、仕事にも休憩はきっちり取ることにした。
*
しばらくするとアンネットが身篭ったことが判り、僕とアンネットはジュリーを抱きしめ一緒に喜んだ。
名前はどうしよう。男の子だし…。
「レイモンにしよう」
と言うとアンネットは不思議がった。
「何故?また女の子かもしれないわ?」
「何となく男の子のような気がするんですよね…。違ったらまた考えましょう」
と誤魔化す。
「あかちゃん?」
まだ2歳なのに立って喋りお腹をさする娘のジュリー。その指には魔力制御の指輪を着けている。
「そうだよ、お母様のお腹に赤ちゃんがいる。弟か妹。お父様は弟だと思うよ?ジュリーはどっちだと思う?」
「………おとうと?かも」
と首を傾げながら言う。判っているのか判らないが。
先日から新しい警護の人が未来からやってきた。アロルド王の息子王子トリスタン様と言うらしい。ここではセザールと名乗り、ジュリーの従者に変装している。セザールは若干アロルド様似だが黒いカツラを被り金髪を隠していた。
「………産まれたら赤ん坊ばかりでなくジュリー様のこともきちんと構ってほしい…です。旦那様」
「え?…うん、もちろんだよ」
なんか睨まれた気がする。睨んだ姿はアロルド王子に似てる。
「セザール…あっちでまりょくのほんよんで」
とジュリーがセザールの手を引く。まるで絵本を読んでのように言う。絵本などもうほとんど卒業しつくしジュリーにとっては寝ながら魔力を覚えて言っている。
「……いえ、今日は歴史にしましょう」
とセザールが言う。もうほとんど家庭教師みたいなものだな。2歳児に。
「えー…?やだあ!ねむっちゃうもん」
「お昼寝も必要な仕事です。ジュリー様」
とセザールは2歳児の仕事を教えた。
ブーブー言いつつも部屋に連れて行かれるジュリー。
僕とアンネットは残されソファーに座りキスをしお腹の子の誕生を待った。
ジュリーも楽しみに毎日を過ごしている。
アンネットには余計な心配をかけたくなく黙っている。この先の未来だけど…この動き始めた幸せを僕は守りたい。
狂わないように気を付けて生きていけるように。
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