今日から監視村あらため幸せ村になります!

ちびまるフォイ

ウェルカム監視村

監視村の掟では村から人間が出ていくと災いが訪れるとされていた。


「いいかい、変な気を起こすんじゃないよ。

 けして村の外に出てはいけないよ」


「どうして?」


「村の外には悪い人しかいないのさ。

 村から出てもこの村の人達の良さに気づいて戻ってくる。

 なのに、村に残っている人に災いを与えるなんておかしいだろう?」


「……?」


「まだ難しかったかな。お前もきっとわかってくれるよ」


子供は成長していったが村の掟が変わることはなかった。


誰ひとりとして村から出さないように、

家々はぐるりと町を囲うように丸く配置されて

村に住んでいる人たちはお互いにお互いを監視していた。


ある日のこと、小さな子どもが大人たちにより引っ張り出された。


「この子はどこの子だ! 親を出せ!!」


「うちの子です、いったいどうしたんですか!?」


「このガキ、村の外に出ようとしやがった!

 村に残る俺たちに災いが降りかかったらどうする!!」


「ちがうもん。ボールが村の外に出ちゃっただけだもん……」


「言い訳しやがるのか! どんな教育してやがる!!」

「謝りなさいっ! さあ早く謝って!!」


「ごめんなさい……」


広場でのやりとりを見ていた青年はますますこの村が嫌いになった。


「何がいい人しかいない村だ……。こんなとこ出ていってやる」


青年はその日の夜に、恋人とかけおちして村からこっそり出ていってしまった。

翌日、青年の家がからっぽであるのがわかると村の人達は大騒ぎだった。


「2人もこの村を出ていったのか!?」

「どうしよう!! 村全体に災いが起きる!!」

「なんで止めなかったんだ!!」


青年とその恋人が脱走した原因と犯人探しにやっきになると、

すべての責任は青年の家の向かいにある家族が原因となった。


「お前らがちゃんと監視してないから逃げられたんだぞ!」

「そうだ! 向かいに住んでいるなら見えたはず!」

「お前らが監視してなかったせいで、この村に災いが訪れるんだ!!」


村の人達は災いを避けるために青年と恋人の2人分、家族を処刑した。

出ていった人数分の命をつぐなわせることでなんとか災いを防いだ。



それから数日後のことだった。


一度は村から出た青年がひとり村に戻ってきた。


「お前……どうして……!?」


「村のひと全員を集めてください! 話したいことがあります!」


青年の呼びかけで村中の人たちが集められると、青年は話し始めた。


「みなさん聞いてください。

 僕は村の外に出て、この村のことを調べました。

 そして災いなんて無いことを知ったのです」


「ふざけるな! 昔から言い伝えられていたんだぞ!

 災いがウソなんてこと、あるわけない!」


「言い伝えられていたのは、この村に人を留めておくためのものだったんです。

 外はこの村よりもずっと豊かですが、これ以上人を増やせば豊かさが減る。

 だからこうして村から外に出さないようにしていたんです」


「そんなこと信じられるか!」


「信じてもらえるように外から証拠の本を持ってきました。

 それにこの書類を見てください。ここにすべて書いてあります!」


「仮にそれが本当だとして、お前はどうしたいんだ」


「みんなでこの村を出ましょう。

 僕はこの村の外にみなさんが暮らせるだけの町を用意しました。

 そこに移住すればもうこんな監視生活から解放されます!」


「そんな急に……」


「少しづつ移住すればいいんです。

 移動できる人からひとりづつ。そうでしょう?」


監視生活から逃れられるという光が指したとき、聴衆のひとりが立ち上がった。


「みんな! 騙されるんじゃない!

 こいつは一度村から逃げた裏切り者だぞ!!

 俺たちにひどいめを合わせるために戻ってきた悪魔の手先だ!」


その一言で全員の目の色が変わる。


「そうだよ……お前のせいで……」


「お前が外になんかでなければ、家族を始末せずに済んだんだ!!」


「そいつを捕まえろ!! 罪を償わせるんだ!」


村の人達は戻ってきた青年を捕まえると、話も聞かずに処刑場へと連れて行った。


「待ってください! 村の外に出ればすべてわかります!」


「まだ言うか! この悪魔めーー!!」


青年の首がはねられると村人は歓喜した。

その直後のこと、広場に誰の子でもない赤ちゃんがぽんと現れた。


止まらない産声に村の人達は驚いていた。


「ついさっきまで何もなかったのに、赤ちゃんが急に……!」


「あの男の首をはねた直後だったよな……」


「まさか、誰かが死ぬとその分の生命が生まれるんじゃないか?」


「だったら家族を殺したときにはなんで出なかったんだ」


「……村の外から来てなかったからじゃないか?」


「そうだよ! そうとしか考えられない!

 村の外からきた人間を殺せば、その人数ぶんの人が生まれるんだ!」


村に起きた奇跡は、これまでの村の暗い雰囲気を一掃した。


村にいる人間が増えると村はいっそう豊かになっていく。

新しい命の誕生はまさに村の成長そのものだった。


外界からの侵入をこばみ、村からの脱走を防ぐための

丸く囲うような家の配置は見直されて大きくハの字型に切り替わった。


たくさんの人を受け入れられるように村にはたくさんの楽しい施設が増え、

おいしい食べ物や美しい景色が見られるように改築を重ねた。


そして一番の売りは「村の人が世界中で最も優しい」として売り込んだ。



「いらっしゃい、幸せの村へようこそ。さぁ案内しますよ」


「いいんですか? 私達旅行者でガイド代なんてなくって」


「ここは幸せの村です。お金なんていりません。

 最高級のお宿もこちらで手配していますよ。

 ぞんぶんに幸せの村を堪能していってくださいね」


「噂通りで本当に優しい人しかいないのね!」


あまりにいい村で一度でも観光した人は戻りたくなくなるらしい。

優しい人しかいない村では、今日も広場で観光客の人数ぶんの赤ちゃんが生まれていた。

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