優しい手

@masakana

第1話

 見上げれば明るい紫色の空、何だこれ? 野外か? 動物病院の長椅子で仮眠していたのに? ここは何処だ?


 とにかく立ち上がると胸元が血で真っ赤、しかもレザーの上着の下、シャツまで血でびっしょり濡れたまま。しかし、上着やシャツは血塗れなだけで、切れ目も穴も無い。

 更に、足元も周囲も鮮血で水溜まり状態、いや、多少は凝固が始まっているか。どう考えても出血多量だ。出血のショックで死亡しても不思議ではない。


「何だこれーーーーーっ!?」

 血液の量にも驚いたが、それよりも有る筈もない豊かな胸の膨らみが存在を主張している。ズボンでもなく革製スカート、恐る恐る股間を確認。

 orz、自ら失意体前屈……あれが無かった。


 とにかく傷を調べないと、傷は1ヵ所も無い。再びorz、可笑しい。変なのは空の色からだけど、この出血量では重傷は間違いない。最悪、出血死の可能性も高い。もちろん、痛みも無い。


 周囲に散らばった荷物等を纏めて場所移動、錆びた鉄臭と生臭さは嫌いだ。

 小さな泉と小川を発見、とにかく水で洗う。全部脱いでとにかく洗う。洗える物も、この身体も全部洗う。腐った死体を洗う事を思えば何でもない、それどころか役得だ。


 推定十代半ば、性別女、性体験無し、どうしてこんな事に。

 リュックサックの中から女物の下着を発見、ちっちゃいパンツを履く。ブラは無く木綿のような布を巻き付ける。

 シャツは硬く絞りそのまま着る。濡れたままの不快感よりも、先程からの複数の視線が気になる。


「こら、止めなさいよ」とか、「もう少し、こっち向け」とかの小声も。二十代の若い男女、三十代の男、合計三人。覗いていたのは三十代の無精髭男か。


 打ちのめす!

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