看板娘のモリーちゃん

「レイ姉はおじいちゃんとおばあちゃんに会ったことあるんだよね?」

「あるわよ~」


 シュネは少し考えた後に口を開く。


「おばあちゃんとラブラブだった?」

「あらあら~シュネちゃんも恋したくなちゃったのかしら~」

「なっ――!」


 見る見るうちにシュネは耳まで真っ赤になった。


「何言ってるの! おじいちゃんの日記に時々……結構な頻度でおばあちゃんのことが書かれてたから気になったの!」


 ――全くもう! とシュネはそっぽを向いた。


「そうねぇ。ラブラブだったと思うわ。でもおばあちゃんに尻を敷かれてる感じだったわよ」

「そうなんだ」


 シュネが日記から感じた祖母の印象は、おじいちゃんよりおばあちゃんの方が優秀で、おじいちゃんの夢を叶えようと一生懸命な人だった。


「因みに、お父さんとお母さんもラブラブだったわよ」

「あっそう」


 レイ姉の戯言を軽く流し、出掛ける準備をする。

 今日は月に一度の街への買い出しだ。

 

「姉さん、シュネ、準備ができたわ」


 祖父母が作った転移門に魔力を込めていたライア姉が自分の荷物を取りに来た。

 荷物と言ってもレイ姉が作った商品がほとんどである。

 シャンプー類やシザーホルダーなどを街で委託販売しているのだ。


「レイ姉! 買い物メモ置きっぱ!」

「はいは~い」

「シュネ、先に荷物持って転移門の前で待ってなさい」

「わかった」

「姉さん、半分持つよ」

「おねが~い」


 街へ出掛ける日は毎回バタバタだ。


「二人とも忘れ物はないわね」

「「ないで~す」」

「じゃあ鍵掛けるわね」


 家屋に結界を張り、魔物や泥棒対策をする。

 実際には一度も襲われたことはないけど。


「それじゃあ」

「「「いってきます」」」


 転移門を抜けるとラブラに借りている一室に出る。


「まずは道具屋のおじさんのところに行くわよ~」


 商品をおろすため馴染の道具屋に向かう。

 部屋から出ると街の人たちから声を掛けられる。


「よぉ! ムナカタ三姉妹!」

「こんにちは~」

「シュネちゃん大きくなったわね~」

「毎月同じこと言ってるよ

「お久しぶりです。ライアお姉さま~」

「久しぶりね」


 月に一回、大量の荷物を持って街を闊歩かっぽするムナカタ三姉妹は一種の名物になっている。


「おじさ~ん今月分持ってきたよ」

「お、今日だったか。姉さんたちは外かい?」

「そだよ~」


 レイ姉とライア姉は外でここの道具屋に卸す商品を取り分けている。


「お父さん、誰か来てるの?――」


 店の奥から出てきたのは道具屋の看板娘のモリーちゃんだ。

 亜麻色のウエーブがかった腰まで伸びた長い髪。

 空色の瞳は宝石の様に輝いて見える。

 身長はシュネより少し低いが、並ぶとモリーちゃんの方がお姉さんっぽく見える。


「シュネちゃん!」

「ヤッホー。モリーちゃん」


 モリーちゃんはシュネの手を取り「久しぶりです! お元気でしたか?」と飛び跳ねながらはしゃいでいる。


「うん、元気だよー。モリーちゃんも元気だった?」

「はい!」


 モリーちゃんは笑顔で返事をした。

 ぶっきらぼうで強面こわおもてなおじさんと違い、モリーちゃんは礼儀正しく女の子らしい。


「ん……レイ姉が先月作ったシャンプー使ってくれてるんだ」

「う、うん! 香りもいいし髪もサラサラになって、レイお姉さんの作るシャンプーは毎回すごいですね」

「うん、レイ姉の作るシャンプーはすごいね」


 モリーちゃんの長い髪がさらさらと揺れるたび、甘い香りが鼻をくすぐる。

 落ち着く匂いだ。


「あら~モリーちゃん、こんにちは~」

「こんにちは、レイお姉さん、ライアお姉さん」

「ごきげんよう。モリーさん」


 モリーちゃんとお姉たちが軽く挨拶をすると、道具屋のおじさんに商品を渡す。


「こんにちはおじさん。こっちが既製品で、こっちが新作です」

「はいよ、それじゃあ先月分な」

「ありがとうございます」


 レイ姉がおじさんとやり取りをし、シュネとライア姉は商品を店に運び入れた。


「これで最後?」

「ええ。姉さんに報告お願い。私は先月の在庫チェックしてくるわ」

「はーい」


 シュネが最後の商品をお店に搬入すると、レイ姉がおばさんに新商品の説明をしていた。


「こんにちは、おばさん。これで最後だよ」

「はい、こんにちは。そこの棚の前に置いてちょうだい」


 商品を運び終えて手持ち無沙汰になったシュネはモリーちゃんのところに行く。


「手伝おうか?」

「ありがとう。じゃあこっちの……」


 シュネはモリーちゃんの品出しの手伝いを。

 レイ姉はおばさんに新商品の説明を。

 ライア姉はおじさんと先月の在庫の確認を。

 これが毎月の恒例である。


「モリーちゃん、手伝いが終わった後ってヒマ?」

「大丈夫ですよ」

「行きたいところがあるから一緒にどう?」

「はい、いいですよ。どちらに行かれるのでしょうか?」

「ん~と、鍛冶屋」


 鍛冶屋にはおじいちゃんのことを詳しく知っている人がいるかもしれない。

 いなくても何か手掛かりがあるかもしれない。


「鍛冶屋に行きたいなんて、珍しいですね」

「ちょっとね」


 黙々と商品を出して早めに終わらせた。


「よし! 終わったね」

「じゃあ私はお父さんに報告してきますね」


 モリーちゃんは足早に倉庫に向かう。


「レイ姉、おばさん、品出し終わったからモリーちゃんと遊びに行ってくるね」

「は~い。夕方までに帰ってくるのよ」

「いってらっしゃい」

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