第3話 怪しい奴リスト

 ヨニーの手配で宿に泊まる事になった。もちろん家には連絡は入れなかった。どの道明日巻き戻るし。でも逃げたと思われるかもしれない。一応変装しながら宿に入ったけどね。


 宿の食事を取りながらヨニーは


「確かに…今頃逃げ出したと手配されているかもしれません…。さっきの御者には口を慎んでいてほしいと金を少し渡しましたが…」


「明日の朝までの辛抱だわ。確かにこれから何度か巻き戻る時居場所がバレたら面倒だわ」


「明日から良い場所がないか検討してみます。お嬢様が安心して毎日眠れるように」

 とヨニーは言う。


「ありがとうヨニー。そうだわ、私の分も少し食べて!」


「そんな、お嬢様こそしっかりお食べください!ほ、本来なら従者が食事の席を共になんてできないのですから!」


「今は平民と同じようなものよ…気にしないで。それに今までやつ当たってきたせめてもの償いよ…」

 と料理を分けた。

 巻き戻る前の私はきっと傲慢で性格も醜い女だったろう。婚約者のアロルド王子をカルロッタ伯爵令嬢に取られてしまったと感じ酷く惨めで孤独な気になり陰湿な虐めを他人の手を使って実行してしまった事実は消えない。


 私のこの醜さが災いし妬まれても仕方ない。

 最初は彼女が呪いをかけたのではと疑った。断罪の場面で何度か


「ブロムダール伯爵令嬢が私に呪いを!」

 と付け加えるとカルロッタはキョトンとしていて演技では無いと感じた。しかしそれを言うと必ず私は王子に修道院送りにされた。


「嘘をつく女は厳しい修道院で心を洗い流せ」

 と言われ断罪された。


「ブロムダール伯爵令嬢ではないと思うわ…」

 と私はヨニーに言うと…ヨニーも考え始める。


「流石に王子は無いとは思いますが。お嬢様をあんな場所で晒して婚約破棄するだけでも充分な断罪です」

 アロルド王子がそんなに私を憎んで巻き戻しをするならわざわざ断罪の場でなくとも良いはず…。それに王子の心根は優しいと昔から知り得ている。だから死刑だけはしないでくれている。


 ならば…


「王子の側近で宰相の息子アルフ・トシュテン・ゴットフリッド・リンドマン…。彼はアロルド王子の友達であり、彼にとって害になるものは今まで影で遠ざけてきた。王子もアルフ様には信頼を置いているからね」


「将来の王妃となるはずだったアンネット様よりもブロムダール伯爵令嬢に味方していたのでしょうか?でもそれだけでこんな呪いを…?」

 そう、この呪いは死刑よりも更に苦しみを与えると思う。永遠に死ねず、永遠に戻り続ける。気が狂おうがどうなろうが構わない呪いだ。


「私に接点のあった身近な人物で相当な恨みを抱いていないと…」

 やはり私が直接手を下さず人に任せていたから?


「お嬢様の取り巻きのご令嬢の中にいるということでしょうか?」


「……友達とは言っても表面上だけだわ。社交界ではよくあることで有力貴族の娘と仲良くして損なことはないけど…。私が命じなくてもやったかもしれないわ」

 と取り巻きだった令嬢達を思い浮かべた。


 1人はファンヌ・マルグレット・サールバリ伯爵令嬢。そばかす吊り目で噂を流すのが大好きなご令嬢だ。


 一人はテレーサ・エステル・ノルデン伯爵令嬢。ちょっとぽっちゃりで食い気は人一倍で性格もそんなによくない我がまま気質のご令嬢。きっと甘やかされて育ったのだろう。


 もう一人はマデレイネ・ベアタ・ラーゲルクヴィスト辺境伯令嬢。女性だが体格が大きく辺境の砦で育った為、戦闘力が異常に強い抜け目のない方だ。


 いつもこの三人でお茶をしたりブロムダール伯爵令嬢の悪口とかぐちぐち言い合ってたわ…。今思えば最低な。人の悪口とか。


 私は銀髪カールで紫がかった瞳でクールな美人と呼ばれていた。胸も結構大きい方で男からの視線は受けていた方だが婚約者がいるからと告白してきた男は皆振っていった。


 それなのに王子は…私よりもブロムダール伯爵令嬢と仲良くなって私を放置し出した。私といても上の空だしいつも用事が入ったと抜け出し後をつけたら偶然を装い彼女とランチを食べていたことに腹が立ったものだ。


 今思い出せばだけど。もう50回も断罪されたので流石に王子に気持ちは無くなったしブロムダール伯爵令嬢にも酷い事をしたと反省した。


 悪口や他人を介して物を隠したり捨てたり教科書を破いたり落書きしたり背中にバカと紙を貼り付けたりついには私が知らぬ間に階段から落ちて怪我をしたらしくアロルド王子は見舞って彼女は弱り切り泣いて真相を聞いたらしい。それから王子は彼女の身辺警護を強くして私達は近寄れないし、私を見て睨み付けるようになった王子。在学中はずっとそれが続いて卒業式後のパーティーの席での断罪であった。


「まぁ卒業近くなったら私の評判も相当悪かったし…取り巻きの令嬢達もあまり私とつるまなくなって距離を置いていたわね」


「そ、そう言えばいつもお友達?だったあのご令嬢達いつの間にか居なくなっていましたね。あの中に犯人が?」


「うーん、単に巻き込まれたくなくて離れたのかも。私といると嫌な噂が自分にも降りかかるのだもの…」

 ヨニーはうーんと考える。


「教師も…なんだかお嬢様が王子に無視され始めたりした頃からなんだかお嬢様へのあたりが強かったような。学年首席のお嬢様なのに!確か担任教師のオリヤン・ホーカン・サンドボリ先生です。あいつ…休憩中に見かけたことが有りますが…お嬢様のこと…嫌らしい目で見てて


 ううっ…」

 とヨニーはブルブルと拳を震わせていた。


「そう言えば王子にサンドボリ先生との関係を疑われて断罪された時は…『このふしだらな女は娼館送りが丁度いいだろう!』…と言われたのよね。その時サンドボリ先生はニヤニヤしてたけど」


「くっ!許せない!」

 とヨニーが怒る。そう言えばヨニーは私を慕ってくれているけどヨニーも男だしそういう目で見たりして好きなのかしら?


「……数え出したらキリが無いわね。全く知らない誰かの可能性だってあるし…知らない間に嫌な思いをさせた子とかいたら恨まれていても仕方ないわ」

 あの頃の私はきっと酷かったろう。


 結局犯人は解らないまま部屋に戻る途中にヨニーは天球儀のペンダントをかざしたら、空の星の光がキラキラと注ぎ天球儀のペンダントが一瞬光った。


「まぁ!凄い!!」


「これで僕も明日はお嬢様と同じように巻き戻ります。時間は無限にあるし何とか犯人を探しましょう」

 とヨニーはやる気満々だ。


「ええ、そうね…。今日はもう休みましょう。お休みなさい。ヨニー」


 とヨニーに挨拶して私は自分の部屋に入る。

 そう言えば初めて家に帰らなかったな。今頃捜索されているのか。でも明日になればまた同じだ。


 と私は目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る