脇役が重要ポジションなんて、聞いてない?!

無乃海

第1部 一体誰が…主人公?

 本日から、ゴールデンウィーク期間の為の短期作品として、連載します。乙女ゲームの婚約破棄シリーズ第5弾として、短期間限定としたいと思っていますが、物語の都合上で更新期間が延長する可能性も、ありますことをご了承願います。 また前回までの物語とは、別物の作品です。


今回は今までとは少し事情が違い、単なる異世界もの、転生もの、乙女げーものではありません。そこのところをご理解の上、読み進めてくださいませ。ネタバレになりますので、これ以上は控えさせていただきます。


後は作品のあらすじの方に、注意事項を記載しておりますので、よ~くお読みくださいませ。では、よろしくお願い致します。



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 「きゃあ〜〜〜!!」

 「…っ!!……なんて、酷いことをっ!!」


其処には、数人の女性が集まっていた。その中にはたった今、大声で叫んだ女性もおり、その女性はまるで誰かに突き飛ばされたかの如く、床に尻餅をついていた。そしてもう1人、誰かを責めるように叫んだ女性は、尻餅をついている女性を庇うような仕草を見せる。他にも尻餅をつく女性の目を前に立ち、庇おうとする者、彼女を助け起こそうと手を貸す者も、居て。


それとは反対に、そういう彼女達と相対する者達も居て、尻餅をつく女性達と対峙する形で、目の前に立って居た。威張るようにして、仁王立ちしている女性を中心にして、4〜5人の女性達が後ろに控えて居た。中心の女性は怒りを露わにした表情で、尻餅をついた女性を睨みつけている。そして、その周りの女性達も、尻餅をついた女性と庇う女性達を見て、せせら笑うかのように見下した表情である。


 「…酷いですって?…この女の方が、余程酷いですわね…。身分を弁えないばかりではなく、このわたくしに意見するなど、貴方…何様ですの?!」

 「…ち、違います!…私が貴方に意見しようだなんて……。ただ、のは、違うのではないかと……。」

 「それが、わたくしに指図していると言うのですっ!…この国では、王族の次に身分が高いわたくしを、貴方は馬鹿にしたのと同じなのですわっ!!」

 「……そ、そんな……」


威張るように立っている女性は、普段より声が低くなった声をなるべく抑え込むようにして、尻餅をついている女性をきつく睨みながら、話し掛ける。それは、身分の下の者を見下すことに慣れた目だ。睨まれた当人である女性は、まだ座り込んだままの体制で、何とか誤解を解くべく自分の正論を掲げようとして、却って目の前の女帝を怒らせてしまったようだった。目の前の女帝の圧倒的な圧力に、萎縮したような表情を浮かべ、座り込んだまま立ち上がれない女性は、これ以上言葉に出来ない様子であった。


 「……これは一体、何の騒ぎだっ!!」


そのまま睨み合う形で、一触即発のような状態で静まり返ったこの場に、第三者の男性の声が割り込んで来た。普段のものよりも数段下がった低い声に、その場の女性全員が凍り付く。振り向きたくとも振り向けないという状態であり、誰1人として男性の声に応える者は、この場には…居なかった。


この場の全員には誰の声なのか…を、見当がつけていたのであろう。誰もが動けずシンと静まり返ったこの場所は、不気味なほどである。声がした人物が彼女達に近づいて来るにつれ、遠巻きにした周囲の人間達から、動揺する騒めきが聞き取れ。如何どうやら、第3の人物のお出ましね…。私は強張った表情から、ニヤリと口元が綻びそうになり、慌てて気を引き締める。ここは我慢だ、我慢を…しなければ。折角の舞台が、では…ないか。


 「……っ!!………エリザ!……大丈夫か、エリザ……。これは…君がやったのか、アネモネ!」


此処に割り込ん出で来た男性は、私達女性陣の中に意中の人を見つけると、その女性の名を呼びながら、慌てて大股で歩いて来る。…ええいっ!…急いでいるなら、走れよっ!…って、思わず突っ込んでしまいそうだ。いくら内容を知っているとは言えど、このシーンは毎回のように腹立たしいと思ってしまう。


急ぎ足で歩いて来た男性は、意中の女性の目の前に来ると、抱き起すようにして彼女を支え、彼女に大丈夫かどうか確認する。それまで座り込んだままだった女性・エリザは、男性の問いかけに対し感極まったような表情で、ウルウルと見つめ返しては首をコクコクと上下に動かせ、大丈夫だとアピールしているのだが、その様子を健気に感じるのは、彼女側の味方だけだろう。


案の定、エリザを庇う女性陣と彼女を抱き起こす男性だけは、騙せたようだけど。男性はコロッと騙された挙句、今度はエリザと敵対していた女性の方を振り向き、怒り狂ったような声で叫んだのだ。責め立てるような言葉を。


一般的にアネモネは、毒を持った花だ。しかしこの場合は花の名前ではなく、中心で威張るように立っている女性の名であり、この国の公爵家のご令嬢なのである。身分が高いのを良いことに、我が儘放題・遣りたい放題で育った人物ではあるが、実際にはエリザを突き飛ばしたのはアネモネではなく、彼女の傍で取り巻きをしている他のご令嬢で。


全く事情も知らないくせに、男性はアネモネが悪いと決めつけているようで、キッと彼女を睨みつけていた。自分が慕う男性から勘違いされたアネモネは、意中の男性に睨まれたことで、何も言葉を返すことも出来ずに青くなり。


アネモネもこの男性も本当に、よね…。彼らの傍らでそう冷めたことを考える私は、実は…このアネモネの取り巻き令嬢の1人、だったりする…。






    ****************************






 「…エリザ、愛している。」

 「私も…です。ライオット様……。」


場面は変わり、先程割り込んで来た男性とエリザが、抱擁しているシーンである。今2人の近くには誰もおらず、2人だけの世界…と化していたが、エリザを庇う女性陣も男性の付き人達も、気を利かせたのではないだろうか。何という茶番なの…と、私は呆れながらも、離れた場所から2人の様子を眺めている。


実は…ライオットはこの国の第一王子殿下で、アネモネの婚約者だ。ライオット殿下とアネモネは、この国の国王陛下が決めた政略的な婚約者なので、アネモネは殿下を慕っていても、彼は真実の愛を見つけたとして、こうして浮気をしている訳であり。脇役の私から見れば、真実の愛=浮気…という図しか浮かばないのは、こういうから、であろうか…。


今の私にはどうすることも出来ず、ただ眺めていた。アネモネにチクリに行く訳でもなく、「不誠実でしょう!」と2人の邪魔をしに行く訳でもなく、また他の人物を呼んで証拠を見せる訳でもなく。今の私は唯只管ただひたすら、次の出番を待っているに他ならない。自分の出番待ちをしている状態で。


自分の用意が早く終わり、こうしてただ単に眺めているだけだ。色々と思うところはあるけれど、王子殿下の邪魔をするなんて、私のような子爵令嬢ならば、簡単に首を刎ねられてしまう…かもしれないもの。


 「私こと、この国の第一王子ライオットは、婚約者であるアネモネとの婚約を即刻破棄とし、此処に居るエリザを妻に迎えることを、此処に正式に宣言する!」


あれから場面がまた変わり、到頭クライマックスがやって来た。大勢の人間が集まるこの場所で、婚約破棄が始まった。この場所とは、王国に勇逸存在している王立学園の舞踏会場のことである。王子殿下が卒業を迎える今日は、婚約者アネモネとの結婚を正式に発表する日でもあるが、それを白紙に戻したいと願う彼は、断罪してまで婚約破棄をするシーンでもあった。


 「………婚約破棄?…な、何故…なのです?…ライオット殿下、本当にエリザと婚姻されると……仰られますの?」

 「そうだ…。身に覚えがないとでも、言いたげだな…。お前がエリザを突き飛ばしたところは、私も目撃しているんだぞ!…他にも色々としてくれたようだがな。それら全て報告を受けており、お前の悪事は全てお見通しだ!」

 「わたくしは…何も……。何も、しておりませんわっ!…わたくしの取り巻きが勝手に、遣りましたのよっ!」

 「それは、自分がやっとのと同じことだろう!…この期に及んでまで、見っともない言い訳はするなっ!」

 「…………」


唐突に婚約破棄を申し出されたアネモネが、絞り出すような掠れ気味の声で、漸く言葉を返していた。王子殿下に疑問を投げかける体で…。それに対し王子殿下は、意気揚々と自らも証人とばかりに語り…。貴方は後から来て…目撃してないだろ、と突っ込みたい気分の私…。


アネモネも自分は何もしていないが、取り巻きが勝手にやった…と、自分勝手なセリフを吐いて。……はあっ?!…何言ってるの、貴方。取り巻きの行き過ぎた行動を止めもせず、唯見ていた貴方も同罪でしょっ!…と憤る私。このセリフに関してだけは、王子殿下の言う通りよ。これには言い返す言葉もなく、黙ったまま唇を噛み締めるアネモネも、見ていただけだとしても罪が問われるべきだろう。


しかし、大勢が居る場で婚約破棄を叫ぶ王子は、アネモネ以上に…自分を正当化した傲慢な人間だ。王子は何も現実を見ておらず、自分の見るものだけを自分流に解釈する節がある。これがこの国の第一王子とは、何とも情けない…。ライオット殿下が王位に就いた途端に、この国は滅びてしまいそうだ…。


もう1人注目される人物・エリザは、今は王子殿下の後ろに隠れていて、彼女の詳細な表情は分からない状態であるが、彼女にも全く状況だ。彼女の身分は一応、男爵令嬢という貴族の端くれであったりする。但し、礼儀作法は最低限しか習えておらず、婚約者の居る王子殿下と堂々と仲良くしたり、それも当然ながら友人の範囲を超えている。


婚約者の居る異性と必要以上に近づく行為は、タブーだとする貴族の礼儀を、貴族の端くれと言えども知らない筈もなく、アネモネから王子殿下を横恋慕する気満々だったと、考えられた。3人共に各々、救われないものを感じる。今迄にはセリフの1言もない私だが、これを機に漸く出番が回って来そうである。


さあて。そろそろ、かな〜。もういい加減このシーンは、見飽きたんだよね…。ライオット殿下もアネモネもエリザも取り巻き達も、貴方達関係者全員、覚悟して頂戴ね?



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 一応は表向き、異世界転生での『乙女ゲーム』の断罪シ~ンから、始まりましたが……。主人公の私は、まだ名前が出て来ません。



※読んでいただき、ありがとうございます。

 婚約破棄シリーズと銘打って、シリーズ化していますが、今回の作品は別物となります。宜しければ、こちらの応援もよろしくお願い致します。

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