第4話 少しずつ変わる朝

 いつもなら目を開けると卒業式後のドレスが用意されて部屋に置いてある。

 まずは卒業式の準備の為、制服に着替える。

 私は学年首席で生徒の前で祝辞を言わなければならない。その後パーティーで断罪されるけど。


 その時廊下からダダダと足音がして


「お嬢様!!アンネットお嬢様!!」

 とヨニーの声がした。


「ヨニー…どうしたの?」

 とヨニーが許可を得て入室すると息を切らしていて…。


「ああ!ほ、本当に戻っていますね!!お嬢様!昨日魔女の家に行きましたよね!!」

 と言う。ヨニーも戻ったんだわ!!


「ええ!ヨニー!行ったわ!!貴方も戻ってるのね!!良かった!も、もう私一人じゃないのね!!」

 と思わず嬉しくてガバーとヨニーに抱きついてしまったのでヨニーが慌てた。


「おおお、わわっ!お嬢様!!」


「あ、ごめんなさい。こんなこと無かったからつい!51回目でようやくだわ!」


「こ、これからは僕も一緒にいますから!!きっと巻き戻りを止めてみせましょう!!」

 とヨニーは早速やる気だ!


「でもまずは卒業式に出なくてはね…」


「巻戻るなら出なくてもいい気がしますけど…やはりそこは外せないですね…」


「そうね…。例え断罪されても…式は立派に努めないと!」

 と朝食を済ませてヨニーと馬車に乗り込んだ。


「お嬢様…式が終わったら逃げましょう!直ぐに変装して街へと行きましょう!断罪なんてされる時間も勿体無いですし!僕は用意していますので校舎の裏口の脇の空き教室で着替えてください!」


「……判ったわヨニー…。でも逃げても犯人は判るの?」


「冷静に考えることが必要です。ただ同じ事を繰り返す1日では何もできません!動きましょう!お嬢様!まずは街に行き僕の友達の所に身を隠しましょう…」


「貴方の友達?」


「ええ…確か…3日前に行商に向かい家には誰もおりませんから鍵を壊す事になりますが…」


「貴方、それじゃ押し入り強盗じゃないの!」


「大丈夫です。彼のことはお使いの時に仲良くなったので誰も僕の交友関係には気付かないでしょう!たまに会うくらいの間柄です。宿に泊まり王子の手の者が来たらそっちの方が危険です」


「………そうね。判ったわ。ともかく式を終わらせてからね」


「はい!お嬢様…。お疲れ様です!51回目も頑張ってくださいね!」

 とヨニーは私が51回も祝辞を述べたことを称え嬉しくなった。今まで誰もお疲れ様なんて…言ってくれなかった。辛かった。言葉はすっかり暗記してしまったし。


 馬車は学園に着き、卒業生には在校生が花をくれ、それを胸につける。いつもの女の子が花を渡してくれる。私は一応女の子の名前を聞いた。

 ヨニーが接触してくる人は知らない人でも名前を聞いておくことを勧めたのだ。


「貴方…お名前は?」

 サイドの三つ編みを後ろでリボンで束ねた淡い緑の髪の女の子は


「あ、卒業おめでとうございます!先輩!私は…サーガ・アマンダ・コールバリです。コールバリ帽子店の娘でございます!


 コールバリ帽子店は街で流行りの帽子店である。私もたまに注文したことがあった。


「まあ…コールバリ帽子店の…。あの店いつもセンスが良くて利用させて貰ってるわ。ありがとう!」


「ま、まぁ!勿体ないお言葉ですわ!お客様でしたんですね、先輩!」


「…私はアンネット・ベーダ・モーテンソン侯爵家令嬢です。よろしくね」

 といつもの後輩に初めて名乗ってみたらサーガさんはぽおーっとして…


「こ、今度!先輩に似合うような帽子を見繕います!!す、凄く先輩綺麗な銀髪だし!!」

 と赤くなりながら言う。

 ……この子は無いわ。私を恨んでいるようには流石に見えない。


「ありがとう。その時が来たらお願いするわ…」

 明日また巻き戻る…。


 式の会場に向かう途中学園長に挨拶する事になっている。

 学園長室に向かう途中何人かの生徒とすれ違い、その全ての顔を覚えるとことにした。

 皆こちらには目もくれて無い。友達と笑ったりトイレに向かう人もいた。特段変わったこともなく学園長の部屋に着いた。


 学園長はまだ20代の若い男性で女受けしそうな…モテそうな方だ。独身で実際女生徒との浮名がある。


「学園長…参りました」

 机からメガネをかけた美形の男がこちらを向いた。エリアス・ロルフ・ボーストレーム公爵家の三男だったと思う。まだ若いのに優秀な学園長だ。髪は白髪だ。


「おお、首席のモーテンソン侯爵令嬢。本日は卒業おめでとう!しっかりと祝辞をよろしく頼むぞ?」


「心得ております。ところで学園長…」

 いつもなら心得ておりますだけで退室していたが


「なんだね?」


「巻き戻りの魔術を知っていますか?」


「うん?巻き戻りの魔術?そんなものがあるのかい?あるとしたら禁忌魔法だろう?王家の禁書には載っているかもだが…一般人が手にすることはないだろう」

 王家の禁書…。


「それがどうかしたのかい?」


「いいえ。そんな魔術なら呪いかなぁとふと思ったのです」

 すると学園長はメガネを外しこちらにやってきた。


「アンネット嬢…。君は最近王子と上手くいっていないと聞いた。噂だがね?もしかして王子の心を繋ぎ止めたくてそんな魔術か呪いの妄想を?」


「い、いえ別にそんなわけではありません…」

 すると学園長のエリアスがにじり寄り壁にドンと手を付いた。


「そ、そうか…ならばやはり…私のことが気になって卒業したくないのかな?ふふふ。可愛い子だ。そうならそうと言ってくれたら良かったのに」

 と勘違いされた!!

 げえええ!!


「あ、あの、私そろそろ準備に…」


「まぁまぁ、まだ少し時間はある。卒業祝いに…祝福のキスでも…」

 と近寄られる!!ひいいい!

 するとバンと扉が開き


「お嬢様!!」

 と学園長を突き飛ばしたのはヨニーだった!


「ヨニー!!」


「おやおや執事くんだったかな?ノックも無しに失礼な…」


「お嬢様が準備の時間になられても部屋から出てこないのでどうしたのかと!学園長は女生徒に手をかけるのが早いと噂ですしね!!」

 とヨニーがはっきり言うと


「参ったな。手はギリギリ出していないから安心してくれ。噂のことは黙っていてくれよ?」

 と色ボケの学園長はウインクして私達は部屋を出た。ヨニーは怒り


「いつもなら直ぐに部屋から出てくるのに時間がなくなかるなと思って失礼ながら聞き耳を立てていたらこれです!あの方は直ぐに手が出る!お嬢様みたいな美人がいたら食われます!」

 と言われてします。隙が多いのかしら?気をつけないとだわ。


「学園長は巻き戻りの魔術・呪いのことは知らなかったから白だわ。全く…誰なのかしら?」

 だが、王家の禁書という情報は手に入った。本当にあるのかは判らない。


 王子に聞いてみる?

 でも仲の悪い…これから断罪される相手に情報をくれる訳がない。王子の友達のアルフ様も私に協力する気はないだろう。その事をヨニーに言うと…


「それなら…忍び込むしかないかもしれません。王家の図書室に…」


「そんな!バレたら極刑だわ!」


「……まだ計画を練らなければ…お嬢様…卒業式が終わったら朝の手筈通りに!」

 と念押しされ、私は卒業式で51回目の祝辞を述べることにした。

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