第6話 脅迫のようなラブレター
その日…60回目の巻戻りの朝が来た。私はあれから卒業パーティーには出席せずに一度も断罪を受けなかった。朝が来ると戻るので気にしなくなったし、何よりヨニーが一緒に巻き戻ってくれる仲間意識で不安が少し和らいだのだ。
でも犯人は判らないしヨニーも見当もつかないらしくどうにもこうにもであったが…その日祝辞を終えて直ぐ様教室に着替えに向かう途中知らない女生徒と遭遇した!
こんな事初めてだ!!
私は警戒した。
「貴方は…?」
どう見ても在校生である。2学年のバッチを付けていたし。女生徒は二つ括りの地味な女の子だった。
「私は…その頼まれたんです。この手紙を先輩に渡してくれと…」
とその子は名乗らずに手紙を出した。よく見るとその子は虚な目をしていた。
「誰に頼まれたの?」
「………言えない……」
虚な目のままぼんやりと応えているので彼女になんらかの魔法がかけられていることが判る。
女の子は手紙を渡すとフラフラと廊下を歩いて行く。
どうしよう…。追うべきか!?
それともヨニーに知らせるべきかしら?
迷って結局後を付けた。
すると曲がり角を曲がり女の子はガクリと壁にもたれかかってしばらくすると
「あれ?…私何してたんだろ?なんでこんな所に??…」
とキョトンとしている。間違いなく魔法が解けた瞬間だ。
「教室戻ろ!」
と女の子は結局走って行ってしまう。
どういうことだろう。
浮かない顔でヨニーの待つ裏口へと向かった。
ヨニーは
「お嬢様?何かありました?いつもと少し時間が遅かったので心配しておりました」
私はヨニーに先ほどのことを伝えてみた。
「なるほど…とにかく着替えて一旦街へ行きましょう…」
ととりあえずいつもの隠れ家に向かう。
ヨニーが暖炉に火を焚べて私達はそろそろと手紙を開いた。
ヨニーが読み上げた。
「アンネット・ベーダ・モーテンソン侯爵令嬢様へ
貴方は誰よりも美しくそして罪深き人です。貴方を想っているからのこれは警告でございます。察しの通り私が貴方様に呪いをかけた張本人でございます。
貴方が毎日毎日同じ日を繰り返して王子に断罪される場面を楽しみにしておりました!
しかし…51回目から様子がおかしくなりました。貴方は卒業パーティーに出席しない。王子はカルロッタ様とダンスを踊っているだけ。
どうして逃げたのでしょう?貴方が誰かと一緒に逃げているのでしょうか?よくよく観察してみると…貴方は式の後裏口へと消え従者と乗合馬車で街に向かって行きましたね。
この数日私がどんなに心を痛めたことでしょう。貴方が叫んだり泣いたり気が狂う様を見るのが大好きでしたのに!
永遠に貴方が断罪される様を見ていられるのは私だけでしたのに!何故でしょうか?従者と何をなさっているのでしょうか?嫉妬でおかしくなりそうです!
どうか…61回目の朝からはきちんと卒業パーティーに出て断罪されてください。貴方は罪深き人。許すことなどできない。
もし出席しないと言うのなら…
次はもっと最悪な呪いの巻き戻りを差し上げましょう
名もなき者より愛を込めて」
手紙を持つヨニーの手は震えていた。
私は言い知れぬ恐怖に駆られた。この数日ようやく自由を感じていた。しかし長くは続かなかった。
やはりヨニーの推理通り巻き戻って私が50回も断罪されている様子をただただ眺めていた者があの場にいた!!
「正気ではありませんね…何をする気かは知らないけど…」
「私は…また…明日からあの地獄みたいに繰り返す日々を送らないといけないの!?…出席しなければもっと最悪な巻き戻りを差し上げるって書いてある!!……なんなの!?怖い!」
私はパニックになりかけた。
どこからか見ている視線に恐怖する。
「うう…はっ!はあはあはあーー!!!」
上手く呼吸ができなくなった!!
「お嬢様!?お嬢様しっかり!!」
ヨニーは慌てて紙袋を持って来ると口に当て
「お嬢様!ゆっくり息を吸ってー、吐いてー、吸ってー…」
と背中を優しく撫でられやっと落ち着いてきた。
「ご、ごめんなさいヨニー…取り乱したようだわ。も、もう平気よ…。明日はいつも通り…」
「いいえ!出席する必要なんかありません!!それじゃ犯人の思惑通りですよ!こんな…こんなのただの脅迫文ですよ!!」
「でも初めて私に接触してきたのよ?やっぱり明日は様子を見た方がいいわ。ヨニー…貴方も側に居てくれる?」
「………!も、もちろんです!怪しいやつを見つけてやる!それにお嬢様が断罪されないように僕も考えてみます!」
「え?」
「僕に任せてください!お嬢様の味方は僕だけなんですよ!?絶対に貴方を守って見せますから!」
「犯人を刺激して何か起こったら…」
「その時はその時です!何が起こるか見てやりましょう!…お嬢様は僕が信じられませんか?」
とヨニーが強く見つめてくる。
「そ、そんな事は…でも不安だわ…」
「…………っ。お、お嬢様…っ!安心なさって下さい!きっと守ります!」
ついにヨニーは顔を赤くして私の手を取り握りしめて誓った。
「ヨニー…ふふ…判ったわ。私の事を守ってね」
私は勇気を出して私を守ると誓ったヨニーの額にキスをした。ヨニーは真っ赤になり固まった。
「それではご飯にして休みましょう?今日は私が作ってみようかしら?いつも貴方に作らせて悪いもの。私だって授業でお料理を作ったことがあるもの…」
とキッチンに向かいエプロンをつけるとヨニーははっとして、
「お嬢様!!僕が!作りますーー!」
とすっ飛んできたので今日は仲良く夕飯を作ってみた。一時でも辛いことが忘れられた。ヨニーがいてくれて良かったとこの時私は思った。
何日か一緒にいるのが長くなったのですっかりと愛着が出たのかしら?ヨニーのことが好きかと言われたらまだ正直そんな気分ではないけれど。弟がいたらこんな感じなのかな?と思ってしまう。
夕食では気を紛らわすため楽しい話をして私達はそれぞれ別の寝室に入る途中ヨニーがドアノブを手にする私を後ろから抱きしめ耳元で
「お嬢様…お休みなさい…」
と囁き離れた。
ええ?
急いでヨニーは自分の部屋に入って行った。
初めて少しドキドキした。さっき手を握られた時は何とも無かったし弟だと思ってたのに…。
部屋に入り明日どんな顔をしたらいいのかと悩み眠りについた。
そして悲劇の朝はやってくる。
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